タクシードライブ
【夢を見ました】
山道を車で走っている。やっと乗り越えた灼熱の夏にくたびれた山々が、うっすらと色づき始めている。夏は本当につらい季節だった。
景色を見ながらいろいろ考えているが、ふと気づくと自分で運転してるのではない。ピシピシに糊のきいた白いシートカバーがかけられている後部座席に座っている。
状況から推測すると多分タクシーだ。
運転手を見ると初老の男性だ。見覚えのない人だが運転も応対も礼儀正しい感じ。しかしどうして私は今タクシーに乗っているのだろう。
まあ、私が置かれている状況は常に理由がわからないことだらけなので、しかたがない、現実は受け入れるしかない。
タクシーはどんどん山奥に入っていく。見慣れた山道だ。なぜなら普段は一人で車を運転してあちこち行くのが好きなので、馴染みの道の一つだから。
いつもはこれほど景色を眺めたりできないから、なんだか新鮮みがある。
運転席で前ばっかり見てるから知らなかった風景だ。
しかしこのタクシー運転手は、何度も道を間違えてUターンする。
私は他人の運転に関して口を出さない主義なのでずっと黙っていたが、間違えすぎるので道案内をすることにした。
運転手はひどい方向オンチだった。「左へ」と言ってるのに右の道へ入ったりして行き止まり、またUターンする。もう目的地などと言っている場合ではない。そもそもどこへ向かっているのか、はじめからわからない。
そんなドライブをしているうち、長距離になった。信号待ちで、おもむろに運転手がガソリン代を料金とは別に請求してきた。
そりゃそうだよね。山の中で給油するのは高くつくよね。私は妙に納得してしまって、七千円支払った。
車を降りた場所は見知らぬ山里だった。紅葉した山を見ても感動がない。
まあ、こんなもんって感じ。
気づくと山里の細い道の真ん中で、ふかふかの布団にくるまって眠っている。こんなに気持ちの良い布団ははじめてだ。柔らかくて暖かい雲をベールで包んだよう。私はぐっすり眠った。
ふと目を開けると紅葉した山が夕日に照らされている。きれいだなあと思った。
夕日はどんどん傾き、山の色が刻一刻と変わっていく。
ついに一本の木だけ照らされて輝き、最後に一番見事な紅葉が大きくクローズアップされ、すーっと暗闇に包まれた。
瞬間、入れ替わるように満天の星空が現れた。こんなにたくさんの星は見たことがない。
きれいな星空に嬉しくなって、うっとりと流れ星を探した。
そしたら流れ星は雨のように降ってくる。大サービス状態だ。
火球、彗星、銀河までビューンと視界に入ってくる、が、次の瞬間逆に私が宙に吸い込まれた。何も見えないけれど、暗闇を猛スピードで移動しているのだけはわかった。
いきなり横の家の窓が開いて明るい光が私を照らし、一瞬目がくらんだ。
すると、光の向こうから聞き慣れた声がした。
「そんなところで寝てないで家に入りなさい」
「おっ!おばあちゃん?」
確かに祖母がいる。よく見るとその家は見慣れた祖母の家。
山奥の道で寝ていると思ったが、庭先のようだ。
・・・私はあわてて布団をたたみ、何だかきまり悪く祖母の家に入っていった。
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