第106話犯罪者…話

学校帰り、凜と公園に来ていた。人気のないベンチに二人は座って、小さな池を眺めていた。

「教室で触らないでって言って…ごめんね」

「俺も、教室で抱き締めてごめんね…見てたら我慢できなかった。」

「…嬉しかったよ、でも恥ずかしかった…慣れたくても慣れないの、ごめんなさい。」 


凜の申し訳なさそうに、俯いてた姿を見て、晴斗は頭を優しく擦って、手を握り池を見ていた。

「学校で凜の周りは人が集まり、花が咲いたように笑顔が溢れ、男女関係なく人気で、変な噂を聞かない、尊敬されて、告白もされる…俺と正反対だな。」

「…晴くんも告白されてたよね‥見てたよ。」

「されてないよ、紙切れ渡された。」

「…読んでないの。」

「読まないよ、ごめんねって言って捨てるから、ラブレターじゃないかもよ。」

「読んで、答えてあげないと‥失礼だよ…相手のこと考えて。」


凜は目の前に立って怒るが、晴斗は手をギュッと握りしめていた。

「他人が怖いんだよ…信じたくないんだ。」


晴斗は隣に座らせ、青空を見ながら、返事を待たずに話を始めた。


 中1の夏頃、人気のない路地をジム帰りに歩いていると、悲鳴が聞こえ、俺は走って駆けつけると、高校生二人が少女を乱暴していました、亡くなった両親と何故か重なり、助けたいと思った俺は、相手の高校生を殴りケンカになり、お互いボロボロになって、高校生は逃げて行った。

 倒れた少女に声を掛けると怪我をしてた、救急車を呼び、到着すると安心して俺は倒れて、目を覚ますと病院のベッドの上、少女はずっと居たのか「飯島くん、ありがとう」と泣きながらお礼を言われ、俺は「怖かったな」といいましたが、なぜ名前を知ってるんだと思って聞くと、同じ中学に通う、別のクラスの同級生でした。

 優樹姉も病院から連絡をもらい、直ぐに駆けつけ、少女の親が到着してたのか、優樹姉と少女の親は外で話したあとに、俺にもお礼を言って帰って行った。

 数日後…顔が腫れ、アザを作ったまま、学校に行きましたが、周りから心配ではなく、冷たい視線で見られた挙げ句に、数台のパトカーと警察が家に来て、近所の人の前でパトカーに乗せられ、警察署に連れて行かれた。

 何故なら怪我を負わせた高校生の親が被害届を出していました。少女と少女の親を警察に呼んでもらい、暴行をされていたのを助けるため、捕まえるなら高校生を捕まえてくださいと言ってくれたおかげで、捕まることはなかったが、また数日後に学校に行くと、俺の顔が腫れてるのは人を殴って喧嘩した、不良、犯罪者、警察に捕まったと、捕まって無いのに、変な嘘が独り歩きをして、俺の周りから中学に出来た友達は去り、俺をいじめに回ったが、どうでもいいと思い無視した、優樹姉や亡くなった両親をいじられ、言い返すと殴られ、口から血を流しても、初めは俺は手を出すことは無かった、家に帰り泣いていると、優樹姉は心配して「どうしたの」と聞いて「我慢出来ない、両親も優樹姉もバカにされた、俺を拾ってくれたけど、迷惑掛けさせて」と何度も泣いて、ずっと優樹姉は学校でも、いじめられてたと知ってたのか「我慢しなくていい」と言われ、次の日から学校で殴り合いが始まったが、負けることは一度もなかった。

 直ぐ、学校に殴った子の親が来て、怒られても知らん振り、態度が気に食わなかったのか、テーブルを叩きキレられると、俺はテーブルを蹴ってやり返し、言ってやったよ、捕まって無いのに捕まったと言われ、近所の人からも犯罪者と言われ、お前も俺が犯罪者に見えてんだろ、可愛い息子を殴った犯罪者に、両親が亡くなったことを言われ、身内を馬鹿にされ、お前もバカ息子の言葉を信じたんだろ、急に殴られたって、言ってみろバカ息子、親の前で手を出したのはどっちだって、大人にも言い返してた…常に家に帰るまで、近所の人からも冷たい視線を向けられ、恥さらし、犯罪者、優樹姉も言われ、俺は誰も信じれなくなった…助けた少女も彼女になって俺の寂しい気持ちを埋めてくれた…殴った相手の親も息子から手を出したことを知り、亡き親をバカにしたことを…何度も謝られた。


凜にぎこちない笑みを向け、空を眺め、一人でずっと喋っていた。

「…中学生の頃から周りの子より体デカかったから、怖かったのかな、不良じゃないんだ、凜に言われると辛いんだ、彼女も俺と居たから、学校で虐められて転校したんだ、俺が幸せになると周りが不幸になるんだ、優樹姉から逃げたんだ、連れ戻されたけど…俺は犯罪者だから。」


晴斗は空を見ながら思いだし、涙を流してると、凜からギュッと抱き締めらたが、抱き締め返すことはなかった。

「晴くん、こっち見てよ。」


晴斗が急に遠い目をすると何度も、自分のことを「犯罪者なんだ、他人を助けることはいけないんだ」と言ってると、凜に何度も話しかけられていた。

「こっち見てよ。」

「…どうした。」

「何度も自分のこと、犯罪者って言わないで。」

「事実だから‥凜も犯罪者から離れるよね。」

「…自分で犯罪者って言わないでよ。」

「中学生の頃は、毎日近所の人にも学校でも、常に周りから、色々言われ、弄られ、虐められ‥ストレスで、幼なじみと悪いこともしたんだよ。」


晴斗は目を閉じて、思い出すように、少しだけ…教えていた。

「幼なじみの家で酒飲んで、タバコ吸って、家でタバコ吸ってると、優樹姉に殺されかけたな、地元の友達と廃墟で物壊したり、今思えば不法侵入、器物破損だな、心霊スポットでガラスも割ったな、捕まったことないだけで、まだあるんだよ‥俺は犯罪者だよ…多分‥優樹姉は知らないよ‥凜の笑顔を見ると辛いんだ‥また大切な人が離れて行く。」

「……」


ずっと目を閉じて、悲しそうに教えると、凜に頭を擦られていた。

「犯罪者だろ、悪いことしてきたんだよ、大人から、どんな育て方されたんだろって言われたら、突っ掛かりに行ってた。」

「…分かってたよ、晴くんは‥根っからの不良だから。」

「あぁ、不良だったな…怖くて嫌いになったよな、他に好きな人見つけて、幸せになった姿を見せて。」

「…晴くんと幸せになるからね。」

「何で‥犯罪者と幸せになりたい。」

「晴くんは晴くんなんだよ、自分のこと犯罪者って言わないで、この事は二人の秘密にしよ。」


晴斗は考え込んでると凜はギュッと抱き締められて…言われた。

「…罪悪感があるなら、一人で抱え込まないで。」

「えっ、罪悪感なんて無いよ、他人が俺を変えたんだから。」

「…晴くんらしいね。」

「俺らしい‥か、俺が幸せになるほど、不幸になるよ…彼女も転校するって言って、家まで行って、止めに行ったのに、また会いに来るとか言って、彼女の親は事情があるって‥結局転校したんだ、俺は着信拒否もメートも拒否してる。」

「まだ、元カノが好きなの。」


凜はムッとした表情で、怒っていた。

「もう好きじゃない、凜が好きなんだ、でも嫌われる。」

「嫌わない、嫌いにならない。」

「前に何度も言ったよね、直ぐに人の気持ちは変わる、凜の気持ちも変わる。」

「…私、絶対に変わらない。」

「凜は人が変わる姿を知らないよね、男性も俺しか知らない‥。」

「……そうだけど。」

「それでも、俺のこと好きでいる自信があるか。」

「あるよ。」

「…凜は、俺の彼女だよね。」


晴斗は少し俯いて聞いていた。

「…学校で隠してるけど‥そうだよ。」

「やっぱり、恥ずかしいか。」

「……うん‥ごめんなさい。」

「なら、周りに人いない、旅館の話を少ししたい。」


晴斗は膝を叩いて、膝に座らせ、向かい合って座っていた。

「今から、イタズラ関係‥言っても引かないか。」

「引かない。」

「蒼真兄さんって言って、幼なじみの変態の兄がいる、皆俺を家族として見て、弟って言われて嬉しい、でも帰ると、毎回居酒屋に連れてかれ、酔っぱらってホテルにも連れてかれ、起きたら知らない女性が居て、目が覚めると記憶も少しずつ戻って…嫌悪感に襲われる、だから、旅館に着いたら、恥ずかしがらずに彼女って答えて。」

「……ホテルって、何回行ったの。」

「…ごめん‥過去の話だから、引かないって言ったよね。」

「怒ってるの、冬休みも行ったの、正直に答えて。」

「殴らないか。」

「絶対殴らない。」


晴斗は、正直に「ホテルは行ってない、キャバクラに連れてかれた、臭かった」と答えると、殴られずに、ビンタを貰っていた。

「…四人で暮らしだすと…私とお父さんを家族として見てなかった、優樹姉さんが少しは喋りなさいって言うと、少し喋ってくれた、私を変な目で見なかった、興味無さそうで、クールに見えてカッコよかった、私が困ってると黙って手を貸してくれて、気付くと好きになってた、初めて会った時、髪が長くて変って思ったけど、身長も高くて、顔が見えるとカッコいいって思ってた…まだ好きになったところあるんだよ‥晴くんが黙って家から消えた時、皆心配したんだよ、優樹姉さんの電話だけ出たよね、もうその時から晴くんが好きだった…お願い正直に答えて。」

「本当に行ってないからな、居酒屋行って、気付くとキャバクラ。」

「…キャバクラって何。」

「えっ、香水臭くて、女性にベタベタ触られ、嫌悪感の空間、泣きそうになる。」


晴斗が辛そうに「嫌悪感、地獄なんだ」と言うと、凜は「行って辛いなら、許します」と晴斗の制服を掴みながら、胸に頭を預け、言っていた。


凜の頭を擦りながら、何度も謝り、顔を上げた凜と目が合うと教えていた。

「…初めは、凜も父さんも他人として見てた、お兄ちゃんって呼んだ方がいいって聞かれた時、正直気持ち悪かった、馴れ馴れしいって、急に兄妹ですって言われ、急に他人と暮らすと、全て受け止められなかった…声聞くだけで嫌悪感が襲って、無理だった、だから幼なじみの家に相談しに行った。」

「…嫌な顔されても、好きだった‥話したかったの…好きになって欲しかったの、ずっと一緒に暮らせる、学校も一緒に通えるって思うだけで、嬉しかった…でも‥今は…晴くんにキス出来る。」


急にキスされ、晴斗は抱き締め、何分経ったのか。

「覚えてるか、優樹姉が俺に言った言葉…身内の感情や表情を見てって、もう俺のことを犯罪者や冷たい視線で見ることはないってことなんだよ、まぁ身内だからな、初めは親戚の家も地獄だったよ、無理に笑ってた…最近は他人とも仲良くしようと頑張ってる、けど、まだ無理なんだよ、まぁ話ながら帰ろ。」

「…手繋ご…ジムってなんのジムなの。」

「…優樹姉に聞いてないのか、3年間通ったんだよ。」

「聞いてないよ。」

「公営ジムだったかな…先に帰ろ。」

…ボクシングジムなんだけどな。


差し出された凜の手をギュッと握り、公園をあとにした。

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