子供の泥棒

 最近近所に子供の泥棒がでるようになった。


 薄汚れたボロボロの服を着ていて、いかにも育児放棄されていそうな子供だ。それがいろんな家に出没して、牛乳だのジュースだの、子供用のお菓子を盗んでいくのだ。

 みんな追いかけるが異様に足が速くて捕まらない。なんせ子供がやっているだけに、家庭環境を心配する人もいた。昔育児放棄の末に死んだ子供がいたようだ。もちろん、普通に怒っている人もいたが。

 俺は話は聞いたことあったが、実物は見たことはなかった。

「あ」

 だが、ついに遭遇した。チョコレートを盗もうとしているところに。

「待て!」

 確かに足が速い。速いが、俺は現役の陸上部員で、全国大会に出場したこともあるのだ。

(……いや待てなんで追いつけねえんだよ!)

 他のみんなのように見失うことはなかったが、それでも追いつけはしない。どう考えても普通の子供ではない。

(……なんでこんなところに)

 子供は近くの廃アパートに入っていった。中に入ると、子供の姿はいない。

「ふええ………」

「なっ………」

 いたのは、さっき盗まれたチョコレートや、大量の子供用のお菓子や飲み物に囲まれた、赤ん坊だけだった。


 「育児が面倒だった」と子供を廃アパートに捨てたとして、同じ市の女が逮捕された。当然あの子供とは似ても似つかない。

 俺はネット検索をして、昔この近くであった育児放棄の末に亡くなった事件の被害者の顔写真つき新聞記事を見つけた。あの子供の顔ははっきり見ていないが、似ている気がする。

「……………」

 飴幽霊という昔話を聞いたことがある。いつも赤ん坊を連れて飴を買いに来る女のあとをつけていったら墓場に着いて、最近死んだ女の墓にいつも女に連れられていた赤ん坊がいたという話だ。

 血の繋がりはないだろうが、あの子も似たようなものだろうか、と思う。

 それ以来、子供の泥棒はでていない。

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