秋という季節
秋は知能が低い妖精さんが死ぬ季節だ。
街にたくさんいる妖精さんにも知能の差があるようだ。妖精さんが別の種族の妖精さんの狩りの対象になってお肉になったりするのはよくあることだ。寿命も様々で、人間レベルに長生きするものもいれば、虫のように数ヶ月で死ぬ種族もいる。
そして妖精さんの中には、春の暖かい季節に生まれて夏で栄養を蓄えて、秋に出産して体力を減らし寒さの中で死ぬというサイクルのが一定数いるようだ。
そしてそういう妖精さんは総じて知能があまり高くない種族なので、知能がそれなりにある妖精さんの中には秋に死ぬ奴は馬鹿だという意味合いのことわざがあるようだ。
「ここで死んで欲しくないなあ……」
歩道橋の上。私が通学するときに、必ず通らなければならない場所。通らないと、本当に本当に遠回りになるからほぼ避けて通れない。
そんな歩道橋の上には、霊感がある私にしか視えない、秋に死ぬ妖精さんの死体がたくさんある。寒さで死んだあと、妖精さんが見えない人間に踏まれて、頭も体もぐちゃぐちゃになって内臓が見えている。
大きさはネズミくらいだから、普通の人間からしたらぐちゃぐちゃになったネズミの死体がそこら中にある空間を通るのと同じことだ。
気持ち悪い。通りたくない。
けど通らなければならない。だって、どこに行っても妖精さんの死骸はあるから。
歩道橋を越えたって、道路を渡り損ねて轢かれた妖精さんの死体があるし、鳥に咥えられて、けど途中で落下死した妖精さんの死体がある。多種多様な死に方をした妖精さんが、何も見えない人間に踏み潰されてぺしゃんこになる。
埋葬をする文化があるのはごく一部だ。そんな高度な妖精さんは数少ない。
もっとも高度な知能を持ってても、逆に首吊り自殺をしたりして、鳥に啄まれて首から上の骨が見えてたりするけど。
「ねえお母さん、あのお姉ちゃん、変!」
「こら!」
なるべく自然体に、けど妖精さんの死体を踏みたくなくて、結局変な歩き方になってしまった私を子供が指さす。
慣れてる。そういうの。幼い頃からずっとそう。しゃべったりする妖精さんやお化けはいい。けど、妖精さんのぐちゃぐちゃの死体はいまだに慣れない。
気持ち悪い。吐き気がする。血も内臓も嫌だ。けどみんな視えないから、結局私が変な子ということになる。
「死んじゃおうかな……」
歩道橋の上から夕暮れを眺めながら、ぽつりと呟く。電線でどこかの妖精さんがぶらんと首を吊っていた。首が異様に伸びていて、首吊りは嫌だなと思った。
ここから飛び降りようか。高さは足りないが頭から落ちれば大丈夫だろうか。首が折れてくれないだろうか。一瞬で死なないだろうか。
そしたら、このどうしようもない憂鬱も晴れるのだろうか。
「何してんの?」
身を乗り出したところを、襟首を掴まれて引き戻された。不動くんだった。
そういえば、いっしょに帰っている最中だった。
「死んじゃおうかなって」
「なんで」
「人生ずっと憂鬱だから」
「ふーん」
よく分かんない、みたいな顔をしている。
「その辺に、いっぱい妖精さんの死体があるの。ネズミぐらいの大きさのやつ。みんなに踏まれて内臓散らかしてるから踏みたくないけど、私にしか視えないの。だからみんな私が変な子って言うの。
なんか疲れた」
「おおーよしよし」
子供扱いである。
「まあ別に死ぬのは構わねえんだが」
「構わないんだ」
「生きるのが死ぬより辛いならしゃあねえ。
けどここ寒いからな。寒いところで死ぬこと決めるのは止めとけ」
「なんで」
「寒かったり腹減ってたり寝てねえときはロクなこと考えねえって死んだじいちゃんが言ってたぞ。
まあなんだ、あったかいところで飯食って寝てから考えろ」
頭をポンポンされた。そういうものなんだろうか。
「サイゼ行くぞサイゼ。エスカルゴ食おうぜ」
「なんでチョイスがそれなの」
「貝みたいでイケるぞ~。そしてパンに残った油をつけて食え」
手を引かれて歩道橋を降りていく。そういえば、ここは寒いしお腹は空いた。睡眠は、どうなんだろう。不十分なんだろうか。
「原チャで二ケツで登校しようぜ」
「二ケツ登校って許されるの?」
「わっかんねえ。そもそも二ケツってしていいんかね。法的に。チャリはダメだよな」
そんなことを言いながら、死体が満ちる夕暮れの歩道橋をあとにした。
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