第293話 ピッカピカの一年生。

 昨晩は仲間達は自身の成長振りの話に花を咲かせ、ワイワイと後の戦闘に活かせる戦法を話し合っていた。

 プルン達はジョブを変更することは無かったが、それは彼女達のジョブが上位ジョブだけに必要経験とジョブMAXまでのレベルが足りなかったので仕方ない。


 今日は訓練はお休みと、昨日は訓練場として使用していた体育館。

 その中には村人全員が集まったのではないか、入学する子供達の保護者は後方の保護者席。

 観客はアリーナ席と別けてある。

 そして体育館に響くフォルテの声。


「それでは皆様。これより、スタネット村、地主様であられますマスターのミツ様主催。村の入学式を始めます。本日入学いたします生徒数は22名。歳は皆バラバラでございますが、学びは皆揃って覚えていきましょう。アリーナ席にいらっしゃいます今回は学び場に不参加のお子様も、お友達の皆さんの楽しい姿を見て、是非とも参加する意思をお向けください。それでは新入生の入場です。皆様、大きな拍手にておでむかえください」


 フォルテの言葉の後、パチパチとアリーナ席と保護者席から拍手が巻き起こる。

 その際、入場曲としてティシモのピアノの演奏が体育館に響く。

 幼い子供達が二人一組とし、仲良く手を握り入ってきた。

 既に渡していた制服を着ては昨日皆はお風呂に身を綺麗にしたのだろう。

 ニコニコと、また恥ずかしくも手を引っ張られる女の子。

 緊張に足がガチガチに入場する男の子。

 中には保護者であるお母さん、お父さんに手を引かれたり抱っこされた状態と入場する子供の姿があった。 


 先導するメゾとダカーポの指示に従い、子供たちが着席する。

 自身の保護者を探すためと後ろを向く子供や、緊張に足をプラプラさせたりするこの光景は日本でも異世界でも変わらないんだなと笑みを作りミツが前に出る。

 彼の今日の服装は背広だが、蝶ネクタイと、子どもたちに緊張を与えないような軽い姿。

 

「皆さん、本日はご入学、おめでとうございます。このスタネット村での記念すべき一期生となる皆さんは、これから学び場で文字や計算方を覚えていきます。勿論それだけが学び場ではありません。お友達と一緒に遊んで、一緒に物事を学んで。たまには喧嘩もするかもしれません。でもそれを含めて大切な事を学ぶのが学び場です。この数年間で皆が何処まで覚えることができるのか、それを大人たちが驚くような姿をお父さん、お母さんに見せてあげましょう。短いですが自分からの挨拶は以上です。改めて、新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます」


 ミツの挨拶が終わり、子供達、保護者、アリーナ席から拍手が起きる。


「続きまして、スタネット村、ギーラ村長のご挨拶になります」


 紹介されたギーラは子供達へと簡単に言葉を送りつつ、物事を学ぶ大切さを伝える。

 森で見つける物の中には薬にも毒にもなる物がある事。

 それを知っていれば、家族や友達を助けることができるし、逆に危険に落とすことを教える。

 学べる機会を貰ったお前たちは幸せ者だよと言葉を締めに彼女の挨拶が終わった。


「それでは次に、皆さんに勉強を教える先生を紹介します。まずはフォルテ先生。彼女には1組担任と文字を教える担当、国語の先生となります。次にティシモ先生は皆さんに計算方法の算数、国や街の歴史である社会の担当になります。次にメゾ先生。2組の担任、それと森に生えている野草などの理科の担当となります。次にダカーポ先生。彼女は運動、体育の担当になります。次にフィーネ先生。彼女には怪我を治してもらったり、物事の相談を受ける保険の先生を担当してもらいます。勿論他の先生に相談があれば恥ずかしがらずに相談してください。それじゃ、皆、一言お願いね」


 ミツの代わりとフォルテが前に出る。


「はい。ご紹介頂きました私はフォルテにございます。皆様、本日はご入学おめでとうございます。この記念すべき日、皆様と一緒に勉強させて頂くことに嬉しく思います。文字を書けるようになれば様々なお仕事に付くことができます。お父さん、お母さん、また自身の将来のために、私も頑張って皆さん教えを解こうと思います。どうぞ、よろしくお願いします」


 フォルテの挨拶の後、また拍手が体育館を包み込む。


「かー、あんな綺麗な教師を持てるなんて、子供たちが羨ましいのー」


「ほんにほんに。ワシらも若ければご教授とやらを受けてみたいの〜」


「「ほんまやなー」」


 まぁ、ご年配のお爺さん達からは別の意味で羨ましがられたが、スルーしとこう。


 次にティシモ、メゾ、ダカーポ、フィーネと、四人も挨拶を済ませる。


「最後に村の皆様にもご紹介します。三人、こっちに」


「「「はっ!」」」


 ミツの呼ぶ声にススッと足音も鳴らさずに近づく三人。

 身長は高く、男性の大人であろうと想像はできるが、その顔にその場にいる全員が知らない顔である。


「んっ? 誰だ……?」


「村の人?」


「いや、見たことねえだな?」


「ご紹介します。彼らはフォルテ先生達同様に、この学校の設備の管理を基本として動いてくれます。右から、助さん、格さん、八兵衛さんです」


「「「よろしくお願いする!」」」


 ミツが紹介したのはスケルトンキング、ゴーストキング、グールキングの三人だ。

 勿論三人は元の骸骨やゴースト、ゾンビ顔のままにこの場に立たせてはいない。

 彼らには、シャロットから貰ったスキル〈変幻〉を使用している。

 皆30代の顔だが、イメージが日本人風なだけに、少し顔の作りがミツに雰囲気が似てるかもしれない。

 勿論神スキルの効果は表面だけではない。

 振れれば人間の体温、匂いも男性の匂いと、幻であって現実の様にその作りは正に神業である。

 三人の代表としてゴーストキングの格さんが前に出る。


「えー、我……。失礼。私は偉大なる主様のコマの一つである格と申します!」


「おいおい……」


 出だしの言葉にポカーンと口を開いてしまう子供達。

 少しボソボソと保護者席やアリーナ席から声が聞こえるが、格はそのまま話を続ける。

 

「皆の者も知っておろうが、ミツ殿、地主様のご好意にてこの場ができておる。一日一日を無駄に過ごさぬよう。また、フォルテ先生達の言葉を素直に受け入れる事が貴殿たちの健やかな成長となるだろう。学びをサボる様な愚かな者は我々だけではなく、主様のウルフ達も許さぬ! 良いか、これは絶対だ! 死ぬ気で学ぶことを誓え! 以上である」


「「「「……」」」」


 満足げに元の場所に戻る格。

 私やりましたよとニコニコの笑みを向ける彼だが、変わって体育館はシーンっと静まり返った状態。


「はぁ、勘弁してくれ……これじゃ……」


「「「「おおおおおおおっっっっ!!!」」」」


「えっ……」


 一時の静寂が消えたように、体育館に響く子供達の声。

 まるで受験戦争に挑む子供達のように、先程までのキラキラとした瞳が、ギラギラと目標を目にした顔つきに変わっている。


「私、頑張る!」


「オイラが一番になってやるよ!!」


「やれるやれる! お前ならできる! 頑張ればできない事なんてないさ!」


 子供達の意気込みを受け保護者から父親が激と子供に声をかけている。

 本当にこれで良いのかと、フォルテ達の方に視線を向ければ彼女達もニコニコの笑顔。

 誰も格の発言が間違ったものではないと思っているのだろう。


「ははっ……。まぁ、頑張ろうね……」


 短くも熱い体育館での入学式が終わった。

 後は教室にてフォルテを中心とし、子供達へと学びが始まる。

 今日は明日からの授業内容を簡単に説明し、今日は午前中にて学び場は終わりだ。

 

「皆、明日からよろしくね。一応数回は自分も一緒に授業に参加するから」


「「「「「はい、マスターのお望みのままに」」」」」


「うん。アン達も明日から子供達の誘導とか登校時はよろしくね」


((((主の望むままに!))))


「助さん達もプルン達の訓練宜しく。授業で体育館、訓練場を使う時は訓練ストップで。その辺は時間表を見て決めてね」


「「「はっ! 偉大なる主様のお望みのままに!」」」


 スタネット村に学校ができた。

 それは思いつきから僅か数日に学び場ができ、村の子供達だけではなく、大人達も巻き込んだスピード実装。

 本来なら数年先の計画になるだろうか。

 それを彼に説いても、彼には数日待てばそれが現実となってしまう。

 また、プルン達のレベルアップ。

 ただでさえ経験を積み、数年の年月をかけるだけでも、既に彼らはグラスランクの位置にいたと言うのに、それに加え彼は仲間達に新たな上位ジョブを与えようとしている。

 冬場と言うやる事に限られる季節の中で、学校を設立し、訓練場にて怪物達を育成しようとしているのだ。

 本当に誰かが早く止めなければ、彼はやりたい放題と好きな事をやり続けるだろう。

 しかし、そもそも彼を止めようとする人間が周囲に射ないことが現実なのだから、彼の暴走は永久に続くことだろう。


 さて、一週間と言う長い休暇を得た事に多忙の疲れも癒えたダニエル。

 彼はパーティーの後、新たに得た領地へと二人の婦人と護衛を連れて赴いていた。

 元ベンザ伯爵の屋敷の品は横領などで得た物ばかり。

 そのままにするにも問題な品ばかりだけに片付けられ、今の屋敷内はガランとした状態。

 その場で働いていたメイドなどは継続して働いて入るが、ティッシュ婦人に仕えていた側仕えやメイドはパメラやエマンダには合わないと半分以上がお暇の指示を受ける。

 一見、酷な判断かもしれないが、着服や横領を当たり前とした者を働かせるわけにも行かない。

 ダニエルの屋敷にも様々なことを調べる者は雇われている。

 彼らの情報は領主不在とした屋敷内を調べるなど朝飯前の事だ。

 しかし、彼らが持ってきた情報にダニエルだけではなく、婦人の二人も呆れたと頭を悩ませる報告がズラズラと続くのだった。

 先ずは街の状態を確認するためと小さな情報から大きな事まで全てを聞き出す。

 そして判明したベンザの無法地管理ぶり。

 先ずは庶民から集める税。

 住民税など基本とした金額だなと思ったが、その報告書を見れば驚き。

 本来民から税を徴収するのは季節ごとと国で決められている。

 しかし、ベンザはあろうことか毎月の徴収をしていたのだ。

 その為、庶民達はダニエルの街に住む者達と比べて、4倍ものの税を収めていた事になる。

 更には他にもありえない税の一覧。

 井戸を使うための井戸税。

 馬車を持つ者の馬車税。

 ※馬は別に馬税がかかる。

 子供が居た場合子供税。

 夫婦である夫婦税。

 独り身である孤独税。

 商品を売るための販売税。

 商品を買う時の消費税。

 家を持つ固定資産税

 ペットを飼っているペット税。

 美人な女は美人税。 

 ナイスバディはたまらん税。

 等々、本当につまらない事からちまちまと税を取っていたようだ。

 しかし、これだけ税がかかるというのに、民達は街を出なかったのか?

 そう、まさかの街を出るにもベンザは税金をかけたのだ。

 その庶民が街を出ると住んでいた家はどうなる? 誰も居なくなった物は街が管理しなければならないと、それに関しても税を要求。

 信じられないだろうが、街を出るだけでも大人は一人金貨30枚、子供は15歳以下は金貨20枚。残す家の管理費の税として、金貨数百枚を要求していた。

 一家族が引っ越すだけでも金貨300~500枚がかかるのだ。

 当たり前だがあれこれと税をかけられた庶民にそんな金が貯まるわけもない。

 街を逃げ出そうとした者も居たが、残念な事にベンザの管理する街もライアングル同様に高い壁に囲まれた状態で、門をくぐらなければ外には出れない。

 庶民を逃がせば門番である人達はベンザの理不尽な剣が突き立てられてしまう。

 事実、家族を行為では無く、偶然にも逃してしまった門番の数名が次の日には打ち首と、公開処刑に首が吊るされている。

 この話を報告書を目にしたダニエルは既に死んだベンザへと怒りを吐き捨てるのであった。

 喜ぶべきか、領主が不在の間は新たな変な税もかけられることもなく、厳しい徴収も行われることもなかった。

 しかし、街の中では窃盗などが頻繁にあり、治安が良いものではないとひと目で分かる状態。

 物を買うにも金はいる。

 金が欲しいが働くと税で持って行かれてしまう。

 こうして税が嵩み続け、この街は発展どころか、衰退へと足を向け歩き続けている。

 

 ダニエルは街の代表者達を集め、即決と先ずは税の撤廃を発言。

 最低限、本当に必要な税だけを庶民から受け取ることにする。

 と言ってもこれはライアングルの街と同じにしただけだが、それだけでも街の長達からは涙を流し感謝されてしまった。

 次にダニエルが見た報告書。

 違法奴隷や違法薬物諸々。

 勿論これもダニエルの行動は早かった。 

 違法奴隷を扱う奴隷商は捕縛、捕まった奴隷は開放し、親元のわからない子供奴隷は保護する事に。

 違法薬物を取り扱う店は販売を停止させ、それでも販売を続ける商人は捕縛と店を押収する。

 閉店の理由は堂々と宣言させている。

 次にこの領地の一番の稼ぎ場であった鉱山の件だが、殆ど機能していない状態。

 掘っても掘っても岩しか出ず、魔石も小指の第二関節程度の小さな物しか手に入らない状態。

 それに加え、衛生管理ができていなかったのか、一部の鉱山では流行り病に奴隷の4割を殺してしまっている。

 治療もせずに、放置状態と奴隷の扱いがぞんざい。

 更に死体は残った奴隷を使い、鉱山の中に埋めさせている。

 病をどうにかしなければ、奴隷の進む道は死しかない。

 これも浄化の為と多くの薬などが運ばれることになる。

 しかし、報告書に目を通していると、魔石が出なくなったと言われている鉱山の情報が同じ場所の事しか上げられていない。

 鉱山は一か所だけではなく、数カ所とあるはず。

 他の場所は如何したと詳しく調べると、どうやら掘り続けている際に、地下水の脈に当たったようだ。

 ベンザは水なんぞ掻き出せばよいと奴隷を使い水を出させるが、水の出が多く、人手を使っても切りがない。

 元々魔石の出も数に数える程度しか出なかった事もあり、ベンザはその鉱山を切り捨てている。

 他にも鉱山を掘り進める際、一定の長さを掘ると、決まって死人が出る事件が起きている。

 何故だ何故だと理由もわからず、結果これは鉱山を掘る時に起きる病魔と考え、それ以上は掘らずに別の場所を掘り出すようだ。

 これは現場に立ち会わないベンザには一生かけても分からない事だが、普通に掘り続けると、底の方に空気が届かない為である。

 それを病魔などと変な勘違いをし、実は発掘を止めてしまった先には、かなりの魔石が埋もれた場所もいくつもある状態と、ベンザは運の無い結果を出している。


「これは思っていた以上に厄介な物を押し付けられたかもしれんな……」


 思わず口から漏れるダニエルの本音に婦人の二人もため息で返す事しかできない。


「旦那様、一先ず民達を安心させる為にも、披露目の場は多くの民に貴方様の言葉を伝えなければなりません」


「ああ、そうだな」


「親を失った孤児などが主に窃盗などに手を出していますね……。それに対しての対策も今まで行っていないのは酷すぎます……」


「あなた、今までの案件、全て数えますと……。はぁ、ミツさんとのお約束を果たさなければなりません」


「ん゛っ……うむ……。致し方あるまい。彼の好意、無下にしては逆に彼が不快に思うかもしれんからな……」


 ダニエルとミツ、二人は一つの約束事をしていた。

 新しい領地を視察したさい、問題事が一定数を超えた場合はミツが手を貸すことを伝えてある。

 自身の領地の事、関係ない冒険者の彼に頼むのも情けない話かもしれないが、荒れた領地を整えるにもダニエル夫妻だけでは手が回らないだろうと。

 事実、実はミツはユイシスからこうなる事を前もって話を聞いていたのだ。

 だからこそ、最初っから手伝いますではダニエル夫妻は遠慮がちに断りの言葉を向け、いざ困った時にミツの力を借りる事に躊躇い、問題を解決するのに時間をかけてしまう。

 その為、ミツは忙しくなったらお手伝いしますと言うヘルプ的な位置をダニエルへと伝えてある。

 これにより、夫妻からの連絡は数日後にミツの元に向けられる事になった。

 ダニエルは一騎の馬をスタネット村に居るミツへと向かわせる。 

 

 そのスタネット村では朝から子供達の声に村は賑わいを出していた。

 おはよう、おはようと大人たちが見送る中、子供達は新しい服と靴を穿いて学び場へと走り出す。

 雪も降った雪解け道は滑りやすいが、田舎暮らしの彼らにはそんな事気にしないと、新しい靴で地面を踏みしめ、走るスピードは早いものだ。


 カラーン、カラーン、カラーンと入り口の方ではミツがハンドベルを鳴らし子供たちを招き入れる。


「おはよう地主様!」


「おはようございます、地主様!」


「おはよう。もう直ぐ始まるからね。教室に急いで」


「「はーい!」」


 子供達を学び場の近くまで見送ってきた保護者たちもミツへと頭を下げ、彼らは内心心配の気持ちを持ちつつも、家の方へと足を向ける。

 クラス分けは1組は14~7歳と、2組は6~3歳と分けてある。

 最初は学ぶ事は皆同じだが、クラスを分けたのは子供達の接し方の違いだ。

 1組は正に小学校の様に子ども達への話し方は普通に。

 2組の子供たちには話し方をゆっくりに、そして口調も少し崩してある。

 まー、要するに2組は幼稚園である。

 それでもしっかりと文字を覚えさせ、数字などの教える事もしっかりと教えるつもりだ。


「皆さん、おはようございます」


「「「「おはようございます!!」」」」


 元気な子供達の声が教室から外にまで聞こえてくる。

 

「それでは今日から皆さんは同じクラスメートとしてお勉強を頑張りましょう。改めて1組の担任となりましたフォルテと申します。お勉強を始める前に、皆さんには自己紹介をしてもらおうと思います」


 新学期あるあると、クラスメートの自己紹介。

 同じ村で育って知った者も居るだろうが、新たにスタネット村にやって来た子供達も居る。

 話しかけたくても歳が離れていると声を掛けづらいのが子供なのだ。

 1組には14人の子供達が入っている。

 その中にはドンとサネの娘のモネもクラス入りだ。

 モネの自己紹介も終わり、パチパチと周囲から可愛らしい拍手が送られる。

 その後全員の自己紹介も終わり、早速最初の授業が始まる。

 フォルテの担当は担任と国語の文字。

 1時間目は国語の授業と、子供達へとミツが作った紙が渡される。

 

「それでは皆さん。文字のお勉強をしましょう」


「「「はーい!」」」


 子供達は渡された鉛筆を握りしめ、不格好ながらこの世界の文字を覚えながら紙に書いていく。

 文字を走らせることが楽しいのか、子供達からは笑顔が絶えず、積極的に字を書いている。

 ここは大丈夫とミツは2組の方へと顔を向ける。


「はい。いーち、にー、さーん……」


「「「いーち! にー! さーん!」」」


 2組を担当するのは担任はメゾだが、算数の数字を教えるのはティシモだ。

 彼女は大きな画用紙に数字を書いて、それを子供達に見える様にして数字の数を教えている。 

 3歳や4歳の子の中にはやはりまだ言葉が苦手な子供も居るので、そこは保護者同伴であるので、お父さん、お母さんと一緒に少しづつ覚えてもらおう。

 何気に保護者の方が真面目に授業を受けてる気がする……。

 まー、親が覚えていれば、子供からの質問に答えることのできる格好いい所を子供に披露する時が来るかもしれない。

 そして三時間目の社会の勉強が終わった後。

 今日は初日と言う事で午前中で終わりとなる。

 勉強は終わりでも、子供達にはまだ学び場に残ってもらっている。

 

「うー! 今日はこれで終わりかー」


「ティシモ先生のお勉強、楽しかったね!」


「うん! 私、村や街なら知ってたけど、国なんて初めて聞いたよ!」


「そうだねー!」


 子供達は先程受けたティシモの授業の感想を互いに話し合っている。

 その中、子供達の鼻をくすぐる美味しそうな匂い。


「んっ? なぁ、なんか美味そうな匂いしねえか?」


「えっ……。本当だ。地主様がまた何か美味いもん作ってんじゃない!」


「いいなー。地主様のご飯って美味しいから、私また食べたいなー」


「私も私も!」


 ミツが村にやってきていらい、子供達は幾度も彼の料理を口にする機会があり、それにより、ミツの料理は村に住む子供達、勿論大人たちの胃袋を掴んでいた。

 ガラガラと教室の扉を空ける音の後、入ってきたミツは子供達を席に付かせる。


「はーい、皆さんお勉強お疲れ様ですー」


「地主様だ!」


「地主様!!」


「ははっ……地主様が定着しちゃってる。さて、皆さん、初めてのお勉強はどうでしたか?」


「楽しかったー!!」


「分からなかった!!」


「うんうん、正直でよろしい。さて、上の時計を見てもらえるかな?」


「「??」」


 子供達へと教室に取り付けた時計へと注目を集める。

 時計と言う概念が無い子供達は、壁に掛けていた時計をただの飾り物だと思っていたのだろう。

 この時計はミツの新たなスキルを使い、以前お店で購入した時計を活用した掛け時計である。

 時計の仕組みや起動するための魔石の使用量などは全てスキルで理解。

 朝一番と教室に掛けていた品である。


「皆には午前中、自己紹介、フォルテ先生、ティシモ先生の授業を受けてもらいました。今の時間はお昼前の11時30分過ぎです。これより、皆には家に帰る前に給食の時間となります」


「きゅ……しょく?」


「地主様! 給食ってなんですか!?」


「給食って言うのは簡単に言えば皆とお昼ご飯を食べましょうって事だよ。これは皆のお父さんお母さんには伝えてるから、皆がこの場でご飯を食べて帰ることは連絡してます」


「ご飯!? また地主様のご飯がたべれるの!! やったー!!」


「ありがとう地主様!!」


「はい。今日皆のお昼を作ってくれたのはメゾ先生、ダカーポ先生、フィーネ先生です。皆さん、食べる前には、ちゃんと作ってくれた三人にお礼の言葉を伝えましょう」


「「「はーい!」」」


 子供達はフォルテとメゾの指示に机を向かい合わせ状態に動かしていく。

 1組と2組の間には壁ではなくカーテンなので、それをめくれば一つのクラスと変わる。

 2組の方でも一緒にご飯を食べることを伝えれば、子供達は喜びに声を上げる。


「地主様、ほんまオラ達もいただいて良かとでしょうか……」


「勿論。お父さんお母さん、二人もお子さんが何を食べてるのかを知る為にも一緒にお昼を食べていってください」


「「ありがとうございます!」」


「かーか? とーと?」


「タッタ君もお勉強頑張ったね。タッタ君もお父さんとお母さん、一緒にご飯を食べようね」


「たべりゅ!」


 まだ4歳になったばかりの村に住む男の子。

 タッタはお腹が空いて少しグズっていたのでタイミングが良かったかもしれない。


 給食台に置かれた昼食に子供達は目をキラキラ。

 僕が一番、私が一番と並び始める子供達。

 今日は給食の初日という事で贅沢にもハンバーグである。

 ご飯、ハンバーグ、野菜のおひたし、スープ、紙パック牛乳、デザートのプリン。

 子供に必要なカロリーを計算して作っている。大人には少なく感じると思うのでそこはご飯とおかずの増し増しにしといた。


「はい、それでは皆さん手を合わせて下さい。皆さんご一緒に」


「「「「「いただきます!!」」」」」


「懐かしいな〜。自分で作ってなんだけど、給食ってこんな感じだよな〜。うん! 美味い! しかし、子供達の為に飲み物は牛乳にしたけど……。今考えても牛乳とご飯って凄い組み合わせで食べてたな。まぁ、それも給食っぽくて良いんだけどね」


 その後は食べ終わった子はお昼休み、その後に帰りの会と教室の掃除、明日の連絡を伝えて学び場が終わった。

 暫くは午前中だけの授業で、慣れてきたら午後に体育や図工などの授業を入れる予定だ。


「ミツ坊、お疲れ様だね」


 子供達が帰っていく姿を見送っていると学び場の中から村の村長であるギーラが姿を見せる。


「ギーラさん、ありがとうございます。と言っても授業は彼女達がしてくれてましたから、自分は楽なもんです。それで、如何でしょうか? 村の人の中から数名選べそうでしょうか?」


「ああ、お前さんとこの娘さん達の調理場に見学に行った数名の者から声が来てるよ。村の中でも働けるなら是非にってね」


「そうですか。それじゃ近い内に給食員の希望者の面接をしますので、日時を伝えておいてください。その時に仕事内容とかご説明しますので」


「ああ、ありがとうね。子供達の学び場だけじゃなく、大人達にも仕事を与えてくれて」


「いえいえ。裏で子供を支えるのが大人の役割ですから。雇われた人の中に子供達の保護者が居れば、子供を預ける安心度も上がるでしょう」


「お前さんがそんな心配しなくても、十分皆は信じておるがね……。ええさ。さて、私は早速希望者に声をかけてくるよ」


「はい。お願いします」


 今日は子供達へ給食を出す事はギーラにも話してある。

 その中、フォルテ達も授業を見てもらう中、子供達の給食を作ってもらうのは大変だろうと思い、給食員を雇う話を出していた。

 フォルテ達は問題ありませんと言うが、彼女達にはできるだけ教員、それとプルン達の訓練を集中してほしい事を伝えてある。

 まだ子供達も少ないので雇う人数もそんなに多くは必要ないが、村人も村の中で働ける場所があったほうが嬉しいと声を上げていたので希望に添えばの気持ちだ。

 

(主様! 皆様がお戻りになられました)


 チリンチリンと首に取り付けた鈴を鳴らし駆け寄ってくるシャープが、朝からライアングルの街に戻っていたプルン達が帰ってきた事を告げる。


「おっ、リック達が戻ってきたみたいだね」


「ミツ、今戻ったニャ!」


「おつかれプルン。それで、リッコ達の親御さんの許可は如何だった?」


 彼らが街に戻った理由としては、冬の間はミツの家に寝泊まりをして訓練を行うためだ。

 一応皆成人した大人扱いをされて入るが、数日と連絡なしではエベラ達も心配するだろう。

 プルンは直ぐにエベラから許可を貰ったことを告げるが、後ろに居るリックたちの表情が微妙な雰囲気を出している。


「あー……。そのな、ミツ」


「母さんは僕達が決めたなら良いよって言ってくれたんですが……」


「フンッ! 良いのよ、お母さんの許可が貰えたならお父さんは無視しといても!」


「ありゃ、駄目だったの?」


 苦笑と呆れ表情、そして怒っているのか、不機嫌なリッコがそっぽを向きながら父親の反対の言葉を告げる。


「いや……。俺達二人はぶっちゃけ行くなら行けみたいに言われたんだがよ。その、リッコは……」


「聞いてよミツ! 私があんたのとこで寝泊まりするなら、お父さんあんたの力を確かめるとか莫迦な事言ってるのよ!」


「おっ、おお……何故?」


 自分だけ仲間はずれは嫌だとそんな気持ちをぶつける様に、リッコはミツへと父親のベルガーとのやり取りを少し悲しげに告げてきた。 


「まぁ、親父とお袋の前でリッコがお前の話ばっかするからな、親父の奴が意地になって言ってんだろ。親父も一応元はグラスの冒険者だからな。だがよ……親父、相手が悪すぎだぞ……はぁ……」


「それで、ミツ君がそんなに強くて、リッコが俺の側にいなくても大丈夫と言うならミツ君と模擬戦をさせろと……。どうしようもありませんね……。大体僕達は冒険者ですよ? 僕達三人、数日と家を空けるなんて何回もあったと言うのに……。はぁ……」


 合わせたようにため息を漏らす二人の兄。

 父親の気持ちも分からなくはないが、いい加減子離れしてくれと内心では大きく呆れている。


「ああ、そう言えば泊まるのが野宿じゃなく、ミツの所っても伝えたんだけどな? そこから親父が聞く耳を持たなくなったな」


「ニャハハハ。そんでリッコのおかかさんがおとっさんに締め上げしてたのは面白かったニャ」


「あー、友達の前で恥ずかしいわよ」


「そっかー。でもそれでリッコもこっちで寝泊まりが許されるなら模擬戦ぐらいならいいけど?」


「ハハッ、お前ならそう謂うだろうと思ったぜ」


「ミツ君、申し訳ないですが父さんが納得する様に力ずくで倒してください。大丈夫です、父さんの骨が折れたとしても僕が治しますから」


「ミツ、お願いね! そうしないと私だけ訓練に参加できなくなっちゃうの!」


「そうだね。リッコが居ないのは寂しいし、それは困るかな」


「えっ……///。う、うん……ありがとう……」


「なぁ……。多分だけど、他の奴が同じ状態になってもミツは同じこと言うんじゃねえか?」


「しっ! 余計なこと今は言わないでください。父さんの前にリックが治療を受ける状態にさせられますよ」


「おっ、おう……。それじゃ、ミツ、悪いが俺の家の前にゲート出してくれねえか? 親父に話してくるからよ」


「分かった。訓練場の方で皆と待ってるからね」


「おう!」

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