第257話 戦い後に

 ミツが放った幾十もの矢が召喚されようとしていた魔物を突き抜け、ゴーストキングの背後の壁に突き刺さる。


「どう言う事だー!」


「悪いね。召喚していいのはスキルを持ってる奴だけにしてくれないかな」


「スキル、何を言っているんだ!?」


「ああ、ごめん、つい本音が出ちゃった。さて……」


「くっ……!?」


 ミツがゴーストキングの方へと手のひらを向け〈スティール〉を発動。

 当然だが今のゴーストキングは状態異常にも瀕死状態では無いのでスキルを盗むことはできない。

 だが、彼の後方にて壁に突き刺さった矢はいかがか?

 ミツのスティールを受けた矢は全てミツの近くまで瞬時に移動。

 バラバラと音を立て地面に落ちる矢の数に驚くゴーストキング。

 ミツは矢の一本を手に取った後、ステータスを確認。

 そしてまた一本、また一本と地面に落ちた矢をひろいあげる。

 

「おー。本当に魔力を吸ってる矢になってる。一本で50の回復か。結構使えるね」


 彼が先程弓を引き、矢を放つ再に使用したスキル。

 連続で矢を放つ〈連射〉は勿論、それと共に相手のMPを吸い取る〈ドレインシューティング〉を発動。

 ミツはこの戦場に来て直ぐにレオニスとアベルの兵の傷を治すためと〈エリアヒール〉を発動し、1000のMPを消耗している。

 更にはフォルテ達の召喚、バイコーンの討伐の際に使用した〈リビングミサイル〉。

 更に更に城内での〈幻獣召喚〉でのロックバードの召喚に続き、多数の戦闘にてミツのMPは既に200を切った状態であった。

 この状態で戦うのはやはり危険だろうとミツはアイテムボックス内の青ポーションを使用しようと手を伸ばしたその時、ユイシスから先程の攻撃をする事をアドバイスとして受け取っていた。

 ならばここに来る前に前もってドレインシューティングを使用しとけばと思ったのだが、大量のスキルゲットを目の前にミツが興奮して戦っていた為にその場での言葉は控えていてくれていたそうだ。

 彼が地面に落ちている矢全てをスキルで手元に引き寄せれば、彼のMPは2500まで回復した。


「な、何をぶつくさと……。次は俺にその矢を放とうと言うつもりか……」


「いや、ゴーストの君に物理攻撃は効果は薄いでしょ? その身体も本体じゃなさそうだし、それなら別の方法で倒させてもらうよ」


「フンッ、この身体がまがい物と気づいたか……(oh、俺何かへましたかぁ? なんで気づいた?)」


「それに君の魔力はそこにあるコップから常に使える状態だよね。なら悪いけど先ずはそっちをどうにかしないと君は倒せないんでしょ?」


「ほほー。ただの子供と思いきやその事まで知るとは……(oh、連続できたぞ、なんでそれ知ってるのー?)」


「もう居ないけど、グールキングとスケルトンキングの二人の分の魔力が流れ込んでその姿になってるみたいだけど、まだ身体が慣れてないよね? 時間かけるとその体が魔力に馴染んじゃうから早々と始めようか」


「面白い。確かにその通り……(oh、なんでなんでなんでー!? 時間稼ぎしないとこの身体はまだ脆いから戦えないんですけどー!)」


 的確にゴーストキングの弱点を付いてくるミツの発言。

 勿論彼のサポートから聞いた事なのだが、これを口にして発言することを促したのもサポーターのユイシスの助言である。

 案の定ゴーストキングの内心はプチパニック状態。

 ゴーストなのにたらりと額には汗のような物が見えるし、キョロキョロと誰かを探している訳でもないが視線が泳いでいる。


(ユイシスの言うとおりに言ったら動揺してくれたけど……。ゴーストキングって強いことは間違いないんだよね……レベル的に大丈夫なのかな……」


ゴーストキング

レベル210(強化前はレベル90)憎悪王


ブレットバレット

エクスファイア

グラビィ

ラビリンス

絶望の雷光

経年劣化

眷属召喚

眷属の支配

反魔法鎖領域

物理ダメージ軽減

精神ダメージ軽減

聖杯


※他にも攻撃魔法やミツの能力を上げるスキルや魔法をいくつか持ち合わせていますが、既に彼が取得済みの為非表示とさせて頂いています。


「凄い……。ヒュドラよりも多彩なスキルで満たされてる。でも、これは……ふふっ」


 ゴーストキングを鑑定した際、表示されたスキルの数々の表記にミツの頬は無意識と釣り上がる。


「なっ!?(悪寒!? 何処から)はっ! お、お前! 俺を見てその笑みは何だ!?」


「えっ? あっ、いやちょっと君の持つ力が魅力的だった物でついね」


 パシパシと自身の頬を軽く叩いては気持ちを引き締める。


「力だと……まさか! 俺様の力が分かっているのか!?」


「……ふふっ」


「うっおおお!? 何だその笑みは!? き、気持ち悪い笑みを俺に向けるな! わ、分かったぞ、お前、魔眼持ちの人間だな! そして俺の力を取り込む何かをする気であろう!?」


「えっ? そんなの持ってないよ」


「持ってないんかーい!」


「でも君の力は見えるし、最後の言葉は……ねっ」


「どっちなんだーい! クソッ、調子が狂う人間が来たものだ! ならば先に手を打つのみ! この聖杯に満たされた力を飲めば、俺は更に力を」


 ゴーストキングは踵を翻し、台座に乗せていたゴブレットを手に取ろうとする。

 中身は人間の生命エネルギーが満たされており、魔物にとっては力を上げるための糧となる品。

 だが、ミツはゴブレットに向かってスキルを発動。


「スティール」


「えっ……」


 突然目の前から消える聖杯のゴブレット。

 ゴーストキングは目をぱちくり、口をパクパク、辺りをキョロキョロ。


「これを飲ませる訳には行かないんだよ。これは元の人達に返す物でもあるからね」


 人間の生命力であるHPとMP、この両者を吸い取られた多くの兵士達。

 全員が全員その命を吸い取られたわけでもなく、実は偶然にも生き残った人も中にはいる。

 そんな人達に一滴でもこの聖杯を飲ませることができたなら、その兵士は命を繋ぎ止め、生き残る事ができるとユイシスからの助言である。


「うおおおいいいい!!! せ、聖杯を返さんかいこの餓鬼が!!!」


「知ってた? ゴーストってゲームによっては魔法使いに分類されるんだよ」


「ゲーム? 何を言うか! くたばれや!!!」


 聖杯を奪われた事にゴーストキングが魔法を発動。

 〈フレイムランス〉〈アイスランス〉〈ライトニング〉と多重に魔法を発動し始める。

 無数に浮かぶ魔法だが、ミツはそれを見ても慌てず、手のひらを向け彼も魔法を発動。


「だからね〈マジックキャンセル〉」


 相手の魔法の発動を止める〈マジックキャンセル〉。

 これは発動者の魔力が高いほど成功する確率が高い魔法だ。

 魔力の高いゴーストキングでも、今のミツは演奏スキルなどのバフスキルの効果もあり魔力は彼が上。

 ロウソクの火が消えるように、シュッと発動中の魔法が霧散して消滅する。


「……えっ? 発動しない……。なんで……?」


「それと、これはまだレベルが低いけど〈サイレンス〉」


 更に魔法使いにとっては脅威の鎖となる魔法〈サイレンス〉相手の魔法発動を止めてしまう魔術士殺しの魔法である。

 これのレベルはまだ1だが、やはりこれも発動者の魔力が対象者を上回っていれば効果が発動する魔法である。

 術語の様な黒い模様がゴーストキングの口を塞ぐ。


「ふぐっ!? 魔法が!」


 自身の魔法を止められた事、また術の発動する事ができない状態に慌てミツから視線を外してしまったゴーストキング。

 彼は既に攻撃を仕掛けていた。

 彼の両手から出てくる青い炎に包まれた獣の牙。


「ファントムクラッシュ!」


「あがっ! ま、魔獣!?」

 

 確かに、突然自身の体に噛み付いてくる衝撃は獣が襲いかかったと勘違いするかもしれない。

 しかし、それをよく見れば噛み付いているのは牙だけの異様な光景である。

 間髪入れずと、ゴーストキングの頭部に衝撃が打つかる。


「バーンナックル!」


「ホゲっ! あ、あり得ん!? お、俺に物理攻撃など!」


「これは魔法だよ。おっと、もう一度かけとこうか〈サイレンス〉」


 レベル1の〈サイレンス〉では、魔法封印はCM1本分の時間しか効果はない。

 消えるタイミングを見計らい、新たにサイレンスをかけ直す。


「ぐぐっ! い、意味がわからん! 何故だ、何故だ、何故なんだ!」


 一番の武器となる魔法を封じられた事になされるがままのゴーストキング。

 駒である魔物が召喚できたなら自身のスキルにてそれを強化し、自身は王の如く後ろから指示を送れば良いだけのはずであった。

 だが初手から思い通りにも行かず、まるで見えない何かに自身が見透かされている気分とゴーストキングは次第に恐怖を感じ始めていた。


「君はスキルにダメージ軽減を持っても、それは軽減でしか無いんだよ。こんなふうに確実な攻撃には回避できないんだよねっ!」


 次に出したのは煉獄の鎌〈フレイムサイズ〉炎の鎌にてゴーストキングの片腕を体から断つ。


「ちっ! 調子に乗るな、小僧が!」


「調子、そんな物に乗る気もないよ……」


「!?」


 先ほどまで純粋な目を向けてきていた人間の視線が、スッと光を失ったかのように黒に染まる。

 その視線にゴーストキングの背筋に悪寒を走らせる。 


「お前の行動で何人の人が苦しんだ……。聖杯を戻したとして既に幾人の人が亡くなった……」


 ミツはゴーストキングが発動した聖杯を止める事ができなかった事に彼の心中では大きな後悔を抱えていた。

 ネミディアが居たからと言って何故自身が直ぐに出なかったのか。 

 敵が何かする事を感づいたなら、如何して直ぐに動かなかったのか。

 結果的に彼は自身の判断不足にて犠牲を出したこと、また〈念話〉にて性格の悪い分身から半数の兵を守れなかった事を聞いていた。


「それが如何した! 俺はゴーストキング! 俺こそが頂点に立つべき王である! 王の糧となるならば、人間など家畜以下の餌でしかねえんだよ! 人間も家畜や魔物を食べる奴も居るだろう! それと俺と何が違う!? だから殺してやった、だから俺の力を満たす為に使ってやろうと殺してやったんだよ!」


「違う! 生きる為に生き物を食す事と、自身の欲を満たすだけの殺害は別物だ!」


「笑止! それはご都合主義」


 彼は叫びにも聞こえる大声を張り上げた後〈時間停止〉を発動。

 音も無くなる世界に一人、ピタリと動きを止めるゴーストキングに向かって鎌を全力の速度に振りぬく。

 細切れ状態となるゴーストキングはその擬態を崩壊させ、ゴーストキングの本体に当たる闇が宙に浮かぶ。

 

「!?」


 時間が解除された瞬間、ゴーストキングは一つの魂体を空中に浮かばせていた。 

 ミツは躊躇いなしとそれを掴む。メラメラと燃える様なそれを掴んだ瞬間、ミツの手に火傷を与えていく。

 それでも彼は手を離すことなく〈魔力吸収〉を発動。 

 実体を持たないゴーストキングの討伐には物理攻撃で倒すのは難しく、また魔法を使うとオーバーキルと消し炭も残さず消滅させてしまうので彼は魔力の枯渇を起こさせる。 

 流れ込んでくる魔力は一気にミツのMPを全回にまで戻した。

 代わりとゴーストキングの魂体は色を薄くし、燃える炎も今にも消えそうな灯火を揺らめかせている。

 今がチャンスとミツはゴーストキングのスキルを全て獲り尽くす思いのスティールの連続使用。


「スティール……スティール……スティール……」


《スキル〈ブレットバレット〉〈エクスファイア〉〈グラビィ〉〈ラビリンス〉〈絶望の雷光〉〈経年劣化〉〈眷属召喚〉〈眷属の支配〉〈反魔法鎖領域〉〈物理ダメージ軽減〉〈精神ダメージ軽減〉〈聖杯〉を取得しました。条件スキル〈失われた苦痛〉を取得しました。〈失われた苦痛〉を取得した為〈物理ダメージ軽減〉〈魔法ダメージ軽減〉〈精神ダメージ軽減〉の効果を失いました》



ブレットバレット

・種別:アクティブ

血の弾丸を射出する。

※ゴーストなのに使えた理由は突っ込まないでください。 


エクスファイア

・種別:アクティブ

火属性にて最大広範囲魔法。

※三人同じ魔法を使わなければ発動しない


グラビィ

・種別:アクティブ

指定する場にて重力をかける。


ラビリンス

・種別:アクティブ

建物や自然を迷路にする。


絶望の雷光

・種別:アクティブ

雷属性の広範囲魔法。


経年劣化

・種別:アクティブ

物の劣化を促進する。


眷属召喚

・種別:アクティブ

自身の魔力を使い眷属を召喚できる。

※眷属の強さは発動者の魔力量で変わる。


眷属の支配

・種別:パッシブ

召喚にて出した眷属のステータスが3.5倍になる。


反魔法鎖領域

・種別:アクティブ

魔法発動の禁止空間を展開する。


物理ダメージ軽減

・種別:パッシブ

受けた物理ダメージを軽減する。


精神ダメージ軽減

・種別:パッシブ

心に受けた精神的ダメージを軽減する。


聖杯

・種別:アクティブ

魔法陣を発動した場所に乗っている命を吸い取り、自身の糧とする。


失われた苦痛

・種別:パッシブ

物理・魔法・精神に受けたダメージを98%OFFにする。


 精神を落ち着かせるスキルをゴーストキングからミツが奪ったことに、彼はアンデッドであるにも関わらず、ミツから溢れる魔力に当てられたのか、一気に恐怖心を沸き立たせる。


(ひっ! ひいぃ!! こ、このままでは消されてしまう! 一度何処かに隠れて魔力を回復させなければ!)


 これは不味いと、ゴーストキングの本能がこの場から離れ逃げようと宙を舞ったまま外に出て行こうとする。

 しかし、彼らの居る塔の中に黒翼を羽ばたかせた少年が勢い良く入ってきては、ゴーストキングの魂体を足蹴りにて踏みつぶす。


「へぶっしゅっ!」


「あっ……」


「ここに居たのか……。んっ? なんだ……。げっ……」


 背中に黒翼を付けた分身が合流と彼も塔の中に入ってきた際、ゴーストキングには不運だが、彼の最後は分身の足にて潰されると言う、なんとも身も蓋もない終わり方であった。

 分身は汚物でも踏んでしまったかの様に自身の足裏を見ては嫌悪の表情。

 水で洗い流そうとする分身にストップをかけ、それは先程まで戦っていたゴーストキングである事を伝える。


「あー、そうか。悪かったな……横取りしたみたいで」


「いや。もう終わらせる所だったから気にしなくていいよ。それよりも、これを早く倒れた人たちに与えないと」


 ミツはゴブレットを分身に見せる。

 中身を訝しげに見る分身へと、ユイシスの言葉を添えれば彼の眉が上がり、ならば直ぐにやれと彼は言葉を出す。

 分身に急かされながらも、ミツは〈双竜〉の水竜を取り出し、ゴブレットの中身を双竜に含ませる。

 分身が如何するんだと訝しげな視線を向けているが、生気を吸い取られた兵士一人一人に飲ませていては時間がかかってしまうとユイシスからのアドバイス通りに行っているだけだ。

 水竜は塔の外に出ては、その体を塔に巻きつけるように体を固定する。

 そして水竜は口を開き、ゴゴゴっと激しい音を出し勢い良く水を放出する。

 その勢いはまるで滝の水を吹き出しているのかと思える程の勢い。

 旧王都は今の現セレナーデ王国の王都の円型の街とは違い、真っ直ぐに伸びた街。

 水竜の吹き出した水はまるで雨の様に兵士達の体を濡らしていく。

 その雨は正に兵士達にとっては恵みの雨。

 水竜の吹き出した水の中には聖杯が含まれているので、倒れた兵士に振りかけるだけでも十分に効果は出してくれるそうだ。

 ただ問題といえば、流石に滝のように水を放出し続けていると、水竜が体内の水を出し切ってしまうので常に魔力(MP)を送らないと消えてしまうとの事。

 ちょっと行ってくるねの言葉を分身に送り、ミツは水竜の頭の部分へと移動して魔力の補充である。

 ああと生返事を返す分身は、自身の足に向かって手のひらを向け黒い炎を燃やしていた。

 

 水竜が吹き出した水の効果は直ぐに効果を出している。

 それは友である仲間がまるでミイラの様にやせ細り、言葉を返してくれない状況に涙する兵士達の姿がそこに。

 ポタポタと降り出す雨に自身の涙も一緒に頬を流れるとその涙は倒れた兵士へと滴り落ちる。。

 すると目をくぼませ痩せていた兵士はジワジワと血色を戻し、肉は自然の形と戻り、ゆっくりと目を開ける。

 

「あっ……あっ……」


「!? 生きてた! お前、生きてたのか!」


「勝手に殺すな……。くっ、頭が痛え……。いったい何が……。はっ!? 敵は!」


「大丈夫だ、あの冒険者が倒していっちまった。それよりも、良かった、俺、お前が死んじまったかと思って……うっ……。でも、お前みたいに助かった奴は見たところ少しだけみてえだな……」


「ああ、何がなんだか分かんねえが、俺はどうやらしぶとく生き残ったようだ」


 二人が見るは悶絶の表情に倒れる者や、壁に背を預けそのままに眠る姿を取る兵士達の姿。

 彼らは水竜の水を浴びて入るが、残念ながら既に息絶えた後の為に水の効果は得られなかったようだ。

 それでも起き上がる兵士もいるのでミツのこの行動は無駄ではなかっただろう。


 もう一人の分身と合流した後、ミツは二人の影を戻そうとしたその時、ユイシスからの言葉が入る。

 それは聞いたミツ本人が驚く言葉でもあった。


「えっ!? ユイシス、本当に?」


「「んっ?」」


 分身の二人にはユイシスの言葉が届かない為に、突然声を出したミツへと疑念と訝しげな視線を向けている。


「うん、わかった。了解。はーい、はーい。ふー……」


 まるで電話対応の様な会話のやり取り。

 ミツの目が少し細められている事に如何した如何したと声をかける分身。


「何か問題でも?」


「もしかして、まだ敵が潜んでいるのかい!」


「いや、モンスターはもう居ないんだけどね、この場所の後始末をお願いされちゃって」


「後始末?」


「フンッ。戦って荒れたこの街を元通りに掃除でもしろってか?」


「いや、元には……。んー、ある意味元の姿に戻すのかな?」


「意味がわからん」


「勿体ぶってないで早く言ってよ」


「うん。ユイシス曰く、ここの場所をそのままにしてるとまた数年とたたずにアンデッドがまた出てきちゃうんだって。だから、一度この場所を全部ゼロにして欲しいそうなんだ」


「全部……」


「ゼロ? それはつまり」


「そう、自分たちの力でこの旧王城と旧王都を吹き飛ばせってこと」


「「……」」


 ユイシスの言葉は創造神シャロットの言葉でもある。

 そんな彼女がここを吹き飛ばせと言ってるならミツはその通りにするが、言われた本人はやはり一瞬躊躇う気持ちになるのだろう。


「まあ……やるのは良いとして、一応今の王、ローソフィア様には一言でも伝えておいた法が良いんじゃないかな?」


「そうだね。じゃ自分がローソフィア様の所に行ってくるから、二人にはこの場の生存者の救出ともう一つお願いしていいかな?」


「勿論! 僕にできる事なら頼ってくれ! それが人々の笑顔に繋がるなら尚更に!」


「面倒くせえけど、やる事はやってやるさ」


「うん。それじゃ行ってくるね」


 ミツはゲートを開き、直ぐに王都にいるマトラストの元へと移動。

 彼は重要な事を伝えたいとローソフィアとの謁見を直ぐに用意してくれた。

 案内されたのは以前使われた部屋。

 その方がミツも気にしないだろうとマトラストの配慮である。

 部屋に集まったのはローソフィア、カイン、マトラスト、ダニエル、そして重鎮の数名。

 ミツは旧王城に潜んでいたモンスターの内容と、それを討伐したこと。

 それでも多くの被害が出た事を伝える。

 彼らの元にも伝令は走っているだろうが、1時間前の事が直ぐに耳に入る訳もなく彼らは驚きの表情を浮かべる。

 レオニスやアベルの安否はどうかとカインの言葉。

 ミツは〈マップ〉のスキルを使い、二人の状態を確認。

 二人とも負傷ではなく疲労などの表示がされているが健在である事は間違いない。

 二人は無事ですよのミツの言葉はその場の全員に安堵の言葉やため息を漏らさせるには十分であった。

 さて、これからが本題とミツは背筋を伸ばし、ローソフィアへと向き合う。

 ミツの雰囲気を読み取ったのか、周囲の言葉がピタリと止まる。


「ローソフィア様へとお伝えしなければならないことが一つ」


「ええ、伺いましょう」


 ローソフィアは静かに心を落ち着かせ、彼の口から伝えられるどんな言葉でも聞き受ける気持ちとする。


「ありがとうございます。結論から申し上げさせて頂きますが、今回の旧王城、旧王都に出現したアンデッドですが、このままですとまた数年後には再発と今回の様な戦いが起きます」


「「「!!!」」」


 ローソフィアは静かに目を瞑り、周囲に驚きを見せないように振る舞い、彼の言葉を受け入れる。

 内容がどうあれ、身構えていたのは彼女だけだったのか、息子のカインは椅子から立ち上がり、その言葉が真実なのかを再度問いを返す。


「ミツ、それは誠確かなのか!?」


「はい。カイン様。あそこで亡くなられた人々の怨念は今回の戦いで消えることはありません。寧ろ今回の戦いで亡くなられた兵士の皆様の分も加わり、次は恐らくゴーストキング、スケルトンキング、グールキング以上の強者が出てくるかもしれません。勿論何が出るかは自分も分かりませんが、残念ですが再発は確実なことだけはお伝えします」


「そ、その様な事が……」


「……」


 再発が確実。

 今回の様な戦いを国がもう一度行うとしたら、次はどれ程の兵を国は減らすのだろうか。

 少しざわつく部屋の中、マトラストが質問と提案を出す。


「では、巫女姫に除霊の舞を頼めばどうだろうか。彼女の舞にはそ言う事を静める効果もあると聞くが」


「マトラスト様、残念ですが100や200の数なら確かにルリ様のお力で何とかなるかもしれませんし、問題ないかと思われます。ですが、今回はその比で無いことをお伝えします」


「貴殿は巫女姫でも不可能と言うのかね


「はい。(正直に言うとルリ様には嘘等を見破ったりする力はあるけど、除霊はできないと思うんだけど……)」


 ミツの口からハッキリと伝えられる不可能と言う言葉。

 貴族相手にするならば例え不可能でも遠回しな言い方をしなければ失礼に当たってしまう。

 それでもマトラストがミツの言葉に何も思わないのは相手が貴族ではなく平民だと言う事を理解してのこと。

 だが、やはり不可能と言う言葉に少しばかり彼の返答に疑念を抱えるマトラスト。


「それではいかがすると? まさかこのままにもできますまい。今回の戦いにて被害を沈静化できたとしても、それがまた起こるとしたらまた同じ……いえ! それ以上の被害を出すことになります。その時にまた貴殿のお力をお借りし、国に迫る脅威となるアンデッドを倒すと申されますか?」


「それでは国民に何と説明する! 一人の冒険者に任せっきりな国と指を刺されては、他国からも罵られるかもしれません」


 重鎮の貴族からも意見が飛び合う。

 あれは如何だこれは如何だと。

 しかし、結果的に打つ手がないのか、また以前のように定期的に兵を送り、アンデッドが増える前と討伐部隊を向かわせるのが一番ではないのかと結論を出してしまう面々。

 確かに相手が大きな部隊となり、それを相手にする前に小隊や中隊を倒していくのは戦の兵法でもある。

 周囲がそれしか無いと、後は王の決断を聞く姿勢を取る。


「冒険者のミツ殿、お聞きしたい。貴殿に対策の案はありますか?」


 しかし、彼女の口から出た言葉はミツの意見を取り入れる言葉。

 それはミツの言葉を尊重する姿勢を彼女は彼に向けたのだ。


「はい。ローソフィア様。もしご許可が頂けますなら、二度とあの場にアンデッドを出すことも無くなるかと」


「何と!? 貴殿にはその策があると言うのか!? して、その方法とは……」


 今まで周りが出した提案策とは別に、ミツは周囲に見えるように一つだけ指を立て、完全な沈静化を口にする。


「はい、その方法ですが……」


 彼の策に大きく目を見開く面々。

 流石のローソフィアも平常を保てなかったのか、彼女の口も半開き。

 ミツはそれを実行する為の手順と後の国の利を説明に入れては参道を促す。


「「「「「!!!」」」」」


「貴殿は本当にそのような事をする気なのか……」


 カインの言葉に頷きを返すミツ。

 その後の話場は唖然とした沈黙が続くことになる。

 ミツは一刻程経った頃、ゲートを使いまた分身たちの元へと戻ってくる。


「ただいま」


「おっ、戻ったか! それで、許可は得られたかい?」


「うん、どう見ても皆渋々だったけどね。それでも今後の被害を未然に防ぐためと思ってくれたのか、ちゃんと最後は理解してくれたよ。それで、そっちは?」


「もう終わった。あそこに残ってるのは魔物の亡骸だけだ。兵士達は全員テント場までのゲートを出してそこから退避している。死んだ奴は片っ端から俺らがボックスに入れてあるからな、後で城で出しておけ」


「お疲れ様。それじゃ片付けようか」


 分身の大雑把な説明を受け入れ、ミツはそれぞれ分身に指示を送り、彼も場を離れる。

 本陣のあるテントから少し離れ、第二防衛の為と作られた場所にレオニスは居た。

 彼は水の入ったコップを握り、椅子にもたれ掛かった状態に疲労を隠せない状態。

 彼のいる天幕に数名が入る。


「兄上!」


「アベルか……」


 弟のアベルは側近を引き連れ、レオニスの元にたどり着く。

 彼もボロボロであるが、椅子に座るレオニスの顔も疲れきっているのか、二人は数時間会わなかっただけで、まるで数年経ったと思える程の疲労感を互いに見る事になった。


「兄上、ご無事でなによりです」


「ああ……。お前は負傷したと聞いたが、……大丈夫そうだな」


「はい。確かに負傷はしましたが彼、ミツ殿に助けて頂き、治療を施して頂きました。またコークとドナルドも……。兄上の方は?」


「……」


 確かに目の前に立つアベルは血を流したのかズボンが赤黒く汚れている。

 彼の言うとおり治療を受けたなら安心と、レオニスは無意識にアベルが無事だった事に安心したことに自身で驚いて口を閉ざしてしまう。

 こっちはこっちで大変だったんだぞと口を開きたいが、今回の出陣は自身で決めた事。

 判断ミスもあり、それを隠したい気持ちに襲われるがレオニスはため息を漏らし被害の報告を口にする。


「俺の方は兵の半分を失った……。またフィリッポが死んだ」


 淡々と答えるレオニスの言葉。

 フィリッポの戦死はレオニスがこの天幕に着いたときに伝えられた事。

 それが事実なのかと問いただしたいが、一般兵と将軍のフィリッポを見間違える訳がないとレオニスは膝を崩し椅子に座っていたようだ。

 フィリッポとは幼き頃からの友人でもあった。

 勿論王族と貴族の関係でもある為、ミツとリックの様な友達関係とまではない。

 それでも長年知っているフィリッポの戦死報告は彼の心に傷心を付けたことは間違いないだろう。


「左様ですか……フィリッポ将軍が……。先陣という場にて兄上がそれ程の被害を出されるとは。ですが、兄上がご無事で何よりにございます」


「……ああ、お前もな」


「兄上?」


 いつもと違う反応を返すレオニスに違和感を感じたのだろう。

 いつもの彼ならば、お前には出来ないだろうと上から目線と兄と弟の力の差を口にするのだが、面と向かって自身の安否を心配する言葉をかけられたのは何十年ぶりなのか。

 アベルはレオニスの体調が悪いのかと言葉をかけたその時、駆け込んできた兵の報告に皆は眉尻を上げる。


「殿下! 陛下がお越しになられました!」


「!? あ、ああ。あの者が母上を連れてきたのか……。分かった、直ぐに出向く。アベルも身を正し来るが良い」


「はい……」


 遠く離れた場所に居るはずの母、ローソフィアが態々ここに来たと言う事に驚く面々だが、それを可能にする存在を思い出せば納得の状況。

 しかし、レオニスにとっては早々と自身の失態を報告しなければならないのだが、それは王族として、更にはこの軍の大将としての責務でもある。


 レオニスとアベルはローソフィアの前に膝をつき、頭を垂れる。

 近くにはカイン、マトラスト、ダニエル、また先ほど話し場に立ち会わせた重鎮とは別に、多くの貴族たちが並んでいる。

 場所が場所ならここは謁見の場と思える程の人の数。

 その数にも驚きつつも、それには触れずレオニスは口を開く。


「レオニスここに……。態々足をお運びいただき、王には大変申し訳なく……」


「レオニス、良いのです。頭を上げなさい」


「はっ」


「カインもこちらに顔を」


「はい……」


「先ずは貴方達の働きに労いの言葉を送ります……」


「「ありがとうございます!」」


「ですが、今回の戦いにて多くの犠牲を国としても出してしまいました……。その事を踏まえ、また王城に戻り話をします」


「「はっ!」」


 レオニスに責任を追わせるかそんな話は別として、彼女は王として、そして母として二人の息子の安否を心から安堵する。


「しかしながら今回の勝利は我々の勝利にあらず……。王がこちらに足を向けられたのなら話は聞き入れられておられるかと思います……」


「ええ、勿論。冒険者のミツ殿にまだ全てではありませんが少しは……」


「では申させて頂きます。今回の戦い、あの者が救援と我々の前に来る事がなければ、被害はこれ以上、国にも大きな被害を与えたかもしれません。私だけではなく、アベルもあの者に命を救われておることを、ここに包み隠すことなくご報告いたします」


「そうですか……。アベル、レオニスの言葉は真実ですか?」


「はい」


「分かりました。それでは後日あの者に礼を尽くすといたします。ここでの話はここまでです。それでは、合図を送りなさい」


「はっ!」


「「?」」


「兵を引かせろ! 後退しつつ周囲の警戒! ミツ殿に合図の火を上げろ!」


「はっ! 上げます!」


 マトラストの言葉に動き出す兵士達。

 数名の魔術士が空に向かって火玉を発動。 

 シュボッシュボッと次々と発射されては上空で軽い破裂を起こす火玉。


「母上、良いのですよね……」


「ええ。無益な争いを起こす訳には行きませんからね」


「母、いえ。王よ、あれは何を?」


「マトラストはミツ殿に合図と言ってたけど

……」


「見ていれば分かります。二人とも、セレナーデ王国の王族として、また周りの貴族達も目を離さぬよう。この旧王城の最後を見届けなさい」


「はっ……」


「えっ……」


「「まさか!?」」


 二人の言葉が重なった瞬間、空気が変わった。

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