今日はちょっとだけ豊かに
うちは貧乏だ。同じ種族の中で一番貧しいのではと思うぐらいに。
父は既に亡く、体の弱い母と子供の僕で、なんとか日々のごはんを賄って生きている。家は建てれず、ニンゲンが使っている建物の中にあるでっぱりの上で暮らしている。雨風に関しては全然心配ないが、昼間はうるさいことこの上ない。
『よし、全部あるな』
今日は二人の誕生日だ。僕と母は誕生日が同じなのだ。こんな日くらい特別に美味しいものを食べたっていいだろう。そう思ってこっそりと、少ないお小遣いを貯めて貯めて貯めて、粉とクリームの材料を買った。粉を水やミルクでこねて焼いて、クリームを作って、拾ってきた果物を添えれば立派な果物ケーキになる。
『ただいま』
『おかえり母さん。見てくれよこれ』
『まあ、ケーキ!?』
『作ったのさ。誕生日くらいこんな贅沢したっていいだろ』
『まあ、なんて優しい子なのかしら! ふふふ、そして母さんもね、とっておきがあるの』
『わあ、お肉だ!』
うちは二人とも狩りができないので、お肉なんて縁遠いのだ。
『たまたま手に入ったの。さあ、今日はステーキとケーキで豪華にいくわよ!』
わあわあと二人で騒ぎながら、楽しい誕生日は過ぎていく。
******
「昨日、なんか救急車きてたよね」
同じクラスの不動くんといっしょに学校から帰っているときに、工場が目に入った。昨日はなんだかざわざわした雰囲気で救急車もきてたが、今日はいつも通り稼働しているようだ。
「あーあれ、なんか機械の調子悪かったとかな、ものぐさで電源入れたまま修理しようとして、指の先っぽ吹っ飛ばしたアホがいたって」
「あらら」
「近所のやつらしくてなー。ヨシ! が足りねえよヨシが」
「指見つかったのかな」
「なんか見つかんねえって。ま、大人しく義指にするしかねえのかな」
「時間経ってから見つかっても嫌だよね」
「掃除してたら干からびた指が見つかるのか。嫌だな!」
そんな風に好き勝手言いながら、暗くなり始めた道を歩いて行った。
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