第247話 ロックバード、GETだよ!

(スティール!)


《スキル〈地獄突き〉〈二段蹴り〉〈蹴り上げ〉を取得しました。条件スキル〈裂空蹴り〉を取得しました》


地獄突き

・種別:アクティブ

手刀を相手に打ち込む。レベルが上がると威力が増す。


二段蹴り

・種別:アクティブ

素早い左右の蹴りを入れる。レベルが上がると威力と速さが増す。


蹴り上げ

・種別:アクティブ

体の体重を乗せて蹴りを入れる。レベルが上がると威力が増す。


裂空蹴り

・種別:アクティブ

蹴り上げた瞬間、斬空をお越し切り裂く。威力はステータスの力に影響する。


「瀕死のロックバードが近くに居たのは運が良かった。さて、ロックバードはこの三つしかスキルがないのかな?」


 近くに倒れていた瀕死のロックバード。

 ミツはスティールを使い、スキルを抜き取る。

 そして、うめき声を出すロックバードの首へと刀を振りぬく。

 スパッとまるで風が吹いた程度の風が吹き抜け、ミツの嵐刀はロックバードの首を切り落とした。


《はい。鑑定してわかると思われますが、ロックバードのスキル数は三つとなっております》


「そっか。なら後はマックスまで取るだけだね。それじゃ、始めようか」


 自身に支援スキルを使用後、バッと駆け出す少年の姿は一体の鳥型魔導具では捉えることは不可能だった。

 それは映像越しではなく、肉眼で彼の戦いを目の前で見ていたアリシア達ですら彼の戦い全てを目で追うことは不可能。

 彼は身を守る為の黒鉄鎧を失った代わりと、より早く動く為の素早さを得ていた。

 バタンバタンと次々に倒れるロックバードの光景に唖然とした表情を作る以外、彼女達に何ができると言うのか。

 ハードロックバードはミツの一撃に既にフラフラ。しかしまだ瀕死のステータス表記はされていない。

 だがハードロックバードには状態異常の耐性値が低い為か、毒、麻痺、火傷などの状態異常にしてしまう事は可能。

 という事で、ミツの拳がパチンッと音を鳴らせば、ハードロックバードは一気に全身を麻痺状態と自由の動きを奪われる。

 グワグワと唸る声が聞こえるが、今のミツにはハードロックバードのスキルしか興味はない。


(スティール)


《経験により〈地獄突きLvMAX〉〈二段蹴りLvMAX〉〈蹴り上げLvMAX〉スキル〈ペトロブレス〉を取得しました》


ペトロブレス

・種別:アクティブ

相手を石化にするブレスを吐く。レベルに応じて石化の速度が増す。


「よし」


 スキルの取得に気分を良くするミツ。

 ハードロックバードが最後の悪あがきと目の前のミツを巻き込んで地面に倒れようとする。

 だが、その狙いは外れ、ミツの振り上げた嵐刀はハードロックバードの首と胴体を永久の別れにスパッと切り裂く。


「「「「「……」」」」」


 自身達があれ程苦戦したロックバードの群れとハードロックバードが数分と全滅。

 それもヒューマンの少年一人に。

 その現実を認めるには、彼がアイテムボックス内へと倒したモンスターを収納し始めた時であった。


(幻獣登録は素材として出す前にしとけば良いかな。よし、これで騎乗スキルが使えるか試しもできる)


「お待たせしました」


「い、いえ……。流石ヒュドラを討伐されたと噂のお方。凄まじき戦闘に言葉もございません……」


 アリシアの言葉の後、周囲のエルフ達もコクコクと頷きを返している

 

 ミツはアリシアの言葉に軽く謙遜を返した後に、セルフィ達の待つ森の入り口の方へとゲートを使い戻る。

 彼らの無事の帰還にセルフィ達は歓迎とアリシア達には労いの言葉が送られる。

 セルフィはミツが身を挺してアリシアを守ってくれた事に感謝と言葉を伝えてきた。


「少年君、本当に大丈夫なの?」


「はい。服も肌着も全部石になっちゃいましたが、自分は平気ですよ」


「そ、そう……」


 今の彼はマント一つ、足に履いていた靴までも片足分を失っている。


「それと、セルヴェリン様。勝負の終了の言葉を待たず、魔法を使用した事をお許しください。一応アリシア様達の名はちゃんと呼びましたので、問題は無いかと思いますが……」


「「「!?」」」


「……」


 アリシアはその事に気づいていたのか、彼女に向けられるセルヴェリンとミンミンへと彼女は恭しく頭を下げる。


「……ふぅ。いや、貴殿がそこ迄思う必要はないですよ。我々も映像を拝見しておりましたが、貴殿の動き、言葉がありません……。貴殿があの場に居なければ、我々の仲間は魔物の被害を更に受けていたでしょう。感謝はすれど、貴方の行いを誰が責めましょうか。感謝いたします。そして、貴方の力、我々カルテット国の代表として、セルヴェリン・リィリィー・カルテットは心より認めます」


「危険な状態にも関わらず、我々の仲間を助ける為と踏み込んだその勇気。そして、身を挺してアリシアを守ってくれたその優しさ。私は貴方に深き感謝を送ります。ありがとうございます。アリシア達を連れ帰ってきてくれて。私も貴方のお力、妖精の祝として認めます」


「ミンミン様……」


「アリシア、無事でよかったわ」


 ミンミンはアリシアと視線を合わせ、優しく彼女達の無事を言葉にする。

 専属の護衛だったのか、アリシア達はその言葉だけで感動している。


「はっ、勿体なきお言葉。ですが我々も無傷とは行かず、ロベルトはこの有様……」


「いえ、命あっての物ですよ」


「……ねぇねぇ、少年君」


「はい、なんですか?」


「あの……ロベルトの足なんだけど……」


 セルフィはダニエルの失われた腕はミツが治したことは後にパメラとエマンダから聞いていたのか、彼女は恐る恐るとミツへと声をかけてみる。

 元々ロベルトの足は戻り次第治すつもりのミツだったので、彼は彼女が頼み切る前と了承の言葉をする。


「ええ、問題ありません。ここでは少し目立ちますので、別室にて治療をしましょう」


「ふぅ……ありがとう。ホント、君が居てくれて助かる事ばかりね」


「いえ、皆さんを助ける事ができたのは運が良かっただけですよ」


 そして、今回ロベルトの足を治す際である。

 彼を屋敷の部屋のベットに寝かせた後、セルフィはセルヴェリン、ミンミンを二人を連れ、ミツの〈再生〉のスキルを見せることにした。

 その場にはその三人の他に、カイン、マトラスト、ダニエル、そしてアリシアとゼクスが同席している。

 勿論ミツの治療魔法を見逃すまいと、エマンダは居るし、彼女を止める為にパメラも居たりします。

 最初は何だなんだとセルヴェリンは意味も分からずセルフィに連れてこられた彼らだが、ミツが着替えを済ませ、部屋の中に入室してきた事に場の空気がまた変わった。


「それでは、これよりロベルトさんを治療します」


「治療だと……」


 ミツの言葉にベットに寝かされているロベルトへと視線を向けるセルヴェリン。

 既にロベルトは治療を受けた後のように身を綺麗に服も着替えている。

 これ以上何を治療すると言うのか。


「少年君……」


「ミツ殿、よろしいのですね……」


「はい。ダニエル様。自分の手の届く場に苦しむ人が居るならば、自分はその人に手を差し向けます。ですが今回はセルフィ様からの願いでもありますので、カルテット国の皆様。ロベルトさんの治療が無事に終わりましたら、どうかその感謝はセルフィ様へとお伝えください」


「そうか……。いや、貴殿の行いを止める気など私は無いよ。ミツ殿が友好者であるセルフィ様の願い、君が動くのはごく自然な事なのかも知れん」


 ダニエルは難しい顔を作るが、彼を止める言葉は今は似つかわしくない。

 彼は苦笑いとミツの行いを見届ける事を口にする。


「ありがとう……。兄さん、姉さん、アリちゃん、無理かもしれないけど、これから少年君の見せる事に、お願いだから驚かないでね」


 セルフィの言葉に訝しげな視線を向けるセルヴェリン。そして何をするのかと疑問のミンミンとアリシア。


「セルフィ、お前は何を?」


「……分かりました。アリシア、貴女も気持ちを落ち着かせておきなさい」


 ミンミンの言葉に、はっと言葉を返し頭を垂れるアリシア。


「それでは、すみませんがロベルトさんをどなたか抑えてください。今は寝てるとは言え、驚いて起き上がるかもしれませんので」


「では、私めが」


「私も手をお貸しいたします」


「ゼクスさん、アリシア様、お願いします」


 アリシアがロベルトの両肩を抑え、ゼクスがロベルトの足を抑える。

 ミツはロベルトの側により、失った右足の場へとスキルを発動する。


「それでは……」


「うっ……!」


 直ぐにうめき声を上げるロベルト。

 その光景に、セルヴェリンの険しい視線がミツへと向けられる。

 ダニエルは自身も味わった熱を思い出したのか、無意識と彼は失っていた右腕へと手を添える。

 次第と姿を見せるロベルトの足。

 光は形となり、あっという間とロベルトの足が元の姿を見せる。

 その光景に言葉を失うカルテット国の面々。

 セルフィも見るのは初めてと、彼女も眉を上げて目を見開いている。


「「「「!!!」」」」


「二人とも、しっかりと抑えてください!」


「「!」」


 足の熱に起きてしまったのか、ロベルトがうがッとうめき声を上げた。

 ミツも中途半端なところで治療は止めることはできないと、二人を叱咤する。


「「「「「……」」」」」


「ふー。終わりました」


「こ、これは……」


「何と言う奇術……」


「っ……」


 大粒の汗を流し、はぁはぁと息を切らすロベルト。

 彼の足は元通り、その光景に皆の視線はミツへと向けられる。

 質問質問と、ダニエルの腕を治した時と変わらぬ反応を見せたセルヴェリンとミンミン。

 彼らもカイン、マトラスト、そしてフロールス家の面々が知っていたことに驚いてはいたが、身内のセルフィも知っていた事に彼らはセレナーデの者達へと嫌悪感を出すことはなかった。

 自身達が今まで知らなかった事はただの連絡不足であると。

 ミツは質問されれば答える。

 今まで知らなかったのは相手側の行為ではないと、セルヴェリンはぐっと何かを堪える様に部屋を後にする事になった。 

 ロベルトはまだ寝かせておこうと〈コーティングベール〉そして〈スリープ〉にて眠りについた。

 コツコツと城に繋がるゲートがある談話室の方へと向かうカインとマトラスト。


「マトラスト、あいつはもう隠す気すら無いだろ?」


「ですな。しかしながらあの場に我々を同席させた彼の理由も考えてみれば、我々も無意識と彼との友好を高めていたかもしれませんな」


「んっ? それはどう言う事だ?」


「はい。もし今回あの者の足を治療を行う際、カルテット国の者だけに披露したとします。我々は既に彼の力を知ってはおりますが、あの場にて我々を同席させた事に、自身の力は他国も知る力と彼は表明したのです」


「それは……逆にあいつの取り合いの引き金になるのではないのか」


「いえ、違います。同盟を結ぶ者同士が彼の力を見ておれば、先に手を出した者の方が非難される事になります」


「なっ!? しかし、お前は先程ミツは我々に友好を高めたと言ったではないか!? 矛盾しておらぬか」


「ですので、彼が我々を部屋に招き入れたのは、殿下も彼の力は知っている事を相手に認知させる。相手も殿下が知らなかったで彼を自国に招く言葉を出せなくしたのです。要するに殿下と私は友好者として、彼に利用されたのですよ(まぁ……。我々も同じ様な立場に立たされたのだが、これは殿下自身で気づいてもらうとするか)」


「むっ……。王族である私を使うとは……」


「それを言ったら相手も王族なのですが……。殿下、今の彼に王族貴族の肩書は全く意味をなしません。下手にそれを振りかざせば彼は振らぬ方へと行ってしまいますぞ」


「分かっておる! 俺もあいつの性格は少しは理解したつもりだ。あいつに命令できる者など会えるものなら合ってみたいわ」


「そうですね……。命令ではありませんが、私が見たところ、彼は無茶難題でなければ、今の所は全て聞き入れております。ですがそれに甘えてはいけませんな。それと別の話ですがカイン様……。今回、王の命にてレオニス様とアベル様のお二方は共に旧王城の場に向かわれております。報告が来まして、厄介な事になりそうです」


 マトラストは進む足を止め、険しい表情をカインへと向ける。


「んっ? 厄介?」


「はい。対策はしておりましたがそれも手が回らず、城下の方に多くのアンデッドが出現したと報告があげられております」


 レオニスとアベル、二人が向かった場所は元々セレナーデ王国の城があった跡地。

 しかし、色々と問題があり、今の場へと新たな城を建設、城下の民も移動している。

 だが移住する際、最後まで残留を口にする者と、移住を視聴する者達同士での内戦が勃発。

 数千の兵や民を巻き込み、最後は残留を決意した者ですら死んでしまう結末を迎えている。

 その中、数年と放置されてしまった兵や民の亡骸がアンデッドとなってしまったようだ。

 アンデッドの出現の報告に、カインはマトラストを問い詰めるように質問をする。


「なっ!? 現状は!? それよりも、兄様達は無事なのか!?」


「……はい。ですが、先行した部隊に被害があった様で、今は城を囲んだ状態と王の判断待ちにございます」


「ああ、母上が本日来ていなかった理由がそれか……」


 ローソフィアも早朝にその情報を耳にしていたのか、自身の言葉にて二人の息子を向かわせた為に、彼女はフロールス家に足は向けず、本日は城にて報告を待つ事にしたようだ。


「そこで一つ、殿下から王に言葉を出していただこうかと」


「はっ? 俺がか?」


「はい。実は、ミツ殿にはアルミナ冒険者として前王城の探索助っ人として向かって頂きたいと、殿下から王へとお言葉をお入れください。擦れば王城から冒険者ギルドへ、そして正式に彼へと冒険者としての依頼を渡すことができます」


「んー。しかし、マトラスト、何故態々ギルドを通す? 俺かお前が言葉を伝えれば、奴なら動いてくれるだろうに」


「いえ、それではいけません。殿下からミツ殿に話、若しくは王を通してギルドから彼に向かえば何方も彼は動いてくれるでしょう。しかし、王を間に入れなければ、レオニス様とアベル様は、カイン様が彼を自由に動かす事ができると誤った判断をされるかもしれません。殿下が二人の兄上様を心配なさる気持ちを王に伝えれば、問題も起きず二人へと彼を向かわせることができます」


「そうか……。もう俺は別にあいつを駒とする事を諦めておるが、兄上達の立場では仕方あるまいか……」


「はい……」


「分かった。城に戻り次第、直ぐに母上、いや……王へと話をしよう」


 マトラストの言葉を聞き、カインの進む足が早くなる。

 二人が王城に一度戻った頃、ミツはカルテットのエルフ達、全員を連れて屋敷の厨房へと足を進めていた。


「少年君、どこに行くの?」


「直ぐそこですよ」


「?」


「あの、ミツ殿、我々も共にと言うのは何か話があると言うことでしょうか?」


「はい。今回皆様がフロールス家に来られました理由として、ヒュドラの鱗をお渡しする話です。それとは別に、カルテット国の皆様にはもう一つお渡ししたい品ができまして。あれです」


 ミンミンの質問に軽く返答を返す。

 彼は到着したと厨房の外に作られた小さな小屋へと指をさした。


「「?」」


「あれって……昨日お昼に少年君が作った小屋よね? あれが渡したい品なの?」


「ふふっ、いえ。渡したいのは小屋の中にある品です。あっ、ガレンさん」


 外の声に気づいたのか、ガレンが厨房の中から姿を見せる。


「ミツさん。お待ちしてました。言われた通り早朝もしっかりと水撒きはしてますので更に増えてますよ」


「そうですか。すみません、お忙しい中に手間を取らせまして」


「いやいや、これくらい大丈夫ですよ。それじゃ俺は昨日回収した奴を持ってきますぜ」


 ガレンはその言葉を残すと、そそくさと厨房の中へと何かを取りに戻ってしまう。

 ミツは踵を返し、セルフィ達の元へと戻り、小屋の扉に手をかける。

 

「はい。それではカルテット国の皆様。これはヒュドラの鱗とは別に、自分からの友好の証としてお受け取りください」


「「「「「「!!!」」」」」」


 ミツが小屋の扉をゆっくりと開ける。

 するとその光景にカルテット国のエルフ達、全員が絶句と言葉を完全に失ってしまった。


「こ、こ、これは……」


「信じられない……」


「少年君……あれって……」


 彼らが目にしたそれは、小屋の中で数百とパンパンに育ったコウキュウタケ。

 キノコ小屋であった。


「はい。皆様が好物のコウキュウタケを、昨日お昼のカレーを作る合間と作って見ました」


「作った!? き、昨日!?」


 カレー皿を作る際、彼はセルフィ達の反応を見てはちょっとしたサプライズを試していたようだ。

 結果はご覧の通り。

 セルフィも彼の力は知っていたが、希少価値の高いコウキュウタケまでもこの様に作ることができるとは思っていなかったのだろう。

 実際、コウキュウタケの栽培は豊穣神の加護あっての効果なのだが。

 セルフィは驚きのあまりにミツが神の加護を持っていたことを、この時は直ぐには思いつかなかったようだ。

 小屋を作った後、ミツは一度小屋の中を洗浄魔法のウォッシュにて汚れや微生物、成長に影響する物を全て洗い流す。

 リティヴァールからユイシスへと栽培に関してのアドバイスを受け、ミツは小屋の中をコウキュウタケで埋め尽くす栽培を成功させていた。

 と言っても、コウキュウタケは石づき部分に菌が大量に付着しているので、ミツは見つけたコウキュウタケの石づきを小屋の壁やテーブルに押し付けた後は水玉を霧状に振りまいただけなのだが。

 この菌の場所を知らぬゆえに、エルフ達はコウキュウタケを栽培できる品とは知らなかったようだ。

 いや、元々エルフは作物を育てると言う概念がない。

 その為、彼らが食す物は全て自然にできた素材。


「味も香りも似たものが直ぐにできましたので、問題なく皆様にお渡しできる品となりました。ちゃんと味の方は自分も確認しましたし、こちらの料理長や料理人の皆様にも確認は取れてますから安心してください。それと、ああ、持ってきてくれたみたいですね」


「ミツさん、持ってきましたよ」


「「「!!!」」」


 ガレンが厨房の中から持ってきたのは昨日の夜、既に成長したコウキュウタケの山々であった。

 その内いくつかはガレンが運んできた入れ物からはみ出すほどの大きさ。

 普通のコウキュウタケの大きさが10~18cmとするなら、ガレンが持ってきたのはなんと40~60cmはあろうかの大きさの巨大なコウキュウタケ。

 本来キノコは成長しすぎると食せなくなる品なのだが、コウキュウタケは元々傘部分は網状態と普通のキノコとは違う。

 大きくなればなる程に味と香りが増し、平均的な大きさよりもそのコウキュウタケが二倍の大きさがあるならば、旨味も二倍である。

 それを一つガレンからミツは受け取り、セルヴェリンとミンミンへと手渡す。

 

「はい。セルヴェリン様、ミンミン様。こちらも味の方は問題なく濃厚な品と出来上がっています。カルテット国の皆々様にも、是非お土産としてお持ち帰りください」


「「!?」」


「あ、ああ。驚きすぎて言葉がないね……。ありがとう、君の好意を国としても素直に受け取らせて頂くよ。ミンミン、落ち着け」 


「あ、ああ、ああ……ミ、ミツ殿」


 生まれてこの方、セルヴェリンとミンミンは今までに見たことの無い程の大きさのコウキュウタケを手に、彼らは緊張に手が小さく小刻みに動いている。

 なんせ彼の手に握られているコウキュウタケを金に変えたとしたら、虹金貨100枚(日本円にて億の額)は軽く超えてしまう品物である。  

 ミツはそれを理解しているのか分かってないのか。

 渡した本人は受け取った人が喜んでくれたらそれで良いの考えなのだろう。

 しかし、ミンミンは大きなコウキュウタケを受け取った後は何故か今は耳までも真っ赤。彼女がどうしてこうなったのかは後に説明をする。


「喜んで頂け様で良かったです。あっ、この小屋もどうぞお国へとお持ち帰りください。コウキュウタケの菌がまだ残ってますので、水をやれば後数回はコウキュウタケを生やす事もできますよ。それと生えてきたコウキュウタケの菌を使えば、今後もコウキュウタケを皆さんで食べることもできます」


「「「「「「!!!」」」」」」


 彼の言葉にその場のエルフ全員が更に驚きの顔を見せる。

 知らぬ者が見たら彼らの前にある小屋はただの小さな掘っ立て小屋だが、セルヴェリン達から見たら、財宝を生み出す魔法の小屋に思えるだろう。

 後に改めてセルヴェリンとミンミンには渡すべきヒュドラの鱗を見せる為と、フロールス家の屋敷の一室を借りてミツのアイテムボックスから取り出し見せる。

 セルヴェリンとミンミンはコウキュウタケを受け取るだけでも既に心弾む思いだと言うのに、ミツは更に彼らの友好度をグングンと上げていく。

 ミツは二人も直ぐに国に帰るのかと質問すると、どうやら更にカルテット国から人手を呼ぶと、2~3日は滞在する様だ。

 ヒュドラの鱗の護衛なら30人以上居れば十分と判断されたのだが、コウキュウタケも一緒に運ぶとなれば彼らにとっては今の人数だけでは不安となるそうだ。

 人族はコウキュウタケに興味はないのだが、国を跨げばコウキュウタケの価値を知る盗賊のエルフ達が自身達を狙ってくる恐れがあるそうだ。

 エルフにも盗賊って居るんですねとミツが質問すると、盗賊と言うのは人族であろうと、エルフであろうと関係なしに居るそうだ。

 勿論獣人族や魔族にもそんな奴らは居るので、討伐隊も各国にて編成されている。

 話を戻すが、ミツが渡したレジェンドクラスのヒュドラの鱗もだが、彼が渡すことにしたコウキュウタケの栽培小屋。

 これを護衛する為に、もしかしたら数百のエルフが来る可能性も出てきた。

 それまでは彼らはフロールス家から離れる事もできないと、ダニエルもセレナーデ王国の城へと戻る為に家主不在のこの場に滞在が決まった。


  ミツはシャロットの願いを聞くためと、一度セレナーデ王国の方へと移動しなければならない。

 後はパメラ、エマンダ、セルフィの三人に任せ、護衛はまたゼクスとなる。

 

 さて、最後に付け加えておくことがある。

 先程ミツがコウキュウタケをセルヴェリンとミンミンへと手渡した場面。

 セルヴェリンは受け取ったコウキュウタケの大きさに震えていたが、ミンミンは別の意味にて赤面と体を震わせていた。

 実は、コウキュウタケには一つ隠された様で隠せない話があったりする。

 それは希少価値が高く、売ればひと財産となるこのコウキュウタケと言う品。

 実はこれ、相手に婚約を申し込む際に使われる品でもあるのだ。

 カルテット国にはコウキュウタケを見つけ、相手にプロポーズをしたと言う話がある。

 勿論コウキュウタケ自体が希少過ぎるためにそれは物語レベルの話だが、実際に結婚しているエルフが実在している。

 セルヴェリンは人族のミツがそんな話を知っている訳がないと理解しているが、ミンミンは驚きにそれは思いつかなかったのだろう。

 彼女の中では、ミツが自身にプロポーズして来たと勘違いが発生していた。

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