第303話 ポタミア。

「「「……」」」


 朝の目覚め、村に住むリックたちは窓の外に見える光景に絶句の一言であった。


「おはよー」


「「「……」」」


 ミツが寝起き眼にいつものように椅子に座り、当たり前と精霊の誰かが彼の朝食を差し出す。


「おっ、今日はホットドックか。いいね〜」


「マスター、サイドメニューはポテトとコールスローサラダがございますが、どちらになされますか?」


「勿論両方でよろ〜」


「はい。直ぐにお持ち致します」


「「「……」」」


「ねえ、皆如何したの? ご飯食べないの?」


 一向に動かない仲間たちを見つつ、ミツが近づけばリッコが窓の外に指を指す。


「あ、あれ……ミツがやったの?」


「えっ? どれの事……。えっ!?」


 彼が視線を向けた先、そこには村を囲んでいた壁からでも見えてしまう程に大きなその姿。


「あれは……木? でも、何で……。あっ!」


 壁越しでも見えてしまうその姿。

 それは大きな樹木が姿を見せていた。

 方角的にミツは聖木に魔石を埋めた場所だと直ぐに察した。


「はぁ……。やっぱりアンタだったのね……」


「ニャー……でっかいニャ〜」


「いや、デカすぎだシ」


「坊や、何をやったんだい……」


「えっ? あー、ちょっと植物の栄養となる物を。ほら、前にも話しましたけどこの村の畑で検証をしたって言ったじゃないですか。それに近い事を」


「あー、なるほどな。ミツ、あれってそのままにしといて大丈夫なんだよな?」


「う、うん。ただの木だからね。問題はないよ」


「そっか。さー、問題は解決だ。俺達も飯にしようぜ」


「リックはお気楽ねー。でもミツ君がやった事って分かればその考えになるわよね。ミミ、私達も食べましょう」


「うん」


「マネさんもお腹空いてますよね? 早く食べないとリックに全部取られちゃいますよ」


「おっ! それは急がないとね。リッケの兄さんもアタイと同じくらい食べるからね。お前さんも負けずにしっかりと食べなよ」


「……リーダー、私達も彼の側に居ると、あの娘達みたいに図太くなっちゃうんですかね?」


「……エクレア、諦めな。既にシュー達はその内だよ」


「ほんとだ……」


 村人達もやはり外に出れば大きな樹木の出現に騒いでいたが、ミツがやった検証と言えば皆は納得してくれたのだろう。

 驚いたなや凄いねと、そんな簡単な言葉だけで場が落ち着いてしまっている。

 本人が言うことでもないが、本当にそれでいいのか、村人よ。

 

(主様!)


「おっ、シャープ、おかえり。聖木の周囲はどうだった?」


(はい、木の周りは以前と同じように新たな木が生えておりました。それとその聖木に客が付いております)


「えっ、客? 付くってなに?」


 シャープの言葉に疑問符を浮かべるミツ。

 自身の目で見た方が良いと、シャープに聖木の方へと促され、一緒に行くと仲間達も同行する事になった。


「デカっ!! なんだよこの莫迦デケェ木は!」


「これ一つで家が何件建てれるでしょうね……」


「周りの木も凄い大木ね。ミツ、ホントあんた何したのよ?」


 ミツはリッコの質問に答えることもできず、さらりとスルーしては聖木を鑑定する。

 すると鑑定表記はどことなく納得してしまう結果を見せた。


「世界樹……か……」


 鑑定の結果、表記された聖木は世界樹と名を変えていた。

 いや、以前よりも何倍もの大きさの魔石を埋めた事も原因だろうが、一番の原因は豊穣神の加護と、土の女神の加護、この二つが原因だろう。

 事実、七柱から加護を受け取る際には、リティヴァールから聖木が急成長するわよと言葉を貰っていたのだ。

 しかし、僅かな時間にこの結果。

 神と女神の加護は、物理法則を無視するには十分なのだろう。


「おいっ、アレってなんだ?」


「えっ? どれ?」


「ほら、あの枝の隙間……。あっ、動いたぞ!」


「本当ニャ! 何か動いてるニャ。……ニャニャ!? あれはキラービーニャ!?」


「えっ!? モンスターかよ!」


「んー、シャープの言ってた客ってあれのこと?」


「ワフッ! (主様、あれはキラービーではありませんよ)」


「えっ? 違うの? 確かに、何かモサモサと毛が生えてる」


 シャープの言葉に見間違いかと思いそれを鑑定。

 

グノーシスビー 

Lv25

スキル無し


「なんだ、ただのデカイ蜂じゃないか」


「えっ……」


 スキル無し、その項目表記だけでも彼にとっては興味をしめさなくなってしまう相手なのだろう。

 しかし、それでもアレはモンスター。

 彼は住み着かれては困ると一応話してみることにした。

 世界樹の高さもある為、他の皆では倒すのは難しいだろうと言葉を残し、ミツはグノーシスビーのいる所へと一気にジャンプする。


「わおっ! 身軽ね少年」


「よっと。君、何してるの?」


(ヒッ!?)


 グノーシスビーは木に隠れていたつもりだっただけに、突然後ろに誰かが現れたことも驚きだが、会話ができることに困惑する。


「君、ここで何してるの? まさか巣を作ろうとしてる?」


(あの、あの……)


「ああ、取り敢えず質問に答えてもらえるかな?」


(ううっ、うわーーん!!)


「えっ?」


 突然泣きだしたグノーシスビー。

 ミツの威圧的な魔力に当てられたのかと思ったが、グノーシスビーは別の事に泣きだしてしまったようだ。

 話を聞けば、近くの森で巣を作って子育てに頑張って冬籠りをしていたところ、グノーシスビーの蜂蜜を狙ってオークが現れたそうだ。

 グノーシスビーは仲間と共にオークに立ち向かったが、大きさと数には勝てなかったのか、次々と子供達は食べられ、更には頑張って造った巣も壊されてしまったそうだ。

 最悪なことに産まれたてのまだ卵も全て持って行かれてしまった悲劇。

 目の前のグノーシスビーは女王蜂なのか、二匹の兵隊蜂に引っ張られるようにその場を撤退。

 深手を追っていた兵も死んでしまい、残された自身は意気消沈と辿り着いたのがこの世界樹だそうだ。


「そ、それは……お辛かったでしょう」


(いえ……。私もこれで子供達のもとに行くでしょう……。さっ、一思いに殺りなさい!)


「……」


 覚悟を決めたグノーシスビーは頭を伏せたまま動かない。  

 いや、よく見れば小刻みに震えているのが分かってしまう。

 それは我が子を殺されてしまい、何もできずに無念のまま死んでしまうことに対しての気持ちの現れなのかは、それは本人しかわからないこと。


「はぁ……。そうだ。ねえ、話を聞くと君の種族は蜂蜜が作れるの?」


(……はい)


「そっか。なら相談なんだけど」


(……)


 ミツの言葉に絶望の先しか見えなかったグノーシスビーの大きな瞳に光が差し込む。

 世界樹の枝の隙間を通り抜け、ミツが差し出した手にその光が落ちる。


「自分と契約して、家族の無念をはらさないかい? それが終わればこの近くで住んでくれると助かるな」


 天使と悪魔、二つの言葉がグノーシスビーに語りかけられる。

 目の前の人族の言葉に恐怖と言う言葉もチラつくが、大切な家族の事を思い出せば、グノーシスビーにそれは一択の答えしか出せないだろう。


(その言葉が本当なら……。お願いします!)


 グノーシスビーは差し出された手に自身の頭の触覚を当てが得る。

 するとミツの〈テイム〉が発動。

 オレンジ色の光に包まれたグノーシスビーは主であるミツへと改めて頭を下げる。


「分かった。君の無念、必ずはらそう(クックックッ、養蜂ゲットだぜ)」


 こうして村の発展の為と新たなモンスターをテイムしたミツ。

 彼は肩にグノーシスビーを乗せて下へと下りる。

 あっ、グノーシスビーの大きさは30cmと肩に乗せるには丁度いい大きさです。


「よっと。おまたせ」


「おっ、おい、そのモンスター如何したんだ……?」


「ちょっと理由あってテイムしてきたんだ」


「テイムって、またかよ」


「まーまー、キラービーみたいな危険なモンスターじゃなさそうですから良いじゃないですか。寧ろミツ君がテイムしたなら尚更良かったじゃないですか」


「しっかし、どんどん増えていくわね。次は何をテイムする気なのよ」


「さー、自分は村の為になるなら何でも歓迎なんだけどね」


「村のためって、そのモンスターも村の役にたつのか?」


「うん、この子、蜂蜜を作ってくれるからね。食卓に出せたらなって」


「は、蜂蜜!? そんな高級な食材がモンスターから取れるの!?」


「えっ? う、うん」


「やった! 蜂蜜が食べれるわ!」


「シシシッ。蜂蜜は小瓶一つで金貨5枚の価値がつくシ」


「そうよね。蜂蜜ってかなり高級な食べ物よね。少年、良くやったわ!」


「へー……蜂蜜ってそんなに高く売買されてたんだ。でもねぇ……」


「ミツ君、どうしたんですか?」


「いや、この子の巣がオークに壊されたみたいで、多分直ぐにはこの子の蜂蜜は取れないんじゃないかなと思って」


「「「「なっ!?」」」」


「まぁ、食べたいなら自分が……」


「ミツ、今からオークを倒しに行くシ!」


「えっ!? シューさん?」


 シューの突然の提案に戸惑うミツ。

 しかし、彼女の気持ちは周囲の女性も同じ気持ちなのだろう。


「蜂蜜の怨み、オーク、滅ぶべし……」


「許さない、私達の蜂蜜を……」


「皆、行くわよ!」


「「「「おおっーー!!」」」」


 勢いそのままとゲートに入り、リッコ達は戦闘準備と各自の部屋へと戻ってしまった。

 ヘキドナもやれやれと妹たちに付き合うように戻ってしまう。


「……蜂蜜なら自分が出せるんだけど」


 そう言ってミツはアイテムボックスから瓶に入った蜂蜜を取り出し見せる。

 これは人工的に作られた市販品の蜂蜜ではなく、養蜂家に社会科見学と行ったときに食べさせてもらった本物の蜂蜜だ。

 なんとそのお値段100gで2000円だ!

 さて、それを見た残された面々、男組は驚きつつも苦笑を浮かべるしかできなかった。


「出すのが一歩遅かったな。まぁ、オークを倒せば肉も手に入るだろ? それに訓練の成果を試してみてえからな」


「それに村の近くにオークがいてはミツ君も不安ですよね」


「オークか……俺戦ったことないから分かんねえけど、訓練どおりにやれば大丈夫だよな?」


「ええ、オークの数にもよりますが、トトさんも十分強くなられてますからね。自信を持って大丈夫ですよ」


「だな! さっ、俺達も準備に行こうぜ!」


「ですね」


「はい!」


 リック達も気合を入れ戦準備とゲートをくぐる。

 自分も準備するかとミツがゲートに進む等したとき、後ろから伏せ状態のシャープが言葉をかけてきた。


(主様、是非とも私も連れて行ってくださいませ!)


「シャープも行きたいの?」


(はい! 主様のお力にて進化しましたこの体。お役に立てますなら!)


「そうだね。ならアン達も連れて皆で行こうか」


(はい! ……あなた、グノーシスビーと言ったかしら?)


 改めてゲートに足を向けるミツ。  

 その後ろでは何故かシャープがグノーシスビーへと厳しい視線を向けていた。


(は、はい……)


(主様の御慈悲にて獣魔にしてもらった事、またその主様ご自身があなたの為に動かれるのですわ。心より礼を告げるのが筋ではなくて?)


(そうでした……。主様、この様な私にお力をお貸しいただき、心より感謝を伝えます)


「いいっていいって、そう言うのは全部終わってからにしよう。あっ、君にも名前を付けないとね」


 呼ぶ時に固有名称がなければやっぱり不便と思い、ミツはグノーシスビーへとシャープたち同様に名を授けることにした。


「よし、ポタミアで。昔話だけど、メソポタミアって所でも蜂蜜を取ってたみたいだからね。安直だけど、いいかな?」


(ポタミア……。はい! 主様から頂きましたポタミアの名、喜んで今後も名乗らせていただきます)


 こうしてグノーシスビー、改めてポタミアと進化したばかりのシャープ達をつれて共にオーク討伐へと向かうことになった。


 フォルテ達精霊に頼み、上空からオークの住処を捜索。

 雪も降っておらず、晴れていたことが功を奏したのかオークの巣が見つかった。

 これも冒険者としての訓練を兼ねて、目的の場所までは皆歩く事に決まった。 

 実際、冒険者は目的の場所まで歩き、その疲労を抱えた状態で戦闘に当たることが多いい。

 リック達の様に若いうちからミツのゲートに頼りすぎるのは、彼らの身体を鈍らせるとのヘキドナの言葉だ。

 帰りはゲートを使う事は良いとしても、最初っから甘えた方針はヘキドナは好みではない。

 まぁ、それが冒険者としては当たり前の考えなのだから仕方ない。

 彼女もシューを偵察として向かわせることはあるので、フォルテ達が先にオークの居場所を特定しておくことは当然だねとそこは褒めの言葉をもらったよ。


 そして森と山の中を歩く事5時間。

 平地を歩くと違い、山の中では進みも悪いが、更に雪の山道が移動速度を更に遅らせた。

 冬場なので獣は出ないが、顔に触れる冷たい風が痛みを走らせる。

 白い息もハァハァと絶えず、ラルゴが偵察から戻ってきた。


(主様! この先に目的の豚どもが居ました!)


「ふー、やっとか。皆、この先にオークの巣があります。ここで支援を回しておきますので、準備が居る人はお願いします」


「やっと着いたっての。さて、ここまで来るのに十分体は温まったよ! ウッドのあんた達は無理して前に出るんじゃないよ!」


「はい!」


「み、皆さんが怪我をした時は、私が治します!」


「アイシャはラルゴから離れないようにね。この子達が前衛として守ってくれるから」


「うん。ラルゴ、よろしくね」


 マネの言葉に緊張と返事を返すトトとミミ。

 アイシャの足元に守護兵の様に彼女を守るラルゴは、任された責務を果たす為と尻尾を大きく振っている。

 

「ミツ、先にウチが行ってくるシ。大体の数は数えてくるよ」


「分かりました。シューさん、自分が支援をかけますのでその後に数の偵察をお願いします」


「シシシッ。任せるシ」


 シューは雪道の中、を音もなく姿を消した。

 オークの巣は洞窟の中と外で分けてある。

 恐らく中に入りきれなかったオークが外に出されてるのだろう。

 中に居るオークの数はシューが戻ってきたら分かるので、ミツはスキルを使い遠目にてオークの数を数えていく。


「16……17……18……。19……。19体だね」


「19って……ヤバイね……。その数だと中に居るオークを合わせれば下手したら30を超えるじゃない」


「……」


「リック、如何したんですか?」


「いや……別に……」


「何よ、言いたいことがあるならちゃんと言ってよね!」


「ああ、別に言いたい事って訳じゃねえよ。ただ、これを言うと油断してるとか勘違いされそうだから言わなかっただけで」


「だから、何をよ?」


「……30体のオークが少なく感じるのは俺だけかなと。いや、訓練で1000以上倒してるだろ!? 多分そのせいで感覚が麻痺してるんだと思ってよ」


「うん。リックの言うとおりね。私も同じ事思ってたわ」


 リックの言葉に同意とローゼが言葉を挟む。


「リックやローゼさんがそう思うなら訓練の効果は出てるね。モンスターの数に気圧されて、萎縮したら本来の力が出せないってのは戦闘では危険だよ。勿論相手の数に舐めてかかっちゃそれも問題だけどね」


「ああ、多分だけどよ。俺も皆もミツの訓練受けてなかったら、オーク30体の言葉に気持ち緊張してたかもしれねえな」


「フッ、坊やの訓練も度胸をつけるには十分な訓練だったって事だね。でもお前ら、言っておくけど相手はオーク。坊やが出した手下のアンデット共とは違って今回は本気で命がかかった勝負だよ! 油断したところを相手が手を止めてくれるなんて甘ったれた考えは捨てておきな!! 特に娘共は豚共に捕まったら苗床にされることを絶対に忘れず、一定の距離を置いて戦いを行うこと! わかったね!?」


「「「「「はいっ!!」」」」」


「坊や、今回は私達が行くから、坊やはサポートに周りな」


「分かりました。誰かが危険なときは自分も支援から後衛のアタッカーに動きを変えますね」


「ああ、それでいいよ。まぁ……坊やの出番も今回は無いだろうさ」


「それはそれは。なら取り逃しは自分に回してください。アン達の強さの検証も行いたいので」


「……。因みに坊や、その犬っころの強さはどれくらいなんだい?」


「んー。如何でしょう。実は自分もアン達が戦うところを見たことないので、何とも言えませんね」


 ミツの言葉にアン達はご安心くださいの言葉を返し、忠犬の如く綺麗なおすわりを見せている。


「フンッ、欲張りすぎて怪我させるんじゃないよ」


「ハッハッハ。それだけは自分も嫌ですから必ず阻止しますよ。と言う事でアンとシャープとドルチェは逃げ出そうとするオークを倒してね。あっ、できればで良いんだけど、原型は残しといてね。後で村人の人達にもおすそ分けするつもりだから」


(((主様のお望みのままに!)))


 アン達は言葉を残すように森の中へと姿を消す。

 彼女達にかわって、シューが戻ってきた。

 彼女の偵察では洞窟内は思ったよりも広く、オークジェネラルなどの進化種も含めると30体は居たようだ。

 捕まっている人はおらず、あちらこちらに動物の骨が散乱して悪臭に気分を害したと愚痴られてしまった。


「それじゃお前ら、豚掃除と行こうじゃないか!」


「ニャニャ! 肉どっさり! 蜂蜜たっぷりニャー」


「「「おおっー!!」」」


 気合を入れ、冒険者達がオークの巣へと雪崩のように突撃を開始する。

 ポタミアも家族の敵討ちと戦闘に参加したいだろうが、ポタミアはスキルもない為に戦闘には不向き。

 その為、このオークの巣を纏めている一番の強者へと恨み辛みを果たしてほしい。


 まー、戦闘の内容は省略させて頂くが、圧倒的な力の差が結果を見せた。

 なんせアイシャを除けば全員が上位ジョブである。

 一人でもグラスランク冒険者が倒すアースベアーを倒せるほどの力を持つのだから、オークに遅れを取ることはなかった。

 奇襲をかけたのも効果はあったろうが、それを除いても彼らは強かった。

 なんせヘキドナの予想通りにミツが動くことなく戦闘が終わったのだから。

 そう、ミツが動くことなく……要するにスキルを取る事もできなかったその圧倒的な力を仲間たちは見せてくれた。

 先ず先行部隊として走った五人の戦士達。

 マネ、ライム、リック、リッケ、トト。

 この五人が既にオークとの戦闘に差をつけている。

 マネはリッケを側につけ、オークを一刀両断。

 リッケもマネの後方から〈オーラブレード〉を放ち、オークの足を止めていく。

 続けてトトがトマホークを両手に持ち、オークへと〈チャージアックス〉のスキルを振り下ろす。

 小柄なトトが大柄なオークを一撃で倒した事に本人も驚き。

 動きを止めてしまったトトに他のオークが攻撃を仕掛けるがそれをリックの〈城壁〉すきるが全てガードする。

 すみませんのトトの言葉にリックは厳しく注意するも、倒したオークを見ては良くやったとトトを激励している。

 三体のオークがリックの城壁に攻撃を仕掛ける中、少し遅れてライムの〈奈落衝撃波〉が発動。

 通常攻撃もともに行った事に、衝撃にてオークの一体の頭が吹き飛び、それを見た他のオークがライムに対して恐怖心を大きく持ってしまった。

 その時〈恐怖エッセンス〉が発動し、ライムのステータスが向上。

 更に追撃と〈破壊裂拳〉を発動し、二体のオークをボコボコにしてしまった。

 その光景に周囲を囲み始めていたオークが更にライムへと恐怖心を抱え込む。

 そう、ライムに対しては多くの敵が彼女に恐怖心を持ってしまうと、無限ループに彼女のステータスを上げ続けてしまうのだ。

 その効果は戦闘開始前のライムのステータスを既に四倍まで上げている。

 この時点で既に外に出ているオーク達の運命は決まったも同じだが、攻撃はこれで終わりではない。

 続けて中衛部隊のプルン、ヘキドナ、エクレア、シューが動きを止めているオークを囲みつつ攻撃を開始する。

 プルンの格闘スキルにてオークを吹き飛ばし、倒れたオークの腹部へと〈無手波砲〉を発動。

 内蔵を全て内側でグチャグチャに破壊し、口や目、耳から吐血するオークを絶命させる。

 エクレアの細剣スキルは素早く二体のオークの喉元にヒット。

 衝撃にて頭が吹き飛び、エクレアは亡骸を踏み台として次のオーク達の背後へと回り込む。

 背後に回られたオーク達がエクレアに獲物が飛んできたと振り向いた瞬間、ヘキドナのむちにて身体をバラバラに切り刻まれる。

 ヘキドナのスキル〈ダークネスウィップ〉の闇の残痕がオークの亡骸にこびり付き残っていた。

 追撃の敵が現れた事にやはり逃げ出そうとするオークも中にはいる。

 そんなオークは突然の足が何かに捕まった様に足を取られ転倒し、ズブズブと自身の影の中に沈むように姿を消してしまう。

 大きな影はそのまま残っているが、突然影の中からオークの断末魔が聞こえたと思ったら、影から勢い良く血が放出。

 血の雨として周囲の地面に血をにじませた後、地面の影が膨らみ、倒れたオークの形として姿を消した。

 今も影の中を移動するシュー。

 彼女は〈シャドウバンパー〉にてモンスターを影の中へと引き込み、影の中で動けなくなったオークを〈セルフビジュン〉で出した自身の分身体と〈シャドウ眷属召喚〉で出した眷属と共に討伐し続けている。

 外のオーク達の叫び声に洞窟内にいたオーク達も次々と出てきた。

 それを待っていましたかのようにリッコとミーシャの二人の魔法が発動。

 逃げられないようにと左右を氷壁と火壁でオーク達の動きを止め、その中へと魔法を打ち込む。

 ドカンドカンと魔法の爆発とは別に水蒸気爆発も起こし、二人だけで何体のオークを倒したのか。

 衝撃は洞窟内にも入っていたのか、ヨロヨロとフラつきながら姿を見せるオークの進化種のチャンプやリーダー。

 その種はローゼに姿を目視された瞬間、頭へと屋が突き刺さっていた。

 次々とオークが倒されていく姿に、偵察はシューではなく、自分が行き、その時にスティールすれば良かったと少し後悔するミツであった。

 また、どこに潜んでいたのか、その場から逃げ出し始めているオークが数体。

 一体でも逃してしまうとオークはゴブリンの様に直ぐに小さな村などを襲い、女を苗床として繁殖してしまうので取りこぼしは許されない。

 アン達もそれを見通してか、巣から離れようとしているオークを次々と討伐しているようだ。

 アンの魔法攻撃にてオークはバラバラ状態。

 シャープの魔法にて氷漬けの彫刻となるオーク。

 ドルチェの魔法にて火だるまとなり、上手に焼けましたオーク。

 その中、仲間を囮として逃げようとする二体のオークの姿を目にする。


「ラルゴ」


(はっ!)


 ミツの視線の先に何が居るのか分かった様にラルゴがそちらへと視線を向ける。


「アイシャはラルゴと一緒に行って。ラルゴが攻撃を仕掛けた奴を射抜抜けば倒せるから」


「う、うん……」


 初めての狩り、初めてのモンスターの討伐。

 初めてばかりで彼女も不安なのだろう。


「……大丈夫。不安だろうけど、君は強くなったよ。訓練を思い出して弓を引けば良いからね」


 不安そうな表情を作るアイシャへとミツは心を落ち着かせる為とスキルを発動。

 スッと彼女の恐怖心と不安を吹き飛ばし、アイシャの顔に自信が満ちていく。

 プルンたちの戦う姿に訓練中のことを思い出したのだろう。


「うん! 分かった!」


 そう言い残して彼女はラルゴと共に逃げ出しているオークを追いかけていく。

 流石にラルゴを側につけているとは言え、不安はある彼も分身をアイシャの影に潜ませていた。

 それに加えラルゴが遠吠えをしたので、更にアン達も援軍に向かうだろう。

 結果はラルゴの攻撃にて突っ伏したオーク二体へとアイシャの矢がヒット。

 矢が刺さった事に一体は直ぐに絶命したが、もう一体が暴れアイシャの動きが止まってしまう。

 そこにアイシャの後ろにいつの間に居たのか、アンがワンっと強く吠えれば、アイシャの気持ちはオークへと弓を引く力となった。

 二発目の矢が刺さったオークはドシンっと大きな音を立て地面に突っ伏す。

 その光景を見て彼女の全身の力が抜けたのか、足から崩れ地面に尻もちをついてしまう。

 そのままにしてはできないと、ラルゴがアイシャを背中にのせてミツの元へと戻ってきてくれた。

 そう、ご覧の通りミツが指一本動かす前と、オークは殲滅、洞窟内に潜んでいた進化したオークの上位種にも仲間たちは苦戦もすることもなく次々と討伐。

 その間、ミツはポタミアを頭にのせて周囲を探索。

 すると岩と岩の間に隠されたようにポタミアの子供たちと思われる亡骸を発見。

 無残にも羽は千切られ、胴体が無いグノーシスビーも数ある。

 その亡骸に飛びつくようにポタミアは震え泣きだしてしまう。

 鑑定すると生きているグノーシスビーはおらず、全てが亡骸表記されている。

 しかし、希望はまだあった。

 成体のグノーシスビーの下に、まだ卵で無事であったグノーシスビーが数多く居ることに気づく。

 泣いているポタミアにその事を伝えるとポタミアは丁寧に成体の亡骸を動かしていく。

 ミツも手伝うと言うと主の手を汚すわけには行かないと言うが、ポタミアの家族が汚いこと無いと彼はポタミアの言葉を優しく断る。

 亡骸は冒険者ギルドに出さず、村で丁寧に埋葬することを伝えた後アイテムボックスへと収納していく。

 すると見えてきたのはグノーシスビーの卵。

 その数も多く、奪われてしまった卵の半分以上がそこにあったのだ。

 どうやらオークはこれを冬の食料として残しておくつもりだったのだろう。

 皮肉だがそれが良かったと、数多くの卵が保護することができた。

 だが中にはオークが乱雑に運んだり置いたせいか、潰れたり動きを止めている卵も中にはある。

 それは残念だが成体のグノーシスビーと共に埋めてあげる事を約束してあげた。

 取り敢えずこのままでは折角見つかった卵が寒さに殺られて死んでしまう。

 戻って来たアイシャとミミの協力してもらい、一先ず今は動かしていない水車小屋の一つに全て移動することにした。


 ミツは仲間達が倒したオークの亡骸をアイテムボックスに入れつつ、残党のオークが残ってないかとアン達に周囲を捜索を頼む。

 結果的に冬の時期だったので巣の外に出ていたオークは居なかったようだ。

 最後に一体、洞窟の奥に既に仲間たちの攻撃を受け、虫の息状態のオークジェネラルを目にする。

 ここでスティールもできたのだが、よりにもよってこのオークジェネラルのスキル、ミツが既に持っている物しか持っていないと言うハズレジェネラルであった。

 それよりも今はポタミアの事だ。

 プルン達にはトドメはこの子にやらせてと言葉を伝え、皆は下がっていく。

 その行動にオークジェネラルは見逃してもらったと勝手な勘違いをしている。

 それをポタミアが許すわけもなく、カチカチと歯を強く鳴らし怒りを表す。

 ジェネラルは何だ何だとその音に怯えつつも、既に手足も動かせない為に身体をもぞもぞと動かすことしかできていない。

 ポタミアはジェネラルの上空へと飛んで移動。

 彼女はお尻から鋭い針を出しそのままジェネラルの喉元へと針を深々と突き刺す。

 それは怒りと恨み辛み、家族の敵討ちと突き刺した針を動かしジェネラルへと死ぬまでこの地獄の苦しみを味わえと伝える気持ちだろう。

 ドクドクと血が出てこようと、口から血の泡を吹こうとポタミアはその動きを止めない。  

 そしてジェネラルの動きがピタリと止まると、ポタミアは針を戻しミツの元へと戻って来た。

 最後に家族の敵討ちと一手頂きましたことを感謝しますと告げ、ポタミアはミツのゲートを使い、水車小屋の卵の場所へと戻っていた。

 彼もジェネラルをアイテムボックスへと入れ、仲間たちと村へと戻る。

 

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