脳みそ風船

 今日も脳みそ風船さんがたくさん飛んでいる。


 私には霊感がある。だから、みんなには視えない脳みそ風船さんも視える。

 脳みそ風船さんは、小さな脳みそがふわふわと宙に浮いていて、それに風船のように紐がついている、お化けなのか妖精さんなのかよくわからない存在だ。

 口はないからしゃべれない。こちらに対してアクションはとってこずに、ただただ浮いている存在だ。しかし風のない日も脳みそ風船さんの集団で同じ方向へ移動していたりもするから、きっと意思もあるし、思考した末に行動しているのだろう。

『まあ、脳みそ風船よ。今日は多くないかしら』

『きっと明日は雨ね。洗濯は今のうちにやらないと』

 近所の妖精さんが立ち話をしている。脳みそ風船さんは雨の日には出ず、その前日には通常より多くの数がどこかへ飛んでいくからだ。

「………………」

 何十何百もの脳みそがふわふわと空に浮いている光景を見て思う。

 気が狂っているな、と。


「なんかねえ、そこの子も霊感が目覚めたとか言ってるんだって」

 お母さんから聞いたことがある。近所の女の子が、霊感に目覚めたらしい。私よりも少し年下の中学生の子だからか、みんな生温かく見守っていたらしい。

 その子の家は今葬式をしている。突如、その子が命を絶ったようだ。

 「頭がおかしくなりそう」という遺書を残して。

(多分本当に霊感に目覚めてたんだろうなぁ………)

 産まれた頃から視えていた私と違って急に視えるようになって、この狂っている風景に耐えられなくなったのだろう。

 そんなこと関係なく、今日も脳みそ風船さんは、青い空を埋め尽くしている。

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