第163話心配かけた

朝テレビの音で目が覚めた、横を見ると凜がベッドに座ってテレビを見ていた。そっとお腹に手を伸ばした。

「ぷにぷにちゃん、おはよ」

「おはよ…ずっと触るつもり?」

「ぷにぷに言っただけで掴めないね、もう少し太って」

「…晴くんと暮らして、少し太ったよ‥痩せなきゃ」

「掴めないから気にくわない、何キロ?」

「…内緒‥気にしてるからやめて」


手を叩かれ、抱き付かれると頭を擦って立ち上がった、抱っこして洗面台に向かった、凜を抱えたまま体重計に乗ったが、動かれ、あまり計れなかった、下ろすと唇を噛んで睨まれた。

「忘れなさい」

「48から50キロだな、もう忘れたよ」

「……太ったけど嫌いにならないで」


落ち込ませてしまい、抱き締めて頭を擦ったが抱き締め返されなかった。

「優しい所、純粋で泣き虫な所、全部好き、甘えられると断れない、とにかく凜は痩せてるよ」

「…太って気にしてるんだよ」

「胸が大きいからだよ、可愛いくて本当に痩せてるよ」

「…えへへ、確かに胸が大きくなったよ、本当に痩せてる?」

「痩せてるよ、くびれてるし‥胸に栄養取られてるんだな」


凜は鏡の前に立つとお腹を出して、横から見て「晴くんが太ってないよって言ってくれたから‥安心したぁ」と抱き締めて言ってきた。

「俺はもう少し太ってほしい、ぷにぷに触りたい」

「胸が触りたいの?良いよ」

「…アホか‥ちげぇよ」

「太ももでしょ、晴くん好きだもんね」

「ま、まあな」

「あんまり他の子の足ばっかり見たらだめだよ‥知ってるからね」


晴斗は腕を組むと首を傾げて凜を見ていた。

「学校でも晴くんしか見てないんだよ、惚けるの?」

「何で怒るの?ナンパとかしてないよ!」

「学校で足ばっかり見てるでしょ、知らない子に晴くんって呼ばれたら、視線が何度も下見てるの知ってるんだよ、そんなに足が好きなの? 」

「…そう言われてみると見てたかも‥ごめん」

「かもじゃない、無意識だったなんて…無意識が多いから麻莉菜に気持ち悪いとか言われるんだよ」


呆れられると、晴斗は頭を押さえて辛そうな表情で教えた。

「…麻莉菜の言葉で‥悩んでるんだよ」

「家で麻莉菜のスカート姿のとき、太もも見詰めてるからだよ、女の子は視線に気づきやすいんだよ」

「…あぁ、だから‥睨まれたんだ」

「気づいてなかったの?バカじゃないの?」

「…男なら見てしまうんだよ」

「晴くんから見て従妹でしょ…正直言うね‥気持ち悪いよ」

「…俺が悪いって分かってるけど‥俺達も義兄妹なんだよ、凜の口から聞きたくない」

「……」


晴斗は洗濯機に両手を付いて、数回溜め息をついた。

「でも、脚見てないのに睨まれるんだよ」

「…また無意識?呆れるんだけど」

「…ごめん、本当に分からない」

「ヒントあげるね!晴くんは自分が何フェチ?」

「わかんねぇ、脚フェチかな?でも、見ないときは見てないな…何フェチだろうな‥自分でもわからな……うっ」


凜からみぞおちを殴られ、両手を床に付けて顔を上げることはなかった。

「晴くんは、胸、脚、下着とかまだあるけど、毎日バラバラで‥正直気持ち悪いよ」


晴斗は鼻を鳴らして床を見ていた

「…自分が変わってことぐらい知ってるよ、凜にも伝えたよね?どうして気持ち悪いとか言えるの?」

「……」

「せめて冗談って分かる表情で言って…好きな人に本気で引かれると変わり者で気持ち悪い俺でも‥辛い」


晴斗は立ち上がると、目眩をおこして何度も壁にぶつかりながら寝室に入ってベッドで横になった。数十分後…凜に何度も揺すられ、声が届くまでボーッと天井を見つめていた。

「…晴くん…朝御飯食べないと遅刻するよ、どうしたの?」


晴斗は返事をすることもなく、リビングで朝食を食べた。

「…体調不良で休む」

「心にもないこと言ってごめんなさい」

「…今は頭がボーッとしてるんだ、そっとしといて」

「学校行こ、今の晴くんが心配なの、一人になるとお昼も食べないでしょ」


晴斗は必要最低限喋らなくなった、着替えて黒染めすることもなく、パーカーを着て学校に向かっていた。

「晴くん置いてかないでよ」

「……」


凜はいつも通りに接してきたが、走って来て息切れしていた。晴斗は待つこともなく、喋ることもなかった。


フードを被ってイヤホンを付けて歩いていた。凜にイヤホンを引っ張られた。

「晴くん何聞いてるの? 片耳だけにしないと危ないよ」

「……」


晴斗は視線を向けることもなく、イヤホンをつけ直して歩き始めた。


教室に着いても、晴斗は友達に視線を向けることもなく、自分の席に座ったが、イヤホンを誰かに抜かれ「バイトどうだった?サインとかないの?」と男子に言われたが、何も言わずに首を横に数回振って、イヤホンをつけ直して突っ伏した。


「晴斗くんどうしたの?」

「晴くん朝からなんだよ‥‥」


凜は友達に聞かれて顔を伏せて教えていた。背中と横から突っつかれたが起き上がることはなかった。急にイヤホンを両耳から抜かれた。

「飯島、授業始まってるぞ」

「……」


先生が目の前で立っていた、静まり返る教室に、イヤホンから大音量の洋楽が流れていたが、晴斗は気づいてなかった、教科書を取り出して黒板に視線を向けた。

「晴くん、授業中は音楽止めないと」

「……」


凜の声が聞こえると、目の前で顔を覗かれて言われていた。十分休憩になると周りに人が集まっていた。

「新しく歌う曲か?」

「いつ歌うの?」


晴斗は無表情で「…なんのこと‥静かにして」と、消え入りそうに伝えてボーッとしていた。


「晴斗くんどうしたの?本当に可笑しいよ」

「私の声も届かないの‥どうしたらいいのか分かんないよ」


凜はまた友達に聞かれて困っていた。四時間目は体育だった、晴斗は一人、静かに職員室を除き混むと鎧塚先生の姿を見て入った。

「…朝から体調が良くないので体育は見学します」

「先生達が、飯島が授業中にボーッとして無表情って言ってたけど本当だったな、どうした?」

「…何もないです、失礼しました」


職員室から出ようとしたが、担任に止められていた。

「朝から元気がないけどどうしたの?」

「…なんでもないんです、失礼しました」

「待ちなさい、悩みがあるときは他人でも良いから相談するとスッキリするんだよ」


晴斗は腕を振りほどき、背中を向けたが、肩を捕まれた。

「言ってみなさい」

「…そんなに他人の悩みが知りたいですか?お人好しではなく、お節介ですよ」

「言うと少しは楽になるから…」


晴斗はなんの感情も感じない表情を向けて口を開いた。

「…朝から生きるのが辛いだけで楽になりたいだけですよ、たまに反動でこうなるんです、叔母や新しく出来た大切な家族を残して死ぬ気もないですけどね、俺と同じ寂しさを与えたくない、俺一人が悩めば家族は笑顔‥先に親だけ旅出させた代償が‥生き地獄なんです…他人の悩みをむやみに聞くと困るってことですよ」

「……」

「心配か興味で聞いたのか知りませんけど、数日でボーッとしなくなるので、そっとしといてください、喋るだけで倒れそう」


先生が顔を伏せると職員室から出ていった。体育の授業中イヤホンを付けてボーッと空を眺めていたが、凜に顔を覗かれてイヤホンを抜かれた。

「ずっと見てると苦しいの‥家族を困らせないで」

「…家族‥」


凜に顔を覗かれ、揺すられ、視線が合うと。

「どうしちゃったの?放心状態だよ」


晴斗は自分が何処に居るのか、周りを見た、学校だったと気付き、凜をボーッと見詰めた。

「…あぁ、喋るだけでもキツイんだ、そっとしといて」

「いつまで?」

「…分からない」

「見てると辛いの、謝るから、教室でキスするから機嫌直してよ」

「…機嫌じゃないよ、何も考えられないんだ」

「何でも言うこと聞くから‥お願い」

「…後で一緒に食べよ…喋るのも辛いんだ」

「…私と喋ると‥辛いの?」

「…違うよ、声に出すのが辛いんだ…そっとしといて」

「隣に居てもいい?」

「…無言でもいいなら」


凜は密着して隣に座った、晴斗が寝転んでボーッと空を眺めていると「膝枕すきだよね」と言われたが、頭を上げることはなかった。


凜に頭を上げられ「膝枕だよ」と言われて頭を擦られて、晴斗の視線が凜に向いた。

「…何で撫でてるの?」

「撫でたいからだよ、何度も声かけてたんだよ」

「…ごめんね、頭がボーッとして‥無視じゃない」

「うん、分かってるよ」


チャイムが鳴ると凜に手を繋がれて教室に戻った、お弁当を持たされ、皆の前で手を繋がれて屋上に来ていた。

「晴くん、風が気持ちいいね」

「……」


凜にお弁当を開けられて、目の前に置かれると、ゆっくり食べていた、「あーん」と言われても、晴斗は自分で食べていたが口に押し込まれていた。

「…どうした?」

「ずっとボーッとしてるよ、病気ないって言ったよね」

「…優樹姉に何件も病院に連れていかれたらしいけど、ストレスでなるんだって‥心配させてごめんね」

「私が傷付けたから‥ごめんなさい」

「…本当のことだったから、全部俺が悪いんだ‥思い出させないで」

「ごめんなさい」

「…謝らなくていい、ボーッとするから居ないと思って接して」

「無理だよ、家族なんだから心配なの」

「…ありがと、直ぐ喋らなくなると思うけどそっとしといてね」

「嫌だよ」

「……」


晴斗は直ぐに自分の世界に入った、食べ終わると空を眺めていた、時間が許す限り、凜に膝に乗られ頭を肩に乗せられ抱き締められ「晴くん、私がずっと傍に居る」と何度も囁かれていたが、晴斗には声が届かなかった。


手を引っ張られて立ち上がった、晴斗がのんびり歩くと「危ないよ」と言われ、上級生や下級生の前でも凜に手を繋がれて教室に戻った。


チャイムが鳴ると、五時間目が始まった。

 凜に手を伸ばされ、引き出しから英語の教科書を取り出されると授業が始まった、晴斗の様子が可笑しすぎたのか、英語教師で担任で島野彩花先生はリスニングと表して、音楽を何曲もスマホから流していた。

「……あぁ、懐かしい歌だな、昔聞いたっきりだよ…ラブソングのいい歌だな」


晴斗は懐かしさで授業中にブツブツ喋り出した、島野先生が「音楽は人の心を動かすね」と楽しそうに言ってきた。

「懐かしいね」

「中学生の授業で聞いたよ」


Carpenter◯のTop of The Worldを流されていた。晴斗は「All l need will be mine if you are here」と流れると、恥ずかしそうに口ずさんで、恥ずかしそうに凜に伝えて突っ伏した。


島野先生は「大胆だね、元気が戻って良かった」と伝えてきた。

「晴くんが元気になって嬉しいけど、何て言ったの?」


晴斗はまた「All l need will be mine if you are here」と恥ずかしそうに手を握って伝えた。

「晴くん日本語で言ってよ、意味が分かんないよ」


少し怒るの凜を見て、島野先生は「飯島くんが言ってる意味は」と言い出すと、晴斗はやめてくれと言い出した。

「簡単に言うと、私が欲しいのは、あなただけ…もっと言い換えると凜ちゃんが居れば十分幸せって言ってたよ、良かったね愛されて」

「…‥やっぱりちげぇょ」


晴斗の顔が真っ赤になり、俯くと、クスクスと笑い声が聞こえた。

「あぁ、暑い…凜とは短い間なんだけど、楽しい記憶がよみがえる」

「……」

「凜どうした?てか‥恥ずかしいんだけど、授業始めて」

「飯島くんが元気になって良かったよ、授業始めようか」


授業を開始されると「ずっと俺達に心配かけたんだ、一度歌えよ」と言われて「お腹痛いトイレだ」と言って席を立ったが、後ろの席に座る美優紀に肩を捕まれて座らされた。

「歌ってよ、歌えるんでしょ、私達を困らせたんだよ」

「洋楽は歌えないよ」

「洋楽を大音量で聞いてたよね、気付いてた?声かけても‥今思えば無視だよ」

「…本当に歌えない」

「晴として歌ってるの知ってるよ」

「俺じゃねぇよ」

「フード取るか歌うかどっち?皆に心配掛けてた罰」


晴斗は席を立って、ドアに向かったが腕を捕まれた。

「晴くん、皆が歌ってって言ってるよ、私も心配したんだよ、歌って謝りなさい」

「誰のせいだよ、てか、何で歌わないといけないんだよ」


凜に手を引かれ、教室の前に立たされた。

「先生‥授業と関係ないので皆を怒ってください、拍手の意味が…」


晴斗は拍手され「いいぞぉ」と何故か言われて困っていた。

「皆に心配掛けてたって分かった?飯島くんは一人じゃないんだよ、友達もそばにいるってこと、一人で悩んだらダメ…今日は友達が拍手してるよ…」

「だからぁ、歌う意味ありますか?」

「皆に心配掛けてたんだ‥あるぞ~、歌って罪滅ぼし~」


晴斗は自分の席に戻ろうとしたが、凜に腕を引っ張られ、クラスメートに急かされた。

「もう‥一度しか歌わねぇよ、何歌えばいいんだよ」

「何でもいいぞ~」

「はぁ~」


クラスメーカーに拍手され、歌えと急かされた晴斗はスマホを取り出した、凜が離れると腕を掴んで無言でスマホを見ていた。

「恥ずかしいから凜は傍に居て」

「……」

「大胆だねぇ」


皆にからかわれるが、無視して洋楽を流すと教室が静かになった、凜の腰に手を回して歌っていると、凜に俯かれ、片手で顔を上げて見詰めて歌い終わった。

「口開けて呆れんなよ‥だから歌いたくねぇんだよ」


晴斗が喋ると、意識を取り戻したように遅めの拍手がなった。

「上手かったよ、聞き惚れてた」

「動画で見るより上手いよ」


晴斗は舌打ちして「バカにすんな」と言って席に座ると、意味が分からなかったと言われ、訳してくれと言われていた。

「Rachel Platte◯のBetter Placeって自分で調べて」


晴斗は教えたが、発音が良かったため先生にしか聞き取れていなかった。歌手を英語で黒板に書かれて、皆は調べて聞いていた。

「凜は調べるな、皆も凜に教えるな」

「あなたが来てからここが素敵な場所‥なんて何度も言って‥知られたくないよな、妹に教えないから任せろ」

「凜ちゃんの両手に晴斗くんの気持ちを注ぎ込むって言えないよ、内緒にするから任せてね」

「凜とか俺とか言ってねぇよ、歌なんだよ‥お前ら黙れよ」


晴斗が怒るが、笑われて落ち込んでいた。

「歌で気持ちを伝えるなんて、ロマンチックなんだね」

「次何歌うの?」

「…歌わねぇよ…歌えないよ、心が折れた」

「なら次の英語の授業まで我慢かぁ」

「美優紀だけは調子に乗るな」


授業が開始されたが、晴斗は家に帰るまで一言も喋らなくなった。






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