第291話 初々しいジョブ変更

 体育館の訓練場にて仲間達のレベルアップを行うミツ。

 トト、ミミ、アイシャの三人にはスケルトンキングが召喚した低レベルモンスターを相手として訓練を行ってもらい、次にヘキドナ達のパーティーメンバーのレベルアップとグールキングを当てるが予定を変更。

 対戦相手はゴーストキングにギャザリンを出してもらい、五人にはそれを相手と戦闘を行ってもらう。

 支援魔法を彼女達に与えた後はヘキドナ達は自由に戦いを行っている。

 元々冒険者としてはミツよりも彼女達の方が熟練者。

 あれこれと指示を出すのはリーダーのヘキドナの役割であり、彼女達にはできない支援のみをサポートとして後は見守るだけだ。

 見るだけといっても実はそれも勉強になる。ヘキドナ達のパーティーは前衛が二人、中衛が三人の攻撃型の陣形がメイン。

 マネとライムが前に立てば、後ろに控えるシューとエクレアが追撃を仕掛ける。

 ヘキドナの武器の鞭は攻撃範囲も広い為、マネとライム、どちらにでも直ぐに援護ができる立ち位置を取っている。

 相手はギャザリンと四体のモンスターが一つとして数えられる相手。

 今回は剣、槍、斧、魔の四つの武器を構えるギャザリン。

 このどれか一つが持っているであろう黒の証を壊さなければギャザリンを倒すことができない。

 先手とばかりにマネが大剣を振り落とし、槍を持つギャザリンを両断するが直ぐに復活。

 反撃と槍の攻撃をエクレアが払い飛ばす。


「ちっ! 厄介な相手じゃないか!」


「本当よ! マネが斬った所がくっついて動いてきてるじゃない」


「二人とも、横に飛びな!」


「「!!」」


 後ろからヘキドナの声が響き、足を止めていた二人の足を動かす。

 

「こんにゃろう!」


「魔法は嫌な相手だよ!」


「ならここはウチがやるっちゃ!」


「お、おい! ライム!」


「うおおりゃーー!」


 気合の声を出し、ライムは大きな斧を剣とを持つギャザリンへと振る。

 その際、ライムは斧で斬るではなく、腹のフラーを叩き付け一体のギャザリンを吹き飛ばす。

 ガシャンっと鎧が音を鳴らし、近くに居た斧を持つギャザリンもろとも吹き飛ばしてしまった。

 更に攻撃は続き、ヘキドナの鞭が槍を持つギャザリンの動きを止める。

 そのヘキドナへと魔法を発動しようとしたギャザリンの背後に周り、杖先にある黒の証をシューが短剣で攻撃。

 パキっっと音を鳴らした黒の証が地面に落ちると、魔法は途中で解除され、四体のギャザリンは力を失い消えていった。

 

「凄え……。これがヘキドナさんたちの戦いかよ」


「ホント、相手に攻撃させる前と倒しちゃったわね」


「マネさん、大丈夫ですか!?」


 五人の戦いぶりに驚きを作るリック達、その中、リッケはマネへと駆け寄る。


「ああ、まいったまいった。あんたに良いところ見せそこねたね、ハッハハハ」


「そんな事気にしないでください。僕はマネさんが怪我をしてなければそれで良いんです」


「お前さん……」


「マネさん……」


「おーい。リッケ、マネさん。イチャイチャするなら後にしてくださいよ」


「「なっ!?」」


 ミツの発言は場を気にせずに見つめ合う二人の顔を赤くするには十分だったようだ。


「さて、ヘキドナさん、戦闘お見事です。今の皆さんではギャザリンは役不足みたいですね」


「ああ、でもあんたの支援の効果も出してるんだろうさ。まー、確かにあれぐらいなら五人もいらないね」


「それじゃ、少しだけレベルを上げますか?」


「んっ……極端に上げるんじゃないよ」


「はい、ゴーストキング、別の奴を頼むよ」


「畏まり。では次はこちらを……」


 ミツの演奏スキルの効果も彼女達のステータスを上げてあるのだろう、彼女達は問題なくギャザリンを討伐。

 ならばと次はアンデッド・ドラウグルを召喚。

 動く鎧のように対人戦をイメージさせる相手だ。

 やはり5対1では戦闘も直ぐに終わってしまうので、ここは二体相手にしてもらう。

 手慣らしにはニ体が丁度良いのか、先程よりかは戦闘の時間が長くなった。

 五人が対峙している間と、最後にプルン達だ。


「さて、皆もやろうか」


「おうっ、俺達の相手は誰だ?」


「うん、ティシモ、グールキングを連れてきて」


「はい」

 

 ティシモは水球を解除し、洗濯物の様に中で回っていたグールキングを連れてくる。


「ぐへっ! ぎ、ぎぼちわるい……。偉大なる主様……。我に、ど、どうぞご命令……ウップ! オロロロロロ……」


「大丈夫? 無理そうなら他の二人に頼むけど」


「い、いえ! ガスとホネが主様の声に応えたというのに、私が応えぬ訳にはいきません」


「うん、ならグールキング、君には少しだけ頑張ってもらおうかな」


「はっ! 偉大なる主様」


「えーっと、皆は広範囲攻撃ができる魔法やスキルを持ってるから、今回はそれで戦って経験を稼いでもらうよ」


「広範囲って、俺は持ってねえぞ?」


「リックは〈城壁〉のレベルを上げてもらうから壁役だよ。空きを見つけたら〈インフィニストライク〉で狙い攻撃ね」


「ああ、分かった」


「それじゃリッコは〈ファンネル〉プルンは〈ダンシングニード〉リッケは〈オーラルブレード〉勿論戦う前は〈勇気の剣〉を使ってね」


「うん」


「了解ニャ!」


「頑張ります!」


「それとミーシャさんは〈ノヴァ・シューティング〉ローゼさんは〈サンシャインシューター〉を使ってください。その前にローゼさんは〈ポットチェンジ〉で服を変えてください。そうすれば取得する経験も増えますので」


「分かったわ〜。フフッ、私のスキル、ミツ君は覚えてくれてたのね〜」


「そりゃ教えてくれたのは彼だもの。皆、ちょっと待ってね。直ぐに着替えてくるから」


「それじゃローゼさんが戻ってきたら支援をかけるよ」


「おお、頼むぜ」


〈ポットチェンジ〉を使用し光の衣装を着てきたローゼ。

 彼女の姿に彼女のスキルを知らなかったトト達は驚き。

 何だなんだと彼女に声がかけられるが、質問は後でねとゴブリンスケルトンの戦闘に戻す。


「グールキング、出して」


「はっ! いでよ! 我が下僕達よ!」


 グールキングが召喚を発動。

 一番置くに突然紫の楕円形の球体が現れ、その中から次々とゾンビが出現する。 

 レベルは少し高めの35である。

 大体ミノタウロスと変わらないレベルだ。


「ゾンビか。へっ、これぐらい耐えてやるぜ! オラッ!」


 リックは数歩前にでては城壁を発動。

 パキンっと氷を張った様な音を響かせる。

 ミツが近づき、コンコンと城壁を小突いては頑丈さを確認。


「よし、それじゃ始めようか」


「「「「「「おー!」」」」」」


 ミツの視線に頷くグールキング。

 すると先に出ていたゾンビが一斉に動き出し、リックの城壁に向かって攻撃を仕掛ける。

 更にゾンビがいた場所が空けば新たなゾンビが楕円形の球体からリスポーン。

 

「うわっ! 一気に来やがったぞ! お前ら撃て! 撃ちまくれ!」


「分かってるわよ! 行けっ!」


 リックの声に反応し、一番と攻撃を仕掛けたのはリッコ。

 リッコはファンネルを出し、ゾンビへと攻撃を仕掛ける。

 ファンネルは正にSFロボットアニメに出てきそうな奴であり、赤の球体が四つゾンビの上空を浮遊。

 ゾンビの上空で止まったファンネルからは火炎放射と炎を吹き出しゾンビを焼き始める。  

 次にアリーナ席に移動していたプルン、リッケ、ローゼ、ミーシャ。

 彼らには頭上からの攻撃を始めてもらう。

 

「ニャッ! ニャッ! ニャニャニャニャ!」


「やっ!」


 プルンのダンシングニードとリッケのオーラルブレードが燃えるゾンビ二当たる。

 更にミーシャのノヴァ・シューティング、ローゼのサンシャインシューターが更にゾンビの数を減らしていく。

 ミーシャとローゼの攻撃はアンデッド系には有効な攻撃になるので、ゾンビの討伐速度が更に増す。

 光の光線と光の矢が雨のようにゾンビ達へと降り注いでいく。

 上空からの攻撃に次々と倒されるゾンビの群れ。

 それを耐えるはリックの城壁。

 倒しても倒しても次から次とリスポーンを続けるゾンビとそれを討伐する面々。

 その光景に思わず動きを止めてしまうトト達。


「これ、君たち。手が止まっておるではないか。戦いに余裕があるなら数を増やしても構わぬな」


「「「えっ!?」」」


 戦闘を疎かにした三人へとスケルトンキングはモンスターを増加。

 トトのゴブリンスケルトンは変わり、ギルザと言うスケルトンに腕を増やしたモンスターと変える。

 ミミとアイシャも数は増やされたも、彼女達は基本安全圏の戦いとなるので、回復と弓を引く速度が増した程度ではないか。


 そんな事をしていると、先にアイシャのジョブを選ぶときが来た。


「アイシャ、こっちにおいで」


「う、うん」


「アイシャ、それじゃ君のジョブをこれで選ぼうか」


「ミツさん、これは何?」


 訓練を続ける皆の邪魔をしないようにとアイシャを体育館にある小部屋に呼ぶ。

 ここは本来跳び箱やボールやマットを収納する場所だ。

 今はテーブルと椅子しか置いていないので何の部屋と言われたら分からないだろう。

 訓練を精霊達に見てもらい、ミツの隣にはフォルテが控える。

 アイテムボックスから森羅の鏡を取り出し、アイシャにそれに触れてもらう。

 彼女が疑問に思っている間と、森羅の鏡からは虹色の靄が吹き出してきた。

 

「きゃっ!?」


「アイシャ、落ち着いて。驚かせたようでごめんね。ほら、鏡を見てごらん。虹色の靄が文字に変わっていくよ」


「凄い……。ミツさん、これって魔導具って奴なの?」


「そうだね。一応これは魔導具かな。これを使ってアイシャのジョブを変えるんだよ」


「へー! 凄いね! それで、これは何て書いてるの?」


 アイシャは文字が読めない様なので、表記されたジョブを一つずつ教えていく。


「うん、えーっとね……。アイシャは【クレリック】【アーチャー】【ボウマン】【シーフ】この四つになれるみたいだよ。クレリックはミミさんやリックが経験した支援ジョブで、アーチャーとボウマンは自分とローゼさんが経験した弓の後衛だよ。シーフはプルンとこれも自分は経験済みかな。アイシャはどれが良い?」


「んー。良くわかんないけど、弓を使うならやっぱりアーチャーかな?」


「うん、ならそこはボウマンにしておこうか。ボウマンはアーチャーの上の特殊ジョブになって、アーチャーでは覚える事のできないスキルが使えるようになるんだよ」


「そうなんだ! ミツさんのオススメなら私はボウマンになる!」


「うん。ローゼさんはボウマンではアーバレストって武器を使ってたけど、別にボウマンで弓が引けない訳じゃないから、それも良いと思うよ。それじゃ、アイシャ。鏡のこの文字を選んでもらえるかな」


「うん、これね」


 森羅の鏡へと指先を当てるアイシャ。

 彼女の指先に反応した森羅の鏡は【ボウマン】のスキル一覧を表記してくれる。 

 スキルの一覧はアーチャーと同じだが、一つだけ〈威力増加(弓)〉が追加されている。

 

「アイシャ、これがボウマンで取得できるスキルの一覧だよ。この中から自分が選べると思う数のスキルを選択してね」


「うん。ねぇミツさん、これ全部選んだら如何なるの?」


「如何なるって……えっ? アイシャ、もしかしてこれ全部選べる感じなの!?」


「う、うん。た、多分だよ!?」


 アイシャの思わぬ言葉にミツは驚きと席を立ち上がる。

 アーチャーのスキルは初期のジョブとしては数も多く、彼も最初に選べたのは3つだけ。

 ユイシスに話を聞くと、ミツが側にいる状態での森羅の鏡を使用してジョブを変更すると、ミツの運のステータスを大きく影響を受けるそうだ。

 それが【ラッキースター】で得たスキル〈天運〉と〈武運〉の効果だそうだ。

 ミツの場合では〈天運〉と〈神運〉の二つの力が発動してのジョブスキルの全て取得条件を得ている。

 〈小鳥の目〉〈フクロウの目〉〈鷹の目〉〈罠仕掛け〉〈罠解除〉〈一点集中〉〈潜伏〉〈忍び足〉〈ダブルショット〉〈急所撃ち〉〈威力増加(弓)〉そして条件スキルの〈連射〉をアイシャは初めてのジョブ変更にて12のスキルを一度に取得してしまった。  

 ミツも驚きと羨ましいと思ってしまう彼女の成長速度。

 下手をしたらミツよりもアイシャは強者に成長を見せてくれるかもしれない。


「ミ、ミツさん……私……」


 森羅の鏡の虹の靄が消えた後、彼女は自身の手のひらを幾度か握り直す。


「アイシャ、ボウマンのジョブ変更、おめでとう」


「あっ、はい! ありがとうございます!」


「いえいえ。それじゃ、訓練の続きをしようか。多分次はトトさんとミミさんかな……」


「ミツさん、私訓練に戻るね!」


「ああ、行こうか」


 扉を開け、アイシャと共にボーンバーの元へと戻る。

 ジョブを変更したことにアイシャには様々なスキルが身についた。

 それにより先程アイシャは8メートル程の距離しか当てる自信が無かったが、今はそれを超える距離を当てる事ができるだろう。


「アイシャ、次はスキルを使いながら戦おうか。ジョブを変えた時、アイシャは多くのスキルを得たからね。それを使って訓練すれば、スキルのレベルも上がってモンスターも直ぐに倒せる様になるよ」


「うん、分かった!」


 初めてのジョブ変更に興奮しているのか、彼女の目はキラキラと直ぐにでも弓を引きたくなる気持ちが溢れているのだろう。

 まだレベルが1のスキルであっても、彼女の弓術を上げたその効果を本人だけではなく、周囲の者達の視線を集めることになる。


 アイシャは先程よりも少し離れた場所からボーンバーを狙う。

 スキル効果にて矢が外れるという不安も抱えることなく、彼女は真っ直ぐに弓を引く。


「「「!!」」」


 アイシャの放った矢はスコーンっと心地よい音を訓練場に響かせ、ボーンバーを中央から折る結果を見せた。


「す、凄い……」


「おー、ボーンバーを一撃か。これならレベルを上げても大丈夫だね」


「はい。今の攻撃ならばレベルを一気に上げて10いえ、15のボーンバーを相手としても問題ありますまい」


「うん、なら戦闘方が変わらないならレベルを30まで上げてもらおうかな」


「えっ、さ、30でございますか……。はっ、畏まりました。主様のお望みのままに」


 スケルトンキングが次に召喚したボーンバー。

 レベルも上がれば大きさも上がるのか、先程は細い丸太程度の大きさのボーンバーが、次は電信柱程の太さと長さで姿を見せる。 

 大きくなった分、やはり隠している腕の長さも広くなるので先にそれを確認した後にまたアイシャにはペチペチと矢を撃ってもらう。

 距離も慣れてもらうために、10メートルから始め、矢が当たれば一歩下がり、当たればまた一歩下がってもらう。

 この訓練場は無駄に広いので40メートルまでは離れて練習ができる。

 アイシャが終わればタイミング良く次はトトとミミの二人だ。

 ゴブリンスケルトンに少し殴られたのか、傷ついたトトをミミが治している。


「お疲れ様、二人とも。トトさん、大丈夫?」


「んっ? ああ、大丈夫大丈夫。ミミも大袈裟なんだよ。これくらいの傷、大した事じゃねえんだから気にするなって」


「何が大した事じゃないのよ。ほらっ、まだ傷が塞がってないんだから動かないで」


「へーい」


 殴られた場所が悪かったのか、それとも連続の戦いにアドレナリンが出ているのか、トトは殴られたと言うのにケラケラと笑い済ませている。

 そんな彼を叱咤しながらも傷を癒やすミミ。

 傷はそれ程深くはなかったのか、血は直ぐに止まり傷口もしっかりと治ったようだ。

 

「しっかし、アイシャの奴如何したんだよ? なんかいきなり弓の力が増してねえか?」


「あれがジョブ変更の力ですよ。それよりも、二人ともスケルトン達を倒した効果は出てるみたいですね。ちゃんと二人も今のジョブから新しいジョブに変える為の準備ができてるみたいです」


「そうか。あのでかい骨から十分って言われた時は何のことかと思ったけどな」


「でかい骨? ああ、スケルトンキングの事ね。さて、トトさん、ミミさん。二人ともこっちに。ここだと他の人の訓練の邪魔になるので部屋の方に移動しますよ」


「おう!」


「はい!」


「二人とも! 新しいジョブ楽しみにしてるわよ!」


「ああっ! 驚くようなジョブになってやるよ!」


「うんっ!」

 

「ほら、ローゼ、手を止めないで。まだまだゾンビは出てくるわよ」


「はいはい。しっかしひっきりなしに出てくるわね。もう何体倒したのか分かんなくなったわ」


「ほんとよね〜」


(鑑定したら五人ともちゃんとレベルが上がってるな。よしよし。まぁ、2〜3だけど。上がらないよりかは結果が見えてるからましかな)


「さて、お二人のジョブを変える前に、何か希望があれば聞いておきますよ」


「希望って言われてもな……?」


「うん。私は支援」


「俺は前衛のアタッカーを変えないなら何でもって感じだな」


「うん」


「なるほど。良いと思いますよ。一つのことに集中して力を上げるのも特化した力にもなりますから。では、お二人にもこちらを使用してもらいますね」


「おっ、これが皆が言ってた鏡か」


「判別晶みたいにジョブを変えることができるんですよね」


「うん。それじゃどっちから変える?」


「ミミ、お前先にやっていいぞ」


「えっ? 良いの?」


「ああ、俺は別に後でも構わねえしよ」


「うん、じゃあお先に変えるね。ありがとう」


「おう」


(仲良いな〜)


「さてさて、ミミさんが次になれるのは【プリースト】【パスター】【ヒーラー】【アーチャー】だね。支援が3 後衛1」


「おっ、ミミのクレリックの次になるジョブってこのプリーストだよな!? 良かったじゃねえか」


「うん、だね。ミツさん、私はプリーストを選べば良いのかな?」


「そうですね、プリーストも強い回復力を持ちますけど、ミミさんにはヒーラーをオススメとします。こちらのジョブのスキルは〈ハイヒール〉〈エリアヒール〉〈プロテス〉〈ディーバールチャンスダイ〉〈デプロテクションダウン〉〈デーモンズアタック〉〈コーティングベール〉と言った多くの補助支援スキルがあります。特にディーバールチャンスダイとコーティングベール、この二つは仲間内には有効なスキルである事をお伝えします」


 ミツはヒーラーで取得できる回復と支援のスキルを使い、洞窟内での戦いを教える。

 傷ついた仲間を治すとき、また魔力の枯渇を起こしたリッケとリッコへと魔力を渡し、直ぐに戦場に戻れた話をする。


「へー、洞窟探索でも役に立ったんだな」


「うん、特に緊張や恐怖で足が竦んで戦闘に支障をきたすこともあるし、更にこのスキルは自分にも使えるから持ってても損はないね」


「ミミ、どうする? ミツの言うヒーラーって奴も回復やサポートでは強えけど、決めるのはお前だぞ?」


「そうだね……。お姉ちゃんが言ってたの。お姉ちゃんとミーシャさんはダンサーをミツさんのオススメでなったって。最初はその……エッチだなと思ったんだけど、今のお姉ちゃん達は前に一緒に戦ったときとは違って凄く強くなってるのが分かったわ」


「ああ、今もゾンビの集団を倒し続けてるよな……。あれ、やばくね……」


 目の前の二人ほどローゼとミーシャの戦いを側で見ていた者は居ないだろう。

 そんな彼女達がほんの数時間離れている間と戦闘に大きな変貌を見せたのだから驚くよね。


「偶然ですけど二人のスキル攻撃はアンデッド系には有効な攻撃ですからね。リックが盾でゾンビの動きを止めてる分、上から攻撃する四人とリッコは更に倒しやすくなっていると思いますよ」


「うん。だから私もお姉ちゃんと同じ様にミツさんのオススメを信じてみる。私は【ヒーラー】になるわ」


「はい。ありがとうございます。ミミさん、一緒に皆をサポートしましょうね」


「はい!」


 彼女の指先は【ヒーラー】の項目を選択。

 アイシャの時と同じ様に彼女もスキルを全て選択できる状態となり、ハイヒールからコーティングベールの7つのスキルを取得。

 更にはジョブのスキルを全て取得したことに〈罪と罰〉〈慈愛〉〈秘め恋 〉の条件スキルも取得。

 その瞬間、隣に座るトトがミミの〈秘め恋〉の効果にてステータスが増加した。

 ※秘め恋のスキル効果はスキル所持者に好意を向けていると、対象者のステータスを向上させる。効果は離れても持続するだ。

 最後にミミが【ヒーラー】が終わった後に出てくるであろうと予定のジョブの説明を簡単にすませる。

 それはその時また改めて説明する事を伝えると、彼女もジョブを変えたばかりでこれ以上は頭がパンクしてしまうかもしれないからね。


「これで私もヒーラーなんですね」


「はい。おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


「おっしゃ、次は俺だな」


「はい、それじゃトトさん」


 ミツから差し出された森羅の鏡を覗き込むトト。

 鏡は直ぐに彼のジョブを表記する。


「おう、借りるぜ。おっ、出てきたぞ」


「トト、見ても良い?」


「ああ、すまねえ」


「【オブリビオン】【ガード】【ソードマン】【狂戦士】【シーフ】の五つですね」


「全部前衛だよな?」


「はい。このオブリビオンって言うのがウォーリアーの次のジョブでしょうね」


「ならどれ選んでも問題ないな。ミツのオススメってどれだ?」


「そうですね。前衛の力を上げるならオブリビオンでしょうが……。はい、トトさんにオススメとするのは【狂戦士】です」


「狂戦士? なんだか名前で強そうだよなこれ」


「狂戦士はパワー系のスキルがあるそうですよ」


「へー」


「トトはそれでいいの?」


「ああ、お前たちを見てるとミツの選択にハズレはなさそうだからな。それじゃほいっと」


 トトは躊躇いもなく【狂戦士】のジョブを選択。

 そして鏡の表面に出てきた狂戦士のスキル一覧が、虹の文字として表記される。

 〈震動〉〈かぶとわり〉〈ヘヴィスウィング〉〈轟の一撃〉〈タオパオパート〉


(この中じゃ、自分はかぶとわりしか知らないな。ユイシス、スキルの説明お願いしていい?)


《はい。〈震動〉は相手の足元に地面の揺らぎを起こし動きを止める効果を持ちます。〈ヘヴィスウィング〉こちらは斧、または鈍器を振り回しその重量にて相手にダメージを与えることができます。〈轟の一撃〉衝撃を与えた相手の体内からのダメージを与えます。ミツの持つ〈崩拳〉と効果は同じとなります。〈タオタオパート〉武器を振るたびに攻撃力が上昇します。相手にダメージを与えるとその効果を失います》


(なるほど。ありがとうユイシス)

 

 ミツはユイシスから受けたスキルの説明をトトへと伝える。

 やはり彼もスキルを全て選べるのか、驚きつつも5つのスキルを取得。 

 因みに狂戦士の限定スキルは〈タオタオパート〉である。

 ジョブを変えた二人は物は試しと直ぐに訓練場へと戻る。

 すると先程までの激しい音何処へやら、シーンっと静まり返った場となっている。


「あ、あれ? 随分と静かに……リック、皆如何したの? 戦いの手が止まってるみたいだけど」


「はぁ……枯渇。ミーシャとローゼの二人がスキル使いすぎて魔力の枯渇を起こしたんだよ」


「あら」


 アリーナ席を見上げると手すりにもたれたローゼの姿が見える。


「ローゼさん、大丈夫ですか!?」


「う、うん……ちょっと気持ち悪いだけだから……」


「それで、ミーシャさんは?」


「は〜い。ここよ〜」


「ミーシャなら私の後ろで横になってるわよ……」


 二階席へと声を飛ばせば二人の反応が帰ってきた。

 だが、その反応は直ぐにでも切れてしまいそうな程にか細い声にも聞こえる。


「ミツ、どうする? 二人の魔力が戻るまで二人だけ休ませておくか?」


「んー。魔力の枯渇だけなら補充しようか」


「補充……。!? えっ、いや、ミツそれは……」


「何あんた、洞窟の時みたいに今度はローゼ達にいやらしい事する気なの……」


「あれは別にいやらしい事じゃ無いんだけど」


「はいはい。フンッ」


「はぁ……。そんな顔しなくても大丈夫だよ。今回は二人に魔力を与えるのは自分じゃないからね」


「ふーん。因みにそれって誰よ……」


「ミミさん」


「は、はい!」


「「!?」」


 ミツが名を呼べば二人は驚き顔。

 ミミはおずおずとミツの隣に立つ。


「ミミさん、さっき覚えたスキルの中にディーバールチャンスダイってのがありましたよね。それをローゼさんとミーシャさんに使ってミミさんの魔力を分けてあげてください」


「分かりました」


 私やりますと意気込むミミを連れ、二階にあるアリーナ席へと移動。

 そこにはくたりと疲れきった姿を見せる二人の姿。


「大丈夫、お姉ちゃん!」


「へ、平気よミミ……」


「ミーシャ、無理は良くないわよ〜」


「私以上に動けない奴の心配なんて受けたくないわね」


「ははっ……痛ったた……」


 人それぞれ、魔力の枯渇を起こすと違った症状が起きてしまう。

 ローゼは立ちくらみ、ミーシャは関節の痛みと戦闘時に起きては死を招かない危険な症状である。

 因みにリッコは吐き気、リッケは目眩、ダニエルの息子であるラルスは全身の痺れである。

 

「ローゼさん、今からミミさんが新しく覚えたスキルでお二人の魔力の枯渇を治しますね」


「ミミ、貴女そんな事ができるようになったのね……。流石私の妹ね。姉として嬉しいわよ……」


「ま、まだ試したこと無いんだよ。お姉ちゃん、それでもいいの?」


「ええ、私は貴女の力を信じてるもの。と言うか治してくれるなら早く治して……」


「あわわっ!? お姉ちゃん!」

 

 手すりを掴む力も無いのか、ローゼはくたりとそのまま床に倒れてしまった。

 なんか床が冷たくて気持ち良いとか言ってる。

 ユイシスにローゼの魔力核の場所を聞く。


「ミミさん、ローゼさんの背中から自身の魔力を流し込むイメージにスキルを使ってください。ゆっくり、ゆっくりで良いですから。ローゼさんも流れ込んでくる魔力に違和感があると思いますけど、そこは我慢ですよ」


「はい!」


「ええ、分かったわ……」


 ミミは姉の背中へとそっと手を当てが得る。

 初めて使うスキルであったが、ミミは問題なくローゼへと魔力を流し込むことができたのか、ローゼの顔色がゆっくりと戻っていく。

 その際、背中を擽られている感覚に襲われたが、流し込む魔力もミミは少ない為、こそばゆい程度で彼女は声を漏らすことはしなかった。


「ふー。ありがとうミミ、メチャメチャスッキリしたわ!」


「ホント!? 良かったー」


「ミミちゃ〜ん。次は私をお願い〜」


 自身の使用したスキルにて姉の元気な姿を見たミミは喜びに笑みを浮かべる。

 そんな二人に隣からミーシャの細い声が聞こえてくる。


「は、はい! でも……」


「んっ? どうしたのミミ?」


「あの……。ミーシャさん、ごめんなさい。多分次にミーシャさんも魔力を戻したら次は私が魔力の枯渇を起こしそうで……」


 レベルが上がったのでミミも魔力を戻して入るのだが、上位ジョブであるローゼのMPを回復するには、ミミのMPの半分を与えなければいけない程だったのだろう。

 やりたいけどあげれませんと申し訳ない思いに言葉を返すのだった。


「えー。そんな〜。でも仕方ないわね〜」


「ごめんなさい!」


「良いのよミミちゃん。……ミツ君〜」


「はい、ミーシャさん?」


「悪いけどミツ君もミミちゃんと同じ事ができるのよね?」


「はい、できますけど……」


「じゃ、ミツ君の魔力を私にもらえないかしら〜」


「えっ!?」


「おねがーい。背中とか足とか、もうあっちこっち痛くて起き上がることも厳しいのよ〜」


「えーっと、本当に良いんですか?」


 ミツの戸惑う反応に隣に立つリッコが呆れ口調に話をすすめる。


「良いんじゃない。本人が望んだことだし。でもミーシャ、言っておくけど、ミツの魔力はキツイわよ」


「そ、そうなの? ミツ君、や、優し目にお願いね〜」


 脅しと言う言葉ではないのだが、知らないよりかは知っていた方が良いとこれはリッコの助言の言葉である。


「まぁ、ミーシャさんがいいなら(ユイシス、ミーシャさんの魔力核はどこにあるの?)」


《はい。対象者、ミーシャの魔力核は下腹部となります》


(……下腹部。ヘソの部分か……)


「ミーシャさん。あの、魔力核は人それぞれ違いまして……。ローゼさんは背中なのですが、ミーシャさんは、その……下腹部ですが、本当に自分がやってもいいんですか?」


「……!?」


 ミツの視線が彼女のお腹へと向けられた事に気づいたのだろう。

 リッコはジト目に、ローゼは目を細め、ミミは口元を抑え頬を染めている。


「……下腹部。……。フフッ、ええ、良いわよ」


「ミーシャさん。……分かりました」


 ミーシャの覚悟は決まってるわと、頬を染めた彼女はハニカム笑顔を向けてくれる。

 リッコの時のように、周囲に声が漏れては恥ずかしいだろうと思いミツは二階に造ってある女性用の更衣室に彼女を抱えて行く。

 持ち上げる際も少しミーシャは身体を走る痛みに我慢しつつ、更衣室のベンチに寝かされる。

 ローゼとミミは入り口で待ち、リッコが同伴してくれる。

 治療の為に少しミーシャの服をたくし上げ、スカートを少しずりおろす。

 見えそうになった彼女のショーツにドキドキとミツの心臓が早くなる。


「それじゃやりますよ」


「ええ……よろしくね///」


「はい(また後でスケベ野郎って言われるんだろうな……。ええままよ! ディーバールチャンスダイ)」


「えっ……あっ、お゛っっ!? ♡///」


 ミツが魔力を流し込んだ瞬間、ミーシャの口から漏れてはいけない声が漏れてしまう。

 その際、その光景に真っ赤と頬を染めるリッコ。

 彼女もその時の感覚を思い出したのだろう。

 ドアの外で待つローゼとミミにもミーシャの聞いたことの無い声に頬を染めていた。


 魔力は回復できたのだが、ハァハァと熱い吐息にグロッキー状態のミーシャ。

 ミツはそれじゃ休憩してから続きをしましょうと、フォルテ達へと昼食の用意を頼む為に更衣室から出れば、姉妹の二人からなんとも言えない視線を受ける事になった。


 ああ、ついでに実はリッケも枯渇をしていたので、彼の抵抗も無視して魔力を送っておいたよ。

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