小学生の時の話
小学生の時の話だ。■■■くんという転校生がやってきた。
俺は転校生にはとりあえず声をかけてみる性格で、お互い当時流行ってたカードゲームをやってたからあっという間に仲良くなった。そして、ある日の放課後に他のクラスメイトともども■■■くんの家に招かれた。
「いらっしゃい」
出迎えてくれた■■■くんのお母さんはとても美人で優しかった。
おまけに手作りのお菓子はとてもとても美味しかった。お店のよりも、ずっとずっと美味しかった。カードゲームよりも手作りお菓子のほうにみんな夢中になっていた。
俺も、友達も、すっかり■■■くんのお母さんの手作りお菓子に夢中になって、それを食べたいがために放課後はせっせと■■■くんの家に遊びに行っていた。
食べたかった。食べたかった。毎日毎日。月曜も火曜も水曜も木曜も金曜も土曜も日曜も、■■■くんのお母さんのお菓子を食べたかった。
だから■■■くんがまた転校するときになったときはおおいにショックを受けた。薄情な話だが、もちろんお菓子を食べられなくなるからだ。
友達と話し合ってなんとか転校せずに済む方法を探したが無駄だった。結局予定通りに転校していった。
俺は、俺たちは■■■くんのお母さんのお菓子に代わるものを求めた。
買って、自分の母親に作ってもらって、自作して、お店で食べて、いろいろやり尽くしても、■■■くんのお母さんのお菓子と並ぶ物はなかった。
今思えば、異常な執着だった。俺の両親も友達の両親も困惑していた。それでも年月が経てばそれも落ち着いて、普通に生活するようになった。
そして時が流れて俺は大人になった。
ニュースをぼんやり眺めていたら、■■■くんの名前が出てきて驚いた。珍しい苗字と名前だから間違いない。
家族ぐるみで薬物を所持、販売していた罪とのようだったが、あのかつての自身の異常な執着を思い出すと────
「いや、まさか」
そんなわけない、と。そう、何も考えるに頭を振り、考えを打ち消した。
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