死ぬ順番

 大病で死にかけて以来、なぜか“半年以内に死ぬ人“が分かるようになった。


 頬、腕、足、その他。死ぬ人の体のどこかに数字が見えるのだ。例えば近くに半年以内に死ぬ人が五人いたら、一番近いうちに死ぬ人が1、最後に死ぬ人が5となる。

 そんな特殊能力を手に入れた俺だが、日常が少し陰鬱になっただけで役に立ったことなどない。だいたいは高齢者で自然の節理に沿っているし、死の運命をねじ曲げたいほど大切な人に数字が浮かんだことはない。

 ただ、一つ知りたいことはある。

「別に、その、数字? そんなもんねーけどなぁ」

「ほんと? ほんとだよな?」

「ないって」

 死の運命を知ることができるようになった人間。そんなやつに訪れる運命は「自分の死期を知ってしまう」だろう。鏡で確認できる範囲にはなかったが、背中なんかはうまく見れない。そして恥を忍んで親友に頼んで背後の確認をしてもらっているのだ。

「あー……ほっとした。怖かったんだよ正直」

「それよりもさぁ、なんだよあの背中のブツブツ」

「……え?」


 入院になった。再発だった。

「前みたいに大事になる前でよかったな」

「まあな……それでもストレスはヤバいけど」

「……お前まだストレス溜まると自分の髪抜く癖抜けてねえのかよ」

 持っていたお菓子の空き箱を捨てようとして、ゴミ箱の中を見てしまった親友がうめく。自分でも悪い癖だとは思っているけど、子供の頃からの癖だから、一生治らないと思う。

「多分生え際とかヤバくなってるだろ。ハゲだなハゲ」

「い、いやまだイケるし……!」

 俺は鏡を取り出して生え際を確認する。大丈夫大丈夫大丈夫。まだイケる。

「……ん?」

 髪をかきあげた生え際に、何か黒い棒線がある。

 それは、数字の「1」の下半分のような。

 

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