かすむ音

【夢を見ました】


久しぶりに名古屋駅で電車を降りた。めったにここでは降りない。

そもそも電車で来る場所ではないのだ。

夫の家は電車ではいくつも乗り継ぎをしなければ行けないところにある。


改札を出ると、ヨガ教室がいくつも連なっていて、全部通り抜けなければ外へ出られないようになっていた。大変面倒なつくりだ。

仕方がないので一つ一つ通っていく。もういくつ通り過ぎたかわからなくなってきた。インストラクターがポーズをとったまま静止している。


やっとの思いで外に出ると、今度は長い石段がずっとのびていて、両側には見渡す限り茶畑が広がり、真夏の太陽が照りつけてぎらぎら光っている。

石段の先には海が広がっているはずだが、晴れて見通しがよいはずなのに、見えてこない。

永遠に続くような石段の途中に座った。誰もいない。


駅に戻ることにした。

駅ビルの上りエレベーターはガラス張りで透明。外が見える。

突然下りに変わり、すごい勢いで地面が近づく。そうかと思ったら急上昇する。

スピードが激しいので周りの景色が全部白色に塗り固められたように見え、エレベーターのガラスのゴンドラは白い豆腐のようになった。


夫の家は壁も天井もガラス。ガラスの玄関から中に入っても何もない。

私はその家に週一回帰ることにしている。

夜になり、誰もいない何もない部屋で、床にダンボールを敷いた。

ダンボールは土やホコリだらけで落ち着かないが、ベッドにして眠るほかないのだ。

外からの視界をさえぎるものがないので、部屋の鍵は紙に挟んでダンボールの下に隠し、その上に横になった。

眠れないまま朝が来た。


1番目の鍵を開けると小さなサンルームがある。

通り抜けて2番めの鍵を開けると外に通じる。2番めの鍵は防犯性の高いものらしい。


すすけたガラスにたくさんの蚊が飛び回っている。

ここにはなにもないので、蚊取り線香を取りに普段暮らしている家に帰ることにした。

石垣に沿った道を歩いていると耳鳴りがしてきて音が聞こえにくくなった。


家の近所に近づくと、知り合いの人たちが声をかけてくるが、声が聞き取りにくい。

その上、低くなった西日を背にしているので、眩しくて人々は薄い影のようで誰だかわからない。

かすんだ逆光は辺り一面を覆い、風景もどこかわからなくなってきた。

そして、あるはずの家もなくなっている。

崩れきった遺跡のように乾いた土があるだけ。


土ぼこりが舞うなか、娘をさがして公園に行くと、すべり台の横に立っていた。何があったのか聞いても、わからないようだ。

公園の中では子供達が、夕方のかすんだ光の中でいつものように遊んでいる。


私はいろいろなことを気にしすぎているのかもしれない。

すべてのことは案外大丈夫なのかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る