第244話 奇策の準備。

「ガレンさん、オニリンや他の野菜はまだありますのでどんどん切っちゃってください。あっ、イモだけは切ったら水にさらしといてくださいね」


「ヘイッ! これくらい朝飯前ですよ」


「スティーシーさん、ガレンさんが切った野菜は全部軽く火を通して下さい。あまり火を入れすぎても後で煮くずれを起こしますので串が通る程度に」


「はい! そっちのはもう上げて下さい! 次のを焼きますよ」


「「はいっ!」」


 スティーシーは他の料理人と共に火の番をしては指示を送る。


「パープルさん、ガレンさんが野菜を切り終わるまではすみませんが肉の処理をお願いします。今回は肉厚ではなく、全て薄切りです」


「任せときな」


 パープルは手に持つミツから貰った包丁を素早く動かし、まな板の上の肉を切り分ける。


「ボス、すみません! 直ぐにこっちを片付けます!」


「ああ、数も数だからね。怪我せずに気をつけな」


「ヘイッ!」


 慌ただしい厨房内ではミツの声が飛び、その言葉に動いてくれる料理人の姿。

 カイン達の見る映像からは残念ながら厨房の声は届いてはいないが、頻繁に変わるミツの視線はそのまま映像として映されている。

 ミツも指示をするだけではなく、ガレンの手伝いをし、凄いスピードにて野菜を切っていく。

 材料からみて、マトラストは何を作っているのかを思考する。

 しかし、料理好きのマトラストですら、彼らの料理工程を見ても何を作ろうとしているのかがまだ分からない。

 肉料理を出すなら肉は厚めに切り分ける。

 野菜を炒めるとしても中途半端な焼き方。

 眉間にシワを寄せるほど彼は考える。


 全ての野菜を切り終わったのか、ミツの視線がガレンと共にパープルの方へと変わる。

 厨房に置かれた大きな肉の塊。

 それを一つ取り、彼もパープルと同じく肉の薄切りを切っていく。

 スパスパと切り分けられていく肉。

 紫に輝く包丁の刃が美しく残像を見せると、今まで料理など興味なかった貴族達からは料理と言うのはこの様な事なのかと少し勘違いされた解釈をされている。

 

 ミツは用意された大鍋にバターの塊を入れ、切った肉を入れ火を通す。

 肉に火が通ったら火を通した野菜を追加。

 マトラストは肉野菜の炒め物でも作っているのかと思っていると、そこにガレンが壺を持ってきては中の水を鍋へ入れる。

 えっ? 焼いた物に水をいれた?

 マトラストの思っていた料理とは違ったが、ならばスープでも作るのかと、更に別の料理を思い浮かべさせる。


「それじゃ、浮いてきたこのアクは取ってください。アクが出てこなくなったらこの砂時計の砂が三回落ち終わるまで、ゆっくりと煮込んでくださいね」


 ミツは近くに置いてある大きめの砂時計を手に取り、クルッと回転させ砂を落とし始める。

 サラサラと落ちる砂は大体1回落ちきるのに5分。これはミツが作った物であるが、パープル達料理人も目を引く品物となっている。


「ああ、分かった。でもミツさん、本当に良いのかい? これも立派な料理だ。奥様方を通して前みたいにレシピの契約をしなくても?」


「構いませんよ。どの道これは勝負に関係する料理です。それに商売を持ち込めば後々面倒くさいことになりますからね。あっ、勿論後で皆さんにはレシピをお教えしますのでご自身の物にして頂いて構いませんよ」


「そうかい、嬉しいね。皆も聞いたね! ミツさんからの好意だ。今回の料理にレシピの売買は無いからね! 料理人として自身の物にして喜ぼうじゃないか!」


「「ありがとうございます!」」


 パープルの言葉に、厨房にいる料理人全員がニコニコと笑みを作り、返事を返す。

 ミツの作る料理は珍しい物ばかりな事は厨房にいる料理人全員が知っている。

 本来レシピは自身の仕える屋敷内でしか教えてもらう事ができず、また自身が好きに作りそれを商売にすることなどできない程にレシピの公表などはされていない。

 料理人なら自身でレシピを考えればと思うだろうが、この世界の料理人の考えるレシピは基本の焼くと煮るしかないのだ。

 それが当たり前と、滅多に新しいレシピと言うのは生まれてこない。

 更に他者から料理のレシピを教えてもらう時は、基本金銭のやり取りが発生する。

 皆が喜ぶのは、今回その金銭でのやり取りが発生しないことも嬉しいのだろう。


「いえいえ。まー、これから使う材料がフロールス家で買えるかは二人の婦人と相談ですね」


「そうだね。してもこの料理には、随分と香辛料を使うんだね……」


「この料理は味だけではなく、香りも楽しむ料理ですからね。こだわればこれでも実は足りないぐらいなんですよ」


「そんなにもかい!?」 


 テーブルの上に出されている香辛料の数々。

 これは王都の市場にてミツが購入してきた香辛料の数々である。

 数も多いのでフロールス家の厨房におすそ分けと分け与えている。

 ターメリック、シナモン、カルダモン、コリアンダー、サフラン、ガラムマサラを並べる。

 そう、ミツは久しぶりにカレーを作ろうとしているのだ。

 カレーなら以前ミツが出したレトルトでも良いじゃないかと思うかもしれないが、使用する肉は牛肉や豚肉、また鶏肉ではなく、討伐したヒュドラの竜の肉。

 ミツが思ったのは肉は牛や豚にすれば良いが、香辛料は王都で出に入れた物。

 今渡している分が無くなれば、次はパープル達が自身で手に入れるルートを考えなければならない。

 パメラやエマンダがカレーを食べ、王都、また香辛料を手に入れる為と手間をかけるかは彼女達の判断に任されることとなる。

 煮込んでいる間と、ミツは外に移動。

 カレー皿を作る為と、また外でゼクスが用意してくれた木材を全てカレー皿へと作り変える。

 今回はこだわった皿の作りではなく、シンプルにレモン形をした皿である。

 またスプーンも舌触りを良くするためとこれも木で作っておく。

 全員にカレーを振る舞うつもりなのか、カレー皿は数百枚と積み重なっている。

 ミツが皿を作り出す映像を見ていた貴族達はあんぐりと口を開けていた。

 セルヴェリンやミンミンも情報は聞いていたが、一瞬にして物の形を変えてしまうその映像に言葉を完全に失ってしまっている。

 

「さてと、次はっと……」


 ミツは残っている木材の山を見ては肩に取り付けている鳥型魔導具を肩から外し、皿の上に乗せる。

 映像がブレたが、鳥型魔導具はちゃんとミツを映しているので問題はないと誰も口を開かなかった。

 いや、口を開くには開いてはいる。

 それは意見などを口にするではなく、驚きで勝手に口がポカーンっと開いているだけだ。

 彼は残った木材を全て一か所に集め、それに〈物質製造〉を発動。

 ぐにゃりぐにゃりと形を変える木材は小さな小屋を一瞬にして創り上げてしまった。

 彼はその小屋の中に入り、暫くすると出てくる。

 そして彼の手には先程森の中で見つけたキノコが手にあった。

 ミツは肩に鳥型魔導具を付け直し、厨房に戻る。

 

「少年君、何を……」


「セルフィ、彼の力は報告通り異様過ぎる……。やる事に関しては、こちらの予想を超え、勝負中にかかわらず料理を始める始末。なぁ、教えてくれ。彼は何を考えているのだ……」


 セルヴェリンは訝しげに映像に映るミツを見つめ、セルフィへと意見を求める。


「セルヴェリン兄さん、残念ですけど私にも分かりませんね〜。少年君のやる事はいつも私達の想像を超えますから」


「そうか……」


「お兄様、彼の行いに驚きは分かります。ですが別に我々に敵意を向ける行為でないと私は思いますが」


「ミンミン、どうしてその様な事を言うのだ? いつものお前なら他者の行為に特に目を光らせるだろうと言うのに」


「えっ!? あ、そ、その……。わ、私もあの方が作られます料理に少々興味が出ましただけですわ。ホホホッ」


「……そうか」


 疑問的な問をかけられたミンミンは少し慌て、苦笑混じりにセルヴェリンから視線を外す彼女に、セルフィは何か感づいたのか、ニヤニヤとした不敵な笑みを姉へと向ける。


「おやおや〜。ミンミン姉さん、もしかして〜」


「セルフィ、黙りなさい」


 周囲に感づかれては不味いと、ミンミンは顔を近づかせてきたセルフィの顔を掴み、威圧を込めた声を彼女に向ける。


「はい……」


 周囲の目のある中、姉妹で何をしているのか。

 護衛に付いているアマービレ達と、先に見つかったエルフ達の視線が彼女達に向けられている。


「それでは今から調味料の配合をお教えします。今回は湯に溶かし入れるタイプですので、少し香辛料は多めに使用します」


「ああ、頼んだよ。皆も耳の穴かっぽじって聞き漏らすんじゃないからね」


「「「「はいっ!」」」」


 まるで軍隊の様な返事にミツは少し苦笑い。


「それでは先ずはこちらの乾燥した香辛料を粉末になる程にすり鉢で粉にします。湯に溶かしますが、舌触りを良くするには形も残らない程にすってください」


 ミツが皆の前に見せるすり鉢。

 日本人ならそれが胡麻などをする時に使用するすり鉢である事は直ぐに分かるだろうが、彼らにとっては初めて見る品だけに異様な品だろう。

 ミツは乾燥した香辛料を入れ、ゴリゴリと棒を回して粉末状態にまですっていく。


「へー、こんな調理道具、私は初めて見たね」


「結構すり鉢って便利ですよ。これで新たな料理もパープルさん達なら作れるかもしれませんね」


 新たな料理。

 その言葉にガレンは視線をすり鉢からミツへと変え、思わず思ったことを口にしようとしてしまうがそこは口を噤む。

 だが、彼の気持ちは直ぐにミツは見抜いたのだろう。


「ミツさん、これ……いえ」


「ああ、勿論使い終わった後は差し上げますよ。お金はいりませんので、厨房で使ってください」


「おおっ! ありがとうございます!」


「ガレンさん、喋りながらでも良いですけど、手を動かしてくださいよ」


「おっと、すまねえな。しかし、凄え匂いだなこれ。何ていうか鼻の奥がピリッと刺激されるような、鼻をスッと抜けるこの香りは」


「確かに……」


 すり鉢に粉末にすられていく香辛料から漂うスパイシーな香りにガレン達は思わず鼻を犬のようにクンクン。


「はい。では粉状にしたこちらの香辛料ですが、湯に入れる前に一度火に通します。加熱する事に香りを引き立てる効果がありますので、この工程は欠かさないようにして下さい」


「ふむふむ。ミツさん、火力はどれくらいだい?」


「香辛料が焦げない程度に煎りますので、火は中火よりも弱めに。ゆっくりと煎て下さい。こんなふうに」


 そして用意された香辛料を全て細かく粉末状にしてフライパンで火を通す。

 すると厨房全体に行き届く程の香りが出てきた。

 ミツはフライパンを料理人達の居る方へと中を見せるように見せると、かぐわしい香りに彼らの鼻腔をさらにくすぐる。


「「「おおっ」」」


「凄い香り!」


「いくつもの香辛料を混ぜて煎る事で、互いに良い所を引き立てます。ではこれではまだ足りませんので、残りは皆さんでスパイスを配合して煎って下さい」


「ああ、目の前で見せられたんだ。早速試させてもらおうじゃないか」


「ボス、俺にもやらせてください!」


「パープルさん、私も!」


「では、ここにはコンロは二つしかないので、手の空いた人はすり鉢にて香辛料を粉にしてもらいます。これがご自身の煎る分と思って頑張って下さいね」


 パープルとガレン、二人がフライパンの中身を上手く煎った後、代わりと次はスティーシーと別の料理人がフライパンを振る。 


「お疲れ様です。それでは皆さんが頑張って作ってくれたこの香辛料を使います」


 ミツは鍋の中へと、先程の香辛料を入れていく。

 大鍋は三つ分とあるので香辛料を入れる際、味の差が無いように注意だ。


「うわっ……色が」


「お肉も野菜も見えなくなっちゃいましたね……」


「……」


「ここにトロミをつけるために小麦粉を少しづつ入れます。ここで注意ですが、小麦粉は少しづつ入れなければダマになってしまいます。焦らず、ゆっくりと入れていく事です」


「なる程……」


 彼らにとってはここ迄香辛料を使用する料理と言うのは珍しいのだろう。

 パープル達は一つ一つの手順を見逃さない思いと視線は鍋の方から離れない。


「さて、既に良い匂いもしてますが、また少し煮込みます。その前に少し味見してみますか?」


「そうだね。香りは良いけど、問題の味がまだ確認させてもらえてないからね」


「熱いので気をつけてくださいね」


「それじゃ頂くよ」


 ミツが小皿に少し注いだカレールーを受け取り、パープルは目を閉じ、少しおっかなびっくりとそれを口に運ぶ。


「ボス……。如何ですか?」


 口の中でテイスティングした後、パープルは静かに目を開ける。

 フーっと空気を吸い込む事に、更に口の中の香辛料が彼女の中で味と香りのハーモニーが奏でられている。


「ああ……。私達はこの日、ミツさんにこの料理を教えてもらった事が料理人としては最高の幸運だったかもね」


「えっ!? パープルさん、それって」


「あんた達も自身の口で味を見てみな。きっと驚くよ」


「ヘ、ヘイッ!」


 小皿が人数分足りないので、申し訳ないが彼らには茶碗程の大きさの木皿にルーを注ぎまとめて味を見てもらう。

 パープルは躊躇いなしとカレーを口にしたが、やはり色的に抵抗感が出てしまうのだろう。

 スプーンにカレーを掬っても、それが直ぐに口に入ることはなかった。

 しかし、漂うスパイスの香りに彼らの胃は刺激され、怖いもの知らずとスティーシーがパクリ。

 それに続くようにガレンや他の料理人も口に運ぶ。

 彼らは一口含むと、鼻を突き抜けるスパイスの香り、そしてピリッと舌を刺激する辛味を初体験。

 次第と美味い美味いと所々から声が漏れ、茶碗の中身は空っぽになってしまった。


「マトラスト、あれは何と言う料理かお前は知っているか?」


「……いえ。私も見たのは初めて似ございます。彼が使用した材料は知る物もございましたが、あの様な使用法は私は存じておりません」


「そうか……。あの者には悪いが、あの料理、美味そうにはとても思えん品であるな……」


 映像を見ていたカイン達だが、厨房でのミツ達の会話は聞こえていない。

 その為、ガレン達がルーを試食した後の美味いと言う言葉は彼らには届いていない。

 

「確かに。少年には申し訳ない気もありますが、作る工程を拝見しておりましたが殿下の言う言葉も確か」


「カイン、マトラスト。二人ともあの方を相手に、未だ外見で判断するとはまだまだですね。料理だけではなく、その調理に手を貸した料理人の表情は見ましたか?」


「んっ……。母上の言う事も確かです。あの者相手に外見での判断は自身の愚かさを見てしまいます。うむ、マトラスト、もしかしたらあれは珍妙ではなく、珍味とした品かもしれんぞ」


「ハッハハハ。それは腹がなりますな」


 母の言葉に、確かに、映像に映る料理人達からは嫌悪とした表情を見ることはなかった。

 カインは自身の軽率な発言を撤回する。

 マトラストの笑い声に和やかな空気が流れるセレナーデ王国の席だが、カルテット国の面々はその反対と静かな物である。


「結局最後まで料理をしていたな……」


「ええ。本当ですね……。でも兄さん、きっとあの料理は私達を驚かす料理なんですよ」


「あっ、ああ。見た目の品には既に驚いてはおるがな」


 二人が映像に映るミツの行動を見ながらそんな話をする中、ミンミンは一人、映像を見つつ彼を想う。


(はぁ……。見た目は私の好みであり、映像として見せる彼の機敏な動きに戦士たちを次々と見つけましたが、欠点もありましたのね……。でも、フフッ。それはそれで有りかもしれませんね。完璧な殿方よりも、一つ二つと欠点のある男も魅力的かもしれません。ああ、でも私は王族。そして彼は平民。更には言えばエルフと人間と言う種族の違い……。私達は何て不幸なのでしょうか)


「おいっ、ミンミン。聞いておらぬのか?」


「はぁ……」


「駄目だ。返事も返さんとは」


「アッハハハッ。思い込んだら周囲の声も聞こえなくなるのは昔から変わりませんね」


「お前もそのお気楽な性格は変わらんがな……」


「アッハハハ。いや〜、その〜」


「まぁ……良い。それよりも……なっ!」


 この妹はまったく、セルヴェリンの内心のため息が表に出てしまう程に呆れていると、視線を映像の方に戻せば彼だけではなく、セルヴェリンの驚いた表情は何かとセルフィも映像の方へと視線を向ける。


「兄さん、どうした……のっ!?」


「はぁ……。んっ? 二人とも、どうしたの?……えっ!?」 


 二人の漏らすような驚きの言葉が偶然ミンミンにも聞こえたのか、彼女も視線をそちらに向ければ勿論彼女も唖然とした表情を作る。

 三人が唖然と見るその映像には、ミツが先程見つけたキノコが手に握られていた。

 何をする気だと思ったその時、彼は躊躇いなしとキノコの傘と石づき部分を切り落とし、実を裂いていく。

 傘部分は細かく切り、切り分けたキノコを躊躇いなしとカレーの中に投入。


「あっ、あっ、あっ」


「いやー! 少年君、待ってー! お願いだから、全部、あっ、ああぁぁぁ!!!」


 セルフィの悲壮な声がその場に響くが、ミツにその声は届かなかった。

 グツグツと気泡をだしている茶色いカレーの中にキノコは姿を消してしまう。


「よし。後は出来上がりを待つだけだな。パープルさん、では自分は勝負の方に戻りますので、後をお願いします」


「分かったよ、ミツさん。怪我には気をつけなよ」


「はい」


 厨房を後にしたミツはまた森へと足を向ける。

 森に入る前、カルテット国の席にいるセルフィから血の涙を流すかと思える凄い視線に彼は後ずさり。

 側にいるアマービレの胸に泣き崩れるように彼女が落ち込んでいる姿に、ミツは苦笑いと森へ逃げるように駆け込む。


「はぁ〜。セルフィ様には申し訳なかったかな。まぁ、後で許してもらおう。さてと、夕暮れまではまだ少し時間があるかな?」


《ミツ、日暮れまでは残り48分あります。その場から急げば、3人は見つけることは可能です》


「そっか。それじゃできるだけ見つけようかな。ユイシス、悪いけど案内をお願いね」


《分かりました》


 調理時間に時間をかけすぎたのか、冬の時期となるこの時刻には既に夕日に辺りを赤く照らし始めている。

 夜になったら探してはいけない訳ではないが、捜索の間はスキルも魔法、アイテムすら使用を禁止されている。

 ユイシスの協力があれば夜だろうとエルフ達の捜索はできるのだが、問題なく期日までには全員見つけることができるだろう。


 先ほどとは違うルートで森の中を進み、暫くすると少し岩が多く目立つ所に着いた。


(ユイシス、この辺?)


《はい、ミツの視線に入ります岩があると思われます。その下に一人、穴を掘り、その中に隠れております》


(土の中って……モグラかよ)


 ユイシスの言われた通りに周囲の岩を調べると、岩と岩の隙間が掘り返した様な土色の場所を見つける。


(ああ、ここだけ少し土色が違う……。さて、どうやって掘ろうかな……。スコップはボックスに入れてるから今はアイテムボックスは使えないし……)


《ミツ、掘り返すことは不要です。目の前の岩を持ち上げれば直ぐに探しているエルフが目視できます》


「なるほど。入り口を土で埋めてるなら生き埋めになっちゃうからね。岩の隙間から空気を入れてるってことか。それじゃ、フンッ!」


 ミツは目の前の岩を掴むと、勢いそのままと持ち上げる。

 するとそこには一人のエルフが横向き状態に隠れていた。


「なっ!?」


「見つけた! えーっと。ヨルマン・サーサット・ケンさん見つけました」


「くっ、日をまたぐ事も無く終わるとは……無念なり」


「よし、それじゃ次の人を探しにいこっと」


「……」


 次のエルフを探そうと彼が周囲を見渡していると、ユイシスの言葉が入る。


《ミツ、待ってください。先程エルフが隠れていますその穴。その下にもう一人隠れています》


(えっ? 二重底? そこまでやるかな……)


 チラリと先程見つけたエルフへと視線を向けると、彼はチラチラと地面に視線を向けては挙動不審にその場で屈伸をし始める。

 ミツは先ほど持ち上げた岩をもう一度持ち上げ、言葉をかける。


「ふー。さて、岩は元に戻さないといけませんね」


「えっ?」


 直ぐにその場から離れると思っていたのか、エルフのヨルマンは軽く目を見開き驚きを見せる。


「ヨルマンさん、少し離れてください」


「いや、その……」


「あっ、大丈夫ですよ、ちゃんと地面に埋め込むぐらい地面に埋めますので。もう自分でも取れなくなりますけど、別に問題ないですよね?」


「えっ、そ、それは……」


「それでは。せーのっ!」


「お待ちを!」


 ミツが岩を少し下げ、先程の場所に放り投げようとしたその時。

 ヨルマンは声を出しそれを止め、更には彼が隠れていた地面から更に一人の青年が姿を見せる。


「待って!」


「わー。もう一人いただなんてー。気づかなかったー」


 ミツはそれっぽいセリフを口にしてはいるが、彼の話し方がわざとらしいのか、二人のエルフからは訝しげな視線がミツに向けられる。


「「……」」


「コホン。テーネ・ユンケユンケ・リコーさん見つけました」


「はい……」


「さて、後は何処かな」


 その後、二人の隠れるのを手伝っていたのか、もう一人のエルフは意外と近くの木の上に隠れていたので直ぐに見つけることができた。


「ナーノ・ナーンさん見つけました」


「ああ、そんな……。はい……」


「よし、今日はここまでかな」


 予定通り、ユイシスの言う通り三人を見つけた時点で日が暮れる。

 三人と共にスタート地点へと戻ることにしたミツ。


「初日で12人ですか……。思った以上に見つかってしまいましたね」


「うむ……。見る限りでは彼は森の中では規則を破る行為はしておらん……。しかし、人の子の力であの岩を持ち上げるのが可能化は疑問とするところだが……。結果は我々が見た通りだ」


「はぁ……」


「セルフィ、どうした。祖国の戦士達の不甲斐なき姿に不服のため息か」


「はぁ……」


「お兄様、セルフィがそんな事を気にするわけありませんわ」


「私のキノコ……」


「「……」」


 ボソリと呟くセルフィの言葉に呆れる二人。


「いや、別にアレはお前の物ではなかろうに……。気持ちは……分かるが。くっ……。やはり先に交渉をすべきであったか……」


「お兄様、セルフィ。他国の前でその様な姿を見せるのはお止めなさいよ。でも……」


「「「はぁ……」」」


 三人のため息が重なる程に、彼らにとってはミツが見つけたキノコは希少なのか。

 しかし、彼らのため息も吹き飛ばす事をまた彼がやってくれるとは、まだ誰も知らない。

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