解説⑤『金獅子王の正体』
金獅子王ローラン大帝。伝説上の王として君臨し、正円教を中心とした世界を形成した始祖として知られている。彼の功績は大きい。南フォルム平原を中心とした王国を樹立し、正円教の教義の確立や文字・
ところが、金獅子王自身のことについては、あまり知られていない。聖女様の子で人類の始祖と伝わる“ゼロ”と同じように、
この考察では、上記以外の金獅子王の二つの功績を語っていく。
一つ目は、農耕民族が世界を支配する体制を作ったことだ。彼の登場前、世界は多神教を信仰する狩猟民族の天下だった。大陸全土で古くから生息する馬にまたがり、彼らは鹿を追い立てるように、農耕民族を蹴散らした。土地に張り付くしかない彼らは、逃げることも出来ず、無残な運命を受け入れるしかなかった。
金獅子王はまず農耕民族の結束力を高めた。一神教の聖女信仰を取り入れ、高い城壁に囲まれた都市政治体制を定める。その結果、狩猟民族にない忠誠心を持つ統率された軍隊を持つようになり、各所で狩猟民族を駆逐するようになった。
この体制は、金獅子王以降数百年間、王や貴族たちに模倣されていき、領地を拡大するたびに城を築いた。農耕民族たちはその長い年月かけて、陣地をじりじりと広げていった。非常に気の長い戦略である。その立案者が金獅子王だった。偉大な戦略家であったと言える。
二つ目が、彼の後継者たちについてだ。金獅子王の死後「黄金の七家」を築いた七人の重臣たちは後継者の地位を争わなかったと伝わっている。彼らは協力して狩猟民族排除に動き、まるですみ分けるように、バラバラの方向に領土を拡大した。
これは人類の全歴史を観ても、異常なことだ。権力欲を持たない権力者は存在しない。権威に空白が生まれたら、それを埋めようと普通はする。しかし「黄金の七家」は“金獅子王”という「世界の王」たる空白をそのままにしてしまった。それほど狩猟民族は彼らにとってまだまだ脅威で、内部闘争をしている暇がなかったことは確かだが、政治の世界ではありえない動きをしたことは間違いない。当時の祭司教皇が合意を取り付けたのか、“何者”かが彼らをまとめたのか、いずれにしろ何らかの力が働いた。それを示す文献はまだ発見されていない。
その結果、数百年間、世界は「世界の王」という存在を忘れていた。各国や各都市に分割された世界は、統一された頃の記憶が消えていた。
そして五百年以上経過して、世界は大争乱の中で、その記憶を思い出した。それから「世界の王」の空位に、創世王・ダヴィ=イスルが座ることになる。金獅子王の後継者がようやく現れたのだ。
(解説:歴史家・ルード=トルステン)
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