第241話 新たな来訪者。

 フロールス家に新たな来客来る。

 その者、いや。エルフ達は白とアイボリー色の髪を風になびかせ、彼らの前に姿を見せる。


「ようこそカルテット国の皆様。フロールスの我々は貴方がたを歓迎いたします」


 ダニエルの言葉から始まり、それに応えるは二人の男女。

 一人はウェーブのロン毛にシュッとした顔立ち、長い耳とメガネが印象となる知的な男性。

 もう一人は真っ直ぐに流れるロングヘアー。美を表現するに相応しいと言われる程の美しく整った顔立ち。瞳は糸目で見えないが、やはり彼女からも長い耳が見えている女性である。

 エルフの女性は基本絶壁と言われているが、それはその人が出会ったエルフが偶然にも絶壁であっただけで、全員がそう言う訳ではない。

 そう、美しい妻を二人持つダニエルでさえも、一瞬目を奪われそうになる程に目の前の女性の胸部には風船の膨らみが服越しでも分かってしまう。


「お出迎え感謝いたします。私、カルテット国より来ました、セルヴェリン・リィリィー・カルテット、こっちは」


「初めまして。私はミンミン・リィリィー・カルテットです。突然の訪問に皆様の出迎えに嬉しく思います」


「これはこれは。ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。改めまして私、当領主をしておりますダニエル・フロールスと申します。こっちは妻のパメラとエマンダ。息子と娘のラルス、ミア、ロキアでございます。我々家族一同、カルテット国の皆々様を迎える事ができた本日は、当家にとっても良き日と感謝しております」


「細やかでございますが皆様の長旅を労わせて頂きたく、こちらの方でお食事などをご用意しております。お連れの皆様にも宜しければ当家にてごゆっくりとお過ごしくださいませ」


 ダニエル夫妻の暖かな歓迎の言葉に、初めての顔合わせの雰囲気は穏やかに始まることができた。

 そんな中、場をしれっと抜け出そうとするエルフが一人。


「フロールス家の皆様のお気持ち、心より感謝いたします。それで……貴女は久し振りの再会した兄と姉に挨拶も無しに、一体何処に行こうとしてるのかしら、セルフィ」


「えっ……。あっ、アハハハハ」


 抜き足差し脚忍び足と、そろーりそろーり逃げ出そうとするセルフィがミンミンの言葉にビクリと体を反応させる。

 そう、名前から気づかれたと思われるだろうがこの二人、隠すことも無くセルフィの兄と姉である。

 セルヴェリンは次兄であり、カルテット国第二王子。ミンミンは四女の第四王女である。


「いやー、お久しぶりですセルヴェリン兄さん、リンリン姉さん! 相変わらずお元気そうですね!」


「ああ、お前も相変わらずだな……」


「見たところ元気そうですね……」


 お調子者は家族に対しても変わらないのか、呆れた者を見る視線。

 そして二人の視線は私兵のアマービレ達へと厳しく向けられる。

 二人の視線にビクリと反応するグラツィーオ、リゾルート、アマービレ。そして側にいるラララでさえも萎縮してしまう。 


「はーい、セルフィは元気ですよー。それじゃ、私はこれにて」


 私の要件は済みましたとばかりに、そそくさとその場を後にしようとするセルフィの頭を鷲掴みにするセルヴェリン。

 いや、掴み方的にそれはアイアンクローだよそれ。


「痛っだだだだ!」


「待て。お前には久し振りに話もしたいからな、兄妹水入らずと後で話をしようではないか」


「痛ただ! えっ、えー。いや……、私はちょっとこれから用事が……」


「あらあら、家族の会話以上に大切な用事って何かしらねー。……いいから後で顔かせや」


「ひっ!?」


 突然耳元に囁かれるミンミンの言葉と、開かれた彼女の瞳に驚くセルフィ。


「は、はい……」


「「「……」」」


 その光景を目の前に、口も出せずに待つ事しかできなかったフロールス家の面々。


「失礼。妹が大変、本当に大変世話になっていた事は常々連絡にて知らされていました。この場にては、皆様に謝罪と感謝を述べたく私達が今回参ったしだい。本当に申し訳ない」


「申し訳ございません。ほら、貴女も」


「そ、そんな。私は別に迷惑なんて」


「あっ?」


「すみませんでした!」


 カルテット国に鳥光文を送った際、その内容は全て家族の彼らの耳にも一応入ってはいたが、大半の家族はセルフィの行動をたまに来る笑い話として受け取ってはいたが、セルヴェリンやリンリンの様に申し訳ない気持ちの兄姉も居たようだ。

 今回ヒュドラの鱗をセルフィが友好の証とミツから受け取る事も、半信半疑と疑いつつ、いい加減ちゃらんぽらんなセルフィに物申したく二人がわざわざ足を向けたのだ。

 そう、要件としてはセルフィが九割五分で、鱗に関しては一割も期待もせずに足を向けてた二人である。

 

 笑顔を崩さぬよう、苦笑いを続けるダニエルは言葉を続ける。


「い、いえ。セルフィ様には我々も家族の様に接しておりましたのでお気にせずとも……」


「ダニエル様!」


 この人は神かと、目をうるうるさせダニエルを拝むセルフィの姿に呆れるセルヴェリン。


「それはそれです。大体こいつは王族としての継承権を破棄した時点でお前がこの場におる事すらおかしな話なのだ」


「それはその時話したでしょ! 私は真実の愛を見つけたからここに居るの!」


 セルヴェリンのアイアンクローから抜け出したセルフィは、彼らのやり取りに怯え、母のパメラの後ろに隠れていた少年を抱きしめ抱える。


「それで、貴女の見つけた相手と言うのが……」


「そうっ! このロキ坊よ!」


「く、苦しいよセルフィさん」


「「……」」


 歳も何倍も違う年下の男児相手と、妹のその行動に呆れを深める兄と姉。


「と、取り敢えずお話は中で……」


「そうさせて頂きます」


「んー! ロキ坊〜、好き好き好き! 大好きだぞー!」


「あの娘はいつもアレなのですか?」


「は、はぁ……その……」


「はぁ……」


 リンリンの質問に母のパメラは恐る恐ると首を立てに振る。


 フロールス家内を歩く道中、他愛ない会話に部屋までの移動。

 その際、二人の間では誰も知られることの無い会話が行われていた。

 二人は〈念話〉のスキルを発動し会話をしている。

 勿論ダニエルからの質問にも普通の会話として返答し続けている。


(セルヴェリン兄様、お気づきですか……)


(無論。この屋敷に付く前と既にな……。恐らく下街(庶民街)には既にこちらの存在に気づかれていただろう)


(ええ、ですが上街(貴族街)ではその視線も消えておりました……。そして、ここに付いた瞬間にこの気配……)


(ミンミン、気を緩めるな。セルフィからの報告が真実ならば、我々を待つのは竜をも喰らう邪神かもしれん)


(勿論ですわ兄様。……邪神であればこの場にいる人族は既にその者の手の内……。ヒュドラの鱗を渡すなどと言う、甘い言葉に我々を呼び込んだ迷いごとかもしれません……。それよりも私達が来た目的はあの娘です。まったくあの娘は! 人族の子供なんぞに色目を使うなんて。王族としての心は無いのですか!?)


(おい、念話で叫ぶな)


「んっ? いかがなされましたでしょうか?」


「い、いえ。伯爵のこのご邸宅に感心しておりまして」


「左様ですか。いえ、カルテットの皆様からしましたら質素な屋敷でございましょう」


「そんな事はございません」


(はぁ……。お前の気持ちも分からぬではないが、所詮は相手は人の子。短命種な者に向ける気持ちなど一時の気まぐれだろう。お前は考えすぎだ)


(セルヴェリン兄様、その様な甘い考えではあの娘はまた何処かにふらりと暖花のようにまた目的も無く飛んでいきます。ここで私が姉として、いえ、カルテット国の王族としての考えを改めてあの娘に思い出させるためにもビシッと言う場なのです)


(そうか……)


 ミンミンの決意表明と思えるその言葉に、セルヴェリンはもう言葉を返すのが疲れたとそっとスキルを解除する。


「こちらでごゆっくりとおくつろぎ下さい」


「フロールス家の歓迎に感謝します。それで……セルフィ」


 二人が案内されたのは彼らが十分に休める部屋。隣の部屋は寝室となり、この部屋でならば二人の護衛の人や、セルフィ達が会話する場としても使えると提供されている。

 部屋に入るがそこにはまだミツの姿は無く、セルヴェリンは目的の人物は何処かとセルフィに問いかける。


「はいはい。ダニエル様、少年君は? 部屋で待ってると思ったんだけど」


「はい。間もなくこちらにまいるかと思われますので、少々お待ちを」


 問われたダニエルは側にいるゼクスに目配せを送り、直ぐにお呼び致しますとゼクスが踵を返したその時。

 部屋の扉の前でミツを案内してきたメイドと鉢合わせ。

 準備はできてますと、彼の手にはカルテット国に渡すべき品が握られていた。


「と言ってる間にきたわね。鍵なんてかけてないから入っておいで〜」


「セルフィ……」


「お前は……」


 周囲の向けられる視線も彼女は気にもしていないのだろう。

 セルフィは既にいつも通りの通常運転だ。


「失礼します」


「……少年。連絡どおりであれば、今彼が持つあの中に……」


「……」


 セルヴェリンのボソリと呟くその言葉。

 しかし、隣に座るミンミンは目を点と驚きの表情を作り、口を閉ざしてしまう。

 そして次第と彼女の顔は恍惚と変わっていく。


「お初にお目にかかります、カルテット国の皆様」


 相手に警戒心や失礼がなきようにと、ミツは前もってゼクスに指示された場所にて立ち止まり、その場にて軽く頭を下げ、挨拶と言葉を口にするがそれを止めるセルフィ。

 彼女は彼の腕を取り、皆の近くまでミツを引っ張る。

 その行動に呆れるものも居るが、ダニエルの様に苦笑を浮かべる者と周りの反応は様々だ。


「ほら、少年君、こっちに来て。そんな遠くで挨拶されても聞こえないわよ」


「は、はい、セルフィ様。ちょっ、引っ張らなくてもちゃんと行きますから。えーっと。改めまして初めまして。自分はミツと申します。カルテット国の皆様とこうしてお会える日を楽しみにしておりました」


「いえ、それはこちらも同じ気持ち。私はセルヴェリン。こっちがミンミン。ミツ殿とは今後も我々だけではなく、カルテット国の皆とも良き友人として付き合えたらと思う……。んっ? おい、ミンミン」


「えっ……えっ?」


 挨拶の場とセルヴェリンは椅子から立ち上がり、彼なりの礼儀として、まだ子供に見えるミツに対しても彼は挨拶と頭を下げる。

 そしていつもの流れなら妹のミンミンが次に相手に言葉をかけるのだが、ミンミンはぼーっとミツを見ているだけで立ち上がることもしていない。


「ミツ殿が我々に挨拶をなされたぞ。お前も返す言葉があるだろう」


「そ、そうですわね。私はミンミン・リィリィー・カルテットですわ。こっちは兄のセルヴェリン」


「おい、私の名は既に伝えておる。何を言っておるのだ」


「えっ? さ、左様でしたか。失礼しました」


 慌てて椅子から立ち上がり、プチパニックとミンミンは自身だけではなく兄の自己紹介まで始めてしまう。

 どうしたと改めてセルヴェリンがミンミンに問うが、彼女は何でもありませんと顔を背ける。


(えっ? えっ!? 何この少年! 可愛い!)


 ミツの顔はミンミンの趣味ドストライクだったようだ。


「いえいえ。セルヴェリン様、ミンミン様、本日はお会い出来ましたことを感謝いたします。またカルテット国から長旅、お疲れ様です。セルフィ様からご連絡は聞かれていると思われますが、本日は皆々様にお渡ししたい品がございます。気に入っていただければと思い、是非ご覧ください」


 セルヴェリンとミンミンの前に差し出されたヒュドラの鱗。

 裸状態で見せるのも味気ないというか失礼に当たると思い、ミツは木箱を作り、その中にヒュドラの鱗を数枚入れて見栄え良く二人へと見せる。

 キラキラと輝く紫の色を彼らに見せるヒュドラの鱗に、連絡は誠であったかとセルヴェリン達は内心驚きを隠せていない。

 と言う事は目の前の少年がたった一人でヒュドラを討伐したのかと彼らは二度三度と視線を泳がせる。


「これはこれは素晴らしき品を。ミツ殿の気持ち、こちらを受け取る前と少しお話を宜しいでしょうか」


「はい」


 セルヴェリンは先程までの雰囲気を変え、王族としての凛々しくもキリッとした表情に変える。


「では。失礼を承知と単刀直入に質問させて頂きたい……。貴方はカルテット国だけではなく、他国との友好の架け橋となることを希望されていることを聞き及んでおります。それは誠でありましょうか。それに関して、特に貴方はどの国に友好を結ぶ事をお考えであるか。貴方の友好とは、何処までを友好と考えておられるのか。是非とも貴方の口からお聞きかせ願いませんでしょうか」


 セルヴェリンは間をおかず、次々と質問をミツにかける。

 彼の質問の答えによっては、カルテット王国の王族として、ミツとの付き合いをどう判断するか身構えているのだろう。

 答えにくい質問もあるだろうが、その返答は既に彼の心の中では決まっている。


「はい、セルヴェリン様のご質問にお答えします。まず、自分は何処の国にも仕える気はありませんし、その国からの誘いも受ける気はございません。これはセレナーデ王国、女王ローソフィア様、ローガディア王国、王女エメアップリ姫様、エンダー国、王妃レイリー様の三国の皆々様にも自分の口からお伝えしております。とある方のお言葉ですが、自分の力を一つの国に留めてはいけないと言われまして、自分はその言葉通りにしようと考えております」


「……」


 ミツの言葉に彼の力を知るものは納得と首を立てに振るが、対面に座るセルヴェリンと後ろに控えるカルテット国兵士たちの目が厳しく細められている。


「ですが、自分はこの国、いえ……この地に住む人々と離れる気はありません」


 離れる気はない。

 その言葉に、心を暖かくしたのはフロールス家の面々であった。


「それは家族を思う少女、苦難を共にする兄妹、仲間を求める人々、民を思う貴族のご夫婦とその家族、子息に忠義を見せる無茶苦茶な執事など、まぁ自分の好きに日々を楽しませていただければなと。この平和が保たれるならば、自分はカルテットの皆様とも友好の手を繋ぎたく思います」


「なるほど……。貴方の望むは、既に見つけた日の平和な日常と申されますか……」


 セルヴェリンはその言葉を口にした後、テーブルに置かれたヒュドラの鱗へと視線を向ける。

 目の前の人族は野心も見えず、望むは庶民のような平凡な日々。

 ヒュドラを討伐する力を秘めていたとして、それを表に振るうことはない……。

 その言葉を自身の耳で聞く事に、何処か安堵した気持ちがセルヴェリンの中で出たのか、無意識と緊張していた肩の力がスッと緩む。


「あっ、でも……冒険者家業も楽しんでますので、いつも日常だけという訳では……」


「そうですか……。我々カルテット国は昔と違い、現王となっては他国との繋がりを強めております。隣国となりますこの国、セレナーデ王国からパルスネイル王国、シンフォニー王国と繋がりが増えてきております。しかし、その分、やはりその中には我がカルテット国に害となる行いを企む輩も耐えません。そこで一つ。ミツ殿が我がカルテット国と誠真実に友好を求めるならば、セルフィにだけではなく、他国も認める力を我々にもお見せ頂きたい」


「力ですか……」


「セルヴェリン兄さん、少年君は既にヒュドラを討伐し、その鱗を国に献上することを他の国にも宣言しているわ。それ以上の力って」


「セルフィ、我々エルフは人族や魔族と違い、物を受け取っただけでは相手は友好者などの考えは無い。結果その者の力を見て判断しなければいけないんだ(一部の老害を除いてだがな)」


「失礼を承知とし、セルヴェリン様にお尋ねします。その力を見せるのは良いのですが、セレナーデ王国の兵士の皆様のように、お二人の後ろに控えております兵士の皆様と戦えと言うことでしょうか?」


 ミツの視線はセルヴェリンとミンミンを守る様に後ろに控えた私兵の人々へと向けられる。

 彼らの厳しい視線がミツを見据えてはいるが、敵意ある視線でないことにミツはそんな質問を彼らに向ける。


「フムッ……貴殿は妹と弓の勝負で勝ったとも連絡を受けている」


「ムッ」


「ええ、初めてセルフィ様とお愛した時、流れ的に……」


「ちょっと、アレはダニエル様とラルスが言い出した話で」


「えっ」


 その時そんな事があったのかと、ミツは二人へと視線を向けるが二人揃って何処を見てるのか。

 壁に視線を向ける親子にミツの視線がジト目である。


「じとー……」


「フフッ、結果はどうあれ、セルフィは私達兄妹の中では弓の扱いは一番上手くてね。今更ながら君と弓の勝負をしたとしても結果は見えている。ダニエル殿、一つ貴殿に頼みがあるのだが、聞き入れて貰えぬだろうか」


「は、はい。私ができますことであれば」


「感謝する。いや、難しいことではない。この屋敷の裏にある林の先にある森を使わせていただきたい」


「はあ、あそこは我々も手もつけておりません、ただの森でございますが」


 フロールス家の裏は、畑を備えて入る。

 その先は薪などを探すための林。

 更にその先2~3キロ進んだ所は野ウサギも出てくる普通の森だ。

 モンスターなどは滅多なことでは寄り付かず、セルフィがたまに散歩と言いつつ遊びに赴く場所である。

 いや、恐らくそのまれに出るモンスターを彼女が討伐に向かっているのだろう。

 フロールス家に害を寄せ付けまいと、見回りをしていたのだ。


「うん。それは最適だね。ミツ殿」


「はい」


「我々と一つ勝負をしていただけませんか。あっ、勿論勝負と言っても拳の殴り合いではないよ? 君の実力はセルフィから聞いてるからね。我々の求めるのは妖精の躍りを貴殿と行う事」


「「!?」」


 セルヴェリンの提案にセルフィとミンミンの眉が動く。


「妖精の踊り?(なんだそりゃ?)」


《妖精の踊りとは、複数人で行うエルフ特有の競技のことです。先ず数人が森等に身を隠し、その後時間が来たらその者を探して見つける競技です。見つけた際、その者の名を告げ、体の何処かに触れなければいけません》


(あー……。かくれんぼやん!)


「おや、いかがなされましたか? この話、やはり我々エルフに利がありすぎましたでしょうか?」


「い、いえ……。それで自分の力の証明となるなら……」


「うむ。それではこれを行う際、規則があるので、これを守っていただきたい」


「規則、ルールですか」


 セルヴェリンはミツの前に指を一つ立てる。


「一つ、アイテムや魔導具を使用してはいけない。匂い付けの道具とか使われると意味がないからね。それと君は人を探すことのできる魔導具を所持している事も聞いている。悪いが今回はそれも使用せずに頼みたい」


「はい」


 セルフィの連絡にて既に森羅の鏡の存在を知っていたのか、セルヴェリンは先手とそれの使用を禁じてきた。

 

(森羅の鏡の事を言ってるのかな? 残念だけど別にアレが人を探す効果を出すわけじゃないんだけどね)

 

 ミツが承諾したことに、セルヴェリンは頬を少し釣り上げ続けて二本目の指を立てる。


「二つ目、魔法、スキルの仕様をいかなる場合であろうと使用を禁ずる。今回は相手を傷つけることが目的ではないからね。お互いの安全を優先とした試合と仕様ではないか」


(魔法とスキルが禁止かー。これはキツイかな。マップとマーキングスキル使って早々と終わらせようと思ったんだけど。あー、だとしたら分身とフォルテ達にも手伝って貰うことができないじゃん)


「……分かりました」


 ミツの1拍間を置いた返答にセルヴェリンは内心でほくそ笑んでいた。

 例え強者と言われる者であろうと、魔法とスキルを封じてしまえば森の中で人間とエルフでは何方がぶがあるのか。

 そして更に最後に指を立てる。


「では三つ目。開始は明朝とし、終了は二日後の日の夕暮れとする」


「えっ? ニ泊と挟むんですか?」


「おや、貴殿は妖精の踊りの難しさをまだ理解していない様ですね。貴殿が相手するのはいかなる場所の森ですら自身の庭のように進める森の民であるエルフを相手にするのですよ」


「なる程……。確かにそれはそうですね。因みにその妖精の踊りを行うのは何方とでしょうか?」


「全員です」


「えっ?」


「我々二人を除き、共に連れてきました同胞が相手といたします。ミツ殿にはその全員を見つけて頂ければ私達カルテット国は貴方様のお力を国として認め、貴方の望む友好の手を取りましょう」


「セルヴェリン兄さん、因みに何人一緒に来たの?」


「セルフィ、私達と共に街に来た者達は従者含め、全員で38 人よ。ですが兄様、全員を見つけると言うのは……」


 セルフィの質問にミンミンが答えるが、彼女は妖精の踊りの過酷さを知るだけに申し訳ないと表情を曇らせる。


「なに、ミツ殿の実力ならば問題なかろう」


「はい。38人見つけて捕まえれば良いんですね」


「……貴殿が快く受入れてくた事に感謝します」


 即答と思える少年の返答にセルヴェリンは意表を突かれたと眉尻を上げ驚く。


「ダニエル様、カイン様達には直ぐに戻ると連絡してます。ご心配されるかもしれませんので、一応一度お城の方に連絡に戻りますか?」


「うむ。そうだね。一泊置くならまだしも、数泊となると一言伝えたほうが良いかもしれん。ミツ君、すまないが頼めるかな」


「はい。いつもの談話室にてゲートを出しておきますので、そこから行き来をお願いします」


「助かるよ。直ぐに陛下にも連絡を回そう」


 話し場が終わり、ミツの出したトリップゲートにてダニエルと数名の護衛がセレナーデの城へと事情を話すためと移動した。

  

 暫くして、談話室から多くの兵と貴族の人々が出てくる。


「それで。何で皆さんが来てるんですか?」


「ハッハハハ。少年、良いではないか。他国の王族同士の話場など滅多に取れぬからな、この提案は私が出したのだ。どうか殿下を責め立てんでくれ」


 ミツの隣で笑い出すマトラスト辺境伯。

 彼の言葉通り、王族同士の話場などは貴重なため、折角と足を向けたようだ。


「別にマトラスト様を責める気もありませんが……。まさかカイン様だけではなく、ローソフィア様まで来られるとは……。お屋敷の中が兵士さんだらけになりましたよ」


 今はミツとマトラストは通路で話して入るが、その先の部屋では今、セレナーデ王国、女王ローソフィアとカインが、カルテット国のセルヴェリン、ミンミン、セルフィの五人での話し場が作られている。


「う、うむ。いや、私もまさか陛下が足を向けられるとは想像しておらんのだ」


「そう言えばレオニス様とアベル様は如何したんですか? お二人の事ですからお二人こそこちらに来られるかと思ったのですが」


「ああ、お二方には王からの命が下りておる。少し離れた場に共に視察に参られた」


 ミツの言う通り、二人が簡単に手に入るこの話し場を手放し、来訪しない事に違和感を持つだろう。

 だが二人は先日、ローソフィアからの命にて城を離れている。


「視察ですか?」


「うむ。隠すことではないが、セレナーデ王国の城。あれは新たに建造された城なのだよ。お二方はその以前使用していた城の状況視察と向かわれている」


「えっ? お城を引っ越したんですか? はー、それはまた凄い引っ越しですね」


「いや、その時の王達も苦渋の判断であったのだろう。しかし、嵐にて地盤が緩み、城の一部が倒壊してしまったのだ。倒壊したならば作り直すだろうが、地面自体が大きな穴が空いてしまってな。下手をしたら残った場所も倒壊するかもしれん。安全を求む為と、今の場所に城を建造したのだ」


「なるほど」


「まあ、その時も城の移動に相当揉めたようでな……。歴史書にもかかれているが、滞在派と移住派の愚かな内戦があったんだよ」


「うわ、それは……」


「結果維持して残った者は全て死んでしまったようだ。愚かな事だ。王が移動した後に、危険地に態々食料などを運ぶ者が幾人おることか頭に無かったのか。守るべきは城ではなく、王であろうに。更にささえる民が減り、等々残った貴族は、残り少ない食料などを巡っての略奪行為すら起こす始末……」


「……」


 その際、内戦に巻き込まれた者たちを思うと苛立ちを込み上げてしまうのだろう。

  マトラストは次第と口調を荒げる。


「す、すまん。つい気持ちが入ってしまった」


「いえいえ。自分の知らない昔の事が聞けたので気にしないでください」


 歴史書に記載される程にこの話は有名であり、知らぬものはいないと思っていたマトラストは目の前の少年の言葉に疑念に思ったが、旅人の彼が他国から来たとしたら知らぬかもしれないと、無駄な考えは止めておくことにした。


「そうか……。さて、向こうの話も済んだ様だな。因みに少年。今回の勝負、魔法も道具も全て禁止と聞いた。勝てる自信はあるかね?」


「んー。普通のかくれ……、いや、妖精の踊りなら問題ないかと」


「そうか。ではこちらはまた楽しませて頂こう」

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