第304話 ロース、ヒレ、バラ、タン!

※お知らせです。

301話「村会議」こちらを「村会議 前半」としまして、302話「村会議 後編」を追加投稿しております。

前回投稿しました302話「ポタミア」は303話と変更しておりますので、「村会議 後編」をまだ見てない方はよろしくお願いします。


304話話 ロース、ヒレ、バラ、タン!。


「マスター、皆様、無事のお戻り、おかえりなさいませ」


「「「「おかえりなさいませ」」」」


「ただいま、皆」


 主が戻ってくる事が分かっていた様に、フォルテ達精霊が綺麗に並びミツ達をお出迎え。

 続けてゲートから出てくる仲間たち。

 皆ミツの家は土足厳禁なのは知っているので手に靴を持っての帰りだ。


「帰ってきたニャー! ふー、お腹空いたニャ〜」


「プルン、帰ってきて真っ先にそれなの? まー、私も少しお腹空いたかも」


「おいおい、晩飯にオークの肉を食べるってさっき言っただろう!? 今腹に入れたら晩飯が入んねえぞ」


「リック、その前に解体しなければ何もできませんよ。取り敢えず皆さん着替えましょう。僕は少し汗も流したいですからね」


「賛成〜。私も少しだけ疲れちゃったからお風呂に行きたいわー」


「私も入るわ。冷えたせいか、身体を暖めないとまたお腹が痛くなってきたかも……」


「お、お姉ちゃん大丈夫!? 直ぐに治療するよ」


「ありがとうミミ。少しだけ冷やしただけだから」


「俺はさっきミツに返り血とか洗い流してもらったから風呂は良いや。それよりもミツ、早く倒したオークを解体しようぜ!」


「うん、数も多いからちょっと村人の人にも手伝ってもらおうかと思ってるから待ってね。アイシャ、悪いけどバンさん達を呼んできてもらえるかな」


「うん! 分かった。ラルゴ、行こう」


「ワフッ!(飯の為だ、急ぐぞ!)」


「あたいたちもひとっ風呂入るっの」


「マネ、酒瓶を持っていくのは良いけど、風呂の中に落とすなシ」


「へいへい」


「あんたね、持っていくなら一人分じゃなくて人数分持っていきなさいよね」


 そう言いつつ、いつの間にかエクレアの両手には酒瓶が握られている。

 それが当然と誰も三人を止めないのは、最近冷え込んできた事に風呂に浸かりながら酒を楽しんでいるからだろう。

 まぁ、風呂で酒を楽しむのも良いですよと、そんな言い出しっぺがミツ本人なのだから精霊達も何も言わないのだ。


「元気だな……」


「フッ、あれくらいの戦いで私達がバテるわけ無いじゃないか。それと坊や、悪いけど酒だけじゃなくつまめる物貰えるかい?」


「なら後で精霊の誰かに持っていってもらいますね。チーズとかでいいですか?」


「ああ、間違ってもお前さんが持ってくるんじゃないよ。理由つけてまた女湯を覗かれたら他の娘共が五月蝿いからね」


「うっ……はい」


 ミツの風呂場での事故は無いと以前言ったが、アレは無かったことにして欲しい。

 実は先程のようにヘキドナやエクレアと、精霊にではなくミツ本人に酒のつまみを頼む事が多く、彼が運んでいくことがあったのだ。

 頼まれたときは女性陣は風呂の中と、脱衣所には誰も居ないことを確認後に脱衣所の所に料理を持っていくのだが、まだミツが脱衣所に居るにも関わらず、エクレアが風呂場から脱衣所へと来てしまったのだ。

 勿論風呂場と脱衣所の扉を開けたもんだから、風呂に入っていた女性達の視線はミツの方に向けられ、彼も同じ様に風呂場の方へと視線を向けてしまう事故が起きてしまっている。

 彼女達は驚きつつもまたかと、ミツはスケベ野郎と言葉を浴びせられていた。

  エクレアはもう気にせずと、素肌を隠すことなくミツが持ってきたつまみが乗ったトレーを受け取ると、彼女は耳元でエッチと頬を染め風呂場の方へと戻ってしまう。

 何だかんだと運の数値が高い彼が幾度と女湯でのトラブルを起こすのは、根本では彼が望んでいることなのではないだろうか?

 それ以降はシューと仲も良くなっているフィーネに料理を持っていってもらっている。


 さて、オークの巣での戦闘後、村に戻って来た。

 皆は戦闘での疲れはなくとも、そこまで行く移動の疲労の方が大きかったのか口々に出すのは移動時の話ばかり。

 アイシャがバンの元に行き、大量のオークを討伐したことを伝えると、側にいたギーラは村人を急ぎ集め、解体を手伝う事を促す。

 ミツもそれを望んでいたが、数体は仲間達に解体の練習用として残してもらうことにしている。

 休憩後、皆は動きやすい服装に着替え大きな小屋へと移動。

 ここは即席だがミツが解体専用の小屋として作った場所だ。

 獲物を釣り上げる場所や、大きなテーブルが置かれている。

 まー、これから行うのは正にグロ注意なのだが、カットカットで話していこう。

 アイテムボックスから次々と出されるオーク。

 進化種のオークリーダーやチャンプ、ジェネラルなどは冒険者ギルドに渡して冒険者としての功績として報告するのでそれ以外を解体する事になった。

 村人そうでなのは倒したオークの数も多く、折角ならと解体を手伝った村人達にも肉を振る舞うことを告げたからだ。

 これはリックの提案でもあり、仲間たち全員が賛成している。

 そうなれば当たり前のように村人全員が参加と手を上げ、まるでお祭り騒ぎ状態に場が賑わう。

 男の大人達は釣り上げなどの力仕事。

 女達は調理と分けてある。

 今回はミツも解体のスキルレベルを上げたいので、積極的に参加することにしている。

 まず解体予定のオーク、全ての血を〈吸血〉にて回収。

 血は様々な物に使えるので樽に入れておく。

 血を抜いたオークの腹を裂き、内蔵を全て取り出す。

 これまた数も多いので大変な作業と思ったが、血を抜いていた事にそれ程苦に感じなかった。

 内蔵系では腸をソーセージに使うのでそれは全てまとめて〈ウォッシュ〉にて中まで綺麗にしてしまう。

 これだけでも村人達、特に女性陣から感謝されてしまった。

 まぁ、洗うにも臭う作業だもんね。

 脂身は松明や火種、ロウソクに変えることができるのでそれも村人で分牌である。

 ミツの家では灯りは雷の矢やトイレなどは灯りを灯す魔導具を置いてある。

 油もアイテムボックスから出すのでオークの油は使うことはない。

 リック達は武器や防具のメンテナンスの為に少し分けて貰っている。

 解体は進み、部位と言えるところまで解体が進めば次は女性陣達の仕事が始まる。

 ソーセージを作る為に肉を細かくする。

 これはミツがミンサーを持っていたので〈増殖〉スキルにて数を増やして手分けして肉のミンチを作っていく。

 面白いように肉がミンチ状態になる事に女性陣から歓声があがりまくりだ。

 次にソーセージを作るのだが、この世界にはソーセージマシーンなどはなく、細いスプーンのような物でちまちまと腸へと肉を詰めていくそうだ。

 そんな事やってたら何日かかるか分かったもんじゃない。

 と言う事でソーセージマシーンを作り、腸をセットしてニュルニュルと詰め込んでいく。

 プルンがやりたいやりたいと声を上げたので任せる事にした。

 子供達もこれなら手伝えるだろうとソーセージ作りは子供達の仕事にした。

 オークの腸が大きいのでジャイアントフランクみたいだ。

 他にも燻製用や干し肉用と肉を次々と切り分けていく。

 骨や睾丸、目玉などは冒険者ギルドに売ってこれはリック達の報奨とする。

 流石にミツのスキルや魔法があったとは言え、300人以上の人での数でやれば50体のオークは次々と肉と変わっていった。

 アイシャが倒したオーク二体分は、家族に見せたところ大変な大騒ぎ。

 ラルゴの協力があったとしても彼女がオークを倒した事に驚きの祖母や母親、そして叔父、孫の様に溺愛する爺様。

 孫娘がオークを倒した事が信じられないだろうが、アイシャは訓練にて【アーチャー】のレベルはMAX、更に今回の戦いにて【シーフ】のレベルもMAXとなっている。

 毎日訓練所にて戦闘経験を積み重ね、スキルレベルを上げている彼女ならばオークを倒す事は可能である。

 日もくれそうな頃に、全ての作業が終わった。

 素材は明日にでも冒険者ギルドに持っていくことにして今日は肉パーティーだ。

 村人達にも両手いっぱいの肉の塊、子供達が頑張って作ったソーセージを持たせてある。

 燻製はまとめて作る事を告げ、その分はバン達が作ってくれるそうだ。


 仲間たちはミツの家に戻り、改めて湯に浸かり、疲労をお湯の中へと溶かしていく。

 トトは風呂はパスとか言っていたが、流石に彼も生臭い所に居たので強制的に風呂に入れた。

 彼はリックとリッケに任せ、ミツはポタミアの所へ行く。

 

「ポタミア、入るよ」


(はい。主様)


 水車小屋の扉を開けるとポタミアが出迎えてくれた。

 時間を置いた事に落ち着いたのか、彼女は普通に会話ができている。

 ポタミアは今迄回収できた卵を自身の体液にて洗っていたようだ。

 ポタミアの体液ならば、卵が少し傷ついてしまっていたとしても塞ぐ事ができたようで、多くの卵が無事に孵化できる状態にできたようだ。

 ポタミアと話あい、取り敢えず冬の間は水車小屋に居させて欲しいとお願いされたのでミツはそれを了承。

 水車小屋はまだ数個屋あるので一つをポタミアにあげても問題ない。

 邪魔な歯車などは全て取っぱらい、10畳程度の何も無い小屋となった。

 ポタミアの卵をそのまま地面に置いておくわけにも行かないのでミツは蜂の巣に似せた六角形状態の棚を作っておく。

 一つ一つ卵をそこに入れ、底冷えしないようにと棚の下は藁などを敷き詰めておく。

 本当は数多くの仲間たちが蓋の代わりと卵を風から守るのだが、今はその役割をしてくれる者が居ないので簡単な蓋を付けることに。

 ポタミアでも開けれる軽さだが、冷たい冷気を卵に当てないようにするには十分な作りだ。

 ポタミアにも栄養を取ってもらわないといけないので果物などを差し出す。

 彼女も自身が倒れては卵を孵す事もできないとゆっくりと果物を食べてくれた。

 

「主様、我が卵がかえりし時、是非ともこの子達も主様の兵としてお側に仕えさせてください」


「いいの? この子達はポタミアを守る為の子供じゃないの?」


「構いません。私とこの子達がこの場に生きていますのは主様のおかげです。その御恩は返すべき事です。ですので、どうか……」


「……わかった。卵が無事に帰ったときは子供達も君と同じようにテイムさせてもらうよ」


 ポタミアの気持ちを受け取ったミツは彼女との約束を守ることにした。

 ミツがポタミアをテイムせずに討伐してしまっていたら恐らく卵は全てオークの腹の中。

 彼女はこの冬を越す事もできずに雪の中で死んでいただろう。

 それは先にテイムしていたアン達も同じで、ミツと出会えたことは運が良かったとしか言葉がない。


「ありがとうございます……」


 ポタミアはその日から暖かくなる日までは小屋の中で過ごす事になる。

 冬の間は食事は本来取らないのだが、今は卵の世話を必要とするので彼女は冬眠する事なく起きているそうだ。

 食事は一日一回、元々水路に沿った水車小屋だったので水は何時でも飲める作りの小屋。

 お腹が空いたらミツの家に自身で飛んできてくれるので問題ないようだ。

 そうしてくれた方がアン達との交流もできるのでミツとしてもそっちが好ましい。

 

 お風呂あがり、アイシャはミツから森羅の鏡を受け取りジョブの変更を行う。


「さっ、アイシャ。ジョブを変えようか」


「うん」


 嬉しそうに森羅の鏡を覗き込むアイシャ。

 その光景をごく当然と見守る仲間たち。

 ミーシャやミミは本を読みながらも視線を向け、プルン達もミツが作ったボードゲームの手を止めてこちらへとやって来た。


「ニャニャ。アイシャは次は何になるニャ?」


「確かミツと同じ様なジョブになるって言ってたよな? なぁ、ミツ、お前がシーフをやった後って何やったんだ?」


「アレじゃないですか? 試しの洞窟ではミツ君は支援も使えてましたから支援ジョブじゃないでしょうか?」


「あー、確かに。だとしたらアイシャちゃんもクレリックかしら?」


「フフン。リッケの予想は半分当たりだね。アイシャ、項目の中に【くノ一】って言うのは無い?」


「えーっと……。うん! ミツさん、あるよ」


「それがアイシャの次のジョブニャ?」


「そう、このジョブが一気に戦闘能力を上げることができるジョブなんだ」


「お前が言うほどのジョブかよ……。アイシャ、そのくノ一っての選んでみろよ」


「は、はい!」


 リックに促され、アイシャは森羅の鏡に表記された【くノ一】のジョブを選択する。

 表記されたスキルはミツが忍者になった時と少し異なるスキルが表記されている。


※忍術

※二刀流

※投刀

※煙幕

※残像

※魅了幻覚

※秘密探知

※偽造職


(あれ? 〈感覚強化〉のスキルが違う物に変わってる。ユイシス、この〈魅了幻覚〉ってなに? まぁ、名前で大体は分かるけど……)


《はい。こちらは対象者へと魅了状態にした上に幻覚を見せるスキルとなります。ミーシャが所持します〈魅了の瞳〉と近いスキルとなります。あなたが持つ〈ミラージュステップ〉の上位の幻惑スキルに当たります》


 ミツが経験した【忍者】と、アイシャが経験する【くノ一】は大半のスキルは同じだが、一つだけ異なるスキルが組み込まれていた。

 名前から大体の予想はできていたが、まさかのミツが持つ〈ミラージュステップ〉よりも強力なスキルと聞かされ、彼は眉尻を少し上げる。

 名前だけでは理解できないスキルの並びにリック達はどれが凄いのか理解できない状態。

 取り敢えずアイシャにいつもの用に全てのスキルを選択してもらう。

 先ずは上から忍術を選択すると、項目の様に下に風、火、水、土と表記される。

 属性を選ぶことを伝え、その属性に応じて何ができるのかを実際に出してはアイシャへと教えていく。

 風を選べば風刀と風球が使え、使いこなせばミツが使える嵐刀と嵐球の様に強化されていくこと。

 また他の属性も仲間たちが目にした事のあるスキルとして説明していく。

 リッコ達は時折、あーなどの言葉を挟んでいる。

 アイシャにどの属性を選ぶかを聞くと、ミツが選んだ順番と同じでやってみたいの言葉。

 なら先ずは風からだねとミツの言葉に彼女は項目の風を選択する。

 〈二刀流〉〈投刀〉〈煙幕〉〈残像〉〈魅了幻覚〉〈秘密探知〉とスキルを選択し、最後の〈偽造職〉の選択だ。

 ミツが偽造職のスキル説明をするとその場が唖然の一言。

 まさかジョブを二つも経験できるようになるスキルがあるなんて思いもしなかったのだろう。

 このスキルを知っているということは、ミツもこのスキルを使えるんだよなのトトの言葉にそうですよの彼の返事。

 だが彼は創造神であるシャロットからのご褒美としてジョブを五つまでセットできる。

 あまり話しても自慢話にもなりそうなのでそこは話すことは控えておく。

 それでもミツの強さの原因がこのスキルだったんだなと確信を持つ面々。

 しかし、忍術改め【くノ一】のジョブのスキルはこれだけではない。

 取り敢えず〈偽造職〉を選択したアイシャには、セカンドジョブを選んでもらう。

 選ぶのは勿論【クレリック】だ。

 クレリックが覚えるスキル〈MP消費軽減〉は1回の使用にMPを多く消費する〈忍術〉を使うのには相性も良い。 

 幸いにもアイシャが次になれるジョブ一覧の中にはクレリックの項目が含まれている。

 それを選択してもらい〈ヒール〉〈ブレッシング〉〈ミラーバリア〉〈速度増加〉〈速度減少〉〈シャイン〉〈エンジェラス〉〈回復力増加〉〈MP消費軽減〉の九つのスキルを取得してもらう。

 しかし、これでまだ終わりではない。

 最後に出てきたスキル〈影分身〉

 これは【忍術】若しくは【くノ一】のスキルを全て取得した者が獲得できる条件スキル。

 アイシャは影分身を取得し、彼女のジョブ変更が終わった。

 一度のジョブ変更に多くのスキルを取得した彼女は驚きつつ、自身に漲ってくる力に何度も拳を握りなおす。


「アイシャ、忍術とかの攻撃スキルは部屋の中じゃ危ないから〈影分身〉を使ってみようか」


「うん。それじゃやりまふ! か、影分身///……」


「「「かんだな」」」


「かんだニャ」


 恥ずかしさにギュッと目をつむり、左右の手を握りしめ強くスキルを発動するアイシャ。

 直ぐにスキルは発動し、彼女の影から彼女の同一人物である分身が姿を見せる。

  

「うん。アイシャ、上手くできたね」


「えへへ/// そ、それにしてもこれって凄いスキルだね」


「うん。姿形だけじゃなく、出した本人と同じ能力だから、戦闘時にはとても役に立つスキルだよ。スキルと言えば、アイシャの分身のこの娘がスキルを使っていけば、影に戻ったときにその時の経験がアイシャに加算されるから、スキルのレベルアップも早くなるよ」


「凄いっ! そんな事もできるの!?」


 マジマジと自身の分身を見るアイシャだが、ミツは彼女に伝えなければいけない事に口を重くする。

 

「ただ……。その、分身スキルには一つだけ欠点と言うか……」


「えっ? こんなに凄いスキルなのに欠点があるの?」


「うん、実はね」


「ちょっとー、何時まで私を放っとくきなのー。マジありえなくねー」


「えっ?」


 今迄黙っていた分身が喋りだしたことに驚くアイシャ。

 しかし、その喋り方は本人には想像できないようなギャルっぽい様な話し方だ。


「あはは、ご、ごめんね。別に無視してた訳じゃないんだよ」


「お兄さんが言うならもう少し待ってあげてもいいけどー、私そんな暇と違うんだよねー。ほら、用もなく呼ばれるのってイライラマックス的な? あれっしょ」


 アイシャの分身はイライラした雰囲気もだしつつ、本当に用事もなく呼び出したアイシャ本人へと呆れた視線を向けている。


「えっ!? えっ!? ミ、ミツさん」


「落ち着いて、アイシャ。分身は本人と違う性格の人がランダムに出ちゃうんだよ。だから、多分この娘は、えーっと、そう、明るい娘なんだよ」


 本人を目の前に軽率な発言もできないので、ミツはオブラートにアイシャの分身は明るい娘として見るようにした。

 この例えが分身にはツボだったのか、周囲の視線も気にせずと高笑い。


「アッハハハ、お兄さんウケるー! あっちの事そんなふうに見てるの〜? まぁ、そのチンチクリンな本人よりも、お兄さんは私みたいなハッキリとしたこの方が好みなんだよねー?」


「なっ!? ちょっと! 貴女は私でしょ!? 私が、そ、その、チンチクリンって言うなら、貴女もチンチクリンでしょ!!」


「ああ、アイシャ落ち着いて」


 突然言われもなく悪口を言われた事にアイシャは怒りを見せてきた。


「いやーん。お兄さんこのチンチクリン本体が私を虐めてくるー!」


「ちょっと! ミツさんから離れなさいよ!」


「ちょっ! 髪をひっぱらないでよ! このチンチクリン!」


 ミツに甘える自身の姿が恥ずかしかったのか、それとも自身ができない事をあっさりとやってしまう分身への僻みなのかは分からないが、突然始まってしまったアイシャと分身の取っ組み合いの喧嘩。


「五月蝿い! 痛っ! やったわね!」


「やったから何よ!」


 相手が自身なだけに手加減なしのアイシャの叩き、分身もやり返しと頬を両手でつねる仕返し。

 やってることは子供っぽい喧嘩なのだが、レベルも上がってステータスが高くなっていることに下手したら大怪我になりかねないとミツが二人の間に入り込む。


「はいはい、二人ともストップストップ!」


「ミツさん! だってこの娘が!」


「アイシャ、落ち着いて。自身と喧嘩しても何んにもならないから」


「うっ……」


「ベーっ」


「むっー!」


 顔を赤くして今にも泣き出しそうなアイシャ。

 ミツに言われては仕方ないとぐっと我慢するアイシャの視線には、あっかんべーと未だに自身を小馬鹿にしてくる分身の姿に顔を真っ赤にするのだった。


「はぁ……」


 取り敢えずアイシャには分身を出せることは理解させたので今回はこれで終わりとスキルを解除してもらう。

 嵐のような時間だったが、兄妹喧嘩などを見慣れているリック達は大変だなと笑い済ませていた。

 まぁ、冒険者の中では喧嘩は日常茶飯事とシュー達も止めることなく傍観する程だ。

 流石にリッケとミミだけは本を読む手を止め、アイシャが怪我した時を考えて回復を身構えていたようだ。

 アイシャは恥ずかしい所を皆に見られた事も嫌だったのか、今日は疲れましたと言葉を残し先に家に帰ってしまった。

 そんな彼女にかける言葉が見つからなかったが、リッコ達が一晩寝れば落ち着くわよの言葉に彼女を追いかける事は控えておいた。


「だー。つ、疲れた……」


 そんな言葉を呟きながら、ベットの真ん中に大の字に寝転がるミツ。

 今日はアン達はお腹いっぱいにオーク肉を堪能したので1階に置いてあるソファーで四頭とも丸まって寝ている。

 いや、ラルゴだけは和室に置いてあるこたつの中でイビキをかきながら寝てるのか、こたつから異様な声が聞こえていたな。

 珍しく一人で寝るのかと思いつつ、アイシャ同様にミツもジョブを変更する為とサポーターのユイシスへと声を飛ばす。


(ユイシス【ダークロード】のジョブレベルがMAXになったんだよね?)


《はい。本日討伐しましたオーク数十体分。最後に討伐しましたオークジェネラルを倒した経験がミツのフィフスジョブにセットしております【ダークロード】のレベルをMAXにしております。また、以前言われておりましたとおり、後は【スカルド】を既にセットしています。後はスキルを選択する状態です。また【スカルド】のスキルは全部で12となります。ミツのスキル効果にて全てのスキルを取得した状態となります》


(うん、ありがとう。それじゃスカルドのスキル説明をお願いするね)


《はい》


ステージオープン

・種別:アクティブ

歌、踊り、自身が望むところは全てステージになる。


ボイスレインボー

・種別:アクティブ

七色の声を出すことができる。


ジャミングクラッシュ

・種別:アクティブ

魔法、スキルのバフ効果を打ち消す。


センタースポット

・種別:アクティブ

対象の注目を自身に集める。


リーディングライト

・種別:アクティブ

対象を指定の方向へと誘導させる。


リアルプリンター

・種別:アクティブ

描いた絵が具現化する。


ドリームペイント

・種別:アクティブ

対象が寝ている時に見ている夢を絵に描くことができる。


コピーペースト

・種別:アクティブ

文字、絵、様々な物をコピーし、別の場所へと貼り付けることができる。


リライト

・種別:アクティブ

文章や項目、原稿などを改訂し、再度書き直す事ができる。


イレース

・種別:アクティブ

様々な物を消す事ができる。


ライフプレッシャー

・種別:アクティブ

重圧の緊張を相手に与える。


カミングアウト

・種別:アクティブ

相手の秘密を自白させる。


 スカルドのスキルは【ジョングルール】【アオイドス】【ペインター】これら三つのジョブの上位版であろうか。

 攻撃系の魔法やスキルは無かったが、それでも中に気になるスキルがあったので早速試す事に。


「あー……あー……あー!? 凄い! フォルテの声にできた! 面白いな、えーっと、他には……」


 発動したスキルは〈ボイスレインボー〉。

 まるで変声機型の蝶ネクタイを付けた探偵の様に様々な声が出せるスキルだ。

 身近な人から試し、ミツはスキルの検証を楽しみ始めていた。


「我が名はバーバリ! 誇りに拘り過ぎてホコリをかぶらせた者なり! プッ、アッハハハッ!! 駄目だ、本人が絶対に言わない事言うと笑っちゃう! アッハハハハ!」


 ベットの上でバタバタと笑い転げるミツ。

 新たなスキルを得た彼の気分もご機嫌の中、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「あっ、ヤバッ、騒ぎすぎたかな。ごめん、五月蝿かった?」


「うニャ、何騒いでるニャ?」

 

「もう、リックですらもう寝てるわよ。ラルゴか誰か居るの?」


 扉を開けるとそこにはミツの部屋の左右に部屋をもらっているプルンとリッコが立っていた。 

 壁は厚く作っても流石に静寂が満ちる部屋の中ではミツの笑い声が聞こえて気になったようだ。  


「いや、今日は自分一人だよ?」


「そう……」


「……そうニャ。ミツ、少し話し良いかニャ? ウチとリッコ、ミツに相談したいことがあるニャ」


「えっ、プルン……。うん、ミツ、いいかな……?」


 プルンの言葉にリッコは少し驚きを見せたが、直ぐに彼女も話があるとミツに振り向き直す。


「えっ? ああ、別にいいよ。どうぞ(何だろう? 訓練についてかな? あー、ちょっと厳しかったから手加減して欲しいとかかな……)」


 プルンとリッコ二人の真剣な表情に断ることもできず、ミツはどうぞと二人を部屋へと招き入れる。

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