注意
露出狂注意!
そういったポスターが、いつの間にか町内掲示板に貼られていた。
「え、何、見たのアンタだったの」
「まあ、うん……」
被害に遭ったのは主婦仲間だった。夜にコンビニへ買い物に出掛けたときに見かけたらしい。
「全裸で歩いててさ。ずっと独り言言ってて……変態っていうより頭がおかしいかんじの人だったから、夜は出歩かないほうがいいよ」
「やだ~!」
「子供に早く帰るように言わなきゃ」
そんなお茶会が終わって、夜。
「よし」
「おいお前、本当に行くのかよ……」
夫は渋い顔だ。
「フン、元レスラー舐めるんじゃないの。変態ヤローなんか吹っ飛ばしてやるんだから」
私は昨年までは女子プロで名を馳せていた。結婚を機に選手を引退し今は若手の育成をしているが、体はもちろん鍛え続けている。
「何かあったらすぐ逃げろよ!」
「わかったわかった」
バットを片手に家を出る。すっかり噂になっているのか、ペットの散歩やちょっとした買い物に出ている者は皆無だ。夜道はしんと静まりかえっている。
(子供だっていつ出来るかわかんないし! 露出狂なんて放っておけない)
そんなことを考えていると、人の気配がした。
ざりっ
小石が、擦れる音。誰かが歩く音。
(…………っ!)
振り返った先には、たしかに人がいた。服を着ていない、全裸の人間。予想とは違って、痩せこけていて。
(なっ…………!)
そして手が、四本あった。
通常の両腕に加えて腹部から一本、背中から一本。
「こ、コスプレ!? 驚かせるんじゃないの!」
『……………………………………………………………………』
それは、何も応えない。ただかわりと言わんばかりに、目を擦った。
べちゃっ
両の目玉が、道路に転がる。さっきまで眼球を収めていたがらんどうの穴から、小さな赤ん坊の腕が生えてきた。暗闇をたたえた眼孔から止めどなく血が出てくるが、それに対して一切の反応を示さない。
確信した。これは触れてはいい存在ではないと。
「ひっ………うわああああ!!!!!!!!」
*****
「そっか……探しちゃったか」
ほうほうのていで逃げだし、後日、目撃した主婦仲間の家を訪れた。
「あんたもあれを……?」
「化け物なんて言っても信じられないだろうから、露出狂ってことにしたの」
「あれ、何?」
「分かんない。でも、おじいちゃんが言ってた。普段は遠くの山にいて、ときどき町に下りてくるお化けがいるって。痩せこけて、腕がいっぱい生えてるお化け。だから夜は早く帰りなさいって……」
「何のために……」
「分かんない。分かんないことだらけ。おじいちゃんもとっくの昔に死んでるしね」
ふぅ、と息を吐く。
「私たちに分かるのは……しばらく夜は出歩かないほうがいいってだけ……」
ざりっ
ざりっ
外で、小石が擦れる音がする。静かな夜に響いている。それは誰かが歩いているのか、あるいは……。
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