第290話 個人レッスン

 冬の間、リック達が冒険者活動をお休みする間と、彼らのレベルアップを狙う。

 ミツはヘキドナ達にも声をかけ、彼女達も共に強くなる事を告げる。

 彼らの訓練用としてミツは幻獣召喚にてゴーストキング、スケルトンキング、グールキングを呼び出す。

 彼らの力は討伐の時とは段違い。

 もし今の彼らが主であるミツに牙を向けることがあれば、村どころか、周囲一体はアンデッドの地獄となるかもしれない。  

 と、三体のキングがそんな反抗的精神は元々ないのか、今は三人とも土下座状態と頭を地面に埋める勢いとこすりつけているのだ。


「「「……」」」


「なぁ、あれってどう言う状態だ?」


「んー。悪さをした人がミツ君に誤ってるって感じですかね……」


「じゃ、ミツの周りで殺気バリバリ出してる姉ちゃん達は……」


「ミツ君の出した精霊ですから、恐らく彼の悪口を言った彼らに怒りを向けているのではないでしょうか……」


「おっ、おお。なるほど、ミツの奴に喧嘩を売ると先ずはあの姉ちゃん達が前に出るのか……」


「売る気なんですか?」


「俺がやると思うか?」


「友達相手にそれは思いませんね」


「なら言うなや」


 リックとリッケの互いと気持ちを落ち着かせるための会話。

 そうしなければならないのは、フォルテ達の怒りがキング達へと向いている為でもある。

 別にミツは怒る場面では無いと思うが、召喚主であるミツに対してキング達が恭しさが全く無い事と、真っ先にミツを見ては悲鳴を上げたことに関して彼女達の怒りに触れてしまったのだろう。

 彼の後ろに並び立つ五人の精霊に、実はミツ本人もほんの少しだけ萎縮気味である。


「えーっと、久しぶりだね……」


「はっ! 御身へのご挨拶の遅れ、心よりお詫びいたします!! 我々がこの地にまた存在できた事、偉大なる主様のお力と、この私、先程まで理解できなかった乏しき自身の知性に恥じる思い! 主様のお望みならば、この命……はもうありませんが、どうぞ以下用にも……」


「「ガスに同じ!!」」


「ははっ……。まぁ、君たちもこれからよろしくね。フォルテ達もそろそろ許してあげなよ。相手が知らなかった事で責めちゃ悪いからね」


「マスター……。はい。マスターのお言葉のままに。ですが……。またマスターに対して先程のような態度を見せたなら、マスターが許されましても我々が許しません!」


 フォルテ達は致し方ありませんと一度その怒りを抑えるが、キング達へと向けるその視線は冷たくも言葉通り本気の視線。

 五人の視線を受けたキングの三人はビクリと反応し、あっさりと萎縮してしまった。


「ひっ! も、勿論にございます! フォルテ様の申されましたとおり、我々主様へは、二度と悪しき考えを持つ事などございません!!」


「「ははー!」」


 まるで印籠を見せられた悪役代官の様にその場は異様な光景であろう。


「コホン。えーっと、皆も落ち着いてね。紹介するね。自分の幻獣召喚のゴーストキング、グールキング、スケルトンキングの三人。三人ともモンスターを召喚できる魔法とスキルを持ってるから、それを使って皆のレベル上げをやっていくからね」


「「「御身の望むままに」」」


「だ、大丈夫なんだよな……。キングって言うくらいだからめちゃくちゃ強いんじゃ……」


「小僧、ゴーストキングである俺様が弱い訳がなかろうが!! 人間風情が、生意気なその口を引き裂いて……イデデェッッッ!!」


 恐る恐ると質問してきたリックの言葉にゴーストキングが反応し、威圧的な恐怖をリックへと向けた瞬間、彼の頭をダカーポが強めに踏みつける。


「おら、ゴースト!! あの方はマスターのお仲間だぞ! 小僧とはその口を引き裂かれたいのか!? リック様、若しくは最低でもさんを付けろや!」


「も、申し訳ございません!! 軽率な発言、どうかお許しを!!」


「あっ……いや、俺は気にしませんから……」


「いえ、これくらいと思われるでしょうが、ダカーポのあれはしつけとして必要なことです。ですので、皆様にあの三体が失礼な事を申しましたら私達が代わりにしつけをいたします。リック様、不快とされましたお気持ち、我々が代わりまして謝罪いたします

「いやいや! 俺は大丈夫! 大丈夫ですから!」


「寛大なお心に感謝いたします」


 リックには微笑ましい笑みを向けるフォルテだが、視線をキングに向ければそれはスッと豹変。

 まるで鍋底にこびりついた焦げ跡を睨むような厳しい視線とそれは変わる。


「な、なぁ。ミツ、お前が出した召喚だろ?  俺達が怪我させられる事ってあるのか?」


「あー。うん、自分もそう思って考えた(ユイシスに聞いた)んだけど、フォルテ達は精霊召喚で出した娘だよね。精霊召喚は基本召喚主の戦闘や身近なサポートとして付いてくれるんだよ。でも、幻獣召喚で出したモンスターは基本戦闘でのサポートだけ。勿論言い聞かせれば戦いの他にもやってくれる事には動いてくれるんだけど、戦うこと以外はやっぱり苦手みたいで……」


「それって大丈夫なのかよ……」


「大丈夫大丈夫。見てわかると思うけど、フォルテ達の方が数倍強いからあの三人が暴れることは無いよ。ってか自分がスキル解除したら直ぐに消えちゃうから」


「そうか……。まぁ、できるだけお前の側か、あの姉ちゃん達の近くに居れば安全だってことだな」


「そうそう。さて、早速彼らに訓練用の相手を出してもらおうかな。えーっと、スケルトンキング、君から良いかな?」


「カタカタカタ。はっ! 偉大なる主様、この甲骨に何なりとご命令を! 何をお望みで? 人の骨を使い、食卓を作りましょうか? それともそこにいるウルフをアンデッドウルフに変えましょ……アダダダダァッッッ!!」


 ミツに呼ばれ彼の前で深々と頭を下げるスケルトンキング。

 しかし、彼の言葉に次はメゾがスケルトンキングの頭蓋を掴み、メキメキと音を立てる程に強く握る。

 思わぬ激痛に悲鳴を上げるスケルトンキング。


「おいこら愚骨……。マスターがそんな下らない事をお望みだと思ってるのかしら? それと、そのウルフ達はマスターが直々にテイムされたウルフです。お仲間の皆様同様、そのウルフにも傷一つでも付けようなら、貴方を骨粉にしてゴブリンの糞に混ぜこむわよ」


「ごめんなさい! ごめんなさいです!! だからお願い、握りつぶさないで!! あっ、今パキって言った!? ギャーー!!」


 スケルトンキングの悲鳴が響き渡る。

 流石のミツもアン達に手を出されたら、彼もまぁまぁで済ませる訳にもいかないのでメゾのやる事に止は入れなかった。

 少し時間を起き、落ち着いたところでもう一度スケルトンキングへと試しにモンスターを召喚してもらう事にした。


「分かりました。出すモンスターはどれ程の物を希望されますか?」


「そうだね……。ウチのメンバーではアイシャ……、彼女が一番レベルが低いから、それに先ずは合わせて貰っても良いかな?」


 スケルトンキングはアイシャへと目は無いが視線をむけ、彼女の強さを判断したのだろう。

 カタカタと骨を鳴らし、器用にも親指と人差し指を合わせ丸を作り見せる。


「畏まりました。容易いことにございます。いでよ! ボーンバー!」


 スケルトンキングが地面へと魔力を流す。

 すると地面からボーンバー、言葉通り骨の棒が出てきた。 


「これは?」


「はっ! これはボーンバー。本来ならスケルトンオーガーなどに持たせては戦わせる武器にもなる物ですが、実際、これは単独にも意思を持ち戦うことが可能なモンスターにございます。ただの骨の棒と思っていただいては危険な奴。この様に」


「うわっ!?」


 スケルトンキングが足元に落ちていた小石を拾い、ボーンバーへと投げる。

 コツッと石が当たると、ボーンバーから、長い手が突然生えてはその腕を振り落とす。


「とっ、刺激を与えれば収納していた手が振り回され、近くの者へと物理ダメージを与えます。また相手の動きを止める為の腕は、相手を捉えたら離しません」


「おー。こんなのも居るんだね」


「ハッハハハ。まぁ……。見たとおりこやつには足が無いので動くことができないのが欠点です。なので槍や魔法と遠距離の攻撃に滅法弱い正にカカシです」


 スケルトンキングとしては使えないモンスターの一体として考えているのか、自慢するものでは無いと恐縮するがそんな事はない。

 ミツの中では安全に高率良くと言ったゲーマーとしての考えもあるので、正に目の前のモンスターは良い練習台である。


「いやいや、初心者向けとしてはいい奴だよ。やるね!」


「ははっ! 主様のお眼鏡にかかったこと、心より誉れにございます!」


 ボーンバーを鑑定するとレベルは5。

 スキルは持たないので本当に物理攻撃だけの棒野郎だ。

 その場から動くことができないなら、ゴブリンを相手にするよりも安全なモンスターなのかもしれない。

 ミツが何処まで近づいても大丈夫かと聞けば、刺激を与えなければ手の届く所まで近づいても動かないそうだ。

 今は先程出した腕をまた収納したので、先程腕を振り回した範囲を地面に円を書き、これ以上は近づかないように決める。

 

「うん、この強さなら先ずはアイシャ用として使わせてもらおう。アイシャ、早速訓練をするから着替えて弓矢を持って来て」


「う、うん! 直ぐに戻るね」


「さて、次はトトさんとミミさんの分だね」


「ならばボーンバーをもう数本出されますか?」


「いや、それだと前衛のトトさんの訓練にならないから駄目だね」


「左様ですか。ならば彼に倒せるとしたら……ゴブリンスケルトンでしょうか。しかし、あれは素早い動きもするので彼を怪我させてしまうのでは……」


「取り敢えず見せてもらえる?」


「はっ!」


 次に召喚したのはゴブリンスケルトン。

 通常のスケルトンよりも背丈が低く、骨も細く見える。

 しかし、先程出したボーンバーとちがい、こっちのゴブリンスケルトンのレベルは15と二桁に行ってしまう。

 本来ならレベル50前後なのだが、レベルを落としてこれが限界だそうだ。

 試しの洞窟で戦うスケルトンですらレベルは一桁。

 これは危ないかなと話していると、トトが威勢良く声を出す。


「ミツ、それくらい俺でも倒せるぜ! あんまり俺を甘くみんなよ!」


「おっ、言うね。最近鈍ってきたあんたの戦いを見せてもらおうじゃないの」


「へっ! 待ってろ、直ぐに俺も準備してやってやる!」


 意気込み高く声を上げ、武器を取りに駆け出す。

 トトが戻ってくる間にミミ用の相手を出してもらうことにする。


「じゃ、次はミミさんの相手をお願いするよ」


「えっ!? わ、私も戦うんですか!?」


「ミミさん、大丈夫ですよ。僕も前のクレリックの時の相手としてスケルトンと戦った事もありますからね」


「支援のクレリックでですか!?」


「あっ、もしかしてあの事知らねんじゃねえか?」


「リック、あの事って何よ」


「ああ、スケルトンやアンデッド系はヒールをかけると倒せるんだよ。試しの洞窟の時にはミツとリッケはそれでスケルトンとゾンビを何回か倒したからな」


「そうなの!? 知らなかった……」


「ミミさんは最低限にパーティーでの立ち回りを覚えればいいので、今回の訓練ではこの中ではミミさんが一番成長するかもしれないね。それじゃスケルトンを出してもらえるかな」


「畏まりました」


 召喚されたスケルトンは武器を持たないタイプだ。

 このまま訓練を始めるとスケルトンがミミを誤って攻撃を仕掛けるので以前のように動きを止める。

 今回はミツもスキルの検証を兼ねたいので止役は彼が引き受ける事にしている。

〈シャドーコントロール〉を発動し、スケルトンの足元の影が伸び、動かしていた手足を影で捕縛。

 簀巻状態となったスケルトンはカチャカチャと顎を鳴らしている。

 音にミミが怯えているが、一度倒せば恐怖も消し飛ぶだろう。

 二人が戻ってきた所で支援を発動。

 ミミも自身のスキルレベルを上げる為にも使えるスキルは使ってもらう。

 足りない分をミツがフォローだ。 


 さて、先ずは三人のステータスを確認。

 


 名前  『ミミ』 ハーフ兎耳族/15歳


性別女 身長142センチ 体重36キロ

B74/W56/H73


クレリックLv4。

【支援術】

街用の服と靴(古着) 麻のショーツ


HP ____38+(5)

MP____65+(5)

攻撃力_8+(5)

守備力_18+(5)

魔力___30+(5)

素早さ_20+(5)

運 ____12+(5)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ヒールLv4

ブレッシングLv4

速度増加Lv1


※兎耳族と人間の間に産まれたハーフ。父も母も亡くし、珍しい孤児として売られる所を血のつながりのあるローゼに助けてもらい、今は共に住んでいる。



名前  『トト』    人族/15歳

性別男 身長154センチ 体重44キロ


ウォーリアーLv5。

【剣術】


訓練用木刀(ミツの製作) 麻の服(古着)麻の肌着 草牛の革靴


HP ____68+(5)

MP____5+(5)

攻撃力_45+(5)

守備力_28+(5)

魔力___5+(5)

素早さ_28+(5)

運 ____17+(5)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ジョブレベルMAX1職

【ノービス】All+5

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

叩きつけLv5

スイングLv3


※田舎の村の道具屋の三男坊息子。店は長兄と次兄が跡を継ぐ事が決まったその年に、商売に興味も無かった彼は冒険者になるとライアングルの街に住む事にした。

村での幼馴染であるミミとの再開後、ローゼに懇願してパーティーに加入している。



名前  『アイシャ』   人族/15歳


性別女 身長148センチ 体重39キロ

B78/W54/H74


ノービスLv8


ウィローの弓(訓練用) 訓練用の衣服 麻のショーツ 乾燥革の靴


HP ____24

MP____0

攻撃力_10

守備力_14

魔力___0

素早さ_18

運 ____8

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

発見Lv2

家事Lv4


※スタネット村の村娘。父ゼイと母マーサの娘。幼い頃に父を戦場で失っている。

村に住む人々を病から救ったミツに対して、家族と違う強い好意を抱いている。


「ミミさん、自分が支援の効果を上げるスキルを使うのでその後自身が使える支援を使ってください」


「はい」


「さてさて、次は何見せてくれるのか」


「僕はあの三体のモンスターを召喚した時点で驚いたので負けです」


「わ、私はまだ耐えてるわよ……」


「リッコ、我慢は良くないニャよ。早くトイレに行ってくるニャ」


「べ、別にトイレを我慢してる訳じゃないわよ!?」


「そうニャ? 何だかプルプルと身体が震えてたから我慢してるのかニャと」


「それはミツがやる事に驚かない様に耐えてただけよ。フンッ、リック、あ、あんたもリッケみたいに負けを認めたらど、どうかしら!」


「いや、俺はまだいける!」


「ちっ! しぶとい奴ね」


「おう! 伊達にパーティーの盾やってねえからな!」


 三人はまた彼が何をやるのかで驚くのを我慢する勝負をしていたのだろう。

 ってかリックはキングが出た時点で警戒心を上げてたからアウトじゃないかな?


「あんた達は何やってんのよ……。ミミ、アイシャちゃん、頑張って! トトはサボらずにやりなさいよ!」


「なんで俺だけ!?」


 周囲の笑いも出始めたところでミツは彼らに支援スキルを発動する。

 既にバフとしてかかっている〈絆の力〉だけでもこの場の人数で十分戦闘を有利にする動きをするが、更に先ずは演奏スキルを発動。

 〈ヴァルキリーメロディー〉〈マジシャンメロディー〉でアイシャとミミの攻撃力と魔力を上げ〈ウォークライ〉でトトの闘争心を上げる。

 ミミの足元に〈魔速章印〉を発動し、支援魔法の詠唱速度を増か。

 ミミが支援を使う前にミツが〈金色のコルダ〉を発動し彼女達の支援を増加させる。 

 因みに金色のコルダはミツ本人が歌う訳ではなく、対象者の頭上に室内であろうと何処から雲の隙間から差し込んだ様な光を受け、光を浴びさせる。  

 三人に集まってもらい、おまじないである能力上昇スキルが締である。

 三人が戦うスケルトン、ゴブリンスケルトン、ボーンバーにはデバフの〈ブレイクアーマー〉使い守備力を低下させ、取り敢えずは完了。

 早速ミミには支援を使ってもらう。 

 魔速章印の効果が自身でも実感して分かるのか、スッとまるで肌に染み込む化粧水の様に身体に馴染むスキル効果に驚きの彼女。

 俺から行くぞと木刀を両手で掴みゴブリンスケルトンへと駆け出すトト。

 ゴブリンスケルトンには同じ様な武器を持たせているので、数回の鍔迫り合いが起きる。

 だが支援をかけているトトの方がやはり有利だけに、トトの持つ木刀の先が空きを突いてはゴブリンスケルトンをあっさりと倒してしまう。


「おっしゃ! これぐらい余裕!」


「うん、動きは悪くないね。スケルトンキング、悪いけどもう一度出してもらえるかな。それで勝ったら次は二体ね」


「畏まりました」


 言われたとおりとスケルトンキングはゴブリンスケルトンを召喚。


「それじゃアイシャ、こっちに来て」


「うん」


「アイシャ、弓の飛距離はどれぐらい今は飛ばせてる?」


「えーっと、家の端から端ぐらい……」


「なるほど。8メートルって所かな。なら問題ないよ。アイシャ、このボーンバーの周りに書いてる線、これを超えない場所、このギリギリから弓を放ってみて」


「えっ!? ここからで良いの?」


「近っ! おいおい、ミツ、それじゃその娘の弓の練習にならないっての。弓ってのは、こう、離れた所から小さな的に当てる武器だろに」


「いえ、アイシャにはこの練習でレベルアップを狙います。さっ、アイシャ、当てれるかな?」


「もう! そりゃ、この距離だもん、私でも飛ばせるよ」


 アイシャは少し小馬鹿にされている気持ちなのか、プーっと頬を膨らませながら弓を引く。

 矢はスコーンっと音を鳴らし命中後、ボーンバーは隠していた腕を振り回す。


「まー、当たるわな」


「あの距離だもん。アイシャちゃん、お母さんとズッと練習してたんでしょ? なら当たるわよ」


「当たったニャ」


「当たったと言うか、刺さってますね。……あれ、矢って骨に刺さりましたっけ?」


 疑問と思うリッケの言葉を拾ったのか、数名の表情が変わる。


「うん、上手だねアイシャ」


「うー。褒められるのは嬉しいけど、この距離だよ……」


「良いんだよアイシャ。今はあのボーンバーを倒す事だけを目標にしてね」


「うん……」

 

 言われるがままにアイシャは弓を引き続け、スコーン、スコーンっと音を響かせる。

 矢を当てている本人は気づいていないのか、硬い骨に矢が次々と刺さっていく事に訝しげな視線が更に増えていく。

 三本目を当てた瞬間、ボーンバーは真ん中からボキッと折れた。 

 スケルトンキングは直ぐに倒されたボーンバーを消し、新たな的を同じ場所に召喚。


「それじゃミミさん、スケルトンにヒールをかけてください」


「は、はい!」


 シャドーコントロールにて簀巻にされたスケルトンへと近づくミミ。

 彼女はいつもの様に【ヒール】を発動する。

 するとスケルトンは暴れることもなくスッと骨粉に変わってしまった。

 その光景を始めて見た者は驚き、ミミ本人も驚き顔だ。

 影を戻し、骨粉はスケルトンキングが影の中へとまた消してしまう。

 また少し離れた場所に新たなスケルトンが現れると、ミツが影で捕縛。

 

「凄えなミミ!! お前、一撃でスケルトンを倒してるじゃねえか!!」


「う、うん……」


 本人が一番驚いているのだろう。

 彼女はトトや周りの声も生返事気味に返している。


「す、凄いですね。僕でもスケルトンを倒すにはヒールを二回かけないと倒せなかったんですけど……」


「ああ、リッケ、多分ミツの支援が効果を出してんだよ。あん時はおまじないとお前の支援しか受けてなかったじゃねえか。ミツの笛のスキルとか、他にも色々やってただろ。きっとその効果だ」


「ですね……」


「リーダー、あの……私少し思ったんですけど。少年っていくつ魔法とかスキルが使えるんですかね?」


「……24」


「えっ?」


「あの坊やが私達の前で見せた魔法やスキルの数だよ。まぁ、恐らくこれは半分って所だろね」


「うわっ、半分って……。少年、えげつない数のスキル持ってるわね……」


 二人の会話が聞こえていたのか、仲間達も指折り数えてはミツが今まで見せてきたスキルを思い出してみる。

 彼が判別晶に似た物を持ち歩いてる為、多彩なスキルや魔法が使える事は仲間は気にしてはいなかったが、ヘキドナが予想した数を持っていると言われてもリッコ達は納得してしまう。

 しかし、彼は既に460個超えのスキルを所持しているとは、誰も思わないだろう。

 これを知っているのは彼に召喚されたフォルテ達だけである。

 

 次にヘキドナ、シュー、エクレア、マネ、ライムの娘達。

 五人も共に訓練する事を決めているので、彼女達にも上位のジョブを狙ってもらう。

 

 ヘキドナ達を鑑定すると、正に彼女達は宝石の原石の様に驚く結果を見せてくれる。

 まずヘキドナだが、彼女は今のジョブになる迄に、いくつもジョブを転々と変えてある。

 それはジョブがMAXになる前にと、妹のティファとの戦闘を確かめながら自身に合った物を探していたのだろう。

 長剣や短剣と試してみたが、彼女は鞭がベスト武器である事に今のジョブを選んでいる。 

 だがその未完成のジョブを全てこなせば、ヘキドナには条件上位ジョブを狙える事が判明した。

 そのジョブは【ローズバトラー】女性限定であり、鞭の扱いが今よりも向上する事をユイシスから教えてもらう。

 次にエクレアだが、彼女はゼクスと同じ【スワッシュバックラー】が狙える位置にいる。これも条件上位ジョブである事を教えてもらい、条件は剣術にて対人戦を済ませる事と少し血生臭い条件であった。

 マネとライムは残念ながら条件上位ジョブは出せないが、マネは【ソードマスター】そしてライムは【ラヴィジャー】と両者とも上位が狙える。

 ソードマスターは別名大剣マスターと言われ、多才な大剣のスキルが使え、剣豪の称号が付くそうだ。

 ライムのラヴィジャーは邪神に仕え、虐殺と破壊を捧げる狂信的戦士。恐怖と苦痛を操り、攻撃力上昇スキルを得意とする。破壊者の意もあり、鬼族である彼女だからこそ扱えるジョブかもしれない。

 さて、最後にシューだが、パーティーの中でもミツと同様に変わりネタの彼女。

 やはりなと彼女は条件上位ジョブを出せるポジションに居たようだ。

 いつも話している間に突然姿を見せる彼女だが、実は彼女の称号に【神出鬼没】と言う言葉通りの称号が彼女には付けられていた。

 いつもパーティーの為と情報収集と街の中や森の中を走り回っていた努力の結果なのだろう。

 因みに称号の効果はミツの持つ【ハイディング】と効果は同じであり、何かアクションを起こさなければ気づかれないそうだ。

 そして彼女が狙えるジョブは【シャドウ】

 陰の言葉にどの様なスキルを持つのか、今から楽しみとなる。

 五人の相手はグールキングが出してくれる。

 ライムが加入したてのパーティーだが、元々完成されていたヘキドナ達のコンビネーションにどの様に動きを追加するのか。

 ジョブのレベルアップもだが、戦闘での動きを改めるのもこの訓練課題に入る。


「それじゃ、グールキング、五人に合わせた奴を出してもらえるかい?」


「はっ。我の召喚します下僕達を、主様の女人様へと糧として捧げさせて頂きます! いでよ! ゾーラ!」


「「「「!!」」」」


 魔法陣から吹き出すように泥が現れる。

 それは次第と形をとり、大きな巨神兵と姿を変えていく。

 しかしグールキングが召喚するモンスターは基本ゾンビ系。

 体内から気泡がポコポコとでてはドロリドロリと外形が溶けるように崩れる。

 それでも無くなった部分はまた形を戻し。また崩れるという、生み出すのが早すぎて腐った巨人である。


「フハハハハ! 如何ですか偉大なる主様! この大きさ、この強さ! 例え数百、数万の兵が来ようとも、小奴に手を出せるものはおりますまい! 触れれば酸にてご覧の通り! あらやだとその触れた皮膚を溶かし、吹き出す息は相手の肺を一瞬にして活動を止める苦しみをあたえましょう!! さぁ! 踊れ! 死の舞を見せてみろ! 我、グールキングが生み出しゾーラにて女人様を駆逐。グハツッ!!!」


「こら禿。今までの流れを見てなかったのですか〜? 貴方はマスターの望む事すらできない腐れヘドロ野郎でしたのね」


 召喚した魔物、ゾーラを見ながら高笑いするグールキング。

 彼の背後を蹴り、地面に沈ませるティシモは汚物を見る視線にグールキングを見下していた。

 

「なっ!? 我、い、いえ……わたくしは偉大なる主様に喜んでい頂きたいと思い……」


「それでこれですか……。フッ、どうやら頭の中までお腐れになられてるようですね。考えもできないその腐った頭の中身を一度洗い流してさしあげましょうか」


「へっ? !? ガボボボボボッ!!!」

 

 ティシモは大きな水球を作り、その中へとグールキングを放り投げる。

 水球は中で回転しているのか、グールキングが洗濯物の様に中でぐるぐると回っている。

 

「マスターは何とおっしゃいましたか? 彼女達に合わせた奴を出せと申しました。それを加減もできず自身の力を誇示させる様な下物をマスターに見せるなどと。剰え彼女達を駆逐するなど許されるはずもない発言は許されません」


「ガボボボボ! お、お許し! おボボボボボボボボボ!!!」


「はぁ……。ゴーストキング」


「はっ!! 貴方様の影、ここに!!」


 グールキングへとティシモの怒りの鉄槌が落ちる。

 雉も鳴かずば撃たれまいと言う言葉を思いつつ、ため息まじりにミツはゴーストキングを呼ぶ。


「あれじゃヘキドナさん達の相手が出せそうもないから、君が代わりに程よい奴を出してもらえるかい」


「ははぁー! で、ではあのお嬢様方々には、そ、そうですね、ギャザリンなど如何でしょうか」


「ギャザリン? ああ、城の入り口にデスナイトと居たあれね。確かにチーム戦としたら良いかも」


 旧王城に配置していたギャザリン。

 そのことを知っていると言うことは、やはりあの時デスナイトと共にギャザリンを倒したのはミツだと確信を持つゴーストキング。


「!? はっ、ご明察にございます。それでは呼び出します」


「うん。それとティシモ、お仕置きも程々にね」


「はい、マスター」


「ガボボボボボボボボボボボボボッ!!!」


 グールキングが開放されたのは暫くあとの事であった。

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