【夢を見ました】


尾道の海は運河である。狭い海は白い護岸壁でずっと遠くまで固められている。

波が捻じ曲げられている。誰に訴えたら聞いてもらえるのだろうか。


雨が降ってきた。風が強まる中、堤防の上を歩く。傘は役にたたない。

遠くで鳴っていた雷が近づいてきたので、港の通りまで歩いてタクシーに乗る。ぴんと張った白い布に座ると急に寒くなってきた。


造船所のクレーンが見えるところまで来たとき、すでに夕暮れになっていた。白い巨大なクレーンが町の中央に置かれ、先端から黒いロープが出て、シャチが庭先に投げ入れられる。

古紙回収が始まった。


シャチが庭先ではねまくる。

新聞や古雑誌を鋭い歯でくわえ、クレーン車の方へ運んでいく。

危険なので機動隊が出て交通整理などしている。


コンビナートには多くの煙突があるが、静まり返って煙や湯気など見えない。ヘリコプターから下を眺めていると、次々と煙突が生えてくる。煙突なのに穴がなく、まるでクレヨンのようだ。

意味のないものが増殖しているのは、科学者が堕落した証である。

ヘリコプターの中は光が反射して白く輝き、息が詰まりそう。


私は彼と電車に乗って、山側に立って反対側に見える海を見ている。

本当は海側の座席で海を見ていたいのに、彼が座ろうとしないから、言いづらくてそのまま山側に立っていた。

高校生の集団が乗ってきた。ビルの間に見えていた海は隠された。


電車は走り続け、船は出ない。叫び声だけが響き、汽笛は聞こえない。


走り続けた先は砂漠の広がる知らない町。いきなり捕らえられて海辺の牢に放り込まれた。白いコンクリートの壁に銀色の格子。

小さな窓から外を見ると砂浜の向こうに青く広がった海が見えた。

ずっと求めていた海は。こんな所にあった。

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