その望みの対価
昔、オカルトに凝っていた時期があった。
何日も何日も黒魔術に没頭して、とうとう悪魔を召喚することができた。
『お前の望みはなんだ』
「か、金だ。昔から貧乏で、金がなくて全て諦める人生はもう嫌だ!」
『そうか。ではこれを授けよう』
悪魔は小さなボトルを取り出した。中には液体が入っている。
『この液体を飲めば、お前が金を手にするように運命をねじ曲げよう。目盛りが見えるな? この一目盛ごとに一千万だ』
「……代償は?」
『お前の“知性“だ』
「!?」
『はっきり言おう。それを飲めば確実に運命をねじ曲げ金が手に入るが、飲めば飲むほどバカになる。お前以外が飲んでも効果はない。使えるのはお前だけだ。よく考えて使うんだな……』
「……………」
そして悪魔は去って行った。
おそるおそる、一舐めだけ口にした。
掃除の最中に見覚えのない袋から一万円を発見したが、同時に前はなかったケアレスミスが少し増えた。
私はこれを、封印する。
……という亡き祖父の若い頃の日記の記述を発見した。
うちは金持ちでも何でもない普通の家。祖父もそこらあたりにいそうな普通の人。そんな祖父がまだらボケになった。
ボケてる最中はよくわからんことを口走るしつつ、一日中寝てるじいさんだったが、正気に戻ったときの祖父の、なんと悲壮感があったことか。
日ごと、正気の時間が少しずつ減っているのだ。きっととんでもない恐怖だったろう。
「怖いんだよ。とにかく怖いんだ。自殺したほうが楽なんじゃないかと思うくらいに。でも自殺も苦しいから、嫌なんだ」
「じいちゃん……」
そんな祖父がある日、正気の時間のときに「そうだ」と一言呟いて自室に消えた。
夕飯の時間になって呼びに行ったら、そこには椅子に座り、呼吸はしているもののどんなに呼びかけても反応しない祖父がいた。
緊急入院となったが原因はわからない。植物状態に等しい祖父の医療費に気を揉んだが、宝くじが次々と当たり、医療費どころか俺や兄姉の教育費、両親の老後資金、その他諸々金銭面の問題をあっさりと解決できるほどの大金を手に入れた。
その後一年で、祖父は亡くなった。
今でも、急に祖父がああなった理由がわからない。日記の記述の真偽も、もう誰にもわからない。
ただ、仮にあの何もできなくなった状態を知性がない状態というならば、それはその通りだと思う。
「悪魔、か……」
そんな風に呟きながら、俺は日記をシュレッダーにかけた。
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