版下屋

【夢を見ました】


ビルの白い外壁が日差しで眩しい。1階の狭い植え込みにハナミズキが壁に張り付くように生えている。

風通しの良い部屋の中で、夫の忘れ物を見つけた。夫はさっき出かけたのだが多分まだ気づいていない。

私も出かけるついでだから、夫の出先に届けることにした。


このところ、やけに光がまぶしくなってきた。冬が終わってほっとしたのも一瞬だった。暑くなるのが急なので光の強さにもついていけない。

駐車場まで歩く道は、モワモワした熱気に包まれ、私に絡みついてくる。


北白川でコイン駐車場を探すのは苦労するものだと思っていたが、行ってみると意外に多く、しかもラッキーなことに空いている所をすぐ見つけることができた。

見渡すと辺りは駐車場だらけだ。一戸建ての1階部分を駐車場にして貸し出している家もあり、公園だったところも駐車場だ。なんだか流行っているみたい。

もう一台の車は友人が運転していたが、大型なので他の駐車場を探すためにどこかへ行ってしまった。やたらと駐車場を増やしすぎたせいで数だけ多く狭い所ばかりで、大きな車には難儀である。


車を降り、少し坂を上がった所に、おばあさんがやっている版下屋がある。

入り口は更に階段を上がる。南向きなのに日陰でじっとりと湿気に包まれていて、蔦などのグリーンの葉っぱが茂っている。

事務所に入ると、広い台の上に長い透明な定規を置いて、夫がなにかしている。

おばあさんは猛スピードで写植を切り刻んでいたが、私を見ると一瞬手を止め、山積みの紙や書類の向こうから、無言で顔だけのぞかせた。

そしてすぐに私が来たことなど気に留めずに、一心不乱にカッターを走らせる。床には写植の切れ端が散乱して部屋が埋まりそう。


私はさっきからずっと荷物を開けているのだが、中には乱雑で細々したものが詰まり、ごちゃごちゃでわけがわからない。もう何が入っているのかも不明だ。もう疲れて床に座り込んでしまったが、出てくるものはほぼゴミである。

その中からかろうじて中身のあるチョコレートの小袋を見つけた。一つだけかと思ったが、次々とゴミの中から出てきたので、机の上に並べた。


気づくとそばの台で、娘がすごい速さでミシンをかけている。「うわー、そんなのができるんだ」と、びっくりして言うと、(当たり前でしょ)というような横顔を見せて、薄い黄色の柔らかい厚地の布をスイスイ縫っていく。

何を縫っているんだろう。今聞いても答えてくれそうもないな。

接着芯がついてるよ。縫い目のカーブもきついし、何が出来あがるのか想像できない。


みんな忙しそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る