第11話 弱者



穏やかな風が流れる

晴天の青い空

一面は綺麗な草原

俺はそこにうつ伏せに倒れている

遠く小さくだが

死んだはずの姉が立っている

綺麗に金髪に染めた髪が風になびいている

ここは天国か?

姉は俺の方を見ながらなにかいっている

全くなにをいっているか聞こえない

近くに行きたいが体は動かない

涙が

涙が

涙がこぼれて止まらない

渾身の力を絞って俺は叫んだ

「助けられなくて!弱くて!ごめん!!」


「なにがだ?」


低くドスの聞いた声で目が覚めた


前を見ると

死んでいるのか、気絶してるのかわからない今井を肩に抱え

鬼神がベランダの手すりの上に立ってた


「闇狩り。こっちはお前の邪魔をするつもりはないし、興味もない。だかなコイツにはちょっと用があってな。コイツの周りだったり、持ち物は好きにしろ。」

言うなり鬼神は姿を消した


急いでベランダに出てあたりを見たが鬼神の姿はなかった


鬼神と俺には天と地ほどの差があった

俺は完全に思い上がっていた

世界最強にはまだまだ届いちゃいなかった

本当に弱い

もっと強さが

強さが欲しい

こんな情けなく、悔しい気持ちはなん年ぶりだ

こんな思いしたくない

もう二度

俺はひとり夜空に浮かぶ満月を見つめながら誓った



耳につけているBluetoothで社長に連絡した

「終わりましたが今井には逃げられました。鬼神が来て今井を連れてかれました。」

「鬼神か。奴も関わりがあるのか?」

「分かりません。詳しい話は戻り次第しますんで処理班お願いします。」


処理班とは俺の後仕事をする奴らで

死体片付けや現場の掃除、被害者の保護等をしている

ここには生存者はいないが他にいる被害者のとこにも行かせるように伝えた


「社長。ひとつだけやり残した仕事があるので行っていいですか?」

「わかった。気をつけろよ」

「はい。」

俺はカーテンを取って栞にかけ

ここを後にした








そして俺はとある新宿のタワーマンションのベランダにいた

17階までベランダをつたって登ってくるのは少し疲れた

室内に繋がる窓に手をかけて開けてみたが鍵はかかっていないようだ


中に入るとそこはリビングだった

16歳ぐらいの少女が床に仰向けで倒れていた

服はビリビリに裂かれていて

死んだ虚ろな目でただ天井を見ていた

ヨダレを垂らしながらブツブツ言っているようだがなにを行っているかは分からない

顔の横には薄いピンク色をしたOUTと彫られた錠剤が30錠くらい散らばっていて

これが「壊れる」って事かと理解した

彼女を見下すように

ひとり上半身裸で眼鏡をかけた中年男がつったったままこっちを見た

「な、なんだお前は!」

男は俺を指差しながら叫んだ


「普通にお前を殺しに来ただけ」

俺もこいつをニュースで見たことある


「俺を誰だか知ってるのか!!!」

「しらねぇよ!!テメェ見てぇなゴミ!!空気のムダだから早く死ねよ」

俺は言うなり

男に一気に詰め寄り

首を切った

首は落ちなかったが

血を散らしながら

声も出さず仰向けに倒れ、死んだ


コルトガバメントを抜いて

倒れてる少女に近づいた

「ごめんな。次生まれ変わったら必ず幸せになってくれ」

正直泣きそうになった

唇を噛み締めすぎて血が流れた

そして彼女の額を打ち抜いた




俺はBluetoothに手をかけた

「一瀬です。終わりました。こっちにも処理班お願いします。あとマイクに迎えに来てって言ってもらえますか?」

社長はホッとしたようにため息をついた

「わかったよ。お疲れさん。戻ってきたら話聞かせろよ。」

「分かりました。失礼します」



終わったあとなのにいつも胸が苦しく

スッキリしない

ただこれは俺の背負うべきものだし

これがなくなれば俺は人ではなくなると思う

俺って世界で一番メンタルの弱い暗殺者かもな


そんなことを考えながらマイクの迎えを待った










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