第305話 告白。

 ミツが新たに得たスキルを部屋の中で検証していると、プルンとリッコが訪問。

 真剣な顔に話があると二人の言葉に彼は二人を部屋に招き入れる事にした。

 

「どうぞ、好きな所に座ってね。あっ、何か飲む? 流石に冷たいのより暖かいのがいいよね」


「ありがとうニャ。ウチ、お茶よりスープが飲みたいニャ」


「はいはい。リッコは何か希望はある?」


「えっ? あ、私も同じので……」


「うん、少し待ってね」


「「……」」


 彼がアイテムボックスからインスタントのスープ粉をマグカップへと注ぎ、最近作った部屋でもお湯ができる魔導具に魔力を注ぐ。 

 ポコポコと次第と気泡が暴れだす音は聞こえるが、珍しくも二人とも何も話さない。

 カチッとお湯が湧いたことに自動で魔導具が停止する音がなる。

 木で作ったマグカップへとお湯を注ぎ、二人のもとへ。


「おまたせ。これ飲んだら寝る前はもう一度歯を磨きなよ」


「分かってるニャ。フー、フー。アチチニャ!」


「……」


 プルンは差し出されたスープに早速と口をつけては少し熱い思いをしながらフーフーと飲み始めた。

 リッコはマグカップから出てくる湯気から、チラホラとミツとプルンへと視線を巡らせる。。

 別に辛そうとかではなく、リッコはオドオドとした感じだ。


「……それで、話って何?」


「……」


「……」


「あれ?」


 互いと目配せを送って入るが、口を開こうとしないことに疑問に思っているとプルンがハーッと大きなため息を漏らした後に彼女が口を開く。


「ミツ、ウチ達この間領主様のお屋敷のパーティーに参加した時ニャけど、パメラ様とエマンダ様、それとミア様と話し合ったニャ」


「話したって、何を?(自転車の事かな?)」


「……ミツ、ミア様から婚約の話が来てるニャよね」


「ブフォ!」


 ミツがゴクリとマグカップに入ったスープを含んだ瞬間、プルンの思わぬ発言に盛大に口から吹き出してしまった。


「キャッ!!」


「汚いニャねー。リッコ、拭く物無いかにゃ?」


「ちょ、ちょっと待って! あっ、ミツ、この布巾使うわよ」


「う、うん。ケホッ! ケホッケホッ」


 少しだけ場が慌ただしくなってしまったが直ぐに気持ちを持ち直し、三人は椅子に座り直す。


「ふー……。うん、言われたよ。でも断ったよ」


「……」


 彼の言葉に口を開かないリッコ。

 彼女に一瞥だけ視線を向けたプルンは話を続ける。


「それは、なんでニャ」


「何でって……」


 リッコの居るこの場でそれを口にして良いのかと考える彼だが、それに気づいたリッコが口を開いてくれた。

 

「ミツ、私はあんたとプルンが恋仲だって知ってるわ。だから本心を聞かせて頂戴」


「えっ……。そう……なんだ」


「ニャ」


「分かった。ミア様に断りを告げたのは、その時既にプルンが自分の側に居てくれたからだよ。自分はプルン、君以外と付き合うつもりはないからね」


「!? ……ッ」


 ミツの口から告げられた彼の本心。

 その言葉を耳にした瞬間、リッコはまるで心臓にナイフを突き刺されたような痛みが強く走る。

 そして息も忘れ、静かに顔を俯かせる。


「うっ……ううっ……」


「えっ!? リッコ、如何したの!?」


「な、何でもない……ううっ、何でもないの……」


 何か聞こえると思い、ミツはリッコ方へと視線を向き直す。

 すると彼女の俯く先、床にはポタポタと水滴が落ちている。

 そして、ミツが声をかけても顔をあげようとしないが、彼女の目には涙が浮かんでいることは直ぐに分かった。


「ニャー。リッコ、落ち着くニャ」


「うっ、グスッ、うん……うん……」


「ミツ、ウチはミツの気持ちは凄く嬉しいニャ」


「プルン……」


「でも、それは駄目な選択ニャよ」


「……」


「正直言うと、ウチ一人でミツのやる事全部止めることもできないニャ」


「それは……」


「ニャ、今は黙って聞くニャ」


「はい……」


「……ミツ、ウチを好きで居てくれるなら、周りの女の子も好きになって欲しいニャ」


「……」


「ウチはミツを独り占めする気も無いし、寧ろヘキドナ姉さんや、エクレア姉さんとも一緒に幸せになりたいニャ。……それと、リッコも」


 ミツは突然ヘキドナとエクレアの名前が出て来た事に彼女に少し反応を見せてしまうが、リッコの声が彼の意識を向けさせる。

 

「……。リッコ」


「ううっ……」


「リッコ、泣いてる時じゃないニャよ! 今言うニャ!」


「……うん」


 プルンの言葉に俯いていた顔を上げるリッコ。

 目元や鼻を赤くして、プルンから渡された布で涙を拭う。

 プルンの優しさは良いけど、その布、さっきミツが吹き出したスープを拭いた布ですよ。


「ミツ……」


「うん……」


「私は自分でも分かってるけど、いつも我儘言ってるし……、そんなに可愛くないし……、口煩くて面倒くさいし……、ミーシャ達みたいにスタイルも良くないからあんたの趣味じゃないかもしれないけど……」


「いや、リッコは良い子だし、自分の中では可愛い方にも入るよ」


「「……」」


「んっ?」


 フォローの言葉を入れたつもりなのだが、何故か二人の視線が細められている。

 それに何故なのか気づいてないニャとため息を吐くプルン。


「はぁー。ミツ、最後の奴の返事が抜けてるニャ」


「あっ! えーっと、そ、そうだ! リッコはスラッとした良い身体してるよ! うん!」


「流石何回もウチ達の裸を風呂場で覗いたことはあるニャね。説得力が無駄にあるニャ」


「プ、プルンさん!?」


「フフッ……。そうね、ミツはエッチな奴だったわよね」


「いやいや、リッコさん、アレは全部事故で……」


「だから……その……。エッチなあんたとしては、私は魅力的な女に入るのかなって……」


 その言葉に思い出すは幾度も目にしたリッコの裸姿。

 それを思い出したのか、彼は頬を染めコクリと頷く。


「そ、それは……。はい……」


「……そう。ほ、褒められているのよね? それで……。私は……。私は! そんなあんたでも受け入れることができるわ!」


「リッコ……」


「あんたの強いところも! 誰にでも優しいところも! リックみたいな莫迦な事をするところも! その……全部! 全部好きなの!」


「リッコ……」


 ガバッと椅子から立ち上がり、前のめりに目の前の少年へと気持ちをぶつける。


「好きなの! 好きなの……。私は……あんたが好きなのよ……。だからお願い……。プルンの次でもいいの……ううん。あんたの事が好きな女の子は他にも居るの……そのこたちの次で良いから、私を貴方の側に居させてください……。お願い……します」


 それはリッコの告白だった。

 顔を真っ赤にして、止めどなく彼女の目からは大粒の涙が溢れている。

 ミツの気持ちを聞いた後のこの言葉。

 優しいミツはプルンの事を思って断るかもしれない。

 怖い、怖い、怖い。

 断られるのが怖い。

 今目を背けたら二度と彼と目を合わせることができなくなるかもしれない。

 不安と恐怖、そして自身の心を殴りつける思いと吐き出した本心。

 リッコの爪が白くなる程に強く握る布。

 一度きりの告白。

 本当に好きなら二度三度と告白をすればいい。

 でも私にその勇気はない。

 これが最後。最初で最後の告白。

 彼の返答をどれくらい待っただろう。

 一分、五分、十分。

 いや、本当は30秒も経ってはいない。

 それなのに静寂が満ちるこの部屋では、その数秒が恐怖の時間だった。

 ああ、これは駄目なんだなと、彼女が諦めた笑みを無意識に浮かべたその時だった。

 

「リッコ」


「! ……」


 沈みかけていた顔が彼の言葉に引き上げられる。


「ありがとう」


「……」


「何でそこでありがとうニャ」


「いや、ここ迄熱烈な告白をされた事が今迄経験がなかったから、思わず?」


「ふーん。ウチの時はお礼なんか言われた事無かったニャ」


「あれ? そうだっけ? じゃ、ありがとうプルン」


「ニャニャ!? ついで感覚にお礼言われても嬉しくないニャ!」


「……ミツ」


「ああ、ごめんね」


「!? そ、そうだよね……私は」


 ミツのその言葉にまた心臓にナイフを突き刺されたような痛みがはしり、また涙が溢れてきた。


「えっ!? いや、違う違う! さっきのごめんねは話を止めてごめんねって事で、リッコの返事とは違うから」


「そ、そうなんだ……良かった……」


「紛らわしいニャ〜」


「プルンがちゃちゃ入れるからでしょうが。……リッコ、君の気持ちは男として凄く嬉しかったよ。実は前にゼクスさんとセルフィ様にも言われたんだよ」


「……」


「自分は旅人だから、皆と考えが違うところがあって、好きな人や、結婚する相手は一人だって思ってたんだ。ダニエル様の様に貴族様だけが、一夫多妻、若しくは一妻多夫の考えとおもってたし」


「今は……」


 リッコの質問に目を伏せるミツ。


「……正直言うと分からないんだ」


「……そう」


「でもね。自分は……その……プルンも好きだし、リッコの事も同じくらい……好きに慣れたらなって……思ってる……よ」


「!?」


「ニャー。要するに今はそんなにリッコの事が好きじゃないニャ?」


「そうなの……?」


 フォローのつもりなのか、邪魔したいのかプルンの言葉に百面相するリッコの表情。

 いや、プルンの言葉はその場の話を止めない為だろう。

 それを分かっていてプルンも半端悪役みたいな事をやってる気がする。

 そりゃ、大切な仲間でもあり、友達であり既に親友とまで思える二人の中だ。

 彼女の気持ちもリッコと同じなのだろう。


「いやいや! なんでそうなるの!? ……ああ、もうっ! 分かった! 言います! 男としては二人を自分の女にしたいです! 誰にも渡したくないから、自分と付き合ってください!」


「やけくそ感が感じるニャ〜」


「五月蠅いよ。……んっ?」


「うっ……うっ……」


 俯くリッコ。

 また彼女の目からはポロポロと涙が出始めていた。

 

「ニャー! ミツが適当な告白するから泣かせたニャ!」


「えっ、えっ!? 適当にしたつもりはないよ!?」


「ううん……違うの……違うのプルン。……嬉しいの。こんな私でも、ミツは認めてくれたんだなって……ううっ」


「リッコ……」


「ミツ、何をボサッとしてるニャ。そこで抱きしめるくらいの事はしてやるニャよ」


「えっ!? い、いいのかな? あっ、いいんですね……。それじゃ……」


 プルンから背中を押された思いと二人は包容を交わす。

 嬉し涙は暫く続いたが、次第とリッコの中では嬉しさが増してきたのだろう。

 ニコニコと嬉しそうにミツの隣に座る彼女をプルンも嬉しそうに見ている。 


「それでミツ」


「んっ?」


「ミア様は如何するニャ? リッコを受け入れたなら、ミア様もミツは受入れるニャよね?」


「う、うーん……。それって本当に良いのかな……」


「何言ってるニャ。まだまだミツの嫁になりたい女性は居るニャよ」


 ミツは前世でも経験したことの無い程のモテ期話に驚き続き。

 別に女の子に良い格好していた気もなければ、彼は趣味のスキル集めをしてこの世界を楽しんでいただけだ。

 何処にそんなにも女性からモテる様な要素があったのか全く思いつかないミツは朴念仁の塊である。


「んー。プルン、それって私達が言っても良いのかしら?」


「ニャー。でも言わないと、リッコみたいにまたウチか今度はリッコがその娘をミツとの話し場に合わせないといけなくなるニャよ」


「そ、それはそうだけど……。結局は本人の言葉でミツに好きだって言ったほうがあの娘達の為にもなるんじゃないの?」


「そうニャね……。でも二人だけは名前を出しても大丈夫ニャ」


「プルン、その人って」


「そうニャ。ヘキドナ姉さんとエクレア姉さん。二人ともウチとリッコと同じでミツの事が好きだって領主婦人様の前で言ってたニャよ」


「うわっ、エマンダ様の前で言っちゃったのか……」


「……」


「だから二人もミツは受け入れてあげるニャ」


「それは……そうだろうけど」


「ねぇ、ミツはヘキドナさん達がミツを好きだって知ってたの?」


「えっ!? あ、えーっと……はい」


「ならその二人も既にミツの恋人じゃないのは何でなの?」


「それは……」


 口ごもるミツ。

 ここで莫迦正直に二人が自身の初体験の相手ですなんて言ったら相手は幻滅するかもしれない。

 そんな彼の姿にプルンはふーっと軽く気持ちを整え口を挟む。


「……ミツ」


「プルン」


「ウチ、実は二人がミツとの隠し事をしてるのを知ってるニャ。ってか、ヘキドナ姉さん本人から聞いたニャ」


「!! プ、プルンさん! あ、あの、その……」


「あー、別に言わなくていいニャ。それにその話を聞いたのはウチとミツが恋仲になる前の話ニャ」


「ぐはっ!? つ、つまり……あの時、すでにプルンさんは……」


「知ってたニャ」


「ガハッ」


「ミツ!?」


 膝から崩れるとはこの事か。

 別にプルンと付き合う前の事だけに浮気に入らないだろうが、今付き合っている女の子から本人の経験話を知られているのは物凄く複雑な気分になる。

 それを淡々と話すプルンは何も思わないのか。

 いや、ある意味これは彼女の仕返しなのだろう。

 今言って置かなければ、もしかしたらまた彼は流されて知らない女性との関係を持ってくるかもしれない。

 二人の会話に疎外感を感じたのか、リッコが話に入ってきた。


「二人とも、なんの話をしてるのよ? みつ、あの人達との隠し事って何なの?」


「えっ!? そ、それは……」


「プルンは知ってても、私は知っちゃ駄目なことなの……?」


「いや、知ってはいけないと言うか、知らないほうが良いかもしれないと申しますか……」


「ミツ、多分リッコにはいずれ知られるニャ。それなら今言っておくニャよ」


「うえぇ!? プルンさん、言っちゃうんですか!? ってか、言っちゃっていいの!?」


「ミツ、良いの? 本当に秘密のことなら私は聞かないわよ……」


「ううっ……じ、実は……」


 プルンの言葉も確かだろうが、自身の体験談を異性に話すなんて何の罰ゲームなのか。

 戦いの時とは違う、また別の緊張感が場を包んでいる気がする。

 いや、ある意味これは戦いなのだろう。

 話す内容が真面目な話ではなく、実は猥談だっただけにリッコの顔がまた赤くなっていく。

 冒険者ならよく聞く話でもあるし、男女のパーティーを組んでいる冒険者ならば、互いの欲求を溜めないためにも抱き合う人も居るようだ。

 リッコ達は兄妹だけにそんな事はないが、母親のナシルから話を聞かされているリッコに嫌悪感を抱かせることはなかった。

 

「そ、そうなんだ……///」


「うう……///」

 

 簡易テーブルに顔を突っ伏す姿のミツになんと言葉をかければ良いのか分からないリッコだが、隣に座るプルンがしたり顔だけに既に二人が男女として何方が上なのかがよく分かる構図でもある。

 しかし、ここでそのプルンの顔色も変えてしまうリッコの言葉が時を止める。


「な、なら、プルンもミツと、その……やっちゃったの?」


「フニャ!?」


 彼女から聞いた事のない鳴き声にもにた声が口から漏れる。

 その態度が答えを証明した様なものだけに、テーブルに突っ伏したミツの顔も赤くなるもんだ。


「ははっ……あー、プルン。貴女のその反応で分かったわ。ご、ごめんね、変な事聞いて……。そうよね、恋仲なんだからそう言う事もするわよね……///」


「ううっ……ニャー!」


「プ、プルン!?」


「どうしたの!?」


 思わぬ質問に羞恥心が爆発してしまったのか、頭を抱えて椅子から立ち上がるプルン。

 

「そ、そうニャ! リッコももうミツと恋仲ニャ! リッコもいずれウチと同じ経験をするニャよ!」


「なっ!?」


「ちょっとプルン!? 止めてよね!」


「なんでニャ!? リッコはミツが嫌いニャか!?」


「き、嫌いじゃないわよ!? でも……そう言うのは……ちゃんと手順を踏んでと言うか……、その、ムードがある時に……って、何言わせるのよ! ミツの莫迦!」


「ええっ!? 自分なの!?」


「そうニャ! ミツがスケベなのが悪いニャ!」


「いや、だから何でそうなるの!?」


「だって、だって……ううっ///」


 三人は顔を赤くしながらも互いの気持ちをぶつけるような言葉の押し合い。

 別に誰が悪いなどの結果は出なくても、その場の羞恥心にただ単に耐えれなくなっただけなのだろう。

 結果、夜中にも関わらずその後も互いの思いを話し続ける三人。

 話が続けばミツの周りにはまだまだ女性が増えることをまるで確定のように話し出す二人。

 【英雄色を好む】と言うが、この世界にはそれに似た言葉があり、【剣は英傑の元へ集え】と言う言葉がある。

 意味は似たような感じだが、この場合は剣=戦闘のできる女性、若しくは男性であり、そして英傑=異性である。

 名だたる剣士の元にはその人に憧れ弟子となりたい人や、その人に嫁ぎたい人が勝手に集まるカリスマの高い人の事だ。

 ミツの場合にそれが当てはまり、正に今の状況が言葉通りとなっている。

 

 フッとミツが時計へと視線を向ければ、既に夜中の1時に当たりそうな時間。

 明日も二人は訓練があり、ミツは冒険者ギルドに行かなければならない。

 もう寝ようかの言葉に同じ様に時計を見た二人も同意。

 ミツは流し台の方に行き〈ウォッシュ〉で出した水を口に含みうがいで済ませる。

 下手に歯磨きするよりもデンタルケアの様にこっちの方が口の中は綺麗になるので彼の歯磨きといえばこれになっている。

 プルンとリッコにも同じ様に含ませておいた。

 さて、あとは寝るだけだと思っていると、いそいそとプルンとリッコがミツのベットへと入っていく。


「あの、お二人とも、何をされていますのでしょうか?」


「ニャ、折角なら今日は三人で寝るニャ」


「べ、別にいいでしょ!? あんたのベット、無駄に大きいから寝てみたかったのよ!」


「いや、そりゃラルゴ達も一緒に寝れるぐらいの広さに作ったからね」


 ミツの部屋の広さは16畳とかなり広め。

 家の主だけに特別と言う意味でもあるが、部屋においてあるベットが大きいのでその分キングサイズのベットで寝ている。

 それを言うならプルン達のベットの大きさも最近変え、シングルからセミダブル並の大きさに変えたんだけどなと思っていたが、ここで断ったら明日ネチネチと小言が言われそうだなと彼は早々と諦めることにした。


「ふー。良いわね、手足が広げて寝れるベットも」


「そうニャね〜。ミツ、もっとそっちに行くニャ」


「いやいや、ど真ん中に寝てる自分に動けってどう言う事よ?」


「いいから、もっとそっちに行くニャ!」


 布団の中を潜り込ませたプルンの足がミツの体を押してきた。


「分かったから、分かったから冷たくなった足を当てないでよ。もう、リッコ、ごめんね」


「べ、別に……///」


 川の字に寝る三人。

 別にやましい事をする訳でもないが、ドキドキと誰かの心臓の鼓動を早くする。


「……」


「リッコ……」


「ミツ、ありがとう……」


 リッコはそれ以上何も言わず、ミツの手を両手で握り締める。

 暖かく柔らかな感触だと思っていると、反対側の手ももう一人の女の子に握られてきた。


「ミツ、新しい恋仲ができたからってウチを忘れないで欲しいニャ」


「フッ。大丈夫、二人を悲しませる事はしないように必ずするよ」


「約束ニャ」


「その言葉、忘れないからね」


 そうして二人は愛しい人の腕を抱き枕として静かに眠りに落ちていく。

 ミツも両側の人の体温に落ち着いてきたのか、睡魔を引き寄せ、静かに眠りに落ちていく事にした。


「「……」」


「……すー。……」


 どれ程の時間が経ったのだろう。

 抱き枕状態だったミツは寝息を立てるほどに熟睡状態。

 でもやはりこんな状態で深い眠りに落ちる事が彼女にはできなかった。

 緊張と嬉しさ、この時を無駄にしたくないと一度は目をつむったリッコだったが、彼女は無意識と目が覚めてしまっている。


「(はぁ〜、良かった、夢じゃない)」


 一度瞳を閉じた彼女は短い夢を見ていた。

 それは先程のやり取り。

 ミツと恋仲になった瞬間、正に彼女は夢から覚める思いと意識を取り戻している。

 強く抱きしめていた筈の腕は自身で力を緩めていたのか。

 それでも自身と彼の手は握られたままに温かい。

 少し汗が滲んだ掌だが、気持ち悪いなんて思えない。

 ミツが起きないようにとスッと体を起こすと、見下ろす彼の寝顔が愛おしく見えてくる。

 

「ミツ……」


 無意識と口にする彼の名。

 そして静かに、彼が起きませんようにと願いつつ彼女は彼の唇へと自身の唇を当てる。

 いけない事と分かっていてもやってしまった背徳感もあるが、それを増した高揚感が彼女に淫靡な笑みを作らせる。

 一度だけじゃ抑えきれないこの思い。

 リッコは本人が起きてしまうのではないかと思う程に何度と彼の唇をついばむ。

 

「(好き、好き、大好き)」


 声に出さずとも目にハートを浮かべるリッコが止まらない。


「ジー……」


「……。あっ……」


「ジー……」


 嬉しそうに笑みを作っていたリッコだったが、フと視線を変えればプルンの瞳がパッチリと開けられ、ニュフフとした口元へと変わっていく。


「プ、プルン、違うの! これは……その」


「ニュフフ。ウチは何にも見てないニャ」


「ううっ……」


 自身のやってる事が改めて恥ずかしくなったのか、リッコは布団に隠れるように顔までスッポリと隠してしまう。


「別に恥ずかしがる事ないニャ」


 そう言いつつプルンはいつも同じ事やってますとミツの唇を優しく奪う。

 この世界では寝ている殿方への接吻は愛情表現の一つとされている。

 寝ている時でも貴方を想っています。

 本来これは寝ている子供へと母親が頬に軽いキスから始まった事なのだが、次第と女性からの男性への本人は知らず知らずのアプローチ行為なのだろう。


 数時間後。


 朝日が三人を起こし、プルンとリッコはミツのゲートを使い自室へと移動していく。

 ミツの部屋から二人が出ているところを誰かに見られると、もしかしたら気まずくなるかもしれないとの事。

 隣の部屋同士なのだが、そこは念には念を入れての行動だった。

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