第297話 仲間達のジョブ変更2 後編

「ミツ、次は俺達だよな!?」


「えっ? トト、シューさん達が先じゃないの?」


「あっ! ヤベッ」


 トトが座っていた腰を上げ、ミツの元に駆け寄ろうとするのをミミが止める声を出す。

 その言葉に先輩であるヘキドナ達の方を恐る恐る見るトトだが、別に彼女達はそんな事を気にする程でも無いのだろう。


「シシシッ。ウチ達は最後でも良いよ。後輩に先を譲るのが先輩だシ」


「そうそう、別に早い者勝ちって訳でもないからね。君達の話も私達のジョブの参考にもなるから。ねっ、リーダー」


「ああ」


「トトさん、ヘキドナさん達は次が決まってますから気にせずに使ってください。と言ってもトトさんもミミさんも決まってるんですけどね」


「そ、そうか。すみません。先輩方、先に使わせて貰います」


 意外としっかりと言葉を伝えるトトはヘキドナ達へと軽く会釈を向ける。

 そして彼が森羅の鏡を使えば虹の靄は彼の次のジョブを指し示す。


「ミツ、これか? 前は出てなかった【ハイランダー】って奴」


「そう。これがトトさんの次のジョブだよ。リック達と同じでこれは上位ジョブだから、きっと強いスキルを持ってると思う」


 【ハイランダー】戦闘力の高い戦士。山地を踏破し、斧系を得意とするジョブ。

 彼がハイランダーを選択すると、選べルスキルは剣士系としての基礎を含むスキルが並んでいた。

 それは名前だけで分かるスキルもあれば、やはり分からないスキルもある。

 〈チャージアックス〉衝撃/打撃/斬撃の三つを纏めた攻撃スキル。

 〈トマホークブーメラン〉は名前通りで斧を投げるようだ。

 〈ブルラッシュ〉これはレタス種の野菜の意味ではなく、強撃とした攻撃を連続で繰り出す攻撃スキル。

 〈ストラーマ〉自身の戦闘能力上昇系スキル。

 〈両手斧術上昇〉〈片手斧術上昇〉これは既にミツが取得済みのスキルなので説明は省く。

 〈二双の斧〉利き手でなくとも武器を扱えるようになる。

 限定スキルは〈金の斧と銀の斧〉

 種族問わず、悪意ある相手に攻撃を繰り出す際に攻撃力を3倍にする。

 

「スッゲ!! これが上位ジョブって奴のスキルかよ」


「おー、この〈金の斧銀の斧〉スキルは自分も羨ましいスキルだね」


「攻撃スキルも凄えけどよ、自身の戦闘能力を上げるって、一気に前衛として強くなったんじゃねえか?」


「遠距離の攻撃も増えたのが大きいですね。離れようとした敵には武器を投げれば追撃もできますし」


「ああ、二本武器を持ってれば片方を失っても戦闘を止めなくても済むか。やったな、トト、前衛としては当たりのジョブじゃねえか!」


「はい! ミツ、ありがとうな!!」


「いえいえ。ジョブが変えることができるのはトトさんが訓練を頑張ったからですよ。自分は教えただけです」


「それでもだよ! 俺、これで前衛としてもっと強くなるぜ!」


 トトは感謝を伝えつつ、無邪気な笑顔を周囲に振りまく。

 成人とは言え、彼はまだ15歳の少年と青年の間に居るから仕方ない。


「それじゃミミさん。どうぞ」


「はい。お借りします」


「ミミ、私にも見せて」


「うん。お姉ちゃん、見えてきたよ」


「えーっと。おっ、【プリースト】が出てるじゃない、他には……んっ? ねえ、ミツ君、この【ナイチンゲール】って何?」


「あっ、お姉ちゃん、それが私が次になるジョブだよ。ミツさんから今のヒーラーになる前に教えて貰ってたの。確かナイチンゲールは回復の他にも状態異常の回復も覚えれるって」


「へー、そうなんだ。状態異常って言うと毒とか麻痺かな?」


 ローゼの質問にミツはナイチンゲールにて取得できるスキルの効果を説明する。


「はい。他にも火傷、痺れ、目眩、関節痛、腰痛、歯痛、生理痛、等々の病状も治すことができます」


「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」


 ミツの説明に女性陣、全員がガバッと視線を向ける。

 そう、女性だからこそ悩んでいる生理痛に皆が食いついたのだ。

 特に今生理痛で悩んでいる姉のローゼはミミを抱きしめる勢いだ。


「ミミ、本当なの!? 本当に貴女そんな事ができるようになるの!?」


「あわわ!? う、うん。ミツさんがそう言ってたもの。その前に。……お、お姉ちゃん、苦しい」


 必死と思う気持ちが力となっていたのか、ローゼの包容は抱きしめると言うか鯖折りとも言えなくもない。


「あっ、ごめん。ミミ、お願い! それができるようになったらお姉ちゃんを治して!」


「う、うん。分かった、分かったから。はぁ……ミツさん、話を止めてごめんなさい」


「いえいえ。それじゃミミさん、上位ジョブのナイチンゲールを選んでください。それがきっとローゼさんも喜ぶ選択ですからね」


「分かりました」


 周囲の女性陣の注目を集める中、ミミはドキドキと鼓動が早くなる思いと【ナイチンゲール】を選択する。


 【ナイチンゲール】苦しむ者へと手を差し向ける治癒者。様々な病を治し、苦しみから人を救う事を喜びとする者。

  ミミは〈ディスタント〉〈キュアクリア〉〈聖浄〉〈病壁〉を取得した後、限定スキル〈愛の介護〉条件スキル〈ステーション〉を獲得。

 ここで一つ。

 ミミは既に〈ハイヒール〉を【ヒーラー】で取得していたので【クレリック】で取得していなかった〈MP消費軽減〉を取得する。


 〈ディスタント〉離れた場所に居る者へと治療魔法を飛ばすことができる。範囲は視界に入るまで。

 〈キュアクリア〉対象者の状態異常を回復する。

 〈聖浄〉病を消す効果を持つ。

 〈病壁〉自身が病にかからなくなる。

 〈愛の介護〉相手に回復を施す際、心の癒やしをともに与える。

 〈ステーション〉病気になった者が近くに居ると直ぐに気づく事ができる。


「うん。お姉ちゃん、覚えたよ!」


「ホント! なら、直ぐにお願いね!」


「分かった。ごめんなさい、私とお姉ちゃんは少し離れますね」


「分かったニャ。ローゼ、早く良くなるといいニャね」


「これであの痛みに解消されるならミミちゃんはこのパーティーには絶対的に必要なメンバーね」


 ミーシャの言葉に首を縦に振る女性陣の姿。

 部屋を出ていく二人を思い、ミツが思わず声を出す。


「ああ……」


「如何したの、ミツ君?」


「いえ、ちょっとローゼさんに伝え忘れたことがあって……」


「伝え忘れたことって?」


「はい。……えーっと」


 女性の話をするだけに、男性陣の方へと彼が視線を向ければリックはその視線に気づいてくれたのだろう。

 スッと椅子から立ち上がり、彼らは場を離れてくれる。


「んっ。あー、俺喉乾いちまったわ。リッケ、トト、お前らもなんか飲むか? ミツ、すまねえが勝手に飲み物もらうぞ」


「うん。キッチンに魔導具の冷蔵庫あるから、そこから好きなやつ選んでいいよ。料理の準備してる精霊の誰かに言えば教えてくれるから」


「おう」


「他の皆さんも飲みますよね。三人で運べば大丈夫でしょう。トト君、お手伝いお願いしますね」


「うっす!」


 ガタガタと椅子を音を鳴らし、離れていく三人。

 その対応にリッコが眉尻を上げ彼らを軽く褒める。


「リックの癖に気が聞くじゃない。それで、ミツ、その伝え忘れたことってなによ?」


「うん。さっきミミさんが覚えたスキルに〈キュアクリア〉ってあったよね。そのスキルが生理痛を治してくれるんだけど、血は通常通りでるから気おつけてって事」


「あら、それは大変。あの子、きっと痛みが無くなったことを治ったと思って普通にしちゃうわよ。私が伝えてくるわね」


「ミーシャさん、お願いします」


「しっかし男のお前さんからあの話を聞かされるとはね」


「あー……マネさん、自分は偶然その知識を王都にある書物で見ただけですよ。知ってる知識を伝えただけです」


 本当はユイシスに教えてもらった事である。


「そうかい……。まぁ、あの娘っ子が居るなら冬の間はあの痛みとはおさらばできそうだね」


「ホント、その為にも可愛がっておかないとね」


「エクレア、それ関係なしに後輩には優しくするシ」


「わ、分かってるわよ」


「ところであの娘が女の痛みを消す事ができるとすると、もしかして坊やも同じ事ができるのかい?」


「えっ……。ど、どうでしょう……。ははっ……」


(((((使えるんだな……)))))


 ミツも勿論〈キュアクリア〉は使える。

 ゴブリンドルイドからスティールしたこのスキルは、スタネット村のアース病からこれ迄様々な病を治してくれた万能型スキルである。

 勿論治せない状態異常もあるが、女の冒険者としてこれ以上と無いほどに求められるスキルかもしれない。

 ミツがそれをできるかできないかを有耶無耶にしたのは、ただ単にミミが使えるなら彼女に女性冒険者の生理痛の彼女に担当して治してもらおうと考えたからだ。

 だって互いに恥ずかしいじゃん。


「さて、つ、次はアイシャの番だね」


「うん。ミツさん、次に私はどれを選べば良いの?」


「んー。これはリックにも伝えたんだけど、先ずは自身が如何なりたいのかを決めないと駄目だよ。アイシャがこのまま弓を強くしたいなら、自分(ユイシス)が道を教えるからね」


「……うん。なら、私、ミツさんみたいに強くなりたい!」


「自分みたいに?」


「駄目かな……」


「アイシャ。駄目な事なんてないさ。寧ろアイシャがその気なら自分が教える事が増えるよ? それでも良いのかい?」


「うん!」


「分かった。取り敢えずアイシャ、鏡を使ってもらえるかな」


「ククッ。おっかない話だね。坊やみたいな常識知らずがもう一人増えるとなると、ギルドの慌てる姿が目に浮かぶよ」


「シシシッ。アネさん、楽しそうだね」


 アイシャに手渡した森羅の鏡が虹の靄を出していく。

 彼女が以前表記していたジョブは、【クレリック】【アーチャー】【シーフ】。

 そして新たに出たものは【ハンター】【ウィザード】であった。

 【ボウマン】を経験した彼女には【アーチャー】の選択は消えたも同じなので、アイシャの選択は四つとなる。

 アイシャの希望を叶えるならば、ミツが進めるジョブは一つだけ。

 

「それじゃアイシャ、もう一度確認するけど、自分と同じで良いんだね?」


「うん!」


「なら、これを選んでね」


「シーフ……。これでいいの?」


 ミツが指を指したジョブは【シーフ】

 彼と同じ力を望むアイシャには、先ず【忍者】になって貰う事にした。

 いや、アイシャは女なので【くノ一】が表記されるだろう。

 武道大会にてミツと戦ったシャシャもくノ一の経験者。

 彼女の強さを思い出せば、アイシャも間違いなく強くなるだろう。


「ニャ。ミツはホントにシーフが好きニャね。ウチもモンクやった後にシーフを進められたけど、そのときは本当に変な事言うなと思ったニャ」


「あら、でもそのお陰でプルンちゃんは〈アイテムボックス〉が使える様になったじゃない」


「ニャハハハ!」


「ねえ、ミツ。アイシャちゃんがシーフを選んだとして、次は何になれるの?」


「うん。恐らくアイシャは武道大会で自分と戦ったシャシャさんと同じくノ一になれると思うよ」


「シャシャって、あのメイドさん? あれ? でも途中からあの人服を変えたわよね?」


「いや、あの人は戦闘能力の高いジョブのくノ一をやってて、それを隠すためにメイド姿になってただけだよ」


「あ~、なるほどね」


「おまたせっと。好きな奴選んでくれや。と言っても果樹のジュースしか持ってきてねえけどよ」


「いや、お酒持ってこられても午後もあるんだからね」


「私これ! それじゃ、アイシャちゃんも強くなれるのね。あっ、これ美味しい」


「うん。恐らくアイシャもくノ一になれば、アースベアーを一人で倒せるようになるよ」


「「「ぶっ!!」」」


 さり気ないミツの一言は、偶然にも飲み物を口に含んだ三人のツボを押したようだ。


「ニャ!! リッコ! 顔面に吹き出すのは酷いニャ!」


「ご、ごめん! ケホッケホッ!」


「この莫迦マネ! 何で態々ウチの方に向かって吹き出すシ!!」


「マネさん、どうぞ、これで口元を拭いてください」


「あ゛あ ゛、わ゛る゛いねぇ……ゴホッ!」


「はい、リーダー、女性がしちゃいけない顔になってますよ」


「す、すまないね……。全く、坊やが話す時は物を含む事は止めといたほうが良さそうだ」


「あらら、大変だこりゃ」


 驚きと慌ただしい中、アイシャも周囲の反応に驚きつつ【シーフ】の項目を選択。

 外見や派手な技を覚えるわけでもないので、アイシャ自体、ジョブの変更に実感はないだろう。

 まー、ここにはシーフ経験者が多くいるのだから、分からない事があったら質問すればいい、彼女が不安になることも無い。


「ミツ、それ借りるっちゃよ」


「はい。ライムさん、どうぞ」


「えーっと、ウチが次になるのは何だったかね?」


「ライムさんが次になるのは、それですね【ラヴィジャー】の項目を選択してください」


「おー、ミツの言う通り、ラヴィジャーが出たっちゃ! でっ? これって本当に強いっちゃか?」


「はい、強いですよー。なんたって現役のシルバーの人が経験してるジョブですからね。自分もその人と戦いましたけど、本気で戦わないと負けてしまうかもしれない相手でしたから」


「はぁ!? ちょっと待つってばね! ミツ、アンタが本気を出す程の奴が経験してるジョブだってのかい!? それにシルバーって、誰だいそれは?」


「そうですよ。はい、その人もライムさん同様に鬼族で、名前はガランドさんです」


 そう、ライムにオススメとした【ラヴィジャー】のジョブは、冒険者ギルド本部にてミツと模擬戦を行ったガランドと同じジョブである。

 ミツが本気を出したと言う言葉にマネや周囲の仲間達も驚き、ライムは詳しい話を聞くと、自身と同じ鬼族がシルバーに居たことを初めて知ったのだろう。

 彼女は嬉しそうにミツにその時の模擬戦の話を詳しく聞き出そうとするが、この話は長くなるので後で森羅の鏡を使い、映像を交えて伝えることにした。

 ライムがジョブを選択すれば、ガランドが使用していた〈フォームチェンジ〉〈多段金剛力〉等が表記される。

 勿論ガランドも取得していなかったラヴィジャーのスキルもそこにはあった。

 

 【ラヴィジャー】破壊を捧げる狂信的戦士。恐怖と苦痛を操り、攻撃力上昇スキルを得意とする。

 ライムが得たスキルは以下の通り。

 〈破壊裂拳〉爆裂拳の上位版。

 〈奈落衝撃波〉相手の心のメンタルを落す事ができる衝撃波。

 〈フォームチェンジ〉ステータスを三倍まで大きく増幅させる。

 ※使用後は数日と戦闘に支障を及ぼす。

 〈多段金剛力〉攻撃力大幅増加。

 ※発動時、ステータスを一つ1/10にしてしまう。

 〈恐怖エッセンス〉相手が自身に恐怖心を抱えると、自身のステータスを上昇させる。

 【ラヴィジャー】の限定スキルは、〈怒鬼・怨双々忌〉。

 自身の背部から二本の腕を出すことができる。力は両腕と同等となる。※鬼族限定スキル


 ライムはジョブを変更後、直ぐに覚えたばかりのスキルを試してみたいと席を立つがミツがそれを呼び止める。

 彼女が覚えたばかりのスキルの中には、暫く自身のステータスを低下させてしまうスキルもあるため、おいそれと使用しては訓練に支障を及ぼすかもしれない。

 それを説明すると、ライムはしかたないっちゃねと椅子に座り直してくれた。  

 

 次にマネがミツから鏡を受け取り、表記された【ソードマスター】を見つけてはニコニコの笑顔。

 そんな彼女の笑みを見てはリッケも微笑みを向けていた。

 自身の努力が実ったマネの反応に、リッケも気持ちは分かると共感した笑みだと思う。

 まー、半分以上は惚気も入ってるだろうが、気にしないでおこう。

 

 【ソードマスター】剣の極意、様々な技を繰り出し、全ての剣を扱うことも可能。

 〈マインブレイク〉振り抜きにて衝撃を発動、また突き刺しのアクションなどによって効果が変わる。

 〈フォールパリィ〉自身だけではなく、周囲の者にも斬撃の攻撃が来た際、反撃をおこなう。

 〈ワイルドスイング〉強斬の回転斬り

 〈サイクロンソード〉回転した数だけ斬撃を飛ばす。

 〈アクワード〉相手の武器を手から弾き飛ばす。

 〈クリティカルゾーン〉高確率にて攻撃がクリティカルになる。

 限定スキルは〈剣の極み〉様々な剣の扱いが達人レベルとなる。

 

「マネさん、おめでとうございます。僕も早く聖槍王になってマネさんに負けないくらい強くなりますね!」


「ガッハハハ! リッケ、当たり前だっての! アタイたちがこのパーティーの前衛の要になってやろうじゃないか」


 リッケはマネの上位ジョブの変更を喜びに言葉をかける。

 彼の言葉に上機嫌と高笑いにそんな事を言うマネだが、それは聞き捨てならないと先にジョブを変更したトトとライムが食いついた。


「ちょっと、それは譲れませんね。俺だってハイランダーになったんですよ。前を二人だけには取らせませんよ」


「そうだっちゃ! ウチもミツの話では前よりも強くなってると思うから、皆には負けないっちゃよ!」


「へっ、あんたらアタイ達の取りこぼしでも食ってな」


「なにおっ!?」


「マネ、前衛としては敵を取りこぼしたら駄目だシ」


「あっ、そうなるとお前さん達には出番が来ないかもね」


「はいはい、順番で戦えば良いでしょ。詰まんないことで言い争わないの。さて、少年、それ借りるわね」


「はい。エクレアさん、どうぞ」


「さてさて、この中じゃ私が姉さんの次にシルバーランクになりそうなジョブよねー」


「あー、確かエクレアの次のジョブは元シルバーの冒険者と同じだったかシ?」


「はい、そうですよ。ゼクスさんと同じ、【スワッシュバックラー】です」


「おっ! 少年、見てみて、出たわよ!」


「は、はい、見えてます。エクレアさん、見えてますから、それと近いですからね。その……エクレアさんの胸が顔に当たってますから///」


「もー、少年、何赤くなってんのよこれくらいで」


「ウップ!」


 顔を赤らめるミツの姿に未だに初々しさを感じたのか、エクレアは悪戯心に自身の胸元へと顔を埋めさせる。

 姉弟の様なじゃれ合う姿だが、それを面白くないとヘキドナの呆れた声が飛んできた。


「エクレア、後が居るんだ、さっさとしてくれないかね」


「はーい。少年、残念だけどリーダーの言葉だからここまでね。……続きはまた今度してあげる」


 耳元で囁かれるエクレアの甘い言葉。

 ミツの反応を見て何を言われたのかリッコは気づいていたが、あえてそこに反応は表には出さなかった。


 【スワッシュバックラー】活劇剣士、冒険剣士、自尊心と英雄的精神に溢れる、片手細剣と小盾を持つ軽戦士。

 〈スピードスター〉剣先から光の刃を放出する。

 〈ツイストアタック〉相手の関節にダメージを与える。レベルが上がると威力が増す

 〈レイピアルクス〉回転した剣先が肉を切り裂く。

 〈サイレントスラッシュ〉音を消した剣筋を繰り出す。

 〈疾風迅雷〉雷属性を剣に纏わせ攻撃を仕掛ける。

 〈電光石火〉一定時間移動速度が大幅に上昇する、レベルが上がると効果時間が伸びる。

 限定スキルは〈ジャッチメントクロス〉

 十字に描かれた攻撃を繰り出す連続攻撃。

 ※ゴーストタイプにもダメージを通す。


「ヒャッホーイ! 新しい攻撃スキルゲットー! マネ、ちょっと受けてみてよ!」


「ああって、莫迦野郎!! お前さんの試し撃ちなら訓練所にいるアンデッド共に受けてもらいな! アタイもそのつもりだからね」


「あっ。そっか。リーダー、お風呂入る前に終わったら手慣らしにもう一度行きませんか!」


「分かった、分かったから。ほら、シュー、お前さんが先に済ませな」


「うん。ミツ、鏡かりるよ」


「はい。シューさんのジョブも楽しみですね」


「? ミツはシャドウになった事無いシ?」


「ええ。偶然ですが、基本的に皆がなったジョブにはなったことありませんね。ですので、自分は皆が使える魔法やスキルは基本使えませんよ」


「シシシッ。なら、ミツが驚くようなスキルを、先輩であるウチが見せてやるシ!」


「それは本当に楽しみですね」


【シャドウ】陰に生まれ陰に生きる。隠密、暗躍、暗殺等を得意とする。

〈ファーストショット〉与えるダメージは少ないが、確実に必中する。

〈シャドウバンパー〉陰を呼び出す。

〈セルフビジュン〉幻影の分身体を出す。

〈シャドウ眷属召喚〉陰の獣を召喚する。

〈シャドウウォーク〉影の中を移動できる。レベルに応じて移動距離と影の中に居る潜伏時間が長くなる。

〈インビジブル〉姿を消し、人に認知されなくなる。

〈立体行動〉俊敏性、瞬発力増加、壁や天井を歩くことができる。

 限定スキルは〈ブラッドコール〉。

 ダメージを与えた相手の出血量を自由に操作する。※血の量は対象の半分まで。


「おっ、シューさんも召喚スキルが使えますね」


「おおっ!! ミツ、早速試してみるシ!」


 新しいスキルを試してみるとシューは少し離れ、リビングの端へと移動する。


「シュー、変なの出すなよ」


「分かってるシ!! むむむっ……。ミツ、どんな奴出せば良いのか分かんないシ……」


 新たなスキルを発動してみようと思うシューだが、眷属のイメージが付かないのだろう。

 この世界の魔法やスキルは全てイメージが必要とする物ばかり。

 ミツはならばと足元で寝ているラルゴへと視線を向ける。


「シューさん、試しにラルゴ達のようにウルフを出してみてはどうですか?」


「ウルフ……。分かったシ」


 イメージをシッカリと付けたいのか、ジッとラルゴへと視線を向けるシュー。

 そして、イメージは形となったのか、彼女が新たなスキル〈シャドウ眷属召喚〉を発動。


「いでよ、ウチの眷属!」

  

「「「!?」」」


「……キュウ? ワンッ!」


 シューの足元にある影から一匹の眷属が顔をヒョコっと出し姿を見せる。

 その姿は眷属としては疑問と思う鳴き声を聞かせる。


「あれ? ちっちゃい子犬だシ」


 シューの足元に出てきたのは彼女の膝丈程の黒い子犬であった。

 ハァハァと可愛い舌を出し、ブンブンと小さな尻尾が勢い良く振られている。


「アッハハハハ!! 何だよシュー、そのちっさな犬っころわ!」


「う、五月蝿い、莫迦マネ! 最初なんだからこんなもんだシ!」


 マネは出てきたシューの眷属に大笑い。

 莫迦にされた思いとフンスと怒りを見せるシューのやり取りは見慣れたもんだ。

 スキルが失敗しているのかと思い、ユイシスに説明を聞くと、やはり眷属召喚はミツの知っている召喚系と同じで、発動者の魔力量によって大きさや力が変わるそうだ。


「シューさん、恐らく今はシューさんの魔力が少ないので眷属もこの子ぐらいの大きさしか出せないと思いますよ。シューさんの魔力をこれから訓練で上げていけばこの子もきっと大きくなります」


「んー。そうだね」


「ワンッ!」


「わっ! こらっ、顔を舐めるなシ! ……アハハハッ!」


「ねぇ、シュー、私にもちょっと抱かせてよ」


「ウチも見せてくれっちゃ!」


「ほら、エクレア、落とさないように気をつけるシ」


「大丈夫大丈夫。わー! 何この子、メッチャクチャ可愛いじゃない!!」


「エクレア、次、私にも抱かせてくれっちゃ」


「ライム、ちょっと待ってよ。うー、モコモコ〜」


「///!」


「……なぁ、シュー。マネの次にアタイにも貸してくれよ」


 召喚された子犬はエクレア達にもみくちゃにされている。

 番犬というよりも愛玩動物状態だ。

 先程までの喧嘩は何処へやら、マネも子犬を触りたくなったのか、そそくさとライムの後ろに並んでいるよ。


「シシシッ、ミツ、鏡ありがとうだシ!」


「いえいえ。取り敢えずシューさんの次の目標も見えたみたいですから良かったです。次は魔力を上げるジョブを頑張りましょうね」


「さて、最後は私だね。坊や、借りるよ」


「はい。ヘキドナさん、ジョブを三つをレベルMAX、お疲れ様です。【ローズバトラー】がヘキドナさんのお役に立てることを祈ってます」


「ああ、そうでないと、お前さんの訓練が鬼のエンリ以上だけに割に合わないからね」


「ははっ、そんな事無いと思いますけどね」


 休む事も許されず、絶え間なく出てくるアンデッドを倒し続けていた訓練を思い出したのだろう。

 嫌味を込めたヘキドナのセリフは、ミツにとってはまだ手を抜いた訓練方と聞かされ呆れるしかなかった。


「……はぁ。出たよ、これで良いんだろ?」


「はい。ヘキドナさん、【ローズバトラー】おめでとうございます」


 もう三度目となれば彼女も森羅の鏡から出てくる靄にいちいち反応を出すことは無くなっている。

 出てきた【ローズバトラー】のジョブを選択し、表記されたスキルも躊躇いなくポンポンと選び終わってしまった。

 

 【ローズバトラー】鞭、縄等の紐武器を扱う達人。その戦う姿は見る者を魅了させる魅女とする。

 

〈マスカレイド〉闇のドレスを身にまとう。攻、防、魔、速の全てのステータスを大きく上昇させる。※使用後は使用時間分使用できなくなる。

〈デスパレード〉鞭を扱う攻撃スキル。

〈アクセルネータ〉発動する事に仲間へのステータス上昇効果。

〈ダークネスウィップ〉鞭を振り抜くと残像が闇の攻撃と変わり、敵へと襲いかかる。

〈ローズヒップ〉華の様に美しくもその攻撃には数百物の茨棘の攻撃。

〈茨姫〉茨の人形を出し戦闘させる事ができる。

 限定スキルは〈愛の鞭〉。

 使用者にひれ伏す者、永久の喜びに愛の奴隷となる。解除は発動者のみ可能。


「随分と攻撃に特化した物ばかりだね」


「ええ、恐らくですが、ローズバトラーは〈マスカレイド〉のスキルを使用を基本とした戦闘をすると思いますよ。ヘキドナさん、今度の訓練にでも使ってみて下さい」


「ああ、分かった」


 こうして仲間たちのジョブ変更が終わった。

 ヘキドナのジョブが変更を終えた後、ミミに生理痛を治してもらったローゼが機嫌良くリビングに戻ってきた。

 その様子に、ミミは女性陣からは今後は戦闘以外にも重宝されるかもしれない。

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