窓に目が

 最近、夜が恐ろしい。


 大丈夫。じっとしていれば大丈夫。いつも通りベッドで横になっていればいい。わかっている。わかっていても────恐ろしい。

「…………っ」

 心臓の音が大きくなる。時計の針の音がやけに耳に響く。

 微細な細工が施された麗しい部屋にある、カーテンのない窓。時間は一定ではないが、大体夜に“それ“は来る。

「…………っ!」

 窓から見えるのはいつも向こうの景色だけ。そのはずなのに。

 目が。

 窓一枚ほどの大きさの目が、じっとこちらを見つめている。なんでこの化け物がそんなことをしているか、わからない。ここ数日で急にそうなったのだ。

 祈る。見るだけであって欲しい。そうであってほしい。どうか、この美しい家を破壊するような真似は、どうか────。

 ……………。

 今日も、目は見つめるだけでなにもせず、静かに静かに去って行った。


「うーん……」

 同棲している彼女が、今日も不思議そうな顔で趣味で集めている“あれ“を見つめている。

「お前ほんと好きだな。その、ドールハウスだっけ」

 スマートフォンでゲームをしながら、何気なく彼女に投げかける。人形が大好きな彼女は、人形が住む家、ドールハウスとやらも持っている。俺は人形に興味はないから、家具が小せえなとか、きれいだなとか、その程度にしか思っていない。

「好きだけどさあ、別に今はそうじゃなくて」

「なにそれ」

「このドールハウスとセットのお人形、この前買ったやつなんだけど、このお家の中に入れてる人形さあ……なんか最近見るたびに位置が違うような……。

 動いてない? この子」

「こわー」

 スマートフォンから目を離さずに、「そんなわけないだろ」と心の中でツッコミを入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る