第259話 夜空の下。
城に戻れば慌ただしく、流石に直ぐに帰ったら宴会モードではない。
また後日と、ミツは城に来て欲しい事を告げられる。
なら教会に戻る前と、彼が行くのは王都の冒険者ギルド。
レオニスとアベル、二人の王族の救援。
この依頼を達成できた事をマトラストに羊皮紙に一筆書き占めてもらい、彼は足を向けている。
当たり前だがやはり旧王城、王都を吹き飛ばしたときのヒュドラが発した光の目撃情報は彼らに届いていたのか、事細かく聞かれ、更にはそれがローソフィアの許可を貰った上の行動だけに彼女達は何も言えなかったろう。
ミツが改めて城に向かう事が分かっていたのか、報酬は城の方で受け取る事を告げられる。
どうも渡される金が多すぎてギルドで管理するには引く程の額を渡されるそうだ。
まぁ、王族の命を守り、や更には兵士達も含めれば納得するだろうが、何だか盥回し状態と面倒くさい気分になる。
討伐したバイコーンとバンブバイコーンを買い取りをお願いしようと思ったが、やはり争いがあった後、ギルドも慌ただしく買い取りは後日と言われてしまった。
別にここで無くても良いかと、ミツはバイコーンの買い取りはライアングルの方に出す事にした。
また出す素材量にネーザンはニコニコ、エンリエッタは頭を抱え、サブリナはアハハと笑い出すかもしれない。
さて、ゴーストキングとの戦闘時に出くわしたネミディアだが、その後彼女含め兵の皆は如何なったか。
彼女の指示にて城の地下にて待機していた兵士達はミツの分身に発見され、回復の治療を受けた後にゲートにてネミディア同様に城から脱出している。
ゴーストキングの発動した聖杯の魔法は、城の外から効果を出すものであった為に、既に城内に入っていた彼らは聖杯の被害を運良く回避できていた。
やはり最初は彼らに警戒されたが、その中の数名が城の中庭で暴れたミツを知っていた者がいたのか、彼らに剣を向けられる事は無かった。
ネミディアと無事に合流した彼らだが、真っ先に戦線離脱をした隊長含め数名は調査班が亡骸を発見していた事に、ネミディア達には彼らの死亡が報告されている。
これによりスラー隊のスラー隊長不在のため、繰り上がりにてネミディアがスラー隊、改めネミディア隊の隊長と昇進が決まった。
これは彼女にとって朗報と悲報、両者の報告となった。
その夜。
一人の男が夜空を見上げ、冷たい風を頬に当てる。
そこに静かに近づく大臣はレオニスへと言葉をかける。
「殿下、こちらにいらっしゃいましたか」
「……」
「殿下も本日はお疲れでございましょう。夜風は毒にもなります故、どうかお部屋にお戻りを……」
「……」
「あの……殿下? 聞いてますか?」
「聞いておる……」
「左様でございますか(あー。流石のこやつもあの光景に当てられたかなー)」
彼はレオニスが本陣を出陣後、スケルトンの襲撃があったが、その時大臣は腹痛の為厠に足を向けていたのでかろうじてそれを回避。
本陣から逃げ出してきた馬を拾い、遠く離れた場所にて戦いを傍観していたようだ。
まあ、彼があの場にいても何の役にも立たなかったろうし、別に大臣が逃げ出しても誰も何も言わないだろう。
しかし彼も一人で居るのは不安と、あの場から退避した兵を自身の守りに使おうと周囲をキョロキョロ。
そして見つけたのがまさかのネミディアであった。
先行部隊のネミディアがその場にいた事に、まさかこやつ怖気づいて戦線離脱したのではないかと思った彼だが、彼女の言葉の力説にもう良いと一先ず自身を守らせる護衛につけさせていた。
その後ミツ本人から勇敢にもネミディアがゴーストキングに剣を向け戦っていた事を聞き、ネミディアの処分は無くなり、彼女はそのまま先行部隊の隊長となった流れである。
「なぁ……大臣……」
「はい」
「……」
「……(いや、喋らんのかい!)」
「お前は……。いや、良い、今は一人でおりたい気分なのだ。お前のようなむさい顔が側におると落ち着かん。下がれ」
「酷え!」
レオニスの指示とその場を後にする大臣。
「まったく、人の顔をむさいなどと、こんなナイスガイな男を家臣に持てた事を幸運と思うべきであろうて! ……。はぁ、今回の戦いでレオニス王子の兵は半分近く、代わってアベル王子の被害はほぼ無傷に近い状態。更に五芒星の一角を失い、その席を自身の身内を座らせようと五芒星の中で取り合いがすぐに始まるだろう……。他にも弱まった場所から他貴族からの追求され、あれやこれや……あれ……。このままだとあの王子に付いてるワシってピンチ……。むむっ! これはいかん! 直ぐに減ってしまった兵の補充と残った五芒星の方々にもご連絡を入れ、厳選な選別を行う事を告げなければ!」
城に戻ってきてやっと自身の置かれてる立場に気づいたのか、大臣は顔を少し青ざめさせバタバタといそぎ自身の部屋へと走って行ってしまった。
いつもレオニスとふざけたやり取りをしているが一応彼も大臣。
レオニスが王とならねば自身の地位が下がり下がり今も日頃吸っている甘い蜜が吸えなくなる事を分かってるのだろう。
取り敢えずここで無茶な兵の補給が周囲からの反感を取られてしまうと、先ずは金を使い人を集め、次に今回参加した冒険者達を兵にスカウトする手順を取るようだ。
五芒星のフィリッポの家族にも後に彼は足を向けなければ行けないだろうし、暫くは忙しい日々を送ることになるだろう。
「……」
間もなく雪が降り出す時期。
大臣の言うとおり風は冷たく、虫も鳴かない外で彼は頭を冷やし考えていた。
今回の戦い、明らかに自身の判断ミスにて多くの兵を失い、更には追い打ちとミツの分身から告げられた言葉が彼の心に突き刺さっている。
「お前の言葉一つに何人振り回された? お前の行動で何人死んだ? お前に付き従える奴は本当にその命令を受け入れて喜んで死んだのか? フンッ、くだらねえな。お前がどんなに偉そうな事をしていても周りの奴らと変わんねえ人間なんだよ。お前も、お前も、お前も、命は1、存在は1でしかねえんだ。愚骨者の発言は内側から国を滅ぼしていくぜ」
「命は……一つ……。具骨者の言葉で国は……滅びるか……」
生まれて今まで自身は王族としての学びを受けてきた。
それが国を支える為の考えであり、レオニスだけではなくアベル、カインも同じ道を歩いている。
しかし、それは王族だけ。
貴族は貴族の道の教えがあり、民はまた違う。
彼の言葉に人は動くが、それは本当に正しき言葉なのか。
貴族たち、兵が仕え支えたいのは俺ではなく国なのではないのか。
俺は何を守りたいのか。
国か、民か、それとも肉親の家族なのか……。
アベルが負傷した報告を受けたとき、無意識と彼の心に動揺が走ってしまっていた。
アベルは弟であるが故に王座を争う者。
アベルが居なければ王座を取る事に慌てることも無く当たり前と自身の手に入る物に安堵すべきではないのか。
俺は心から愚弟のアベルを邪魔だと思っているのだろうか。
戦いが終わり、天幕にあいつがいつもと変わらぬ顔を見せた時の気持ちは何だ。
胸に刺さっていた棘の一本が抜けたような安堵感は。
あの者、ミツが我々家族に父上をまた合わせてくれた時、俺は幼き頃に父との約束をその時まで忘れていた。
国を、民を、家族を愛する王となれと……。
約束は守れたかの父の言葉に本心で返答が出来なかった。
「ああ、そうか……。父上……俺は……貴方との約束を違える、酷い男になっていたのですね……」
自身が幼き頃に父に発した言葉。
それが自分に帰ってきた。
レオニスの心にまたナイフを刺された様な痛みが走り、声は届かなくてもレオニスは父へと謝罪の言葉を幾度も口にしてしまう。
目尻に当たる夜風は痛みとなり、レオニスは強く目を瞑る。
その時、ガサガサ、ガサガサと草影から物音が聞こえる。
「無粋な……」
野盗でも入り込んだか。
極まれに凱旋じの兵の浮かれ気分に紛れ込み、盗みなどを行うこそ泥が入る事がある。
レオニスは腰の剣へと手を伸ばし、出てきた不意打ちに備える。
だが、相手の動きのほうがレオニスよりも早かった。
「なっ!?」
姿を見せたその者はレオニスに飛びかかり、ハァハァと熱い吐息をレオニスへとかけ、ベロベロとその長い舌でレオニスの顔を舐めまくる。
「や、止めろ、止めんか、この毛玉は!」
「バウッ!」
草影から姿を見せたのはカインの愛犬トール。
トールの体の大きさは大型犬並の大きさはある為、トールの体当たりはレオニスを押し倒す程の強さがあったのだろう。
止めろやめろと自身の顔を幾度も舐めてくるトールを押し返し、その行為を止めさせる。
「またお前は、カインの所に戻らんか!」
「フンッ」
「おい! 何を不満そうにフンッと鼻を鳴らしておるのだ! まったく、俺は王子だぞ。王子を押し倒すなど、お前、家臣の者たちが見たら斬られておったぞ」
体についた土汚れを払いつつ、目の前でブンブンと尻尾を振るトールへと言い聞かせる。
「く〜ん」
「なんだ、反省したのか。それなら次は気をつけるが良い」
「バウッ!」
「……まったく」
犬の一匹にしんみりとした気分を壊され、何だかそんな考えの自分が莫迦らしく思えてしまう。
レオニスはその場で座り、また夜空を見上げる。
「なあ、毛玉」
「……」
「おい、毛玉」
「……」
「トール……」
「バウッ!」
名前を呼ばれた事にまたブンブンと尻尾を振るトール。
「はあ……。言葉が話せぬ癖にそこは分かっているのか……。まあ、良い。お前、この城はどう思う」
「ハッハッハッ。バウッ!」
「……今は母上が王の玉座に居られるからこそ、この国では内戦も起きず静かな日々を過ごせておる。しかし、その分、母上の力では国の発展は起こせない……。だからこそ次の王に俺が座るときには、貴族に、民の生活を豊かにと思い、賊を根絶やしにすれば民だけではなく、商人や貴族にとっても良き国、俺はそんな王になろうと……。それにな、帝国との停戦状態も終わり、下手をしたら明日あ奴らが攻め込んでくるかもしれんのだ」
「く〜ん」
「そうだ。お前の飼い主であるカインですら戦場に出るのだぞ。その時お前は如何する?」
「バウッ!」
「勇ましいな。カインと共に行くと言うのか」
「ハッハッハッ。バウッ!」
「そうか……。お前はカインの側に居てやれば良い。それだけでも気持ち少しはアイツの支えになるかもしれん……」
「……」
「もう一度……。父上と話がしたいものだ……」
「バウッ、バウッ!」
「いや、我々を置いて母上に苦労をかけた事や、他の事に嫌味を言う為ではない。ただ、少しな……。はぁ、イカンな、何をお前相手に真面目に口を開いておるのか。さっ、俺はお前と違って毛玉ではないのだ。こんな夜風に当たっても遊んでおるお前とは違う。それに俺はお前が食える餌も持ち合わせておらん。食堂の方に行けばメイドが少しはくれるだろう、そっちに行け」
「バウッ!」
レオニスの指差す方が厨房である事が分かっているのか、トールはワンと一言吠え走って行ってしまった。
「分かりやすい奴……」
今回の戦いにてレオニスは自身の考えを改めるのか。
今は傷を癒やす為とレオニスの動きが止まることは確か。
これをチャンスとアベルが動くのか。
それとも意外な者達が声を上げるのか。
次の王を決めるのはまだ先の話だが、それ迄彼らはこの国の支えとなれる為と今迄と違う行動を起こすだろう。
さて、旧王城、王都は北の国、遠く離れた山脈からも見える建造物。
それを見るは帝国、ノアグランド帝国の監視の偵察部隊。
彼らはホットワインを飲みつつ、日頃その場を見るだけの退屈な任務を与えられた帝国兵である。
しかし、本日、その退屈な任務から開放され、彼らは目の前に消えたセレナーデ王国の動きを帝国の城へと慌てて連絡を走らせることになった。
しかし、急ぐにしても時期が悪すぎたのか、ソリを走らせるにはまだ雪は浅く、馬を走らせるには足場が悪い。
結果、彼らが城にその報告を告げるのは一月以上先に時間がかかった報告となってしまう。
ミツはダニエルを王都に残し、先にフロールス家へと戻る。
ダニエルにはまた分身を彼の影の中に潜ませ、用事が終わったらゲートで戻ってこれるように教えてある。
屋敷に戻って彼がフッと窓の外を見ると、何だかエルフたちがトンテンカントンテンカンと木を叩いている。
何をしているのかと思い、近くに二人の婦人がいたのでそちらへと足を向ける。
「パメラ様、エマンダ様、戻りました。それで、皆さんは何をなされてるんですか?」
「あら、ミツさん。無事のお戻りを嬉しく思います」
「誠に。ですが私達はミツさんなら直ぐに戻ると信じておりましたわ。こちらで御座いますよね……。これは……祭壇にございます」
「祭壇?」
「ええ……。ミツさんが王都に向かわれて直ぐ、セルフィが……」
「セルフィ様が?」
それはミツが王都に向かって直ぐの事。
鳥光文が空に飛んでいく光景を見送り、セルフィがくるりと身を翻した時の言葉から始まった。
「祭壇を作りましょう!」
「「「えっ」」」
また何を言い出したんだこのエルフはと思ったのはその場の人々。
だが、その言葉にエルフ達はそうだそうだと何故か乗り気。
「お待ちなさいセルフィ。また貴女は突発的にそのような発言を」
「ミンミン姉さん、でも……」
「いいですかセルフィ、そう言う事を言うなら先ずはフロールス家の皆様に言葉を伝えるべきです。と言う事で屋敷の外で構いませんので祭壇を作る為の場を使わせて頂きたいのですが、何処を使用してよろしいでしょうか?」
「「……」」
ミンミンの言葉は少し早口に聞こえたのか、パメラとエマンダは少し目をパチクリとさせ互いの顔を見合わせる。
あそこは如何かしらなどの二人は返答も待たず、セルフィは屋敷の中庭などに指を指して話を進めていると、セルヴェリンが二人の会話を止めるように入ってきた。
「止めぬか二人とも。奥方のお二人もお困りではないか」
「セルヴェリン兄さん、でも折角少年君が私の為にコウキュウタケが作れる小屋を作ってくれたのよ」
「それはそうだが……。んっ? ちょっと待て、お前、今私の為と言ったか?」
「あっ、あははは。兄さんの聞き間違いじゃないかしら? 私達って言ったつもりなんだけど」
ポロリと本音が漏れたのか、セルフィはアハハと誤魔化しているが周囲のエルフ達の視線が少し冷やかである。
アレを彼女が独り占めなどしたならば、彼女は国のエルフ全員から追われる人生を迎えるのではないのだろうか。
食い物の恨みは人間もエルフも人種関係無しに怖いのだよ。
「そ、そうか……。二人の気持ちも理解するけどね」
「はぁ……。フロールス家の奥様、改めて我々のめでたきこの日を祝いとし、是非とも場をお貸しいただけませんでしょうか。屋敷の主が不在のこの場に、この様な言葉を貴女方にお願いするのも申し訳ないのですが」
「いえ、カルテット国の皆様の祝いとしたこの日を、この屋敷にて行われるのは私達としても喜びです。主人であるダニエルには私達から口添えいたします。ですが、あの方ならば喜んで賛同の意をとなえるでしょう。もし宜しければ、先ず皆様がどの様な大きさの物を作られるのかを是非私達にお教え願いませんでしょうか。それに合わせて良き場の提供をさせて頂きたいと思いますので。ねえ、エマンダ」
「勿論です。友でありますセルフィの願いでもございます。こちらとしても何を断りますか。ただ先程は思わず口を閉じたことは申し訳ございません」
「おお、パメラ婦人、エマンダ婦人、またこの場にはおりませぬがダニエル殿にも感謝します! いえ、突然の申し出に言葉止まることは致し方ない事。ではミンミン、奥方に祭壇の大きさなどをご説明して差し上げろ」
「はい」
ミンミンはパメラとエマンダ、二人へと祭壇の大きさと造りを説明する。
そして今はミツの目の前には土台となる木がエルフ達の手にて形を作られていく。
当たり前だが皆大工道具を持ち合わせていないのか、ナイフや剣などの武器で木を切っている。
ミツはエルフ達がエマンダに渡した簡単な完成図を見せてもらい、その作りに頭をかしげる。
(なるほど……。祭壇って言うからピラミッドみたいに岩を積み上げるタイプかと思ってたけど、何と言うか……。あれだ、学校で見た事のある百葉箱の大きいタイプかな。いや、それよりも分かりやすいのが、えーっと、ああ、弥生時代に造られた建物にそっくりなんだ)
彼らの作るは正に日本人が弥生時代に作った建物。
地面から高く柱が何本も立てられ、その上に家となる土台を引いている。
この世界に大工道具は無くとも、魔法がある時点で何方が効率的に建造ができるだろうか。
ミツが戻ってきた事に気づいたのか、セルフィが手を振りながら小走りに近づいてきた。
「おーい、少年君!」
「うわ……」
「あの娘、またよからぬ事を考えてますね」
「まぁ、セルフィの考えは大体わかります」
その意味深な笑みを浮かべる彼女にミツは思わず身を引き、呆れる二人はスッとミツの前に立つ。
「セルフィ、お待ちなさいな」
「ちょっと、パメラ様、エマンダ様、私は少年君に話があるんです。何で止めるんですか」
「貴女のその発言に尚更道を譲る訳には行きません。その話は先ずは私達も耳にしなければいけないような気にさせるからですよ」
「ぶーぶー。私は少しだけ少年君に祭壇造りを手伝ってほしいと思っただけですよ」
「はぁ……。やっぱり。貴女の都合にミツさんの手を煩わせてはなりません。祭壇を作る事を提案したのは貴女でしょ。ならば途中から投げ出すような事はお止めなさい」
「問題ありません、私と少年君の仲ですよ〜」
「セルフィ、親しき仲であろうと他者に礼儀は必要です」
セルフィの発言にパメラのお説教モードが入ったのか、最初は笑いすましていたセルフィが次第と半泣き状態と表情を変えていく。
お説教はいつもの事だろうと周りのメイドさん達は気にしてはいないが、流石に他のエルフ達がいるときにそれは良いのかとミツは視線を周りに向ける。
やはりパメラを止めようとしたエルフも居たようだが、止めようとした人がアマービレ達に止められてる時点で問題ないようだ。
いや、主を守るのが彼女達の役目だろうに、あえてパメラのお説教を止めないのは彼女達も分かってその行動なのだろう。
「仕方ない……。パメラ様」
「は、はい」
ミツの呼びかけに少し驚き振り返るパメラ。
「お手伝い程度で構わないのなら自分は問題ありません。セルフィ様、この羊皮紙に描かれている通りに造れば良いんですよね?」
「う、うん。いいの!? ありがとう少年君!」
「ミツさん……。いえ、貴方様のご厚意、カルテット国の皆様もお喜びになられるでしょう」
「セルフィ様、少しだけ作業されてます皆さんをあの場から離れさせて頂いてもよろしいですか?」
「おっと、そうよね! 皆ー、ちょっと手を止めて離れて頂戴!」
セルフィの声に何だ何だと手を止めては場を離れる面々。
「セルフィ、如何したのです? あら、ミツ様がお戻りになられたのですね」
「あの者……。外見は変わらぬが随分と魔力が上がって見えるのは私の気のせいか……?」
「ミンミン姉さん、これから少年君が祭壇造りを手伝ってくれるのよ。それとセルヴェリン兄さん、少年君の魔力が高くなるのはいつもの事よ。私も会うたびに上がってきてるのは気づいてはいるけど、はっきり言ってきりがないわ」
「「……」」
部外者が祭壇に手を付けることは好ましく無いのではと思うエルフも中には居ただろうが、王族の三人が口を出さずにミツの行いを見送る事に誰も口を出すものが居なかった。
ただ単にセルフィはミツの力を知っているし、ミンミンはミツが戻ってきた事に嬉しく、セルヴェリンは目の前の少年が数刻前に見たとき以上に体内の魔力が高くなっている事に驚き、二人とも祭壇の事が抜けていただけである。
ミツは建設中の祭壇に近づき、周囲を見回る。
作り的には穴を掘って柱となる木を中に入れてる途中だろうか。
しかし、柱となる部分を地面に埋める事に少し目を細めるミツ。
それはむき出し状態のまま木を地面に埋めてしまうと、柱にした木が腐食し、倒壊する危険性を出してしまう。
「あー、このタイプで作るのか。少しコーティングしてからやらないと危ないなこりゃ」
エルフの中では造った祭壇が数年後に倒壊すれば、それはその祭壇が役目を果たしたと言う事で何も思われていないみたいだが、もし近くに人が居たら事故が起きるかもしれない。
それがフロールス家の誰かが被害になれば、ミツの中では簡単な安普請の様な造りは考えられない。
数年、数十年、数百年と、幾度も雨風を受けようとも、それに負けることの無い鉄壁とした祭壇を作ることに決めた。
改めてセルフィに祭壇の高さ、内装の広さ、また外装などを細かく質問し、足りない部分は後で付け足すそうだ。
「それじゃ、造ります」
祭壇と言うエルフ達にとっても神聖な建造物となるので、一応周囲に礼儀を見せるように、ここは日本ではないが、パンパンと神社で行う二礼二拍手一礼を行いスキルを発動する。
ぐにゃりぐにゃりと形を変えていく祭壇の材料である木材や岩などが光に飲み込まれ次第とその形を見せていく。
光がおさまり、その姿を見せたのは羊皮紙に描かれた絵とはまた違った祭壇である。
安普請の様な小屋ではなく、正に日本の神社の造り。
台風や地震にも耐える事のできるようにと、プルンの教会にある井戸小屋同様の木組み式を活用。
勿論中は土足厳禁である。
ただの小屋、若しくは倉庫のような建物を見せられると思っていたのか、周囲の反応は目を見開く程の驚きを見せている。
いや、そう言えば今この場にいるエルフ達はミツがコウキュウタケのきのこ小屋を造ったときは、彼らはまだ森の中に隠れていたのだから彼がこんな事が出来るなど知らなかったかもしれない。
なんせミンミンの側に控えているアリシアですら、彼女は目はパチクリ、お口は半開きである。
「こんな感じかな」
「あっ、あっ……」
「……。これは……」
「アリシア、部下の前で貴女がそのような顔をしては笑われますよ」
「はっ、申し訳ございません。失礼しました。ですが、これがセルフィ様からのお話にありましたミツ殿のお力……」
「ええ、我々エルフでも手をこまねく魔物をたった一人で討伐し、四肢を失った者ですら元の姿と治癒をし、更には光と共に建造物を建てるその力。どれを取ってもとても素晴らしいではないですか」
「ミンミン様……あの、もし彼が我が国の敵対者として剣を向けたとしたら……」
「フフッ。私はアリシアのそんな警戒心の高いところは嫌いじゃないわよ。でもね、言葉にできないのですが、あの娘、セルフィがあそこ迄懐く人族が我々エルフに剣を向けるとは思えないの。それに……」
「それに?」
「いえ、これは誰にもナイショです」
「は、はぁ……」
「凄い! 流石少年君ね!」
「お褒め頂ありがとうございます。コウキュウタケのキノコ小屋は運びやすいように後で車輪を付けておきますね。それとここ迄持ってくるのも大変だと思われますので、自分がアイテムボックスに入れて持ってきときます」
「うん、助かるわ。皆! さぁ、祭壇ができたわよ! 熱が冷めないうちにやっちゃうわよ!!」
「「「はっ!」」」
ミツは厨房の横に未だ置いてあるコウキュウタケのキノコ小屋を少しだけ改良。
車輪を付けて移動可能状態と造り、祭壇の方まで運んでいく。
祭壇の真ん中、セルヴェリンが指定する場所へとキノコ小屋を置けば、それを見守るエルフ達から拍手が広がる。
昼食を軽く済ませ、ご馳走様の言葉と一緒にミツはゼクスへと言葉をかける。
「さてと、ゼクスさん、王都での依頼も済ませて来ました。ですが、マトラスト様がダニエル様の叙爵式はニ週間後に執り行うとおっしゃられてましたが、村の方には予定通り向かわれますか?」
「ホッホッホッ。二週間でございますか。これはこれは、何とも慌ただしくなりますね。ですがそれは馬車の旅を前提とした日数。奥様やご子息様方の準備ならば2~3日で済みましょう。貴方様のお力をお借りできますなら、フロールス家の皆様を安全に王都に向かわせることができます」
「どの道自分もまた城には行くつもりでしたので問題ありませんよ。それじゃ、パメラ様、エマンダ様、その日の数日前には王都にお送りさせていただきます」
「はい。貴方様のお気持ち、心より感謝いたします」
「ゼクス、気をつけてミツさんをお送りなさい」
「はい、奥様。それではミツさん、村の方に視察に向かいましょう。貴方様のお力がございましたら直ぐに村の方に行けますが、申し訳ないのですが道中の道の状態の確認も視察の一つ。これも必要となりますので、お手数で御座いますが移動は馬での移動となります。ミツさんは乗馬は苦手と以前もうされておりましたので、今回も私の馬か、屋敷の兵と共に乗って頂こうかと思います」
「はい。でも馬はもう一人で乗れますよ。少しは上達しましたから」
「左様にございますか。でしたら最初だけ私がミツさんがお乗りになる馬の手綱を握りましょう。安全と分かり次第ご自身で馬の道を示し下さい」
「分かりました。それではパメラ様、エマンダ様、行ってきます」
「はい。道中のご武運をお祈り申し上げます」
「ではミツさん、貴方様が乗ります馬を選びに参りましょう」
「ですね(本当はバイコーンを出したかったけど、流石に他の馬が怯えちゃうかもしれないから今回は止めとこうかな)」
ゼクスは私兵の一人にミツを馬小屋までを案内させる。
彼も準備の為と踵を返そうとしたその時、パメラは一言ゼクスに言葉を告げる。
「ゼクス」
「はっ、奥様」
「旦那様からも許可は頂いております。あの方の自由にさせてあげてください」
「御意に」
ダニエルの先読みであろうか。
ミツもセルフィ同様に視察に出向いて大人しくしてるわけがないと半端諦めているのか、彼は何があっても驚かないの精神を心に、妻へと先程の言葉を告げている。
しかし、彼が王城から戻ってきてみれば見たことの無い建造物が屋敷の近くにできているのだから、まぁ、この時点でダニエルは驚くだろう。
若干若い馬にミツは跨り、駆け足程度のスピードに屋敷を出発。
やはり〈乗馬〉スキルのLvがMAXなだけに危なげも無く馬を乗りこなす事ができた。
馬車よりも移動は早いので一刻半程(2時間30分)でスタネット村へと到着できるであろう。
その間とミツは旧王都での戦いで得た経験とスキル、そしてステータスを確認することにした。
そんなことを考えている彼だが、彼の少し後ろ、数キロ離れた所には、数台の馬車が彼を追うように走っている事に気づくのは少し先の事である。
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