みんなみんな不幸になる
「私に嫌なことをした人ってみんな不幸になるの」
そう、自慢げに彼女はいった。別のクラスの同級生だ。やや陰気な雰囲気が漂う彼女の目はいやに爛爛と輝いていて、不気味な印象を強めていた。
「そうなんですか。例えば?」
「そうね、私のことをいじめてた奴らとか。遊んでる最中に骨を折って今も入院中」
「すごいですね。他にもあるんですか?」
「もちろん。イヤミを言ってきた女子は転んで口の端が裂けたし、私のいじめを見逃してた教師も急病で入院中」
「へえ」
図書室の中だというのに、どんどんと声が大きくなる。まるで誇っているかのように。
「あなた、霊感あるんでしょう? なら分かるでしょ。私の後ろに憑いてる“神様“が」
「まあ、ついてますね」
「でしょ?
山の中の古い神社にお参りしたらついてきてくれたの。それ以来、私の味方。フフ、私の機嫌を損ねるようなこと、しないほうがいいってちゃんと覚えておきなさい」
「そうですか」
会話を終えて、図書室を出る。ちょいちょいと廊下の角の手招きに導かれて、空き教室の中へ。
「で、どうよ?」
クラスメイトの不動くんが難しい顔をしている。
「ほんとにその神様とやら、ついてんの?」
私だって好き好んであの子に話しかけたわけじゃない。これはパイの実一箱を報酬とした依頼だ。
あの子の周りの人間が次々と不幸になっていことは本当のことだ。そしてそれを自慢げに話していることも。それを苦々しく思って怒ったり宥めたりした人に、狙い澄ましたように悪いことが起こる。
そもそも本当に神様とやらがいるのか、“霊感少女“の私に依頼が来たのだ。
「いるねぇ」
「ええ……マジにいるの」
「山の中にいる性格が悪い神様。人間やお化けや妖精さんをいじめたりするから、あんまり関わりたくないんだよね」
「神社燃やしたら殺せねえかな」
「放火はダメだよ」
そもそも神社を燃やしたらこっちが呪い殺される。
「つったってよー。ダチが苦しめられたんだぜ」
不動くんの友達が、自慢げに良くない話をしている彼女を注意したらしい。その友達は今、不自然な怪我をして入院中だ。
「鼻っ柱叩き折ってやりてえが、手出せねえのかよ」
「やめたほうがいいよ。あの神様、本物だし。しばらくしたら飽きて山に戻るよ」
「チッ」
あからさまに顔が歪む。私の前でこうも不機嫌そうなのは珍しい。
「だいたいその神様ってやつもなんであんなのに手貸すのかね。あの調子乗った顔がムカついてしゃあねえんだが」
「遊びだよ遊び。だってあの神様、本当に性格が悪いんだもん」
はぁ、とため息をつく。
「普通にいじめるよりも、自分が不幸になるなんて微塵も思ってない人をいじめるほうが楽しい。そうでしょ?
まだただの前座、前菜、そういう段階なんだよ」
「……ああ、そういうこと」
ちょうど図書室から彼女が出てきた。半端に開いているドアの隙間から彼女が見える。
これからも自分の周りの人が、自分が嫌っている人が不幸になると信じている顔。
自分が不幸になる可能性なんて微塵も考慮していない少女が、そこにはいた。
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