子は親を選ぶ

 子供は、まだ生まれる前、ただの魂だった頃に親を選んでから宿るという。


(そんなわけはないと思うけど)

 私には霊感があるが、それでも世の中の虐待事件や不妊治療の話を思えばその説はうさんくさいの一言だった。

 なんでそんなことを考えているかと思えば、家の近くに産婦人科ができたからだ。今私がいる公園のベンチからも見える。きれいで、おしゃれで、先生も有能らしい。

(親が選べるなら、虐待親を選ぶ子なんていないだろうし……)

 この季節の割には暖かい日。公園には、楽しく遊ぶ子供と、井戸端会議をしている親。穏やかな光景だ。そんな中のベンチでそんな風に物思いに耽っていると、ふらりと女性が目の前に寄ってきた。

 冬なのに、半袖。そして見える素肌には、両腕にリストカットの痕がびっしり。肌はかさついていて、髪も寝起きのような変な癖がついていた。何より目はただの半目なのに、井戸の底を覗いているような、何かありそうな不気味さをもっていた。

「……………あの」

「わた、し、は」

 口が開く。歯もボロボロだ。

「あいつらに、復讐するために、あえて、あの女の腹に宿ったわ」

 低い、けどはっきりとした声。

 ……さっきぼんやりと考えていたことなんて、口に出したわけでもないのに。

「あんた! こんなところに!」

 中年の男女が駆け寄ってくる。「ごめんなさいねえ」と言いながらあっという間に女性を回収していった。

「またよあの家の……」

「大変よねえ」

 少し離れた位置で雑談をしていた奥さんたちが、そうひそひそ話している。

「………………」

 憎い人の子供に産まれてまでの復讐。どれほど重い決意をすれば、そんな判断ができるのだろうか。

「……わかんない」

 ぼそりと呟く。

 気分を変えるべく、私は爽やかな青空を見上げ、雲の流れをぼんやりと目で追った。

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