第397話【理想郷】

畑間の大聖堂に集まるノギクボ教の怪人達。


「あ、 あの怪人様・・・」


人間の信者が後を追い縋る。


「敵が攻めて来ているのですか?」

『・・・・・』


こくりと頷く。

怪人態では人間に伝わる言葉は話せない。

故にノギクボ教では怪人と人間が話す時には

怪人が頷くか首を横に振るか首を傾げるか

つまりイエスかノーか分からないでしか答えられる質問を

人間がしなければならない。


「私達・・・助かりますよね?」


首を傾げる怪人。


「守って下さりますよね?」


首を傾げる怪人。


「ちょっと待て!! 分からないってどういう事だ!?」


別の住民が怪人に駆け寄るもその住民は怪人に首を刎ねられる。


「ひっ!!」


震える住民。


『・・・・・』


ざり・・・ざり・・・と地面に文字を書く怪人。

書かれた文字は一言のみ。


弁えろ。


「・・・し、 失礼しました・・・」


怪人は立ち去った。


「お、 おいここは理想郷じゃなかったのかよ・・・」

「・・・・・」


ノギクボ教の信者達の落胆の色は濃い。

ここに居れば怪人達に守られて生活出来る筈だった。

それなのに怪人達の反応がアレでは・・・

楽しみと言えば瞑想の時間、 だがそれも持ち回りで順番待ちの状況である。

一月に一回瞑想が出来れば良い位だ。


「畜生・・・瞑想さえ無ければ・・・」

「もう瞑想なんか良いんじゃねぇのか?」

「瞑想無しじゃやってられるか!!」


麻薬中毒の初期状態の様な物である。

信者達はそれを分かっていない。


「畜生め・・・」


ふらっ、 と倒れそうになる住民。


「おいおい、 大丈夫か?」

「・・・・・」


眼の焦点が合っていない、 空腹による症状か? 否。


「ひかりだ・・・」

「え?」

「ひかりがみえる・・・」


それを見上げると光が確かに見える。

極彩色の光が・・・


「なんだこれは・・・」

「奇跡だ・・・」

「素晴らしい・・・」


住民達はその場をうろうろし始めた。

建物の中に閉じこもっていた住民達も何事かと思って外を見る。

すると彼等にも見える、 極彩色の光が。


そして首を出した者が飛び降りる。

外に出る、 落下、 墜落、 しかし彼等は悲鳴を上げない。

彼等の胸に有るのは歓喜、 歓喜のみである。

彼等の精神は苦痛の現世から解き放たれ天国の如き理想郷に召し上げられた。

彼等は幸福だった、 今までになく幸福だった。

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