第9話 笑顔

栞は声も出なかった

いろんな考えが頭を回っていた


「おいっ!ガキ壊れたフリしてやがったんか?あぁ?」

今井が怒鳴りながら近づいてきて栞の髪の毛を掴んだ


栞はあまりの恐怖に声が出なくなり、失禁した


「汚ねぇよ!漏らしやがって」

そういいながら今井は床に向かって栞を突き飛ばした


「柳原さん。こいつの情報は?」

今井が刑事に聞いた

「高橋栞。14歳。中学3年生。一応捜索願いもでてる。」

「親は?金持ちか?」

「いや、一般的な中流家庭だな。父親はウェブ関連の仕事をするサラリーマン。母親はスーパーでパートとして働いてる」

「なんだよ。役立たずじゃん。こいつはおもちゃにするか。」


栞にはもう絶望以外なにもなかった


柳原は本当の刑事だ

身長は170くらいで

猫背で汚い茶色のスーツを着て

汚い緑色のコートを着ている

髪は白髪混じりのボサボサ頭で

肩にはフケがかなり落ちている

顔は色黒でかなり濃いクマがあり

痩せこけている

柳原は金さえ払えばなんでもやるクズ

使えなくなった奴の親をも今井と苦しめ

財産すべて巻き上げるらしい

それも「刑事」という立場を利用して

ただそれはハイリスクの為

ある程度の資産を持っている親のみらしく

栞の親は目をつけられずにすんだ

今日柳原が来たのは栞の親の調査結果と

柳原が所属している組織犯罪対策部で押収した薬物類を今井に売るためだ

取引が終わると

「今井さーん!またくるわぁ〜!」といいながら

家から出ていった


今井は黙って立ち上がり座り込んでいる栞の髪を掴み3階まで連れてかれた

それからは今までがまるで幸せな日々に感じた


今井に動けなくなるまで殴られ蹴られ、そしてレイプされる

長谷川に治療され

動けるようになったら

また今井に暴力を動けなくなるまで振るわれ、レイプ

これがひたすら続く毎日だったらしい

次第に栞と一緒に住んでいた子達が壊れ、連れてこられ、殺されていった

それを毎回目の前で見せつけられた

エミの次の子もハンマーで殴り殺され

3人目の子は腕、足と次々折られ、最後に首を折られ殺された

4人目の子は3人目の子が殺された次の日に来た

3日食事を与えられず、4日目に与えられたのが

3人目に殺された彼女の腕だった

それを4人目の子は食べ

それから3人目の子の体を食わされ続けたらしい

そんなことが5日くらい続いたのち

屋上でガソリンをかけられ燃やされた

そして最後はアンリだった

アンリはピクリともせず

ずっと寝転んでいた

目を見開いたまま涙をずっと流していた

死んだ目をしていたがずっと栞を見ながらひたすら涙を流していた


アンリは連れてこられた次の日に殺された

今井に服を脱がされ背中を包丁でひたすら刺され、殺された

栞はもう涙すら出てこなくなっていた

今井の家に来て3ヶ月経ったらしく

3ヶ月であそこにいたみんな今井に殺された

栞は本当にみんな大好きだった

同じ立場で同じ苦しみを味わっていた彼女達とは

普通では生まれない絆があったと栞は語った


アンリが殺された日からまだ3日しかたっていないらしい

ただ死体はもう処分されているのだろう

ここにはなかった

今日の経緯としては突然今井がガムテープを栞に巻き始めて部屋に連れてきたらしい


栞は今までの話を終えたが

表情ひとつ変わっていない

話を聞いて

俺は心臓を誰かに鷲掴みされているのではないかと思うぐらい胸が苦しくなった

それと共に心底怒りが湧いていた


そして今井に俺は言った

「どう思う?この話を聞いて?」


今井は正座をしたまま頭の上で手を合わせながら

「悪かったと思います!!栞にはなんでもやりますから!!どうか命だけは!!」


散々人を苦しめ、殺してきた奴が言うセリフか。

呆れて言葉もない

今井をシカトして俺は栞に言った

「すぐにここから出て治療をしてやる。その後親御さんのとこに返してやる。今まで通りに戻してやる。」



栞は横に首を振った

「それが出来れば幸せです。ただ私が壊れるのは時間の問題です。」

「OUTはもうやめたんだろ?だったら壊れることもないだろ?」

「もう手遅れなところに来ちゃったんです。」


俺は理解できなかった

「おい、今井、どういうことだ?正直に答えろ」

と今井に聞いた


今井は躊躇しながらも答えた

「OUTは脳を壊していく薬なんです!まだ作られてから日が浅いんで何が起こるかわかっていないんです。ただOUTをやり続けるとやめたとしても脳の破壊は止まらないんです!栞が完全に壊れるのは時間の問題です!」


は?なんだと?でも治療を受ければ治るだろ?

そう考えていることが今井にはわかったように

今井は続けた

「俺の仲間でもハマった奴がいて、別件でパクられて病院に入れられましたが壊れました。OUTをやり続けた奴で壊れなかった奴は見たことない!みんな壊れて、ゾンビみたいになるんですよ!闇狩りさん!俺正直答えましたんで!勘弁してください!」

また頭の上で手を合わせた


栞が静かに口を開いた

「そういうことなんです。治療法がないんです。どんな薬かも解明されてません。治療法を見つけることと私が壊れるのだったら確実に私が壊れるのが先なんです。」

「まだあきらめんなって!やってみなきゃわかんねぇだろ!?」

俺は強く栞に言った


栞は優しく微笑んだ

「闇狩りさんでしたよね。ありがとうございます。

正直みんな殺されて私だけ治療する訳にもいかないですし、なによりも無駄なことは自分が一番分かるんです。次第に記憶がなくなっていくんです。今では親の顔もあまり思い出せなくなっています。学校のクラスメイトの名前もみんな忘れてしまいました。それに感情がほとんどなくなってしまいました。私はじきに壊れ、人間をやめることになります。その前にひとつだけ、、、、ひとつだけお願いがあります。」


俺も理解した

今井の口ぶりと栞の発言から考えてもどうやら本当らしい

だったらお願いってなんだよ


「なんだ?できることならなんでもやってやる」

俺は心の奥から思い、そう答えた



栞は幸せそうな笑顔を見せ

光のなかった目に光が戻り

一筋の涙が左目から溢れ落ち

彼女はいった







「私を殺してください。人のまま死なせてください。それが私が一番願う幸せの形です。」


俺は怒りで混乱した

「ああああああ!!!」

叫びながら今井に駆け寄り

今井の腹に前蹴りをかました

今井はそのまま前に倒れこんだ


そして俺は栞に銃を向け、気持ちを落ち着かせるためにため息をついて、栞に言った


「本当に殺すぞ。それでいいんだな。」


彼女は女の子座りをし、足のあいだに手をつく形で座っていた

そして栞は満面の笑みを浮かべながら

「願ってもみなかった幸せです。闇狩りさんは本当に優しいです。私のヒーローです。これからも私みたいなひとを助けてあげてください。本当に助かりました。最後に出会えたのが闇狩りさんでよかった。」

と栞は答えた


俺は感情を殺した

栞の目を真剣に見つめた

微笑んではいるが栞も真剣な眼差しで俺を見た

そして、静かにうなずいた






俺は引き金を引き

栞の額を撃ち抜いた

栞は幸せそうな笑顔を浮かべながら

声は出ていないが

「ありがとう」

と口を動かし

横に倒れた




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る