第243話 妖精の踊り。

 カルテット国の面々とやる事になった森の中でのかくれんぼ勝負。

 勝負方法は魔法、スキル、アイテムの使用禁止。

 自身の身体の力のみでセルヴェリンの告げた38名のエルフを見つけなければならない。

 ミツは出来ることは無いかと模索する。


「それじゃパープルさん、後はお願いします」


「ああ、任せておきな」


 フロールス家の厨房から出てきたミツ。

 彼は始まりの時間までと、パープルにある事を託した後屋敷の通路を歩く。

 そこで声をかけてきたのがセルフィだった。


「よし、後やる事はっと……」


「少年君」


「セルフィ様?」


 彼女の表情は少し影を落とし、共に付いてきたのか三人の護衛であるアマービレ達の顔色も悪い。


「どうしたんですか? 随分顔色が悪いようですが」


「いや、その……。君には謝らないといけないと思って……悪いわね。私が国に君の持つ鏡の事を話しちゃったから……今回の勝負、君にはかなり不利になって」


「いえ、姫様に報告すべきことを促したのは我々です! ミツ殿、如何か今回の件、姫様に不快としたお気持ちがございましたらそれは全て側近である私達へお向けください」


「「如何か!」」


「……」


 アマービレの言葉に続き、グラツィーオ、リゾルート、そして共に来ていたラララも頭を下げる。


「そんな、皆さん頭を上げて下さいよ。自分は知られても困りませんでしたし、それにそれは皆さんの立場上の責務ですから仕方ありませんよ」


「そう……。君がそう言ってくれるなら助かるわ。なら、今回の妖精の踊りには、私達が出来る事を協力するわ」


「協力ですか?」


「ええ……。アマちゃん、グラ、今回参加する者達の名を全員分調べて、少年君に渡しておきなさい。リゾとラララちゃんは森の中で隠れそうな場所を調べといて」


「「「はっ!」」」


「……」


 セルフィの指示に返事を返し直ぐに動き出す私兵の彼女達。

 ラララはセルフィの私兵ではないものの、彼女は素直に頷き、リゾルートの後を追っていく。


「セルフィ様、ありがとうございます。でも、名前を調べると言ってもそこまで調査する程でしょうか?」


「はぁ……。そうよね。君の考えが普通なんだけど……。えーっと……。ああ、やっぱり連れてきてるわね……」


 セルフィは一度外へと視線を変え、エルフ達が居る中からとある人物を探し出す。


「セルフィ様、誰かお探しですか?」


「少年君、あそこに見えるカルテットの兵の中に居る給仕の準備をしてる女性の名前だけどね、確か……。エルデイル・ディアン・ロ・イセリンガルアデアン・トロントロだったかしら」


「はっ!? え、えっ? な、長。何ですかその名前の字列は」


「その隣の娘は、マイレ・エラジュレイドル・エ・レヴィーエウター・ニャーね」


「はっ!? えっ? 復活の呪文ですか?」


「何を言ってるの? いえ、今言ったのが彼女達の正式場での名よ。いつもならエルとか、マイで略されて呼ばれてるけど、この場では使われないわね……」


「それじゃ、まさか全員が?」


「ええ、それに近い長い名を持つわ。私の名のセルフィ・リィリィー・カルテットと違って、彼女達は婚姻を結んだ相手の名を互いに与えるのよ。最初に告げたエルちゃんは、数代目ってのが名でわかるわ」


「ああ、なる程。世代毎に長くなっていくんですね」


「そっ。一応始まりの前に兄さんが教えてくれるでしょうけど、いきなり38人分スラスラと紹介されても覚えるのは難しいと言うか、無理よね」


「ですね……」


(まあ、名前に関しては相手を鑑定すれば分かるんだけど。あれ、そう言えば鑑定ってスキルに当たるのかな?)


《ミツ、鑑定の能力は貴方の基礎能力に含まれます。鳥が羽根を羽ばたかせ飛ぶように、魚が水の中を泳ぐようにと、生まれつき持つ力と考えてください》


(ああ、そう言えばステータス見た時にスキル数に鑑定は含まれてないわ。なら名前は大丈夫かな。それでもセルフィ様が気を使ってやってくれる事だし)


「ありがとうございます。セルフィ様のお心遣いに感謝します」


「ええ。後は身を隠す場所の特定ね……。少年君、取り敢えず今回の勝負の注意点を特に教えておくから覚えておいてね」


「はい」


 セルフィに今回勝負に関しての注意点と私兵の彼らが用意してくれた情報を元に作戦会議を始める。

 手渡された数枚の羊皮紙に目を通し、本人の特徴と名を一致させ、そしてフロールス家の北部にある森の中で身を隠せそうな場を教えてもらう。

 木や岩などに擬態化されては探すのは困難だが、今回は数日前から準備されていた訳では無いので、せいぜい木や葉っぱで地面や草むらに隠れるのが考えられる事だと教えてもらう。

 セルフィも妖精の踊りに似た遊びを子供の頃にやっていたのか、自身のやっていた事を自慢気に話していた。

 細められるアマービレ達の視線も今は気にせずと、彼女の情報が確かならば、突発的に行うこの試合も、森の民のエルフからしたら何の苦も無くミツをやり過ごすかもしれない。


 そして、ズラリと並べられたエルフの人々。

 彼らを前に、ミツが立つ。

 その者たちを観戦する為と、カルテット国、セレナーデ王国の両陣にて旗が風になびく。

 観戦モードの両陣。

 セレナーデ王国の席には女王ローソフィアと息子のカイン。側近として幾人かの貴族とマトラストとダニエルの家族も席に座る。

 隣の陣にはミンミンとセルフィが席に座る。セルフィはロキアの隣に座りたかったろうが、姉の一言に渋々とカルテットの椅子に座っていたよ。

 セルヴェリンが両前に立ち、互いを確認。


「ミツ殿、準備はよろしいか」


「はい」


「よろしい。それではこれより、カルテット国の民38人と、ミツ殿にて妖精の踊りを始める! 由緒正しきこの試合には互いの力のみを武器とせよ」


「「「「「おうっ!!!」」」」」


 セルヴェリンが高らかに声を出し、互いに緊張が走る。

 

「それではミツ殿、こちらへ」


 セルヴェリンはミツを招き、先頭に立つエルフの前に呼ぶ。


「これより全員の名を貴方にお教えする。ご説明しました通り、妖精、詰まりは彼らを見つけた際は、必ず名を呼んでください。では先ずは彼から」


「はっ! 私の名は……」


 先頭に立つ男性エルフは見た目は40ぐらいであろうか。

 この中ではリーダー的な立ち位置なのだろう。他のエルフよりも雰囲気が違う。

 彼の名はセルフィに渡された羊皮紙に書かれたとおりの名であった。

 やっぱり長い名前に少しだけミツの表情がこわばる。

 彼の反応にセルヴェリンの口元が少し上がっている。

 中には短い名のエルフも居たが、大半は舌を噛みそうな名前ばかりに途中からミツは覚える事を止めた。

 前もって手渡された名を書き記した羊皮紙と本人の口から告げられた名は一致しているので、後はそれを確認しながら特徴を覚えていくしかない。

 念の為に偽名を言っていないかの確認の為と全員を鑑定するが、それはミツの思い過ごしだった。

 彼らは全員、嘘偽りなく自身の名を口にしている。

 やる事はかくれんぼなのだが、彼らにとっては妖精の踊りと言う行いは、国の文化である事に詭弁など使う事は自身の国を汚す行いなのだろう。

 最後の一人と、侍女らしき女性も名を告げる。

 

「以上。この者たち全員を期日までに見つけ出せば貴殿の勝ちとする」


「頑張ります」


「……フッ。では始めるとする!」


「あっ、一つだけ宜しいでしょうか?」


「んっ……。何かな? まさか今更ながら止めるとは言わないだろうね」


「いえいえ。やる事は構いませんが、皆さんに一言だけ良いでしょうか?」


「……。構わん。言いたいことがあるならば、今の内に告げてくれ」


「はい。えー、皆さん。これから三日間と勝負を行うのですが、正直自分は夜目が効きません」


「「「……」」」


「なので、夜は自分は森の中の探索はしませんので、皆さんも夜は気をつけてお休みください」


「「「!?」」」


「あっ……んっ。んん。捜索するしないはミツ殿の判断に任せます。彼らは彼らでその数日を乗り越える力も忍耐もありますのでご心配なく」


「そうですか……。では改めて。皆さん、よろしくお願いします」


 ミツが頭を下げよろしくの言葉を告げたことに、数名のエルフも釣られるように軽く会釈を返す。


「それでは、始め!」


 セルヴェリンの言葉に合わせ、脱兎の如く森の方へと駆け出すエルフの面々。

 ミツは手渡されたロウソクに火をつけ、それが無くなるまでその場で待つことになる。

 大体1時間後にスタートするので、それまではゆっくりとしていても構わないと言われたので、ミツはメイドさんに差し出されたお茶を楽しみながら時が来るのを待つ。


 少しして、カインがミツの方へと近づく。


「ミツ、随分と落ち着いているが、貴殿の勝負の自信はいかに聞かせてくれないか?」


「そうですね〜。本音を言うなら如何なるかは分かりません。勝負は何が起きるかわかりませんからね。実際あの人達の大半は森の奥の方に行くかもしれませんし、もしかしたら……。いえ。まー、初日ですから10人近く見つけれれば良いかなと思ってます」


「そうか……。貴殿の動き、我々も拝見させてもらう事にする」


「はい」


 カインはそう言いつつ、兵の数名が森に向けて戦いのシーンを見る為と、映像を映す鳥型魔導具を放つ方へと視線を向ける。

 そして彼の手に握られていた同じ鳥型魔導具。それをミツへと手渡す。

 ミツは手渡された魔導具を肩に取り付け、プロジェクターの様に映し出された大きな布に自身の肩に付けた魔導具の映像が映し出されたことを確認。


「貴殿の魔導具と違い、こちらは音は拾うことはできん。なので映像だけでも楽しませてもらうぞ」


「はい。さて、もう少しで時間かな」


「うむ。ミツよ、武運を祈る」


「ワフッ!」


「カイン様、ありがとうございます。よしよし。トールもありがとうね」


「それではミツ殿。時間となった。既に戦士達は森と一体となり、精霊の踊りを始めている頃だろう。貴殿の動き、拝見させていただく」


「では、行ってきます」


 踵を返し、ミツは森の方へと駆け出す。

 スキルも魔法も禁止、その為に分身や精霊達の手も借りれない状態で、森に隠れたエルフをどう探すのか。

 スタスタと小走りに森の奥へと進むと、セルフィに教えられた人が隠れそうなポイントに着いた。

 一見エルフどころか獣の姿も見られないこの場だが、ユイシスの助言を受け、右手側の岩に視線を向ける。

 そこはよく見ると、岩と草木の間に違和感を感じさせる場があった。

 あっ、今回の勝負、普通にユイシスの助言は使いますよ。

 じゃないと一人も見つかることなく日が来ますからね。

 それに誰かの助けを貰ってはいけないとは、セルヴェリンの規則には言われてないもん。


「あっ」


 その場に立ち止まり、じーっと視線を向けていると、やはりそこには一人、緑の布で身を隠したエルフが居た。

 

「ここだ!!」


「キャッ!」


「えーっと、ラネン・ソルマルネ・ココ・ネンマヤセさん、みーつけた!」


 身体を隠していた布を剥ぎ取り、ミツは対象となる彼女の舌を噛みそうな長い名前を告げる。

 ここで注意しなければいけないのが、対象の名前を間違えると、その人をもう一度森の中へと返さなければならない。

 そんな事になると対象を探すのが二度手間となるので、ミツは相手に鑑定を使用し、表記された名を照らし合わせながら名前を告げている。


「う、うそ〜」


「「「「おおー」」」」


 開始の声が始まって間もなく、早速と1人目のエルフを発見。

 映像を見ていた人達は見つけたエルフに驚きとミツへと賞賛の声を上げる。 

 

「ま、まさか……」


「見つかったのはラネンですわね……。あの娘は身を隠すのは苦手では無いはずですわ……」


「いいぞー! 少年君! ワー!」


「「……」」


 驚くセルヴェリンとミンミンを放置し、側にいるセルフィはミツへと応援を続ける。


「お疲れ様でした。それではスタート地点に戻ってて下さい」


「はい……」


 始まって早々と捕まえられた事がショックなのか、ラネンは肩を落としトボトボと戻っていく。

 その後もミツの快進撃は続き、二人目、三人目と一刻も立たずと既に目標の10人にたどり着こうとしていた。


「ふー。そろそろお昼だし、一度戻ろうかな。んっ?」


 日も高く、頭の位置に登った時点で休憩を兼ねてミツは一度戻ることにする。

 その際、フッと見つけた物に視線が止まった。


「んっ? キノコかな?」


 ミツが見つけたのは真っ白なキノコ。

 パット見マッシュルームの様に白いが、大きさはミツの手のひらサイズよりも大きく、傘部分が網模様とスカスカだった。

 元の世界の地球でも見たことのないキノコだけに、ここはやはり異世界なんだなと改めて実感させられる。

 毒キノコだと危険なので、念の為に鑑定。

 すると鑑定表示にはとても珍しく、珍味と評価されるほどに美味しいものだと鑑定される。


「おっ、これ食べれるじゃん。ラッキ〜。山のきのことか素人が手を出したら危険だけど、鑑定様々だね〜。お土産に持っていこうっと」


 順調にエルフを探し続け、鼻歌交じりに森を後にする彼の手に持つキノコ。

 彼がそのキノコを見つけたシーンは鳥型魔導具にてスタート地点にいる面々にも確認されていた。


「なっ! あ! あっ、あれは!」


「まさか!?」


「少年君、凄いもの見つけたわね……」


 その映像を見ていたセルヴェリン、ミンミン、セルフィの驚きの声。

 そしてミツに見つかったエルフ達がざわざわと彼らに動揺が走る。

 ミツが戻ってきて、姿が見えた時点でカルテットの面々がミツへと駆け寄り慌てて声をかける。


「ミ、ミ、ミ、ミツ殿!」


「あ、あの、あの!」


「えっ? えっ!?」


 周囲の視線も気にせずと、王族の人々と護衛に回ったエルフ達が急ぎ駆け寄る。


「少年君! さっき見つけたその」


「ああ、えーっと、確かルドルス・ユニセ……」


「違う! ルドルスの事はいいの! 少年君、さっき君、森の中でキノコ見つけたわよね!?」


「え、ええ。……これですか?」


「「「!?」」」


 ミツが持つポシェットの中から先程見つけたキノコを取り出し三人へと見せると、三人は目を見開き驚きの表情。

 いや、三人だけではなく、アマービレ達も目を見開き驚きの顔だ。

 あまり表情を表に出さないラララですら今は口を開いている。

 彼らの口からは、本物だ、信じられないと言った声が聞こえてくる。

 森に生えていた物だが、勝手に採取してはいけなかったのかとミツは恐る恐る三人へと言葉をかける。


「もしかして、これって取って来ちゃ駄目なやつでしたか……?」


「えっ? ううん! そんなこと無い! そんなこと無いわよ!」


 自身達の行動に目の前の少年が戸惑いを見せている事に気づいたのか、セルヴェリンはコホンと一つ咳を入れ、ゆっくりと口を開く。


「取り乱したようで、申し訳ない……」


「実は、私達もこれを見るのはとても珍しい品にございまして……思わず席を立ち上がってしまいましたわ」


「へー。このキノコって、そんなに珍しい物なんですか?」


「んっ、うむ……。これはエルフ国では非常に貴重なキノコとして扱われる品。子供の成人や、記念式の時に数年に一度使われるかどうかな程だ」


「あっ、なる程。でも、なんでそこ迄驚かれてるのですか?」


「少年君、そのキノコ自体、金に変えたらひと財産に軽く行くほどなのよ……」


「うえっ!? このキノコ一つでですか!?」


 珍しいキノコとは鑑定に出ていたが、まさかエルフ族の中でそこ迄の価値を出すものとは思わなかった。

 

「因みに、皆さんはこれを食べられたことはあるんですか?」


「んっ。まあ、幾度か口にしたことはあるよ。でも、それも小さく切り裂いた物を湯に溶かし、そして香りと味を楽しむ程だな」


「そうね……。それ一つに何千人に振る舞おうとすると、私達も口にするのはその程が当たり前ですね。それでも、あの香りと味わいが喉の奥をお取り抜ける感覚……」


「うむ……」


 二人はその時味わった味と香りを思い出したのか、セルヴェリンはゴクリと喉を鳴らし、ミンミンは少し恍惚とし頬を染める。


「そうそう。アマちゃん達も一度ぐらいあると思うけど、それも国に仕える事が決まった日に振る舞われた時だけよね……」


 セルフィの言葉に、後ろに控えた三人の首が立てに振られる。

 非常に貴重な品という事に、ミツの中である事を思い、心の中でユイシスへと相談してみる。

 話をしてみるとミツの狙いは行けるのか、ユイシスは様々なアドバイスをくれた。


「そうなんですね。さて、もう直ぐお昼になりますので休憩してきます」


「えっ、あっ、そ、そうだね……」


 エルフ達からはもの欲しそうな視線が向けられていたが、ミツはそれをスルーしてはキノコをポシェットへとしまう。


「あの、少年君」


「セルフィ様、ロキア君もそろそろお腹を空かせる頃ですよ。ご一緒に昼食はいかがですか?」


「そ、そうね……」


 セルフィの視線はミツのポシェットへと向けられていたが、流石に物が物だけに彼女も対価無しに譲ってくれの言葉が出せないのだろう。

 既にミツからはレジェンドクラスのヒュドラの素材を受け取ることにしている。

 彼の言葉と、セルフィはロキアの方へと足を向ける。


 昼食は今回主役となるミツを真ん中にし、左側にセレナーデ国の面々、右側にカルテット国の面々が椅子に座り昼食を始める。

 場の雰囲気は悪くないが、カルテット国の面々の気が落ち着かないのは、ミツが今肩にかけているポシェットの中身が気になりすぎているせいかもしれない。

 ローソフィアやカインからの語りかけも何とか返すセルヴェリンとミンミンだが、たまにチラリと彼らの視線がミツの方へと向けられている。

 昼食を終え、また森に向かうであろうと思ったミツだったが、彼が足を向けたのは屋敷の方であった。

 因みに今回のミツは既にゲートを出した状態にて試合を始めている。

 一つはフロールス家からセレナーデ城の一室。

 もう一つはフロールス家から勝負をする森の前。

 この二つは行き来を短縮する事を目的としているので、ミツが森の中で見つけたエルフ達は直ぐに屋敷の方へと帰ることができる。

 勿論セレナーデの城とフロールス家を繋ぐゲートの前には、関係者以外は通さないとばかりに堅固な守りにて兵士達が立っている。


 ミツが足を向けたのはフロールス家の厨房。

 王族の昼食が終わり、一段落した所に足を向けた理由とは。


「おや、ミツさん。言われた通り今から始めるところだよ」


「はい、パープルさん。それではみなさん、お忙しい中ご協力よろしくお願いします」


「「「はいっ!」」」


 ミツは厨房にて料理を始める。

 その言葉に元気よく返事を返すガレン、スティーシー達料理人。

 ミツはコックコートに着替えてはいるが、肩には鳥型魔導具は付けたままだ。

 その為、彼の行動を観戦席からその光景をみることになる王族貴族の面々。

 彼らは唖然としたままその映像を見せられている。


「……あいつは勝負中、何をしてるのだ?」


「はて……。私には料理を始めているようにしか見えません……」


「おお、そうかマトラスト。実は俺にもそう見えておる……。おい、ダニエル。お前は何か聞いておるか?」


「殿下、申し訳ございません。私も聞き及んでおりません……。ただ、勝負をする為に厨房を使わせてほしいとだけ……」


「はぁ? あいつは料理勝負でも始めるつもりなのか……。見てみろ、カルテットの方々も唖然としておるぞ」


「でしょうな……」


 カインの言葉に視線を変えるマトラストとダニエル。

 セレナーデ国の面々も唖然とするなら、勝負中にもかかわらず突然料理をし始めるミツの行動に流石のセルフィも目をパチクリ。


 勝負を捨てたのか? いや、それとも既に10人近く見つけた余裕であろうか。

 だからと言って何故料理を。

 周囲の視線が映像を写し出すスクリーンに注目が集まる。

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