第239話 託された気持ち
新たな商品。
自転車のサンプルを作る為と、街に行こうとしたその時。
エマンダは自身の娘のミアを共に同行する事を願う。
「ミア様をですか?」
「お、おいエマンダ、何を」
「はい。今回の自転車という案件。折角なので娘にも経験させたい商業と思いまして。材料の仕入れ、また製作に関して庶民街の職人とのやり取りに是非とも娘に学びの場をお与えください。ミアには幾度もお使い程度でございますが、他貴族との連絡として使用しております。この商業が成功しました暁には、ミアを商業の表舞台に立たせるきっかけになりましたらと、母としての気持ちもございます。ミツさんにはご迷惑かと思われますが、是非に」
エマンダはスラスラと言葉を並べ、正当な理由にてミツにミアを付けさせる理由を述べる。
ダニエルの言葉は完全にスルーである。
ミツはパメラとエマンダがフロールス家にて商売の表舞台に立っていることを以前二人から聞いたことがあるので、これは娘にも小さな事から経験を積ませたいと彼は考える。
ならば材料など、後にミアが他の者に教えるには必要な事だと同行を許可する。
「そう言う事でしたら。それではミア様、ご一緒に庶民外の方にお付き合いしていただけますでしょうか」
「は、はい! 私で宜しければ。よ、よろしくお願いします!」
「ミア、行くとしても先ずは着替えが先ですよ。ミツさんを待たせぬよう、早々と着替えてきなさい」
「はい。お母様、ありがとうございます。ミツ様、暫しお待ちくださいませ。直ぐに支度をしてまいります」
「どうぞ、慌てずにゆっくりと」
ミアの着替えを手伝う為と、お茶の配膳をしていた側仕えの人達も共に退室。
女性の着替えに側仕えが四人も必要なのかは疑問だが、貴方たちも共に行きなさいと促したエマンダに言葉を出す人は居なかったようだ。
自転車が気になっていたのか、ラルスも共に行くことを告げる。
しかし、それを止める声。
「ならば俺も共に」
「ラルスは話がありますので残りなさい」
「えっ? 母上、話とは?」
物静かな笑みを浮かべた母の表情が読めないのか、ラルスは疑問と言葉を返す。
「あら、お客人のいらっしゃる前で、貴方の恥となる話を母の口から告げても良いのですか? 良いなら喋りますけど?」
母のこの話し方は経験がある。
そう、母が自身を窘める時の話し方だと。
この時の母に何を言っても論破されると、彼は無意識に素直に引き下がるのだった。
「うっ、分かりました……」
「なら私がラルスの代わりに〜」
場の雰囲気のノリに合わせたのか、セルフィがおちゃらけた口調に同行する事を促す。
「あら? 貴女は午後にはロキアとの勝負をするのではなかったですか? 貴女にとってロキアとの約束はそれ程度の物でしたのね」
「なっ! はっ!?」
「セルフィさん……」
セルフィが隣を向けば、少し目を涙で潤ませるロキア。
「ご、ごごごご、ごめんなさいねロキ坊。忘れてた訳じゃ無いのよ! ロキ坊との勝負が大事に決まってるじゃない! さっ! 早速勝負を」
「ホッホッホッ。セルフィ様、ボッチャまはまだお昼を済ませておりません。できましたらボッチャまの昼食後に改めてお願いします」
「ゼクス、勿論よ! さっ、ロキ坊、昼飯食べに食堂に行くわよ!」
「うわっ!」
「セルフィ殿、まだパープル達も昼食の準備も終わっていませんよって、行ってしまわれた……」
「ホホホッ。仕方がないですね。ラルスはパープルに二人分だけでも先に出すように伝えてきなさい」
「えっ? 俺がですか?」
「あら、ならばセルフィの方に向かいますか? 結果的に二人分の昼食だけでも持ってきて頂戴と言われるのが見えてますよ」
「うっ、確かに……。ゼクス、ならばロキアの側にはお前が行ってくれ。俺はパープルの所に行ってくる」
「ラルス様、かしこまりました。それではミツさん、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「はい」
セルフィとロキアの後を追う様に、ゼクスとラルスも退室。
ダニエルは久々の家族団らんのつもりだったが、ポツポツと退室する家族に目を泳がせている。
場の雰囲気を変えようと、彼が口を開くがそれを止める妻のエマンダ。
「えーっと……」
「旦那様、一時とは言え、今の内にやるべき事の準備をなされては如何ですか? 叙爵の準備も御座いますし、領地増加となりましたら私やパメラでは認印は押すことができません。子爵から伯爵に叙爵の際も、準備不足に慌ただしく動かれていた事をお忘れでしょうか……」
「うっ……。ミツ君、スマヌが席を外させて頂く。戻ってきたら話を聞かせてくれないか」
「は、はい……」
そそくさと部屋を出ていく夫の背中を見た後、自身の隣で笑みを作りお茶を飲むエマンダへと呆れた視線を向けるパメラ。
「エマンダ、貴女……」
「あら、パメラも旦那様の手伝いに向かわれても構いませんわよ。私はミアを見送った後に旦那様の元に参りますので」
「はぁ……。分かりました。ミツさん、旦那様お一人では手も回らぬ場もございます。この場で私も失礼いたします」
「い、いえ……」
次々と部屋の中の人口は減り、等々ミツとエマンダ二人となってしまった。
「あら、お茶が無くなっておりますね。側仕えが出払ってしまいましたので、私で宜しければお茶を入れさせて頂きますわ」
「あ、ありがとうございます……」
エマンダは自身で側仕えのメイド達を出したと言うのに、彼女は困ったような仕草をみせ、自身でお茶の準備をし始める。
「さっ、ミツさん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
エマンダはお茶の入ったコップと空となったコップを交換する為とミツの隣に移動。
まあ、その時見ないようにしていても、ミツの視線にはエマンダの二大山の大谷さんが見えちゃいまして、本当にありがとうございますと思ってましたら、さー大変ですたい。
「ふふっ、気になりますか?」
「ふえっ!?」
一度手に持っていたポットを置き、身体ごとミツに向けてくるエマンダ。
椅子が二人がけ用だけに、少し狭ぜだ。
「ミツさんもここまで大きな物は見た事がないのでしょうか」
「えっ!? いや、確かに、その、それは」
「折角ですので触れてみますか?」
「うえっ!? ふ、ふふれ、触れちゃっても、ええっ!?」
「使い込んでおりますが、優しくお願いしますね」
「えっ、使い込んで、ええ、その、はい!」
「では、お手を」
「……」
ミツの手に優しく両手を合わせるエマンダ。
その瞬間、ミツの掌に感じる硬い質感。
「考えてみましたら、ミツさんはそれ以上の品を以前作られたとおっしゃられましたね」
「ははっ……そ、そうですね……。ホント、よく使い込まれているのが良くわかります……。見事な魔石の装飾品です……」
「フフッ。宜しければ別の品も触れられてみますか?」
「いえ、もう十分です……。はい」
からかわれている事が分かったのか、ミツはもう良いですよと魔石が付いたネックレスをエマンダに返す。
「あら、それは残念ですね。ではその役目は娘に託すといたします」
「はい? なんの事ですか?」
「フフッ。いえ、私の独り言ですのでお気にせず」
不敵な笑みを浮かべるエマンダ。
彼女の手のひらに転がされてる気分だが、ミツ本人が嫌悪に感じていない事も彼女は分かっているのだろう。
対面の席に戻り、またミアが戻るまでと話を続ける。
「そう言えばエマンダ様。一つお願いがありまして」
「あら、ミツさんが私にでしょうか?」
「はい。以前魔石の購入に関して商人さんをご紹介して頂ける話です」
「はい……」
ミツの口から魔石の話を出した事に、エマンダの眉が少しだけ動いた。
「実はリッコともう一人、魔術士の人が仲間に居るんですが、是非二人にその商人さんとの話場をお作り願いたいと思いまして。二人も洞窟での稼ぎもできた事で、少し大きめの魔石を探していると聞きまして。それと魔石を売買されます方なら、自分も聞きたいことも聞けるかと」
「まぁ、左様でございますか。フフッ」
「エマンダ様?」
「いえ、失礼しました。もし気分を害されましたら謝罪いたします」
「いえ、そんな事は。ただ何か変なことでも言ったかなと?」
「とんでも御座いません……。私達は魔石に関して、貴方様のお力を存じております。貴方様がリッコさん達へと、王都で購入したしなと言えば私も耳にする事なく魔石を得たのでは無いのかと。しかし、貴方様はそうされません。以前お伝えいたしました私のお言葉を聞き入れてくれましたことに、心より嬉しく思い、思わず笑みが溢れてしまいました」
「そうですか。いえ、自分が魔石を用意してしまいますと、エマンダ様のおっしゃりました通り、彼女達に危険が及ぶかもしれないと考えると、自分からはやはり止めとこうと思いまして。それに先程申しました通り、自分も少しその商人さんに話したい事もありますので」
「その話とは?」
「はい。自分がアイテムボックスの中に入れているカセキですが、実はそれ程持ち合わせがないんですよ。魔石を商人さんなら魔石のカセキも持ってるかなと」
「あら、左様ですか。それでしたら屋敷にありますカセキをミツさんへお渡しいたしましょう」
「えっ? このお屋敷にあるんですか?」
「ええ。ラルスや私の他にも、私兵の魔術士が使用しました物。また厨房で使用済みとなりました魔石のカセキは倉庫に置いております。そうだわ。あの、それとそのカセキですが、実は……」
「エマンダ様?」
思いついた事を口にしようとするエマンダであったが、流石に失礼すぎるのではとまた口を閉ざす。
だが、ミツが自分は気にしませんと返答すれば、彼女は微笑みを返してくれる。
「いえ、失礼しました。倉庫に溜まりましたカセキはいつも庶民街のある人にお譲りしていましたが、その方が最近高みに行かれた為、屋敷の倉庫にございますカセキに関して行き場を失っていたのが本心でございます。それとこれはミツさんへ私からの頼みもございます」
「頼みですか」
「はい。その方には親族が一人もいらっしゃらぬ為、家の中に残された資産は領主家が回収する事となりました。ですが、その残された資産というのが……」
「……えっ? まさか」
「はい。先程申し上げましたカセキでございます。家具なども使い込まれた品が多く、直して売るとしても直す方に金がかかってしまいます。また家の方も土地としては悪くない場でございますが、ご趣味が祟ったのか、庭にもカセキを入れました壺がこれ程に……」
エマンダはゆっくりと右手を上げ、指を三つ上げる。
「3つですか?」
「いえ……」
しかし、彼女は左手も上げると、そちらは人差し指と親指を合わせ、ゼロを作る。
「えっ!? さ、30もですか!? 何でそんなに溜めてたんですか?」
「はい。カセキは様々な装飾品としても使われる事もございます。恐らくその方はそう言う場に売買を目的として溜めていたのではと……。私も元は廃棄を目的としてお渡し続けた品だけに、まさかこうなっていたとは……」
「な、なるほど……。それではそのカセキは自分が引き受けても良いんですね?」
「ミツさんのご迷惑でなければ。是非とも」
「分かりました。では先ずはそちらの方に足を向けますので、後に自転車の材料を探してきます」
「お手数をおかけいたします。それとその家の場所ですがこちらです。詳しい場所はミアに伝えますので、道案内はあの娘にお願いしますわ」
「はい」
エマンダとの話が区切ったタイミングと、ミアが着替えを済ませ戻ってきた。
彼女の姿は貴族服でなく、セルフィも着ている庶民服だ。
庶民街を出歩くならばと、セルフィが気まぐれに買ってきた服を選んだようだ。
母親譲りの彼女の実った果実が少し自己主張が激しいが、気にしたらきりが無い。
エマンダはミアに先程の家の場所を書き記した紙と恐らくお金が入った麻袋を彼女へと渡す。
「それではお母様、行ってまいりますわ」
「ええ、ミツさん、娘をよろしくお願いしますね」
「はい。要件を済ませましたら直ぐに戻ります」
「フフッ。別に日を跨いだとしても構いませんことよ」
「えっ」
「お母様!」
「ホホホッ」
エマンダの言葉に一瞬意味がわからなかったミツだが、ミアは顔を真っ赤に母へと声を荒げる。
庶民街への移動はミツのゲートを使用。
場所的にガンガの店の方が近い為、そこから移動することとなった。
街を歩く際、幾度もすれ違う人々はミアへと視線を向ける。
庶民服で身分を隠しているのだろうが、やはりミアには貴族の雰囲気が出ているのか、ボソリボソリとミア様と声が聞こえてくる。
それでも声をかけてこないのは、彼女が今日はお忍びで庶民街へと来ていると思われているのだろう。
ミアは母から受け取った紙を見つつ、住宅地へと道を進む。
時折近くの人に場所を聞き、目的の場所に到着。
「ミツ様、ここですわ」
目の前の家を見た後、ミツは庭の方へと視線を向ける。
庭は雑草が地面を隠してはいるが、草影からいくつもの水瓶が目に入る。
「ああ、エマンダ様の言う通り、庭に水瓶が見えますね。ミア様、態々案内していただき、ありがとうございます」
「いえ、たいした事ではございません。ですが、この家にどのような御用件で? 見たところ、既に人は住んでいるようには見えませんが……」
二人の前の家は屋根に大きな穴が空き、壁には庭の草が張り付いたように緑に隠している。
入り口も朽ちてしまったのか、扉は開けたままだ。
「あそこにある水瓶ですよ。エマンダ様の話では中にカセキが入ってるそうなので、ミア様はここでお待ちください。少し見てきます」
「はい」
草に茂った庭を進み、庭の奥に置かれた水瓶へと近づく。
「すごい草だな。さてと。中に雨水が入ってるけど、よいしょっと」
雨ざらしとなっていた水瓶の中に入っていた雨水を出すと、中は落ち葉も入ってヘドロと汚れている。
ゆらゆらと中を揺らせば、確かにカセキが入っていた。
少し開けた場所へと水瓶を移動させ、洗浄魔法のウォッシュを発動。
「これ自体もまだまだ使えそうだな。エマンダ様にお願いして瓶も貰えないか相談してみるか。さて、化石の方は……おおっ凄い数」
ウォッシュで洗浄された水瓶は苔や土汚れを落とし、かけていなければ新品と思える品となった。
中の汚れも全て洗い落とされ、残ったのは無色のカセキがザクザクと入っている。
以前ミツが購入したカセキの10倍は軽く超えた量だ。
「全部にこの量が入ってるとしたら凄いな……。取り敢えずこれ一つ一旦持ち帰ろう」
カセキの入った水瓶をアイテムボックスへと収納した後、ミアの元へまた草道を踏み進む。
「ミア様、お待たせしました」
「いえ。それでお求めの品はございましたでしょうか?」
「はい。ここに住んでいた方は凄いですね。他者からは確かに要らないものと思える品ですが、自分にとっては宝の山です」
「まあ、そのような物が。ミツ様がご満足していただけるなら、その品を残された方も、母も満足されますわ」
「そう言っていただけるなら。後日改めてこちらに足を向けますので、その時にでも草に隠れた水瓶を探そうと思います。またエマンダ様は持っていっても構わないと申しましたが、集めた方の努力も考えるとやはりタダで持っていくのは失礼かなと」
「まぁ。ですが母は貴方様にその品をお渡しするつもりでございましたし、ここにいた方も既におりません。金銭を渡すとしても、母はそれを受け取るでしょうか?」
「お優しいエマンダ様なら拒むかもしれませんね。なので、この家を綺麗にして恩返ししようかと。そうすればここに住んでいた方も喜んでくれるかなと。自分なら壊れた屋根なども、直す事も可能ですし」
「左様ですか。分かりました、その話は私から母へとお伝えさせていただきます。ミツ様のお心遣い、きっと母も理解してくれると思いますわ」
「いえいえ。それじゃ自転車の材料を探しに行きましょうか」
「ええ。それではこの場所からは少し離れておりますが、生産工場の区域がございますので、そちらへとまいりましょう。そちらでしたお求めの材料も見つかるかもしれません」
ミアの案内にて次は自転車の材料を求める生産工場の固まった地区へと移動。
先程の廃家はライアングルの街の中心から北西の場所にあり、生産工場は北東にある。
近いと言えば近いが、入り組んだ住宅地を通るのもまた面倒と、またゲートを出し、ガンガの店裏から歩く事になった。
どのみちガンガの店近くにある木材屋にも材料を買いにいく予定もあったので丁度良いと言えば良いのだ。
「どうですか、ミツ様? 使えそうな品はございましたか?」
「んー、フレームなどは木でも作れますので問題ありません。本当は前輪と後輪は鉄製と走りやすさを求めるためにもゴム製が良いのですが、取り敢えず今回はモデルを作る事が目的ですのでこれも木で試してみます。後はハンドルとサドルとペダルとブレーキとチェーンですね。この辺は木では腐食したり割れたりすると危険ですので、これは木では作れません。そうなると鉄で作ろうかと」
「まあ、それ程鉄を使う品となれば、それはかなり値が上がってしまいますわね。ミツ様の目的でもあります庶民の皆様には、少し手軽に買える品ではなくなってしまいますわ」
「ですよねー。さて、取り敢えず自分が作りますので、それを職人さん達にバラしてもらい、作れるか如何かを聞く方向で一先ず行こうかと」
「ですね。私の様な素人でも理解しております。物がなければその職人も作ることは不可能だと」
「そう言う事です」
一先ず目ぼしい材料を購入した後、折角と二人は昼食を共にする事となった。
「よろしかったのですか?」
「何がでしょうか?」
昼食中、ミツはミアへと恐る恐ると質問する。
「いえ、考えてみれば貴族令嬢のミア様を庶民街の食事場にご案内したのは失礼なのではと今更思いまして」
「フフッ。そのような事ですか。ミツ様、ご安心ください。私はこう言うお店に幾度も足を運んでおりますので、気にもしませんわ」
「えっ? そうなんですか」
「はい。父と兄、そしてゼクスの四人と街の改正の為と足を向けた時ですね。他にも母と商業の話の後、私と護衛はその話場を外すことがありましたので、護衛と共にもあります」
「ああ、そうだったんですね。でも、今日はゼクスさんもその護衛の人も居ませんが、宜しかったのですか?」
「ええ、本日は特別ですわ。それに、こう言っては先程の二人に申し訳ないのですが、私は今世界の誰よりも強者の方の側に居ります。これ以上の安全な場所がございますでしょうか?」
「あっ……ですかね」
「はい。ですわね。フフッ」
ミアの言う通り、今の彼女の前には世界にただ一人、伝説的な強さを持った人物が目の前に居る。
例え突然店に強盗が入ってこようと、彼女がコップの中に入った飲み物を飲み干す前と彼は直ぐにそれを鎮圧してしまうだろう。
母であるエマンダが大事な娘を護衛も付けずにミツに預けたのは、それ以上に信頼しているからだろう。
「あっ、ミツ様、できましたらその作られます自転車の試作品。私に一番に使用させていただいても宜しいでしょうか」
「それは構いませんよ。でも、ミア様の運動神経は信頼していますが、領主様の娘様を試作の実験に乗せるのは……」
「そこは大丈夫ですわ! 父も母も商人が商売を始める前の品は、必ず真っ先に自身で試しております」
「そうなんですね……(それは商人さんが前もって試した後にダニエル様にお見せしてるので、出来上がって直ぐの品という訳ではないと思うんだけど……)でしたらせめて自分が試した後でも良いですか? 品にしろ何にしろ、やっぱり作った本人が自信を持ってお渡ししたい気持ちもありますので」
「ええ、心得ております。それではお約束ですわね」
「はい」
好奇心旺盛なのは母親譲りの性格なのか。
ミアはニコニコとごきげんな表情はエマンダにそっくりだと内心思うミツである。
「あら、あの馬車は……」
「ミア様、どうされました?」
「ええ、ミツ様、恐らくあれがセルフィ様がご連絡されましたカルテット国の馬車ですわ」
ミアの見る先へとミツも窓の外へと視線を向ける。
そこには数十台の馬車を率いた集団が目の前を通っていく。
乗っている者は目立たないグレーや深緑の色をしたローブを羽織って入るが、あれだけの集団、逆に目立つのではないかと思う。
ミアが馬車を見ただけでカルテット国の者達と分かったのは、各馬車には緑と紫のボーダーラインの入った旗を見たからだろう。
二人だけではなく、周りもその集団に視線が向けられている。
「あの人達、今から貴族街を通ってお屋敷に到着となると、あと一刻半程ですかね? ミア様、先にお屋敷に帰って自転車の試作品を作りましょうか」
「はい」
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