髪の毛
転職を機に、安いアパートへと引っ越した。
「……ん?」
玄関に落ちていた、黒い縮れ毛の塊。一本計ってみれば、縮れた状態で30センチ定規よりもなお長い。地毛が茶色の私のものでは、ありえない。
「キモ」
そのときはそれだけ思って、さっさと捨てた。
次の日は、玄関から入ってすぐのキッチンの床に、同じ縮れ毛が落ちていた。
その次の日は、リビングの床に落ちていた。毎回毎回捨てているのに、まるで中に入り込んでいくかのように。
「……さっすが安いだけはある」
聞いてはいた。なぜか住人がいつかない、と。入ってもすぐ出ていってしまう。だから立地が良いアパートで、この部屋だけが格安なのだ。
「髪の毛なんかにビビらないっての」
むしろ、変な髪の毛が出るくらいで家賃が格安なんだからお得だろう。どうせ仕事と遊びで、家に帰るのなんて寝るときぐらいなのだから。
「こんなのに構ってられない」
ぺい、とゴミ箱に捨てる。明日は朝早いのだ。私はさっさと寝る準備を整えると、ベッドの中に入り、すぐに眠りに落ちた。
ピピピピピピ
目覚まし時計が鳴る。私はすぐに目を覚まし、顔を洗おうとして、鏡を見た。
「──────────っ!」
長い長い黒い縮れ毛が、茶色の髪に紛れながら、私の頭から直接生えていた。
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