リニアモーターカー

【夢を見ました】


何気なく歩いていると、向こうから年上の女性が近寄ってきて、新聞の集金用の黒いバッグをよこしてきた。

無言の圧力に負けて私が集金にまわることになった。

バッグの中から領収書の束を見つけて、半分切っていない家を確かめながら訪問していく。

このような仕事はしたことがないので緊張する。

家に来ていた集金の人のことを思い浮かべると、お客に気を使う素振りもなかったし、私も気楽にやろう。


「こんにちはー、新聞の集金にまいりましたー!」と声をかけたら、その家の奥さんらしき人が出てきたので、代金を受け取った。すると、「まあ、ちょっと上がって。子どもたちもいることだし、お茶でも飲んでって。」と言うので、そうすることにした。


家に入ると階段のいたる所に、これみよがしに、彼女の息子たちが学校などで作った作品や賞状が飾ってあるので、いちいち褒めながら通らなければならず、めんどくさい。


階段を上がった先の2階には、ハンカチが何枚も窓や天井にふわふわ浮いている。

だが、奥さんのアトリエは1階の北側にある。


彼女はTシャツのプリントを手がけている。それらを見せてもらったけど、私の好みではない。

作品をアトリエの前の田んぼの向こう側に立てかけて、家の中からそれを見るのが好きなようだ。

一緒に眺めたが、ちょっと遠いと思った。


田んぼは刈り取られた後なので、作品を邪魔するものはないけれど。

何か言わなければと思い、「こういう田んぼがあると風景的にいいですね」と言ってみる。

すると、「そうね、持ち主の藤井さんは、作品を飾ったりしても、何も言わない人だから」と少し疲れた様子を見せる。


Tシャツと田んぼの間を、電車が風のように走り抜けた。

リニアモーターカーだ。

もう夕焼けも近い。

私が帰ろうとして玄関で靴を履いていると、家の奥からおばあさんが出てきて、「あらまあ、もっとゆっくりなさったらいいのに」と言った。


私は上賀茂の田んぼのあぜ道を一生懸命走った。

リニアモーターカーがまた来て、田んぼの中の駅に停まった。終点らしい。

私は家に帰りたくて、もっともっと走った。


家はあまり遠くないはずなのに、走っても走っても近づかない。息を切らして立ち止まると、まだ松ヶ崎だ。

工芸繊維大学前を通り、宝ヶ池自動車教習所の辺りを走り抜け、児童公園の中に入った。

大きな三輪車に乗った女の子が私の様子をじっと見ている。

もう小学生のように見えるのに、三輪車でさえうまくこげない様子だ。


これで良いのかも。なんでもかんでも良いのかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る