位置情報
最近、スマホがおかしい。
正確には、スマホに入れてる地図アプリの、位置情報がおかしい。
普通は赤いピンで自分の位置が表示されるが、最近は赤いピンだけじゃなくて黒いピンも表示されるのだ。しかも、別に自分の位置でも、目的地の位置でもないなんでもない場所に。そして毎回黒いピンの位置は変わる。
黒いピンが持つ意味が分からなかったので検索したり問い合わせたりしたけど、まったくわからない。支障はないのでそのまま使っているけど正直気味が悪い。
でも、気付いたことがある。黒いピンが今までに表示された位置をまとめると、始点である大きな駅から、だんだんと自宅に近づいているような気がするのだ。
「えー……なにそれ気味悪い」
「でしょ?」
友達に愚痴るくらいには、気持ち悪さを感じていた。けれど、重度の方向音痴の私には、使い慣れているこの地図アプリを手放すことはできないのだ。
「一回アンインストールしてまたダウンロードするとか」
「やってみたんだけど、やっぱり……」
黒いピンは、現れる。
(ほんとどうにかなんないかな……)
学校が終わって家に帰り、自室で今一度地図アプリをアンインストールして再度ダウンロードしても、やはり黒いピンは現れた。
「ん?」
黒いピンが、消えたのだ。一瞬喜んだが、今度は別の場所に黒いピンが現れた。そしてまた消えたかと思えば、更に別の場所に。
五丁目から四丁目に。四丁目から三丁目に。三丁目から二丁目に。
そして私の家は、一丁目にある。
確実に、近づいてきている。
「え、ちょっとヤだ……」
不安になる。けどここで投げ出して今リアルタイムで動いているそれから目を離すことはできない。そして黒いピンがまたフッと消えて──一丁目に現れる。
ただし、私の家ではない場所に。
「あれ?」
進路上に、たしかに私の家はあった。けれど今表示されているのは一丁目は一丁目でも、私の家を越えたところにある場所だ。そしてまた黒いピンは消えて、北町三丁目のエリアへと現れた。
「あー……焦ったー……」
どんどん自宅から遠ざかる黒いピンに安堵する。こうなればもうただの変な移動をする黒いピンだ。怖くない。
黒いピンは再び消えて、北町二丁目へと再出現した。そしてそこから消えることなく、じっとしてアプリ上に表示されている。
「んー……どこだここ」
地図アプリを拡大して、黒いピンの場所を調べる。そこはとあるマンションだった。
「……あれ?」
そこは、たしか友達が住んでいると言っていたような。
突然スマホが振動する。びっくりして落としてしまったが、ただ単に友達から電話がかかってきただけだった。
黒いピンが現れたマンションに住んでいる、友達から。
「……なに、なんかあった?」
思わず電話に出るが、一言。
『たす』
それだけ聞こえて、電話は切れた。
かけ直しても、友達が電話に出ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます