神隠しのあとに
美しい子は神隠しに遭うという。
かつてその地域ではそんな伝説が囁かれていた。美しい子は顔を隠せと昔はよく言われていたという。
とはいえこの時代にそんなことが通じるわけもなく、子供たちは美醜に関係なく今日も前を向いて生きている。特に不可解な行方不明事件もない。
そんな中に、一人の美少年がいた。生きた絵画か彫刻か。そんな風に感じてしまうほどに、少年は美しかった。
美しい上に賢く、運動もできて、芸術にも才があった。なにより誰に対しても優しく、誰からでも愛された存在だった。
幼い頃に捨てられていた孤児ではあったが、養父母や友人に恵まれ、幸せに過ごしていた。
いつの頃からか、少年は夢を見るようになっていた。美しい花畑にいる夢を。波立たぬ穏やかな湖畔には、蝶が舞い動物が昼寝をしている。
そして、誰かが手招きをしている。そんな夢。
「神隠しに遭うんじゃねえの」
友達から、そう言われた。どこかの神様がお前を連れて行こうとしてるのではないかと。
少年は一笑に付したが、心の中では「そうなのかもしれない」と思った。妙に惹かれるのだ。あの光景に。
どこかで、見たことがあるような。
そんな風に思って、連休のときに自転車で花畑を探しに行った。宛てなんてないが、なんとなくありそうだと思った方向に進んで、とある山の中に入っていった。
自転車は登山道の入り口に置いて、徒歩。大きな木が立ち並ぶ静かな森の中、なんとなく、なんとなくだが「こっちだ」と確信を持って足を進める。
開けた場所に出て、絶句。
間違いなく、あの夢の中の花畑があった。美しい湖畔も、寝そべる動物も、そのままに。
『ああ! ああ!』
声が聞こえる。誰かいる。男女が二人。
『ようやく帰ってきたのね! 私の子!』
そこでようやく、少年は自分が捨てられた孤児ではなく、山から迷い出てしまった神様の子供だということを思い出した。
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