ご近所の家族

 ご近所の空き家に、家族が引っ越してきた。


 旦那さんと奥さんと、お子さんが二人におじいちゃんとおばあちゃんの仲良し家族。

 休みの日の夕方になると家族みんなで連れだって散歩をするのだ。他にも、庭でBBQをしたり買い物するときはいつもみんないっしょだったり、とにかく仲の良い家族。

「こんにちは、千花ちゃん」

「こんにちは、小倉さん」

 日曜日、近所を歩いているとその一家に会った。

「そっちの子は?」

「同じクラスの子です」

「彼氏って嘘ついてもいいぜ?」

「わけわかんないこと言わないで」

 同じクラスの不動くんとたまたまいっしょだったのだ。小倉さんに「仲良いんだね」といわれてしまったがなんだか不服である。

「小倉さんはどこかに行くんですか?」

 後ろにある小倉さんの車には何やら荷物が積んであった。

「みんなでピクニックに行こうかとね。行く前にみんなトイレに行ってるから待ってるんだ」

「いつも仲が良いですね」

「そうだよ。なんたって、大切な家族だからね」

 ニッコリと、小倉さんは笑う。

 そのうち他の家族も家から出てきて、車に乗ってピクニックへと向かっていった。

「仲の良い家族かあ、いいじゃねえか」

「そうだね」

「俺らもいずれああいう家族になりたいもんだ」

「だから意味の分からないこと言わないで」

 さんざん振ってもめげない不動くんの足を踏みながら、小さくなっていく車をなんとなく目で追った。


 その夜、小倉さん一家は全員死亡した。

 ピクニックのときにキノコとりもしたようで、夕飯のときに食用キノコによく似た毒キノコを食べてしまったのだ。それはただの悲しい事件。

 ただ、警察の調べでは、小倉さんの一家は全員血が繋がっていないことが分かった。夫婦はともかく、親子もだ。

 その上、ご近所に話した名前も経歴も、全てが嘘だった。小倉という一家なんて存在しなかった。家だって、遠方の所有者が相続でしかたなく引き継いで放置していたのを勝手に住んでいただけだった。その所有者も、当然一家のことは全く分からないという。

 死人に口なし。もはや小倉さん一家が“誰“だったのか、警察ですら分からないようだ。

 周囲も、報じたニュースも、それを見たネットの人も困惑した。


 あの仲の良い家族が抱えていた闇は、もはや誰も一切分からない。

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