第3話 エーテルが無を満たす時 1

「私がハイスクールに在籍していた頃の事。当時物理学を教えていた教師から聞いたんだ。幽霊は実在する可能性があるとね」

いつもの蕎麦屋、いつものカウンターテーブル。赤い日はグラスの影をめいいっぱいに伸ばす。

隣の男は蕎麦を啜りながらそんな奇妙な事を言った。がっしりとした体つきで黒いスーツ姿。右眼が青く左眼は茶色なので直ぐに分かる。目の色に合わずレッドと名乗るその男は自称超能力者で怪奇現象に関した仕事をしているらしい。

そんな男と毎週蕎麦を啜るりその度に彼の無駄話を聞かせられる。いつも俺が話をふる事はなく一方的になりがちだが今日はふと彼が使えるという超能力について聞いてみた。個人的にはその能力を見せてくれるだけでいいのに上記の言葉を投げ掛けたのだ。

俺は今まで見た事もない幽霊なんて信じられないからその言葉を聞いて、本当に可能性だけの話と思った。

「可能性についてですか、今日は」

すると彼は上を向きながら首を振った。

「その教師はその時間、エネルギー保存の法則について説明していたんだ。何があろうとエネルギーは無くなる事はない。木を燃やすとそれは木のエネルギーを火に変化させた事になり、火のエネルギーは熱エネルギーとなり空気中に分散する。とても理にかなってる素晴らしい考えだ。エネルギーはその量を一切変える事なく広大な自然を巡り続ける。だが、人が死んだらどうだろうか?死体が生前溜めていたエネルギーはどうなる?」

いつもの口調だ。そのはずなのにサイコパス地味た不気味なものを感じた。

「すまないが答えは求めていないよ。何せこの残留エネルギーこそ幽霊へと変身する可能性だからね」

「可能性と言っているけど何を勿体ぶるんだ。本題が分からないぞ」

そう言うと彼は声に出して笑った。その笑いがどれだけ俺にとって救いだったろう。

「フフッ。まあ怖がる事は無いさ聞いてくれ。実はその残留エネルギーについて私は研究しているんだ。あれは不思議な物質でね。最近の研究で生きている生物からも全く同じ性質を持ったエネルギーが放出されている事が知れている。その名はエネクス粒子。エネルギー革命より恐ろしい現象を引き起こすと考えられ公にはされていない」

そういうことか。つまりそのエネクスなんちゃらで起こした怪奇現象を超能力と言っているんだ。この人は。

「残念だけどそうではないさ」

「え?」

「君はすぐ確信に迫ろうとするね。でも早とちりは良くない」

「それがあんたの能力?」

「そうさ、君は鈍感だから直ぐには気づかなかっただろう。超能力者は普通自身の能力を秘密にする。でも君は積極的に私の話を聞いてくれて嬉しくてね。特別に教えよう。私の能力は…」

その時、レッドが突然ぴたっと静止したと思うとポケットから黒い通信デバイスを取り出した。

机に置いたデバイスからホログラムで見た事のある顔が浮かびまた背が冷やした。

「『レッド、至急ポートEに来てくれ。大和イベントを発令する予定だ。近くのFO車で向かう事を勧める』」

「了解だよ。でも非番の私を呼んだのだから相応の対価を待っているよ」

デバイスの電源を落とすと直ぐ立ち上がった。

「すまない。いい所なのにね。急だが断れない仕事なんだ。本当にすまない」

そう言い残し万札を置いて店の外に駆けて行った。

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