異種族交流日記。相談部は割と協力的に多分解決します。

@Kitune13

相談部と相談者

そこは夕焼けが静かに照らす二階の部室、荒い艶っぽい息が首元にかかり男は身をよじらせる。

白色の美しく光を反射する翼が大きく背中の制服の翼用の隙間を窮屈そうに振動する。

扇情的に夏の暑苦しさが生む汗がゆっくりと首元を垂れて鎖骨を伝い豊満な胸元の間に落ちていく。

霰も無く開かれた胸元から覗く水色の下着が夏の汗から出た水分で制服に着いていて情欲を推おすのには十分すぎるほどだった。


押し倒されている青年は森人種エルフのような長耳も無ければ犬狼種ドゥーブルのような毛もない正真正銘の人間種ヒューマン、筋力差のあることから鳥人種グリフに抵抗できる力もない。


少女の長い銀髪が青年の鼻にかかりシャンプーの甘く柔らかな匂いが鼻に入る。

赤い唇から吐き出される吐息は荒く首元にかかり、紅潮した頬と空のような青い双眼と視線が合う。

だが突然彼女は意識を失い青年の上に倒れこんだ。

フーッと青年は安堵の吐息を吐く。


「先輩、見てるんだったら手伝ってくださいよ、俺の貞操持ってかれたらどうするつもりだったんですか?」


彼の声に応えるように小さく開かれたドアから青年と同年齢、もしくは歳上ほどの少女が部屋に入ってくる。

ボサボサの黒髪の青年とは裏腹に先輩と呼ばれた少女は何処かの令嬢のような気品があった。長い耳、森人種エルフらしい雪すら欺くような白色の肌に陽の光に揺れる小麦の黄金色を乗せたような美しいブロンドの髪。

よく磨かれた翡翠石の様な思わず見惚れてしまうような垂れた両眼はおっとりとした雰囲気を醸し出す。

丁寧に着られた制服の上から着た学校指定の上着が違和感を生じさせるのは間違いない、今は夏なのだ。

そんな上着が相まって異様に短く見える、本当に短いかもしれないミニスカから覗く黒タイツが一部の人間のフェチズムを刺激する様だった。

そんな彼女はニヤニヤと心から楽しそうに口角を上げる。


「君はあのまま犯されてもむしろ大歓迎だっただろう?」


「俺は純愛イチャラブ押しであって逆レイプ趣味は無いです」


軽口を叩きながら彼は鳥人種の少女を担ぎ上げる。

側から見れば睡眠薬を飲まされ誘拐されそうになっている鳥人種の少女だが彼にやましい気持ちもなければそっち系の興奮もしていない、正確にはしないように努力している。

全ての女性の鳥人種に訪れる発情期。

思春期から反抗期ぐらいに個人差はあれど誰にでも訪れるその期間は最も(貞操が)危険で小学校の授業でも特筆されるほどよくある話なのである。

なので背中に当たる柔らかな感覚にそういう感情を抱いてはいないのだ、決して。

表情では平静を保ちながらも医療行為とわかっていたとしてもやはり発育のいい異性の体を押し当てられている状況は下半身に良いのだが倫理的に良くない。

それを見透かしたかの様にエルフは愉快そうに笑う。


「わざわざ胸が当たる様に担いでるのかい?変態後輩よ」


「な訳ないでしょう?ドア開けて運ぶの手伝ってくださいよ」


「労働は数千年前から男性の仕事と相場が決まっている、それに習って君もか弱美人な先輩を労ったらどうだね?」


分かりやすくか弱そうに両腕を組むがその腕に乗る立派な物は残念がら彼女には無かった。

哀れむ様に一瞥し青年は体制を変えておんぶに変え鳥人種の少女の柔らかな太腿を手で支える。

火照った体温が伝わってきて本当に下半身に倫理的に良くない。


「残念ながら俺は男女平等を訴える系の高校生なんですよ、バカ言ってないで運ぶの手伝ってください」


「君が挙って今回の相談を受けたんだから君が責任を持つべきだよ。わざわざ鳥人種の相談を受けるなんてね」


嫌味っぽく言っているくせにわざわざ見にきているのだから気になっていたのは間違いない、それなのにこんな言い方をするのは彼女の性格故だろうと青年は心の底からため息を心の中で吐いた。


「来るもの拒まず去る者追わず、相談部のスローガン一条じゃありませんでしたかねぇ?」


「来るもの拒まずと言っても場合による、できるだけ頑張れだ」


「そんなの無いじゃないですか」


「部長権限で今追加したのだから知らなくて当然だろう?」


そう、残念ながらこうやって何も手伝いもせずにニヤニヤと微笑を浮かべる彼女が青年の先輩であり部長なのだ。

あまりにも理不尽な一言に青年は半眼で彼女を見る。


「横暴の塊じゃないっすか」


「世の中は常に権力というヒエラルキーの元動いてるのさ」


「はぁ......」


とうとう心の中に充満していたため息も口という蓋から溢れてしまった様だ。

青年がため息を吐いたことに露骨に彼女は反応して眉間に皺を寄せる。

一見常に微笑を讃えるその表情からはよく感情を読み取れないが極たまにこうやって露骨に表情を変える時がある、随分とプライド高いのか自分の意見を否定されたというか呆れられたのが気に食わないのか、取り敢えずどちらでも良いが青年は同年代の異性ーーと言っても体重は五十を超えているであろう鳥人種の少女を背負うのは中々にキツイものがある、どうでも良いので早く手伝って欲しいのだ。


その期待に応えるかの様に彼女は真顔で青年の近くまでスタスタと歩いていき何を思ったのか昏睡している少女の丈の少し長いスカートをわざわざ捲った。

卵の絵が描かれた子ども用下着を見て満足気に彼女は一言。


「大丈夫、エロ下着を履いていない」


「何言ってるんですか変態先輩」


眠っている相手の下着を覗くのは同性だろうがちょっとどうかと思う。

その動作を見ていた自分も悪いのだろうが両手が埋まっていたので止められなかったのだ、つまり自分に非は無いのだ、無罪放免、決してパンツが気になるわけでは無い。

理論武装した青年は手伝ってもらうのを諦め足早に廊下を歩き出す。

並走しながら彼女はズルそうな笑みを浮かべる。


「何を言っているんだい君は?美少女がいたらパンツを覗くのが礼儀だろう」


「出たよ自己中理論、警察のお縄にかかるか生徒会にぜひ自首してください」


「だが断る、私はわざわざ自分の上着を使って彼女のスカートをめくったので証拠は残っていない。彼女は眠っている、つまりわたしがやったと断定する証拠は何処にもないのさ」


「防犯カメラ」


「壊れているのを確認済みだろう?」


あぁそうだ、青年は発情がいつ来てもいいように学校中の防犯カメラを確認し壊れている用務室をわざわざ使ったのだ。


「本当たち悪いですね」


「おっと、それだけじゃないぞ?さっき君が押し倒された時にこの鳥人種のスカートに一瞬だが触れただろ?君が犯人と断定される可能性の方が高いのさ」


「本当にいい性格をしてますね」


「ありがとう、よく言われるよ」


「皮肉ですよ?」


「知ってるさ」


ケラケラと笑う彼女が本当に理解できないと青年は少し不愉快そうに眉をひそめて保健室へと向けて歩き出した。

保健室に彼女を運び終え、教師に事情を説明した二人は”相談部“と乱暴に描かれた看板が準備室だったはずの看板の上に掛けられた部室に戻った。


このような事態になった理由は数日前まで遡るーー

授業が全て終わり運動部は校庭へ、文化部はそれぞれの部室へ、そんな若者が青春を謳歌する時間に跪く青年の姿があった。


「先輩、俺は椅子でもなければ雑用でもないんですよ」


先輩と呼ばれたエルフの女子生徒は彼の背中の上に乗りながら危なっかし気にフラフラと体を揺らす。

今にも落ちそうで側から見たら完全に特殊なプレイか何かにしか見えないが違う。

彼女と彼は今部室の端にある本棚の整理をしているのだ。

元々多用途向け準備室として使われていた部屋なので本棚や見た目理解できない用具が棚に乱雑している。

だが致命的なことに部活として教師側の許可は取っているのだが備品を管理する生徒会の許可がまだ降りていないので机や椅子がまだ来ていないのだ。

本棚の上に放置されていた本を手に取りながら彼女はニヤリと特徴的な笑みを浮かべる。


「わかってるさ、君は私の下僕だろ?」


「何もわかってなくて草生えますよ」


「ネットスラングを使うあたり若者アピールかい?エルフの長耳に痛いねぇ」


クイッと分かりやすく彼女は長く細い特徴的な耳を揺らす。

エルフだからこそできる事だ。

基本平均年齢が異常に高いエルフは見た目に反して高年齢だったり低年齢だったりすることが多々ある。

そんなブラックジョークに青年は嘆息すると本当に楽しそうに彼女は笑う。

手に取った本を持って青年の背から飛び降りるとちらっと彼女は彼に向けて一言。


「今私はミニスカだ、覗くなよ?」


「誰が先輩のパンツを覗こうとするんですかね?相当の物好きですよ」


「やはり君はホモだったか」


「健全な青少年捕まえて何言ってんですかね?」


「私みたいな美少女のパンツだ、青少年ならば嬉し恥ずかしって感じで妄想ぐらいするだろう」


スカートの裾を揺らしながら彼女は分かりやすくチラリズムを作り出す。

だが先ほどまである程度の体重がある女性一人の体重を直接受けていた青年は見向きもせずに


「残念ながら今の俺の脳内にあるのはどうやったら生徒会に速やかに椅子と机を寄越させるかですね、先輩重いです」


「女の子に体重の話をするのはNGそんな常識すらないのかい?」


「腹黒そうな女性は古今東西全ての場合でおばさん扱いされるんですよ?」


「いい度胸じゃないか、表に出るといい。コテンパンにボコしてやろう」


クルクルと彼女は眼前で両手で円を描きほーっと謎の呼吸法を始める。


「なんすかそれ?」


「α波」


なぜか得意気に彼女が笑う。

だが、なるほど......わからん。


「面白いっすね」(棒)


「心の底から思ってなさそうな返事どうもありがとう」


「どういたしまして」


「それはそうと君、生徒会に提出するやつなんだがーー」


「こんにちわ!!」


真面目な話を始めようと薄っぺらい胸元から取り出した、というか上着の内ポケットにしまっていた紙を取り出そうとしていた彼女を遮るように慌ただしく一人の少女が部屋のドアを開いた。

学校のごく普通の制服の上からでもわかる豊満な胸に青年の視線が向く。

入ってきた少女は綺麗に編んだ三つ編みを揺らしながら部屋を見回す。

先輩は露骨に機嫌が悪そうに紙をポケットに入れて眉間にしわを寄せる。


「君はなにやってるんだ?部屋に入るときはノック、これは世間一般古今東西での常識だ」


と、強めに言う。

銀髪の少女は翼に気をつけつつ部屋に入るとフーッと吐息を吐いて落ち着いてから青年とエルフの少女の二人を見やる。


「ここって相談部ですよね?看板見て入ったんですが」


「よし、締め出そう。後輩、これが正しい拒否権の行使だ」


「待ってくださいよ、どうしてそんな機嫌悪いんですか?」


先ほどまでいつもの様にのらりくらりとしていたのに何故突然ここまで機嫌が悪化したのか。

それがわからず青年は問いかけるが彼女は聞かなかったふりをしてパチクリと瞬きをする少女に向けてヅカヅカと歩いていく。


「君、初対面の相手に対して自己紹介もないのかい?」


「あっすみません、私一年の信条葵しんじょうあおいです。あっ種族は鳥人種です」


白色の翼から間違いなく鳥人種とはわかるのだが自己紹介の最低限の説明だ。


「で、相談部に来たってことは何かあったのか?」


じーっと真顔で見つめ続ける先輩を置いて青年が問いかける。

何もせずにただひたすら真顔で見つめる彼女に怯えているのか少女は数歩下がる。


「先輩、話が進まないんでやめてください」


「......後輩、どっちが悪いかは明白だ」


「後で生徒会関連の話はききますからとりあえずそこで怯えてる方に反応してやってくださいよ」


「そっそうです、相談部なのにそうやって威嚇して、ちょっとどうかと私はーー」


「後輩、やはりここは拒否権の正しい使い方を教えるのが良いと思うんだが」


ーーやはり話が進まない。

とりあえず青年は一度全員に部室を出るように促し中庭に出た。



運動場で運動部が練習をしている中、青年達は芝生の近くのベンチに腰掛けた。

ホームラーン、と野球部の練習試合の声が耳に聞こえ中青年はベンチの最も端に座り鳥人種の少女とエルフの先輩という順番で座った。

一先ず青年はメモ帳を取り出して質問を始める。


「で、相談部って見てきたんだから何か相談があるんだろ?何があったんだ?」


「......その前に少し質問をさせてもらっていいですか?」


おずおずと葵が問いかける。

何をいうか大体察して青年は欠伸を噛み殺して口を開く。

相談に乗るとか言っておきながら欠伸をしているのは完全にどうなのだろうかと正常なツッコミを入れる人間はいない。


「言っておくと金銭と不正以外だったら大体相談に乗れるぞ?」


「ただ場合による、特に君みたいな何も考えていないようなーー」


「とは言ってるが一応やるときはやる先輩だから気にしないでくれ」


明らかに胸部を睨みつける彼女を遮って言った。

このままグダグダ話を続けるのはたしかに意味はなくて無意味だろうがそんな時間も悪くはない。だがそれでも今は時間がないのだ。

少女は翼を揺らし少し悩んだのか口元に指を当てる。


「わかりました、信用します。鳥人種には飛行免許というのがあるのを知ってますか?」


「無論知ってるに決まってるじゃないか」


「一応情報としては知ってるけど」


飛行免許ーー鳥人種が路上を飛行するための免許証だ。

鳥人種の誰もが無作法に空を飛びかえば電線にあたり事故が起きたり民間のヘリの迷惑となったり、はたまた巨人種の頭部を掠めたり。

時には鳥人種同士がぶつかり合って路上に落ち車に轢かれた例もある。

そんな凄惨な事件を防止するために国が作ったのが飛行免許である。

筆記試験と飛行試験の二つを受かることで国から正式に免許が降りる。

免許というのは本来違法の物を正式に許可するものである。

横にいる少女は一年生と言っていたので丁度数週間後の第一次試験があるだろう。


なるほど、そういうことかと青年は耐えきれずに欠伸を放出した。


「私、大変なことになったんです」


「三十字以内で言ってくれ、私は忙しいんだ」


「はい、飛行免許を取るための試験......通る気がしないんです!!」


バサッと感情的に翼を動かして涙目で葵は叫んだ。

先輩は欠伸を一つかき、青年はスマホを開いた。

免許試験に受からないというのは大変残念だなぁとエルフ少女はどうでも良さそうだ。

二人の明らかにどうでも良さそうな反応に葵は取り合ってもらえないと理解して立ち上がった。


「待ちたまえ、後輩、何調べてるんだ?エロ画像か?」


「脳内ピンク色の先輩は黙っててくださいよ、で、他人に深刻な顔で相談して通る気がしないってことだから絶対に勉強不足とかではない。と言うことは種族的な要因とかあるのかなーと」


スマホの画面にはみんな大好きトリペディアと書かれたサイトが載っていた。

スライドしながら青年は嘆息して、聞き耳を立てて翼の上からこちらを覗き込む葵に呼びかける。


「何の相談か分かりやすく頼む、感情的にならずにな」


「......他の人間にバラしませんか?」


「場合によるな、虐めとかだったら公的機関に通報することも辞さないが」


虐めの場合だと下手に生徒内でうだうだしていても解決には一向に行かない。

その場合やられた被害を事細かにメモし暴力などがあった場合は警察に被害届を提出するなど法的措置を取る方が手っ取り早く最も上手く解決に向かう。

ちょこちょこと葵は怯えながらも戻り青年の横に座る。


「そうじゃないんです、他の生徒にバラしたりしませんか?」


「バラさない。相談部のスローガンその三、完全中立主義で頑張ろう、だ」


「本当に笑いませんか?」


本当に慎重に少女は不安そうに問いかける。

上目遣いで空のように青い双眼が見つめてきて思わず青年は目をそらし、エルフ先輩は態とらしく口元を歪める。


「それは腹を抱えて笑ってくれと言うフリか?お望みなら私は下品に笑い散らしてやろうじゃないか」


「ちょっと待て、別に笑わないからな?これはエルフジョークだからな?笑わないし真面目に相談乗ってやるから」


「ふふっ苦労してるんですね」


先ほどまで緊張に顔を強張らせていた葵はくすくすと笑みをこぼす。

相談する事がとても怖かったのだろうか、少女は頬を緩め安心したのか肩の力を抜いた。

それを見てエルフ先輩はわかりやすく両腕を挙げて軽くストレッチをすると立ち上がる。


「じゃあ、私は喉が渇いたからお茶を買ってくる。後輩、あとよろしく」


「へいへい、ありがとうございますね・・・・・・・・・・・


礼の言葉に彼女はふふっと笑ってのんびりと校舎に向けて歩いて行った。

学校に複数個自販機が設置されていて安値で生徒が水分補給をする事ができるのだ。

運動部が多い高校なので熱中症対策の為と生徒の水分不足防止の為の校長の配慮だ。

青年はこほんっと咳払いして少しスペースを葵の間に開けてメモ帳に見出しを書いた。


「で、何が問題なんだ?」


「えっと私クラスで結構浮いているんですよ、それで実は嫌がらせを受けたっぽいんです」


口調が突然変わったが部屋に入ってきた口調と似ているので先ほどまで緊張して敬語になっていたのだろうかと青年が考察するが何故緊張したのか冷静に考えてみる。

最初部屋に入ってきた時彼女はJKっぽい軽い口調で喋っていたのだが先輩が凝視してから彼女の口調は敬語となった。

と、言うことはだ。


(緊張してたの先輩のせいだろ!!)


緊張を解いてくれた礼を先ほど青年はしたのにもしかしたら......ここまで考えて青年は一つの結論に至る。

先程ああやって態とらしくボケたのも自動販売機に飲み物を買いに行ったのも今突っ込まれない為かもしれない。

思わず青年は自己中な先輩に嘆息して続きを話すように相槌を打つ。


「で、それで?」


「ため息、やっぱり迷惑.....」


「鬱陶しいからはよ話してくれ、迷惑じゃないから、このため息は主に先輩に向けてだから」


あの自己中先輩に向けてで決してこの少女に対して青年がため息を吐いたわけではない。


「わかったわ、鳥人種の特徴はわかっるんですか?」


「反抗期から思春期あたりから飛行能力を得て翼が大型からするんだろ?それと同時に発情期と呼ばれる期間が来るから国が配布する抑制剤を飲んでやり過ごすとか」


「そう、その発情期がドンピシャ来ちゃってるんです」


「それで?まさか自慰行為にでも浸りすぎて勉強が進まないとか?」


それだったら笑えないな、と青年は心の中でボヤく。


「じっ自慰って変態ですか貴方!そんなんじゃなくて、薬剤を失くしてしまったんです!」


ウブな葵は頬を羞恥で真っ赤に染めてばさっと翼を大きく揺らす。

それでも全く気に留めずに青年は自慰趣味は無し、と書き込んだ。

それを見て葵は頬を膨らませ青年を睨む。


「失くしたって性欲抑制のやつを?」


「はい、それと私に自慰趣味はありません!」


「はいはい、で、それ貰えるように頼めないのか?」


「はいはいじゃなくて早く消してください!!それと薬の申請をすると自己管理ができてないと減点が入るんです!」


「だから申請できないと?自業自得だろ」


失くして減点されるのは完全に自業自得、身から出た錆である。

それを青年が助けてやる義理はないし部活の趣旨として相談は聞いても直接手助けするわけでもない、場合による、だが。


「違いますって!私失くした覚えなんてないんです!兆候が来た時にきちんと薬は貰って保管したんです!それなのに学校から帰ったら消えてたんですよ!」


「落としたとかは?」


「カバンのチャックができるとこに入れてました、落としてはいないはずです!」


「と、いうことは盗まれたと?」


先ほどのクラスで浮いているという発言からその想像に至る。

おそらく悪ふざけか何か、虐めなどで取られてしまったのだろうと青年は予測する。


「はい、私はそう思ってます!」


「そう思ってるだけで勘違いだったーーなんて事はないよな?」


「絶対に違います、本当に困ってるんです」


「薬以外の解決法とかは調べてみたのか?」


「女の子に何言わせる気ですか」


「ナニなのか」


沈黙が発生し数十秒青年の筆記音と運動部の掛け声が耳に入る。


「文字通り発情期なのでヤレば戻ります、あと山のように一定の時間だけなのでその間眠って仕舞えば大丈夫です」


「じゃあ今の所の解決法はお前が玩具でセルフヤルをするか異性捕まえてヤルか、発情中に眠るか、減点覚悟で薬を申請するか、の四択か」


「発情中に眠るの一択です!!」


「という事はなんだ?お前を眠らせればいいのか?」


「はい、鳥人族は甘い物を大量に摂取すると眠るので角砂糖を私の口に放り込んでください」


カキカキとメモ帳が埋まっていく。

解決法はわかった、だが問題はまだ一つある。


「それでいつ来るかとかはわかるのか?」


「生理みたいなもので来る時間が決まってます、その時間に自分が眠ってしまうと困るのと、家に帰れないので相談に来たんです」


「で、何時ぐらいなんだ?」


「午後五時ぐらいです、六限目が終わって部活を少ししたぐらいの時間です!」


カキカキっと、情報を書き込んで青年はメモ帳を閉じる。


「家に帰るとかできないのか?」


「少し遠いんです、電車で発情したらまずいでしょ?」


そりゃあまずいなと、一言返す。

電車内で鳥人種の少女が逆レイプしたとかニュースになったら笑えない。

こういう時に問題視されるのは教師側なので迷惑だろうと彼は思う。


「眠らせた後はどれぐらいで起きる?」


「二十分ほどなので部活に支障はないと思いますよ」


「......おまえなぁ、嫁入り前の娘が獣と一緒の高校生男子の前で寝て何も怒らないと思ってんのか?」


「でも貴方は絶対に私に手を出さないので安心ですから!」


「どこにそんな確証があるんだか」


「だって絶対ーー待ってください、貴方の名前なんですか?」


「俺か?俺の名前は凡人誠ぼんじんまことだ」


「凡人って冗談ですよね?」


くすくすと彼女が笑うが、凡人ーー誠は名前を言ったことに深く嘆息して俯いた。

これが青年、誠の問題であった。

凡人という名字は日本でも珍しくクラスメイトにバカにされることが多かったので彼は自分の名前が嫌いだった。

だがそれでもーー


「随分と人の名前に対して失礼なんだな君は」


ふいっとエルフ先輩が誠の後ろから葵に一言言う。

それでも一人でも笑わずにいてくれた人がいるだけで随分と楽で、救われたかのような気分になった。

と、言うのは別として


「先輩、逃げましたね?」


「何のことかな、私は何を言ってるか理解できないよ」


そう笑って言って彼女は紙パックのお茶をストローで啜るのであった。

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