第154話バイトに連れていく①

  麻莉菜は晴斗の寝込みにキスすることはなかった。


……………………


数日が経った

 朝から凜に「バイトの時間だよ」と何度も言われて、揺すられて起きると悩んでいた。

「…あぁ……バイト行きたくねぇ」

「どうして行きたくないの?」

「本当は…休みだったんだよ」


晴斗が目を閉じて仰向けになっていると、凜に「元気になったかな?足りない‥かな?」とキスされていた。

「全然足りない、バイト先に凜が来て‥癒しが必要なぐらい…とにかく行きたくない…」

「バイト先に一緒に行くよ?バイト中待ってるよ」

「マジで来ないで‥恥ずかしい…」

「いつなら良いの?晴くんのバイトって何処なの」

「言わない、まだ時期じゃない」

「浮気してない?」

「してないけど‥するかもな」

「…もう笑って言わないで」


晴斗は今日歌を歌わされ、服を何度も着替えさせられることになって悩んでいた。

「晴くん、昨日から溜め息ついてるよ…心配させないで」

「…はぁ‥今日急にバイトになったんだよ、帰りが遅いんだよ、今日で終わらないんだよ、何日通えばいいんだよ?」

「晴くん、バイト先で虐められてるの?」

「まぁ、虐めだな」


二人はリビングに向かうと凜がパンを焼いていた、食べ終わって時間を確認していた。

…7時半前か。

「何時に出るの?」

「……8時頃だな」

「‥晴くん膝枕好きだよね‥おいで」


溜め息をついていると、凜にソファーから呼ばれて横に座った。

「絶対夜落ち込んでるぞ」

「…早く‥横になってよ」


膝に頭を置いてジーッと顔を見上げていた、目が合うと晴斗は聞いた。

「ついてくる?」

「良いの?」

「休みだったのにバイトになったんだよ…良いと思うよ」

「…勝手に行ったら怒られちゃうよ」

「知らない、俺の心が折れるから来て…」


二人で話していると、麻莉菜がリビングに入ってきた。

「麻莉菜、おはよう」


膝枕の姿勢で、晴斗は手を上げて挨拶していた。

「また膝枕してもらってるんだね」

「まあな、バイトに凜も連れていくね」

「…私も行きたい‥凜姉ちゃんばっかり‥ずるい」

「そう言われてもなぁ、凜連れていったら怒られると思うんだよね、麻莉菜まで連れていったら…何言われるか」

「…おとなしくして待つから‥行きたい」

「俺のバイト姿見て笑うなよ」

「何のバイト?」

「今日は歌って動画撮られるバイトだよ」


麻莉菜も凜も小首を傾げ「…今日は?掛け持ち?」と独り言を言って考えていた、晴斗は二人に伝えた。

「学校と親に俺のバイト言うな、バラすな」

『言わない』

「二人とも着替えてきて」


皆が着替え終わると、晴斗の後ろに麻莉菜を乗せて、バイク二台でバイト先に向かった。


ビル内に入ると、麻莉菜も凜も言ってきた。

『moonって書いてたよ、どういうこと?』

「ここでバイトしてんだよ、静かにしないと怒られるぞ」

『……ごめんなさい』

「俺に謝るな」


二人が静かになったがキョロキョロ見渡してる姿を見て、急に晴斗はお腹を抱えて笑いだした。

「……晴くん静かにしないと怒られるよ」

「いやぁ、二人は何処の田舎者だよ、笑わせんなよ」

「……」


エレベーターに乗って、用意された控え室に入った。

「moonだよ、ねぇどういうこと?」

「知らなくていい、二人は待ってろよ、勝手に出歩くな、知らない人が入ってきたら俺の兄妹って言ったら良いからな」

「…直ぐ戻ってくるの?」

「時間が無いから質問は却下、本当におとなしく待っててよ」


二人を残してメイク室に来ていた、三十分程メイクと髪をセットされ、面接してくれたおばちゃんと控え室に戻ってきた。

…面接してくれたおばちゃんが社長だったとはな。

「何で瞳さんがいるんすか、てか‥誰のせいで歌うことなったと思ってんすか?社長命令で断れないのに…」

「歌が上手い晴のせい?」

「はぁ…本当に自分が恥ずかしいのに…」


晴斗が俯いて唇を噛むと肩を叩かれた。

「晴に何回言ったら良いの?本当に上手いからね」

「……バカにされてる気分ですよ、仕事なので断らないんですよ」


苦笑いを向けていた、腕を瞳さんに引っ張られて外に皆で来ていた。手を振りほどいて社長も一緒に少し歩いていた。

「凜も麻莉菜も静かだな」

「……」

「緊張してるんだな…社長と瞳さんも何でついてくるんですか?」

『歌を聞くため』

「そうですか…笑って楽しんでくださいね」


10分程歩くと、レコーディングスタジオに来て挨拶していた、社長も瞳も歌う準備が出来ると、動画を撮っていた。


20回以上Cody Simps◯nのOn My Mindを、凜と麻莉菜を見ながら歌った、OKが出ると皆の前に立って社長に聞いた。

「僕の知ってる歌を良く知ってましたね」

「優菜ちゃんに聞いたんだよ、晴がスマホ見せなかった?」


晴斗は撮影中、優菜にスマホを渡して、この歌で良いかなと言われたことを思い出して頭を押さえていた。

「…凜‥俺の心が病んだ」

「頑張ったね、歌ってた姿もカッコいいよ」

「嬉しいなぁ…」

「撫でてあげたいけど‥髪が乱れるね」


皆の前で晴斗は凜にキスしていたが、社長に怒られていた。

「外では晴としてキスしてはいけません」

「…社長‥今はいいんですか?」

「良いけど、晴は歌に自信持ちなさい」

「……」


晴斗は拗ねていた、凜と麻莉菜が歌を褒めると笑って、瞳さんと社長が褒めると「どうも」と冷たく返事をした。

「社長、着替えと髪セットした意味ありますか?」

「歌ってる動画も流すからね」

「……そうなんですね」


晴斗は落ち込んで帰ろうとしていたが、社長に止められた。

「もうOK出ましたよ、戻りましょ」

「次歌ってくれないと、服も着替えて」


社長が連絡したのか服が置かれていた、目の前で着替えていた。

「早く帰りたいので文句言わないで下さいね」

「……」


皆が着替えを見て見ぬふりをしてくれると、晴斗は部屋に入ってGood Timeを歌いだしたが、ストップと言われて止められ、部屋を出て瞳さんに詰め寄った。

「な、な‥何?」

「我慢できん、瞳さんも歌いましょうか」

「英語無理だからね」

「うーん‥Japanese Ver歌いましょう、恥かくのは二人でっていうでしょ」

「言わないよ、一人で歌いなさいよ」

…マジで誰のせいで恥かいてるんだよ


晴斗は機嫌悪くなったが、部屋に入って歌いだした。

…そもそも、何で一人で歌わないといけないんだよ


凜も麻莉菜もおとなしく聴いていた、何十回も歌い直しされて疲れきった頃に、休憩してと言われると凜の元に来ていた。

「晴くん疲れてるの?」

「…お腹すいてるし‥歌いたくないんだよ」

「上手だよ、自信もってね」

「…皆も休憩だからご飯食べに行こ」


ずっと麻莉菜はおとなしくなっていた。

「麻莉菜はどうした?静かすぎるぞ、体調が悪いのか?」

「…晴兄がモデルして洋楽も歌えるって‥モデルの瞳さんに教えられて…」


麻莉菜と目が合うと、モジモジして顔が赤くなっていた。

「今日の麻莉菜は可笑しいぞ、どうした?」

「…髪もセットされて、歌も上手くて…か、カッコいい」


皆の前で麻莉菜の頭を撫でて喜んでいた。

「カッコいいか? 嬉しいよ、ありがとう」

「う‥歌も上手だったよ‥自信もってね…」

「顔赤くしてモジモジすんな」

「……」


社長も瞳さんも凜も麻莉菜を見て笑いだした、晴斗は麻莉菜に抱き付かれて頭を撫でていた。

「俺も歌うと恥ずかしいんだよ…瞳さんに笑われると蹴りたくなるよね、気持ちわかるよ‥」

「晴、どういうこと?」

「恥かかされ、凜を連れてきて正解でしたよ…居なかったら落ち込んでました」

「男でしょ、うじうじしない!」


社長に数分怒られていた、凜に抱き付いて「来てくれてありがとう、居なかったら泣いてたかも‥男らしくなくてごめんね」と小声で言った。

「弱い所も好きだよ、笑わないからね」

「…正直二人になりたい」

「…お家まで我慢してね」


皆が見てないと分かると凜にキスした、社長が連絡したのかお弁当が届けられて皆で食べていた。

「凜と麻莉菜は学校でバラすなよ、追い出すからな」

「無理があるよ、学校で悪目立ちしてるでしょ、晴くんってバレるよ」

「違うって言い張るから大丈夫だぞ」


晴斗が自信満々に言うと皆が呆れていたが、笑っていた、また準備して歌い出すと、凜と麻莉菜が居るおかげで落ち込まずにOKが出た。

「麻莉菜も凜も暇じゃないか?」

『平気、飽きないよ』

「二人がそう言うなら…」


皆でレコーディングスタジオをあとにした、ビルに入って撮影現場に来ていた、撮影用背景布、グリーンバックを皆で見ていた。

「社長、動画って何処に載せるんですか?」


どうやら、moonのサイト内で服の宣伝として流すらしい。

「僕の契約期間が切れるまで載せるんですか?」

「どうだろうね…人気が出たら契約伸ばす?」

「あぁ、辞めますよ」


晴斗が鼻で笑って言うと、皆に鼻で笑われた。


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