神社の作法

 私には霊感がある。


 だから、近所の神社の神様ともお友達だ。小さい頃からよくお参りしていた。神様が視える人はあまりいないので、話し好きの神様は喜んでたくさんお話を聞かせてくれる。

 ある日オカルト雑誌を読んでいたら、こんな記事が載っていた。『神社で願掛けをするときは、小声でいいので自分の住所氏名を言って自分がどんな身分の人間かを明かすと、神様がお願いを叶えてくれやすい』と。

 ……本当だろうか? 私は近所の神社の神様にその記事を見せてみた。

『ああ、最近たまーにこういうことする人いるねえ。なんでだろうと思ってたけど、へえ、こういうのがあるんだ』

 雑誌をぺらぺらとめくりながら、神様は答えてくれた。

『うーん、別に住所氏名言ってようが言ってまいが、関係ないよ。本当に困ってるか、先の試験や試練に真剣に向き合う気があるかのほうが大事だよ。それなら少し支援をしよう。あとこの街の人ならちょっとサービスするかな。僕が見ればわかるから、そういうのは』

「じゃあ、やっぱり眉唾なんだね」

『そうそう。あと、いくら小声でも住所とか言っちゃうのは、やんない方がいいと思うよ』

「他の人に聞こえちゃうから?」

『それもあるけどさあ、僕見たことあるんだよね。神社の境内に入れない“良くないもの“が、周りの森にいるんだけどさ、そいつらいつもはざわざわと恨み言でうるさいのに、こういう風にお願いのときに住所を言った人がいたときだけ、ぴーんと聞き耳をたてて静かにするのさ。あいつら、耳がいいからね』

「…………」

『で、その人が境内を出るとすーっと森からいなくなるんだよ。多分ついてってるんじゃないかなあ。

 街の人についてったなら僕が「コラっ!」ってしたらすぐ森に戻るけど、他の街からきた人ならそのままだね。その街の神様の管轄だから』

「…………」

『こういうの、真面目に受け取らない方がいいよ』

 紙面をぺしぺしと叩きながら、ふぅ、と神様は息を吐く。その様を周りの森にいる『何かが』、境内の外からじっと見ていた。

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