異世界エルフに会いたくて
「巨乳のエルフに会いたい」
場所はファミレス。近くの席の男子学生が突然そう言い出した。
「異世界に行って巨乳の美人エルフといちゃいちゃしてえ……」
「現実逃避してんじゃねえ」
「ンなこと言っても宮本さんにフラれた事実は変わらねえんだよ」
「ンンンンン」
現実から逃げている男子学生がテーブルに突っ伏す。声からして、多分泣いている。同じテーブルの友達と思われる男子たちが、「そろそろ帰るぞ」と立ち上がった。
「今日はおごってやるから」
「すまねえ……」
男子学生たちが立ち去り、あとには空になった皿だけが残される。なんとなく見てしまっていた私は視線を元に戻して。
「異世界エルフ……ね。流行ってるの?」
「らしいね」
私の目の前にいるのは、最近仲良くなった橘さんだ。
「ああいうの読むとさ、都合良くとりあえず無条件で言語通じるよね。まあ通じずにあたふたしてても物語的には面白くないだろうけど」
「あと無双するね。あとはハーレム」
「するね。でも社会制度も価値観も何もかも違う国にいきなり来ても物語みたいにスムーズに行くわけないよね。絶対どこかで躓く。
私の国でも似たようなの流行ってたよ。機械文明が発達した世界に行って魔法で無双するの」
「そういうの、好き?」
「好きだったね……昔は。自分だって異世界に行ったらなんかすごいことできるって思ってたよ」
ドリンクのストローを吸い、中身がなくなりかけているとき特有のズコココという音がする。
「現実はねえ……うまくいかないね。戸籍もないし、日雇いで生活できるだけマシかな……」
そういう橘さんの髪から、人にしてはえらく鋭い耳が覗いていた。
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