とらいと! - try & write -

キム

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「ん……ぐぅ、眩しい……うぅ……」


 カーテンの隙間からこっそりと入ってきた木漏れ日が、とらの顔をちりちりと撫でる。とらは暑さと眩しさで目を覚ましたが、布団からはまだ抜け出せそうにない。少し唸ると、また寝直してしまった。


「んおあっ……はふぅ……おっと! 今日は配信の日か」


 再び目を覚ましたのは三十分後。とらはスマホでスケジュールを確認し、今日が朝配信を行う日であることを思い出した。先ほどまでの、冬眠中の動物のような動きなんてなかったかのように、とらはキビキビとした行動を始めた。


 まずは顔だ。

 冷たい水道水と洗顔料を使って顔をパシャパシャッと洗い、化粧水と乳液を肌に馴染ませる。メイクは後でやるので、とりあえず今はこれで完成だ。


 続いて寝巻きを脱ぎ捨てて、部屋着の白いパーカーを着る。「GAO TRY」の文字が入ったこの服は、とらの最近のお気に入りだ。


 着替え終えたら今度は髪だ。

 果実のように赤くて長い髪は、一晩寝ると芸術的に爆発してしまうのだ。寝癖のままで配信をするなんてことはあり得ない。

 三面鏡の前に座り、ドライヤーと櫛を使って髪をかしていく。

 ある程度髪が整ってきたら、ひとまとめにして左前に垂らす。これがとらの朝スタイルだ。


 最後にメイク道具を取り出し、「雅王がおうとらいの顔」を作り上げていく。

 本当はこんなことをする必要はないのだが、これをしたのとしなかったのではとらのやる気が段違いなのだ。


 身支度を終えたとらは、姿見の前に移動して、自分の姿を確認する。


「うん、いつもの雅王とらいだ」


 とらは自分の姿に満足して、時間を確認する。配信予定時刻の十分前。そろそろTwitterで宣伝をしておかなければならない。

 とらがつぶやきをすると、早速いいねを飛ばしてくれたリスナーワナビーがいた。

 ――この子は今日の配信に来てくれるのかな?

 そんな期待をしながら、とらはカメラの前に移動して、配信用のアプリを起動する。

 動作確認モードでマイクに向かって声を発し、カメラに向かって手を振ると、」がとらとシンクロする。


「よしよし、順調順調」

『よしよし、順調順調』


 配信をしている時にリスナーから見えるのは今画面に映っている「雅王とらい」なので、とらの姿は見えない。だがとらは、とらいのとして、自分がとらいであるという意識とやる気を高めるために、配信時にはとらいの格好をしている。

 ……というのは後付けの理由だ。


 好きなのだ。


 好きなのだ。とらは、とらいが。

 好きだから、とらはとらいの格好をする。服装も、髪型も、メイクも、なりたい自分になる。ひょっとしたら、ある意味これはコスプレなのかもしれない。

 なりたい自分になるというのは、それだけで元気が貰えるのだ。勇気が湧いてくるのだ。

 だからとらは、元気と勇気をくれるとらいに向けて、感謝の言葉をつぶやく。


「ありがとう」

『ありがとう』


 画面の中のとらいもまた、とらに感謝を告げた。


 * * *


 動作確認を終えたとらが「配信開始」のボタンをクリックすると、続々とリスナーが入室してくる。

 平日の朝早い時間であるにも関わらず、配信を観に来てくれることに、とらは嬉しく感じる。


『がおがお〜』

『ポークポーク〜』


 とらは来てくれたリスナーに挨拶やポークをし終えると、配信画面の中央に、入力した文字を表示するためのテキストエリアを表示する。


 ――さて、今日はどんなお話を書こうか。

 

 とらが腕を組んで悩むと、画面の中にいるとらいも腕を組んでしまった。

 その様子がおかしくて、おもわず笑ってしまう。


 ――キミも、とらと一緒に悩んでくれるんだね。


 そして笑ったら一つ、話が思い浮かんだ。


『ふふっ。あっ、そうだ。今日はこんな話を書いてみようかな』


 とらは今日も、「雅王とらい」と一緒に物語を書いていく。

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