丑の刻参り

 この時代に、神社の杉の木に藁人形が打ち付けられていたという事件が起こった。


「見に行くっきゃねえな」

 そんな話を聞いて、俺は真夜中の神社へと足を運んだ。愛しの三島には「悪趣味」と言われたが気になるものはしょうがない。

 意気揚々と真っ暗な神社の敷地内を歩いていると、カーン、カーン、と微かな金属音がした。喜び勇んで音のするほうへ向かうと、たしかに白装束を着た女が頭にろうそくを立てて、そして藁人形を木に打ち付けていた。ああ、カメラで撮影して友達に見せたい。

「!」

 葉の擦れる音がしたのか、女がこっちを振り向いた。丑の刻参りは誰にも見られてはいけない。見られたら、見たやつを殺さねばいけない。

 女はしばし躊躇していたが、結局金槌を振りかぶってきた。俺はそれを避けると、足をひっかけて転ばせる。そして金槌を奪って終わりだ。あっけない。

 ついでに藁人形も回収して、女を抱えて神社をあとにする。ちょうど巡回のパトカーがきて、女を抱えて明らかに怪しい俺に職質しようとしたので「このお姉さんが藁人形に釘打ってたんすよー」と引き渡した。本物の藁人形を警察に渡したとき、若い警官は顔が引き攣っていた。

 いやあ、いいことをした。善行をしたのだから、きっといいことがあるに違いない。


「あの女死ぬのかなぁ」

「見られたんだし死ぬんじゃないかな」

 翌日、三島にこのことを報告したら呆れられてしまった。割といつものことだが。

「ホラー漫画だと、偶然見てしまったから殺されかけて、でも運良く犯人が石段から転げ落ちて死んで、よく見ると藁人形に釘打った箇所の骨が折れてて、とかあるよな」

「あるね」

 そんな風に話しながら、いつも通学で通る高層マンションの前を過ぎようとした。

「………」

 なんだか予感がして、三島の手を引いて数歩下がる。

 

 ごしゃっ


 人が落ちてきた。周りは悲鳴一色になる。肉色の塊は、奇跡なのか不幸なのか、まだ息があった。

 ああ、あの女じゃないか。

「お前のせいだ……! お前のせいで、こうなった!」

 なるほど。そういえば、藁人形に釘を打っていた部分が分かりやすく折れている。上で何があったかわからんが、とりあえず最後っ屁で俺にトラウマを植え付けたいようだ。

 でも俺は、こんなんだから。

「いやー、俺グロ画像とか好きなんだわ! さすがに本物は見る機会少なくてさあ、ありがとうな!」

 スマホで連写しながらにこやかに礼を言うと、驚きと、そして屈辱に塗れた顔のまま、女は息を引き取った。

 結局この女は何も達成させることができないまま死んだのだ。

「さて、帰ろうぜ」

 救急車とパトカーがきて面倒になる前に帰ってしまおう。

「もう、本当に悪趣味なんだから」

「知ってる」

 フフ、と少し笑って、飛び散った血がついた頬を擦った。

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