原付
原付の免許をとった。好きな子と二人乗りするために。
「免許とってから一年経たねえと二人乗りできねえってどういうルールだよ頭イカれてやがる」
「むしろ妥当だろ」
友達の御山は呆れているが俺は納得がいかない。本当だったらとっくに三島と二人乗り登校をしているはずなのに。
今日は友達に原付のお披露目をしていた。中古だが、細かい傷や汚れは味があってむしろ良い。
「で、いくらすんのこれ?」
「発売してからそんな時間経ってないタイプじゃないかこれ? 俺の兄貴が同じやつの中古買ったときは三万くらいだったし、同じくらいか?」
「五百円」
「………………は?」
「五百円。お買い得だろ!」
頭のおかしいやつを見るような目で見られたので、全員一発ずつ殴っておいた。
******
「まったくあいつらは分かってねえな。最新型でこんなにまともに動く原チャをワンコインで手に入れれたのに」
夜更かししすぎて逆に眠れなかったので、夜中の三時の道路を原付で駆ける。普段は通行量が多い道路も、全然車がなくてスイスイと進めて気持ちが良い。
「んん?」
一人で乗っているはずなのに、急に背中を誰かに掴まれた。重みを感じる。気配を感じる。寒気を感じる。
(………まあ安すぎるから曰く付きでも不自然じゃねえか)
そう思って、後ろにいる何かに話しかける。
「おい後ろにいるやつ。二人乗りすんならきちっと俺の腰を掴め。足はちゃんと閉じろよ。あとメットあるなら被れ」
『……………………………………』
「俺が体を傾けたらお前も同じように傾けろよ。二人乗りのマナーだぞ」
『……………………………………』
ここぞとばかりに二人乗りの練習台とし、なんとなく、そのときの思うままに舵をきりつづけた。
「おー、きれいじゃん」
ノリで港にきたときに、ちょうど日の出を迎えていた。正月でもなんでもないただの平日の日の出だが、きれいなものはきれいなのだ。
「なー、お前もそう思うだろ?」
振り返ると、二人乗りしていた幽霊(推定)はいない。ただ、僅かな灰のようなものが落ちていただけだ。
「消える前に挨拶ぐらいしろや」
まったく、と唇を尖らせる。
その後原付は俺の愛車となったが、今日のようなことは二度となかった。
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