第289話 一夜校

 領主家での祝の次の日、ミツは朝一番とダカーポを翼に付け、森の上空を飛び回っていた。


「後はどれにしようかなっと」


「マスター、あちらの木など如何ですか? 地盤が悪いのか、傾いた状態と倒木しそうにも見えます」


「うん、あれにしようか。二人は他にも倒れそうな木の捜索を続けて。あれを取ったら直ぐに戻るから」


「「はい!」」


 ミツはフォルテの指を指した木へと近づき、これは倒木は間違いないと周囲を確認。

 木材へと幾度か拳を入れ、リスやアライグマなどの動物が入っていない事を確認。

 木に触れたミツはそれをアイテムボックスへと収納し、二人の元へと戻る。


「姉さん、それでは私は川の方を見てきます」


「ええ、分かったわメゾ。それではマスター、私はあちらの山の方を見てまいります」


「うん、よろしくね、フォルテ」


 朝一番と三人の協力の元に木材探し。

 十分な程に子供達の為の教室分の木を集め終わり、村へと戻る。

 

 白い息が口から出てくる外の寒さ。

 その中、村の中にドンッドンッと木が積み重なる音が響く。

 何だなんだと村の人達が家から顔を出し、遠目にてミツのやる事に視線を向けている。


「坊や、何処に行ってたのかと思いきや、木を取ってきたのかい?」


「もう、朝っぱらからバッタンバッタンと、近所迷惑になるわよ?」


 先程起きたのか、ヘキドナとエクレアは厚手のフードを羽織り、ミツヘと近づく。


「あっ、お二人とも、おはようございます。はい、これから教室とか作りますので、その為の木材を取って来ました」


「教室? なんだいそれは」


「リーダー、少年が造るものっていったらきっといやらしい物ですよ!」

 

「違います! 子供達が勉強する為の部屋ってことですよ」


「ふ〜ん。勉強ねぇ。まぁ、大人になっても文字が読めない奴も冒険者の中にはいるし、代読としても稼いでる奴も見たことあるから良いんじゃない?」


「代読、なるほど……代筆もあれば代読も仕事にできるのか。エクレアさん、ありがとうございます。子供達の将来の仕事がまた一つ、自分の中で増えましたよ」


「うっ、うん。……近いってば///」


 エクレアのさらりとした言葉に、そうかと彼女へと感謝を向けるミツ。

 動き回ってきた彼の握ってきた手は暖かく、冷たい自身の手に伝わる温もりにエクレアは思わず頬も染めてしまう。


「取り敢えず坊や、お前さんのメイド娘がアンタの帰りを朝食を作って待ってるよ。早く行ってあげな」


「はい。ヘキドナさん達は?」


「私達もさっき起きたばかりでまだだよ。でも、悪いけどまた先に風呂場を借りるよ。朝から入れる湯船があるなら、ここにいる間だけでも贅沢しないとね」


「あっ! なら私も一緒に入ります!」


「はいはい……」


 取り敢えず取ってきた木材を村の一部にまとめて置いておき、三人は家の方へと戻る事にした。

 朝食としては贅沢にもベーコンやソーセージと焼かれた物が並びテーブルを豪華に彩っている。


「おうっ、ミツ、戻ったのかい」


「先にいただいってるっちゃよ!」


「おはようございます、マネさん、ライムさん。他の皆はもう食べ終わってるの?」


「ああ、ご馳走になったぜ〜」


 返答したのはソファーに背中を預けていたリックだ。

 マネとライムはまだ食べ足りないのか、ムシャムシャとその手は止まらない。  

 フィーネがキッチンから持ってきたパンが入ったバスケットへと二人の手が伸びる。

 両手に熱々のパンを手にして二人はニコニコと美味しそうに朝食を食べ続ける。

 因みにこの家で出す材料は全てミツのアイテムボックスから出した食料や調味料を使って作られている。


「ミツ、朝から何処に行ってたのよ?」


「そうだよ、フィーネに聞いたら、朝一番と出かけたって聞いて皆驚いたシ」


「その代わりにテーブルには既に僕達の分と朝食が用意されてましたからね」

 

「さっきなんか凄い音が聞こえたけど、あれはミツニャ?」


「うん、ちょっと材料が欲しくてね。ぱぱっと取ってきたんだよ。朝食の準備はティシモとフィーネにお願いしちゃったけどね」


 ミツの言葉に二人は当然ですよと、メイドらしい礼を見せる。 


「まったく、お前は次は何を作る気だよ」


「直ぐに分かるよ。んー、このソーセージ美味いね!」


 向けられる視線も慣れたもんとミツはマネとライムと共に朝食を済ませる。


「ミツ、この辺で良いかー?」


「リック、もう少し下って! 下って、はい! その辺で止まって!」


「おう!」


「大体これぐらいで良いかな」


 互いと大きな声を出し合うミツとリック。

 彼の持つ布を巻きつけた棒を目印と教室などの広さを決めていく。


「リック、ありがとうね」


「おう、気にすんな」


「よし、それじゃ皆、少し離れてね!」


 仲間だけではなく、村人達も見物と人々が集まる。

 ミツの言葉に離れろ、離れろと大人たちが子供たちを下げさせる。


 子供たちもこれから自身達が勉強する為の場所を作ると聞いて興奮気味。

 ワクワクとしたその視線に応え、ミツは取ってきた木材、鉱石、瓦礫や岩などまとめて〈物質製造〉を発動。

 ぐにゃりぐにゃりと姿を変え、光の後に出来たのは大きな平屋であった。

 2階や3階は必要ならいつもの後付工事である。

 表面は岩を使い真っ白、子供達が誤ってボールをぶつけたとしても傷一つ付かない丈夫な造りだ。

 無色では味気ないので木に付いていた葉っぱの緑を使い、模様を付けてある。

 村に造った家よりも少し豪華な屋敷にも見えるかもしれない。

 

「「「「凄い!!」」」」


「「「「!?」」」」


 子供たちは絶賛、大人たちは絶句と両極端な反応の違い。

 その反応に満足しているのはミツだけだろう。

 シューも入りたそうにしてたが、危ないところが無いかを確認しなければ人も入れるのも危ないだろうと言うが、ならば数名で入った方が危ない所も見つけやすいシと正論で返されてしまった。

 しょうがないですねとミツはシューと他にも入りたそうにしていたプルンとリッコを連れて行く事にした。


 広い下駄箱、長い廊下に三人は凄い凄いと声を出す

 教室は二つ造り、年齢で分けてある。

 部屋は他にもあり、職員室、保健室等々、最低限必要な部屋を準備してある。

 僅か数部屋を作っても、その場に必要な子供たちの教材、他にも教員テーブルや椅子と、物を追加した事に材料がまた底を尽きそうだ。 

 教室に入り、アイテムボックスから黒板を取り出す。

 黒板の作り方が分からなかったのでユイシスに相談。

 すると鉄と錫と鉛と変わった形の鉱石を混ぜ込んで代用品が作れた。勿論この世界独特の鉱石だが、本物の黒板と同じで磁力も備わっている。

 白のチョークでサラサラと試し書き。

 それを見たプルンとシューが私も描かせてと予備のチョークを手にニヤニヤ顔。

 止めると五月蝿いので好きな様にと書かせてやることにした。

 二人は黒板に夢中に文字や絵を描き出し、その間とミツは子供達の勉強机をボックスから取り出し並べる。

 リッコも手伝ってくれたので人数分は直ぐに並べ終わった。

 黒板消しで二人の傑作を消し、他の部屋も準備を済ませる。

 その間と三人は窓や教室の扉、トイレなどをチェック。

 問題なく使える事を確認後、教室の中に生徒となる子供達と保護者を呼ぶ事にした。

 勿論子供たちは以前渡した上履きを穿いての教室入りだ。

 見学者の人数も人数だけに、窓の外からも見学してもらうことに。


「うわーっ! すっげー!!」


「綺麗なお部屋! でもベットとか火を起こす場所がないよ?」


「莫迦だな、ここで飯とか寝る訳じゃないんだから、そんな物無えよ」


「わ、分かってるもん!」


「はいはい、皆自分たちの机に座ってね。机の前に自身の名前が書かれてるから、名前を呼ばれた人はそこに座ってくださいね。保護者の皆さんは教室の後ろにお願いします。それじゃ、一番右前から、アール君、アラリンちゃん、イミル君……」


 歳は関係なく、取り敢えず50音順に名前を呼んでいく。

 名前を呼ばれた子供たちは喜びに勉強机へと駆け出す。

 ここが僕の机だや、大切に椅子を静かに引く女の子の姿が嬉しく見てしまう。

 丁度その場には予定していた子供達が全員居たので勉強机は満席となった。

 後にロキアや後々参加したいと言ってくる子供達の分の机を用意しとこう。

 

「それでは、皆さんは明日からここで文字や数字、そして大人との話し方、礼儀作法を覚えていきます。挨拶はまた明日からとして、えーっと、ちょっと部屋を二つに分けようかな……。思ってた以上にやっぱり大人も入ると狭く感じるし。それでは皆さん、明日、村の鐘が鳴ったらここに集まってください。その時にこの間渡したバックの中に、黒板に書いた物を持ってきてください。鐘が3回なった時に授業を始めます。はい、分った人は手を上げてください」


「「「「「はーい!」」」」」


「うん、良き良き。あっ、5歳以下のお子さんが参加する際は、保護者の何方かの同伴をなれるまでは必ずお願いします」


「「「「はい!」」」」


「うん、こっちも大丈夫だね」


 話を終わらせ教室を後にしたミツ。

 彼が次に向かうは教室の裏手である。 

 本校の隣に建つ建物、体育館を作る為だ。

 体育館と言うが、実はこの場でリック達の修行の場にする気でもある。

 なので大きさはかなりの広さ。

 通常の体育館と違い、中では戦いの訓練もする為頑丈に作らないといけない。

 その分、その為にも彼は多くの岩や木材をアイテムボックスから取り出していく。

 使う割合としては岩が8割の数百トン分、木が2割の数百本。

 この木も無造作に選んだわけではなく、ちゃんと厳選した奴を選んである。

 ガラガラと先程よりも大きな音に驚く人々。

 工程は先程と同じで、リックに奥行きを測りの為と走ってもらい、一応分かりやすいようにと手の空いている人に同じように角や端に走ってもらう。

 綺麗な長方形の形を確認後、スキルを発動。

 教室が出来た時の様に、そこには大きな岩壁の体育館が完成。

 ホールを観戦する為とアリーナも勿論用意してある。

 ダニエルの屋敷にある訓練所に似ているかもしれないが、あっちは青空が見える屋根も無いが、こっちはしっかりと屋根もつけたので雨が振っても関係なしに訓練や授業ができる。

 一応中をチラチラと村の人たちも見るが、中は何も無い空っぽの大きな倉庫に思われたのだろう。

 教室程に驚くような反応は返ってこなかった。

 

「さて、皆、この冬の間と皆にはこの場で訓練をして、今よりも強くなってもらうよ」


「ここでか……。まぁ、中は外よりかは寒くもねえし、雪が降っても大丈夫か。よしっ! ミツ、俺はやるぜ!」


「何アンタだけやる気見せてるのよ。勿論私達もやるに決まってるでしょ」


「わ、私もいいの?」


「アイシャも一緒に強くなるニャよ!」


「うん!」


 リック達には前もってこの冬の間と、更にレベルアップを目指す事を告げていたので承諾と直ぐに返事が帰ってきた。

 そこでミツはもう一つのパーティーへと視線を向ける。


「ヘキドナさん達も良ければこの冬の間、リック達と一緒に戦いの訓練をしませんか? その間と衣食住はこちらで用意しますので、先輩の皆さんがプルン達を見てくれるのも本音は助かるんです」


 彼の誘いの言葉に真っ先に飛びついたのはマネ達であった。 


「ほ、本当かっての!? あたい達もアンタ達の訓練を一緒にやっていいのかい!?


「さっき食べた飯も、毎日食わせてもらえるっちゃ!?」


「シシシッ。それはありがたいシ」


「私はどっちでも良いかなー」


「本音は?」


「毎日お風呂、めっちゃラッキー!」


「エクレアならそう言うと思ったシ」


 マネやエクレアと喜びの声を上げる中、一人だけ乗り気ではない声がその場に響く。


「フンッ、困るね……。坊やのおかげで妹たちが甘えた性格になっちまったじゃないか」


「なら、アネさんだけ戻るかシ? ぶっちゃけ、あの家に戻っても冬の間の巻の準備とかまだ終わってないよ?」


「うぐっ……」


 引っ越してきたばかりの彼女達。

 実はこの冬を越すための薪が全然足りない事が後に判明。

 いや、準備はしていたのだが、冬の隙間風に薪の部屋がやられてしまい、半分近くが湿気にやられてしまったのだ。

 それを思い出したのか、ヘキドナの顔が歪む。


「それに〜。毎日綺麗なベッド、綺麗なお風呂にも入れますよ!」


「んんっ……」


「姉さん、冬の間の飯の作りも大変ですよ……いや、マジで」


「なっ……」


「ヘキドナ、もうこっちに引っ越してくればいいっちゃ。そしたら毎日家にも帰れるし、ミツの美味い飯も食べれるっちゃ。何より、こいつらの強さ、恐らく春になった時はウチ達を超えてるかもしれないっちゃよ? お前も冒険者なら強くなれる時になっとくっちゃよ。悪いけど、お前があの家に帰ると言っても、ウチはここに残って強くなるっちゃ」


「……」


 次々と矢次場に告げられる妹達からの言葉。

 ヘキドナは少しムキになっているのか、話はここまでとマネ達へと睨みを向け黙らせる。


「フンッ。あんた達の好きにすればいいさ。私はあの家をそのままにできないからね……。私達が不在の間、変な奴が住み着いても困りもんさ。坊や、誘いは嬉しく思うけど、やっぱり冬の間とは言え家を開けてはいけないからね。私だけでも街に帰るよ」


「リーダー!」

「姉さん!」

「アネさん!」


 話は終わりだよとソファーから立ち上がるヘキドナ。

 部屋から出て行こうとする彼女をマネ達が呼び止める。


「あの、ヘキドナさん」


「何だい。ああ、勿論妹たちが世話になった分は依頼を受けてから返していくよ。まぁ、この中で一番に稼いでる奴に返す金もたかが知れてるけどね」


「いえ、別にお金は要らないんですけど。ヘキドナさんが良ければですが、さっきライムさんがおっしゃった様にこの村に引っ越してくることは駄目ですか?」


「はぁ? 莫迦を言うんじゃないよ。こっちは汗水流して数年かけて手に入れた家だよ!? はいそうだねって、そう簡単に手放す訳にはいかないんだよ!」


「ああ、いえ、別に購入された家を手放すではなく、家ごとこちらに引っ越してくることは駄目ですか? 勿論冬が終わって春になる時には元の場所に戻しますけど」


「……はっ?」


 と言うことで相変わらずミツの常識外れた提案に、流石のリッコ達も言葉を失ってしまう。

 それはそうだ、今目の前には数日前に訪れたヘキドナ達の屋敷がミツの家の近所に立っているのだから。

 数分前、ヘキドナのできるもんならやってみなの挑発的な言葉が彼には了承の言葉に聞こえたのだろう。

 ミツはヘキドナ達と共に彼女の屋敷前に移動。

 見覚えもある場所にミツはあー、此処ですかとボソリと声を漏らす。

 彼は屋敷の門を通り、家をぐるりと一周。

 その後、家ごと全てをアイテムボックスへと収納する。

 突然目の前から消えた自身達の家に驚きのまま立ち尽くすヘキドナへと声をかけ、また村へと戻る。

 家の大きさ、広さを考え、彼は先程ボックスに入れた家を取り出し地面へと置く。

 ズシンッと地面に響く音の後、少し柱が歪んでしまったので家を直す為と〈物質製造〉をかけておく。

 椅子やテーブルが倒れてはいるが、別に壊れた訳ではないと彼女達からはお怒りの声は出なかった。

 しかし、一晩とは言えミツの家にあるベッドの温もりを経験したマネ達は自身達の部屋に置いてある寝具にガックリと肩を落とすのであった。

 長年使っていた毛布に愛着はあるも、やっぱり彼女達も綺麗な寝具で眠りたいのだろう。 


 訓練用の体育館に戻り、これで問題は解決ですねと笑うミツに全員が絶句と呆れの視線を向ける。

 ここでリックが俺達も家を買ってたらミツにここまで持ってこられるんだろうなとそんな言葉。

 するとミツは一つ提案を出す。  


「皆もこの村で住めば? 家なら村の人達の様に造るよ」


「「「「「!!」」」」」


 一斉に視線を向ける仲間達。


「なっ!? マジか!?」

 

「ミツ、今の言葉、ほ、本当か!?」


「で、でも、家をそんな……」


「勿論、ただじゃないけどね」


「んっ……い、いくらだ……。家となると……確か、親父が今住んでいる家を買った時は金貨500枚とか言ってたよな」


「リッケ、村にある家は、僕達の家よりも高いと思いますよ。なんせ、ミツ君が造った家ですから……」


「な、なら、1000……いや……2000枚か……」


「ははっ、いやいや。リック、リッケ、お金はいらないよ。家が欲しい人は今よりもズッと強くなる事が条件だよ」


「「「!?」」」


「どうかな?」


 その言葉に、正に鳩が豆鉄砲を食らったかのような驚きの顔を見せる。


「なってやる! お前がそう言うなら俺はぜってぇ強くなってやるよ!」


「僕もです!」


「お、俺も頑張るからよ! ミツ、約束だぞ!?」


「うん、三人はやる気みたいだけど、他の皆はどう?」


「ニャ〜。ウチは別に家はいらないニャ」


「私もいらないわ。プルンみたいに私も杖を飾るような部屋は欲しいけど、家一軒欲しいかと言われるとねぇ……」


「フフッ。私は服を入れる棚はいっぱい欲しいわね〜」


「ミーシャは着ない服を持ち過ぎなのよ! 今借りてる家の部屋の一つを服で埋め尽くしてるでしょ! あー、私も家はいらないわよ。私はミミと一緒なら借家でも構わないし」


「うん、私もお姉ちゃんと同じです。二人のお家は欲しいけど、それは別に一軒の家じゃなくてもいいし、お姉ちゃんと一緒なら小さなお部屋でも良いんです」


「そうね。でもミミ、流石に部屋は別々ね。そうしないと部屋が二人のベットで狭くなっちゃうわよ」


「あっ、そっか!」


「それにニャ、ミツの家にも部屋をもらっちゃったからそれが一番の理由ニャ」


 プルンの言葉にミツ本人があっと言葉を漏らす。

 ここに仲間たちを招き入れる際、たまにはゆっくりとした時間も欲しいだろうと先ずは談話室や休憩室のような部屋を作ってみた。

 だが、その部屋を誰かが使っていると部屋には入りづらい。

 女の子の日が近いのか、最近ローゼが横になって休憩室で寝ることが多かったのだ。

 ならばと一人でゆっくりと眠りたい時もあるだろうと、仲間たちには一人一人と部屋を振り分け与えてある。

 勿論いつか来るかもしれない貴族様が泊まる部屋とは別に建築。

 部屋は14畳の広さの部屋を用意すると、プルンは教会の自室の様に早速と短剣の飾り付けを始めていた。

 それを見てはリッコも、部屋から杖を全て持ってきては壁にかけてある。

 他の仲間達も武器防具を置ける場所に満足そうだ。

 

「あー、それは間違いないわ。家と違ってリック達とも別の部屋だから広い部屋に感じるし、ここは桶風呂じゃなくてちゃんとしたお風呂だもんね」


「そうそう! 今使ってる家はもう衣類を置く場所が無くなってきたのよ〜。ここは便利なクローゼットもあるのが嬉しいわ〜」


 ミーシャの部屋は階段の横の部屋に当たる為、少しだけ収納スペースが他の部屋よりも多く取れている。

 日本などでは当たり前とした階段下の収納スペース。

 もちろんその家の作りも関係するだろうが、ミーシャの部屋は一個半多く服を収納するクローゼットが多くつけられていた。


「まぁ、私が作るご飯より美味しいもんね」


「うん。でも、私はお姉ちゃんが作ってくれるキャロのスープ大好きだよ」


「もうっ、ミミは嬉しいこと言ってくれるわね!」


「ははっ……ここは女子寮ではないんですけどね。なら、ここを第二の家と思って寝泊まりして構いません。リック達もいつでも今使ってる部屋を自分のにしても良いからね」


「おうっ! ありがとうよ。でもよ、やっぱり男なら自分の家を持ってみてぇもんなんだよ。なっ、二人もそう思うだろ?」


「「分かる!」」


 やる気を見せる男性陣、談笑に花を咲かせる女性陣。

 目的はそれぞれ違うが、やる気を出したようだ。


「それで、俺達の訓練って如何やるんだ? 前にいい考えがあるって言ってたみたいだけど」


「うん、皆には自分が出した召喚したモンスターと戦ってもらおうかと思ってね」


「召喚って……まさか、あの姉ちゃん達じゃねえよな……」


 リック達の視線が、近くに並ぶフォルテ達へと向けられる。

 彼女達の今の姿は訓練用としていつもの銀色の鎧姿。

 模擬戦とはいえ、もし彼女達の一人と戦おうとするなら、城の親衛騎士団を5000人は連れてこなければ互角にまで持っていくことすらできないだろう。


「いやいや、フォルテ達じゃ無いよ」


「ほっ……そうか。なら、俺達は何と戦うんだ?」


 露骨な安堵のため息を漏らすリックだが、周囲も同じ気持ちなのだろう。

 ミツの次の言葉にハラハラとした思いに耳を澄ませる。


「そうだね、手始めに目標を立てようか」


「目標?」


「うん。トトさん、ミミさん、アイシャを除けば、他の皆は上位のジョブになってるよね。これを一度終わらせて、別の上位ジョブになってもらうよ」


「……。はぁ……普通のジョブでも2~5年が当たり前。その後は一生の物と言われてるジョブ何だがな……」


「ははっ……ミツ君にその考えは当てはまらないですね」


 呆れるリックに乾いた笑いを返すリッケ。

 周囲も苦笑いを浮かべる中、くいっくいっとミツの服の袖を引っ張るシュー。


「ねえねえ、ミツ、それってウチたちもなの?」


「はい。シューさん達もですよ。皆さんの戦闘を一度見せてもらいましたけど、まだまだ伸びしろが見えるので一緒に強くなりませんか?」


「ほー、言ってくれるじゃないか」


「ランクは少年が上でも、冒険者としての経験はこっちが先輩なのよ」


「シシシッ。いいのかシ? ウチ達が今よりも強くなったらミツよりも強くなっちゃうかもしれないよ」


「おー、それはそれは楽しみですね。そう言えばシューさんやマネさんとは手合わせもしたことが無かったので、時間があれば組手でもやりますか?」


「うえっ!? あ、あたいとミツがかい……」


「ここ、隠れるところがないからウチは不利だシ……」


「私は構わないわよ! 武道大会の予選の時に、場外に放り投げられた件もあるからね」


「うわ〜。エクレア、いつまで昔の事引きずってるシ」


「かっー! 女々しい女だねー」


「うっさい! こっちは良いとこ見せる前に投げられたのよ!?」


「はははっ……。怪我をさせないようにするにはあれしか思いつかなかったので」


「そうだね、人を足腰立たないようにしといて、顔面に爆風を浴びさせられるよりは、エクレアはまだマシな負け方だろうに」


「いや、ヘキドナさん、ですからあれは分身が……まー、良いですか。それじゃ出すよ」


 くくくっと含み笑いを見せるヘキドナだった。


(さて、皆が倒せそうな奴ならばどれが良いかな? 流石にヒュドラや双頭毒蛇は出せないからね。よし、ここはロックバードの一体と試しに戦ってもらおうかな)


 パンッと両手を合わせ気合を入れてロックバードを呼び出そうとした瞬間、サポーターのユイシスの言葉が聞こえてきた。


《ミツ、貴方が幻獣召喚にて出そうとしているロックバード、また他のモンスターですが、残念ながらプルン達が倒したとしても彼らが得られる経験はありませんよ?》


(えっ!? ユイシス、それってマジ!?)


《はい。正確には貴方の魔力にて召喚した幻獣や精霊は貴方の一部です。その為、例え彼らが頑張って倒したとしても、それはミツの魔力を少しだけ減らしただけで終わります》


(あちゃー、ならサモンで召喚した竜……は元から出せないわ。ありゃ、如何したもんかな?)


《問題ありません。第三者が召喚したモンスターならば、問題なく彼らのレベルを上げることが可能となります。勿論そのモンスターを貴方が倒した際も、経験を習得する事ができます》


(でも、第三者って? 試しの洞窟みたいにモンスターがリスポーンする場所とかなら分かるけど、モンスターを召喚する人なんて……。んっ……あっ、ああ……)


《思い出したようですね。彼等ならば貴方の望むスキルを持つので力を貸してくれるでしょう》


(うん、ありがとうユイシス。それじゃ、呼んでみるよ)


 ユイシスのアドバイスを貰い、ミツは〈幻獣召喚〉を発動。

 地面に三つの魔法陣が浮かび出る。

 魔法陣が青や紫、ねずみ色と光、モクモクと不気味な煙を出す。  


「「「「!!」」」」


 思わずマネやライム、リックと前衛の冒険者が仲間を守るためと無意識に臨戦態勢を取り、仲間の前に出る。

 煙は直ぐには止まらず、中から不気味な笑い声が聞こえてくると、皆はゾクリと背筋を伸ばし各々と武器を構えだす。


「フフフ……フハハハハッ! ハァーハッハッハッ! 復活だ! あの屈辱な戦い、ド腐れチビ助の戦いを乗り越え、我は今、ここに復活したのだー!」


「クククッ、漆黒の闇夜も取り込んだ我の力。以前と同じと思うなかれ! カタカタ。溢れる! 溢れる! 溢れるこの魔力! 頭蓋から足の指先の末節骨まで流れる魔力が、隅々にまで流れては骨々に染みわたっておる!」


「力だ、力だ、力だ! 人の恨み辛み、愚行者の断末魔が我を呼び起こした! 血だ、肉だ! 悲鳴の声を響かせろ! 最高のレクイエムわ今度こそあの人間に死を教えてくれる!」


「「「んっ……。ああああっーーー!!」」


 互いと向上を述べた後に指を差し合うキング達。

 ミツが召喚したのはゴーストキング、スケルトンキング、グールキング。

 彼らは分身の二人が倒した後、しっかりと幻獣として登録されていたのだろう。

 更には召喚主であるミツの魔力が多く、そして召喚したモンスターのステータスを大きく上げるスキルを多数と所持しているので、召喚された彼らのステータスはミツに倒される前の数倍となっている。


「何で糞骸骨と腐れゾンビが居るんだ!?」


「それはこっちの台詞ですの! テメェ、その姿、私達が吸い取ってた人の怨念を独り占めしやがったな!!」


「最低だ! 最低だ! 他人の物を奪うなんてきっと性根が腐ったやつなんだ!!」


「腐れゾンビに言われたくねえよ! フンッ、これは奪ったわけでは無い! お前らがあの餓鬼に無様にも倒された事で俺が拾ってやった力だ! 見ろ、お前らと違い底しれぬ力、一度朽ち果てようと、更にこうして力を増した状態と人の怨念を受け復活したのだ! そう、これは地獄の門が俺様を称えた結果なのだ!」


「「うっぜー!!」」


 グールキングとスケルトンキングは分身に倒された時のレベルは138と140。

 しかし、二人が倒された事にゴーストキングは力を増し、その時のレベルは210まで力を上げていた。

 そのレベルのままにミツに倒されたゴーストキングは二人よりも強者であることは間違いないだろう。


「ってか、おめえも一度朽ちてんじゃねえかよ!? 返しやがれこのガス野郎が!」


「無理ですー、一度渡した物は返せませんー!」


「ならお前を殺してその力奪ってやるわ!」


「おうおう! 死んでる奴を如何殺すのか教えてもらいたいですね〜。どーうせ俺様の方が力も魔力も圧倒的に上だけどな!! あっ、ごめんねー、オツムが入ってないホネ君にはそれも分かんないよね〜」


「ムッキー! うっざっ! うっざっ! ほんま俺お前のそう言う相手を下に見る所嫌いだよ!」


「ありがとう、最高の褒め言葉だよ!」


「争うなら散らかすなよー」


「「そう言うならゾンビ汁垂れ流すなや、禿が!!」」


「は、禿げちゃうわ!!」


「フンッ。と言うかここは何処だ。我の城の中では無さそうだが」


「ああ、お前の城じゃねえけど、確かに見覚えのねえ場所だよ」


「プププッ、人の物取ることしか考えてないガスって最低だよなー。おっ、てか、後ろには人間の贄がいるじゃねえ……か……」


「あっ、おお、美味そうな人間の雌じゃないです……か……」


「微々たる量としても、貴様達には我の血肉としてその栄誉を与え……よう……」


 キング三人が振り返れば臨戦態勢を取るリックたちの姿。

 久々の血肉として一瞬そんな考えを過ぎらせ不敵な笑みを作るのだが、その考えはスッと消えた。

 そう、彼らが視線を下げれば、そこには死んでも二度と会いたくないと思っていた少年が居るのだ。


「やっ!」


「「「ホギャーーー!!」」」

 

 訓練場の体育館の中で、三体のアンデッドの悲鳴が響いた。

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