いつまで

 追われている。あの化け物に。


 人々の間を縫うように移動する。ちらりちらりと後方確認をすると、まだあの化け物は追ってきていた。

 化け物は、重力を無視して壁に立っている。まるで壁がただの床であるかのように。体つきも服装も間違いなく普通だったが、その顔面は失敗した福笑いのように、目や鼻といった顔のパーツが中央に集約していた。

 ずっと、これに追われている。理由は分からない。周囲の人にはこれが見えていないようで、助けを求めることもできない。

 ただ一つ、分かること。勘ではあるが、なぜか確信していた。

 あれに捕まったら、大変なことになる。


*****


「…………」 

「ん? どした?」

「なんでもない。それでなんだっけ、『鏡の裏』っていうの。おすすめの映画」

「そうそう。これがさー」

 クラスメイトの不動くんといっしょに学校から帰っている途中、それを見つけた。

 追いかけるお化け。そしてそれから逃げる人。あの追いかけてくるお化けは人間一人をターゲットとし、わざと人間側が逃げる余裕を残しながら追いかけてくる趣味の悪いお化けだ。人間たちの四苦八苦を十分楽しんだら、あっさりと食べてしまう。

 追いかけられている人もそうなんだろう。あの人は既に死んでいる、幽霊だ。ただわざわざ人を縫って移動するということは、自分がまだ生きていると勘違いしているのだ。

 そうだ。あのお化けはいつもそう。追って、捕まえて、食べて、記憶も食べて、自分が死んでいることを忘れた人をわざと逃がして、追って、そして。

『いやああああああああああああああああ!!!!!!!』

 絶叫。捕まったか。

「どうしたー? キモいお化けでもいたか?」

「ああ。……そんなかんじ」

 本当にただの平日の夕方。近くには手を繋いだ親子や、仲よさそうなカップル、仲良さそうにしゃべっている高校生グループなんかが行き交っている。

 そんな平和な街中で惨劇を察知する自分の霊感に、はぁ、とため息を一つついた。

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